——これはとある少女と、その親友との何気ない日のお話。
黄昏時が早まってきた霜月の暮れ頃、制服に身を包んだ少女『白金燐子』は1人寒空の下を歩いていた。いつの間にやら灯っていた星々の煌めきに目を奪われていると、唐突に彼女の携帯が振動する。
「……あこちゃん?」
携帯画面に映し出された名前を見て驚く燐子であったが、即座に応答ボタンを押し携帯を耳に当てる。
「もしもし……?」
『あ、りんりん! 急にごめんね?』
通話越しに聞こえてくる
「大丈夫だよ。それで、どうしたの?」
『うん、えっとね、この後って空いてる?』
「この後……? 一応空いてるけど……」
あこの言葉に戸惑いを見せる燐子。対するあこは、どこか申し訳なさそうに次の言葉を口にする。
『その、ね……映画のチケットを貰ったから、りんりんと行きたいなと思ったんだけど……』
「あこちゃん……」
「いいよ。行こう」
『……ッ! ホントにー! ありがとうりんりん!』
あこの述べた謝意を受け取った後、短なやり取りをした燐子は通話を終えると足早に進路を変更するのであった——
通学路を大きく外れた燐子が足を運んだのは渋谷。平日の夕刻とは言え、街は行き交う人々でごった返していた。
「えっと……」
駅を出た燐子は人波に揉まれながら辺りを見渡していると、ハチ公の像前に見知った人物の姿を捉える。
「あこちゃん……」
「あ、りんりーん!」
燐子が名前を呼びながら小走りに寄っていくと、待ち合わせ相手こと『宇田川あこ』が元気よく手をふり返してくる。
「お待たせ」
「ううん、大丈夫だよ。それじゃ、行こっか」
あこの返答に頷いた燐子は彼女と共に駅前を離れていく。駅前を離れても相変わらずな人波に沿って暫く歩いたところで、2人は波から離れる。
「着いたみたいだよ」
「そうだね……」
あまり慣れない環境に身を置いたせいか、微かに感じる疲労感に苦笑しながらもあこの言葉に返答する燐子。
そうして息を整えた後、燐子はあこと共に建物の中へと足を踏み入れていく。
そうして進んだ先、彼女達を迎えたのは平日とは思えない賑わいを見せる映画館のロビー。外と変わらず多い人の中を掻き分けた2人は、電光掲示板の前へと赴く。
「えーっと、あ、あの映画だ」
「……まだ入場は始まってないみたいだね」
チケットと掲示板とを交互に見据える2人。入場までまだ時間があるということを確認した燐子は、あこへとある提案をする。
「折角だし、今のうちに飲み物とか……買わない?」
「うん!」
短なやり取りの後、2人揃ってフードカウンターへと足を運んでいく。するとそこには、彼女達と同じ様に飲み物などを求める人々が長蛇の列を作っていた。
「わあ、すごい混んでる……」
「入場、間に合うかな……」
一抹の不安を抱えたまま列に並んだ燐子達は、時計とレジ両方に気を配りながらそわそわした様子を見せる。結局落ち着かないままレジへと通された2人は、手早く注文を通すと顔を見合わせる。
「大丈夫かな?」
「きっと、間に合うよ……!」
「……そうだね!」
頷き合った直後に注文していた商品を渡された2人は足早に入場ゲートへと移動していく。
その最中、ゲート付近にあった人だかりが徐々に中へと進んでいくのをあこが捉える。
「ピッタリぐらいかな?」
「そう……かもね」
小さく笑い合った2人はそのまま列に並ぶと、その流れに沿って中へと入っていくのであった——
日はすっかり沈み、変わるようにして帷を彩る星々の下で燐子とあこは帰路に着いていた。未だに冷めぬ興奮を携えたまま。
「映画凄かったね!」
「うん……魔法陣の発動シーンとかで見られた演出、迫力があったね」
互いに感想を述べながら道を進んでいく。その最中、一筋の夜風が2人に吹き付ける。
「わ、寒い……」
激しい寒さを感じさせる風に思わず身震いさせるあこ。そんな彼女を見ていた燐子がとある提案をする。
「もしあこちゃんが……あこちゃんのお家の人が良いって言うなら、私の家に泊まりに来ない? 今から帰ると……寒いだろうし……」
「え、いいの?」
「うん……私としては、来てくれると嬉しいかな……」
ほのかに頬を赤らめた燐子の言葉に、あこは満面の笑みを浮かべる。親友からの言葉が、素直に嬉しかったがために。
「りんりん……うん! じゃあちょっと泊まってもいいか聞いてみるね」
コクりと頷いた燐子の手前、あこは携帯を取り出すと手早く電話かけ始める。その様子をぼんやりとしながら燐子が眺めていると、不意にあこが彼女の方へと振り返る。
「泊まってきても良いって!」
「本当……! じゃあ、いこっか」
「うん!」
そうして2人は、瞬く星々に照らされつつ新たなイベントに心躍らせて歩み始めるのであった。その後に、燐子の家へと足を運んだ2人はPC.画面を通して冒険の旅に出たり夜通しおしゃべりなどを楽しんでいくのだが、それはまた別のお話。