桐ケ谷深澄の冒険   作:三毛の高志

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とりあえずプロローグをば。
さて、どんな話にしようかな~

何も考えてねぇぞこの馬鹿


私の弟は最強なんだから!

 

 

 

私立エテルナ女学院中等部の廊下に張り出された中間考査の結果を見ようと大勢の生徒が集まっている。ズラリと並んだ生徒の名前の一番上。

中等部1年の頃から変わらないその名前は──────桐ケ谷美澄。

クールビューティ、完璧超人等と呼ばれ、その実ただの廃人ゲーマーという秘密を持った私の名である。

 

「すごい……桐ケ谷さんまた1位」

「入学以来ずっとだよ」

「クールだしカッコいいよね」

 

遠巻きに噂する女子生徒たちの横を通り私は自分の教室に戻る。今日の授業は全て終わりあとは下校するだけという時間帯だ。

今なら彼女は一人で教室にいる筈だ。栗色の髪をたなびかせる少女の後ろ姿を思い浮かべながら廊下を歩いていると自然と笑みがこぼれる。

 

初等部1年の頃には冷え切っていた実の両親の仲はその1年後には遂に離婚するところまで悪化していた。そして離婚に当たって最大の問題となったのが二人の間に生まれたまだ幼い娘──美澄の処遇だった。既に互いに別のパートナーを見つけていた両親にとって連れ子など今後の生活の生涯でしかなく、どちらが引き取るかではなくどちらに押し付けるかという両親の議論は容易く喧嘩に発展し、毎夜遅くまで怒鳴り声が家中に響く日々が続いた。

その有様に激怒した母方の大叔父に当たる桐ケ谷峰高氏が美澄を養子として引き取ることで二人の離婚は成立した。

そして、美澄にはその日から弟と妹が出来た。折角名門校に通っているのだからと、桐ケ谷性に変わった後も彼らと同じ学校に通うことはなかったが、新しい家族とは、それまででは考えられないほどに良好な関係を気築くことができた。

唯一私と同じように養子として引き取られた弟とは会話も少なかったが、それもゲームの話に成れば打って変わって大いに盛り上がった。

兎沢美澄として生きた7年と桐ケ谷美澄として生きた7年。欲しいとねだればなんでも買ってもらえた前者よりも、暖かい家族に囲まれた後者の方が美澄にとって満たされた時間だった。

──────────それでも、養子であるという事実に何処か空虚なものを覚える自分もいたのだ。特に、完全に血の繋がらない弟に対しては。

だから美澄はリアルでは対戦格闘ゲームで。オンラインでは対人戦要素の強いMMORPGをプレイし、見知らぬ他人を叩きのめすことで尽きせぬ渇きを癒そうとしてきた。

 

そんな中、私は、彼女──アスナに出会った。

 

うっかりゲームセンターで無双する姿を見られてしまったことがきっかけとなって私たちはよく放課後にゲームする仲になった。

そして今日、私はとある一大決心をしてこの後の逢瀬(というとおかしいかもしれないが)に臨もうとしていた。

 

それが、アスナをソードアート・オンラインに誘うこと。

 

初等部1年のとき、当時の友達に「ゲームは美澄ちゃん一人でやればいい」と言われてから避けてきた『協力パーティプレイ』を彼女としたいと思ったのだ。

きっと1年前の自分に言っても胡乱な目でありえないというだけだろう。何せ弟とすらパーティを組んだことはおろか、プレイヤーネームを教え合ったことすらないのだ。

それでも私はアスナと遊びたかった。

初めてできた親友と呼べる彼女とあの広大な世界を冒険したい。今の私の仲にあるのはそんな欲求だけだった。

 

「お待たせ、アスナ」

 

そんなことを考えながら、私は教室の扉を開いた。

 

 

*********

 

 

「こっちに来るなら先に行ってくれればいいのに」

 

「ごめん、急に思いついちゃって」

 

放課後の屋上で受験が終わるまではSAOには参加できそうにないと言っていたアスナだったが、お兄さんのナーヴギアを借りる形でログインしてきたらしい。だからといってまさかアバターが現実の姿のままだとは思わなかったが。

 

「まぁいいや。折角だから街を案内するよ。ファンタジーな街並みを五感で退官するのもこのゲームの醍醐味だから」

 

そういって私たちは町中を巡り歩いた。武器屋に始まり、噴水、屋台などなど。かれこれ3時間以上かけて歩き回ったと言うのに始まりの街の1割も探索できていないだろう。改めてこのゲームの広大さに圧倒される。

………強いて言えば、初心者のアスナにこの凄さがイマイチ伝わっていないのが残念だったがそれも仕方ない。そもそもゲームの世界を五感で楽しむという感動自体、従来のMMORPGをプレイしていなければ理解しがたいだろうから。

 

────────だが、そんな楽しい時間は一人の男の悪意によって終わりを迎えた。

 

広場に集められたプレイヤー。唐突に告げられる真実。訪れる阿鼻叫喚。

 

楽しかったはずの時間はデスゲームへとなり果てた。

 

『HPがゼロになったとき、君たちの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

その台詞の意味を脳が理解すると同時に私は膝から崩れそうになった。隣で震えるアスナを見る。

何故彼女はここに居る?本来、こんなゲームに見向きもしない筈の彼女は。

 

「まだ……課題が……」

 

ポツリとこぼれた彼女の言葉に愕然とする。そうだ。彼女は受験を控えているのだ。アスナはこんなところに居ていい人間じゃない筈だ。

 

「いくよ!アスナ!」

 

そのことに気付いた瞬間、私はアスナの手を取って走り出した。そうだ。これは私の責任だ。アスナにSAOへ興味を持たせ、このデスゲームに誘ってしまった責任。

 

────────私が、必ず、アスナを連れて帰る。そのために私ができる全てを。

 

「み、ミト、何処へ行くの?」

 

「まずはこの町を出て、次の村に向かうよ。そこを拠点にして今後の方策を練ろう」

 

アスナの手を引いて広場を出る。既に何人かのプレイヤーが圏外へ向けて走っていくのが見える。急がないと、彼らの様に行動を起こすプレイヤーは加速度的に増えるだろう。

 

(でも、私だけでアスナをホルンカの村まで連れて行けるの?)

 

問題はそこだ。ホルンカの村はまではそれなりに距離がある。その道中には、イノシシのような雑魚だけではなく、オオカミのような厄介なモンスターもポップするのだ。

自分ひとりなら確実にたどり着ける自身がある。けれど完全な初心者であるアスナを護りながらとなると、戦力不足は否めない。

 

(せめて誰か一人、ベータテスターが居れば……)

 

あと一人、パーティを組んでくれる者が居れば………

 

「ど、どうしたの急に立ち止まって」

 

いる。一人だけ。確実にこのゲームに居て私に協力してくれる人が、一人だけ。

 

「ごめんアスナ予定変更。ここで人を待つわ」

 

「待つって、どういう事?」

 

訳が分からないと憔悴した表情を見せるアスナを落ち着かせるように順を追って説明する。

 

「茅場の言う通りSAOはデスゲームになった。現実に変えるためには、第100層まで登ってラスボスを倒すしかない。ここまではいい?」

 

「う、うん」

 

「そのためにはレベルを上げたり装備を整えたりして強くなる必要がある。けどMMORPGのリソースは無限じゃない。だから他のプレイヤーより先行していかなくちゃいけない」

 

「で、でも誰かがクリアするまで待ってればいいんじゃ……」

 

アスナの意見は尤もだ。私だって死ぬのは怖いし、アスナをこれ以上危険にさらしたくない。けれど

 

「それだと時間がかかりすぎる。ベータの時は1000人のプレイヤーがこぞって上を目指しても2か月で10層までしか登れなかった。1度でもゲームオーバーが許されない以上、攻略のペースはそれよりずっと下がる。多分、1万人が一丸となって攻略に挑んだとしても1年以上」

 

「ッ!」

 

私の予想にアスナが息をのむ。受験を間近に控えた彼女にとってそれは死の宣告に等しいのだろう。だからこそ

 

「でも、1万人が一緒になって攻略するなんてまず不可能よ。だから、今は一人でも多くの戦力が欲しい。アスナにも闘ってほしいの」

 

言いながら、私は締め付けられるような胸の痛みを必死にこらえる。アスナを護りたいと願いながら彼女に戦うことを強要するなど、矛盾があるにもほどがある。

 

「ごめんね、アスナ。私がもっと強かったら、全部任せてって言えるのに」

 

「そんな、ミトが謝ることじゃ」

 

「でも」

 

アスナの言葉を遮るように続ける。()()()と一緒にゲームしたことは片手で数えるほどしかないけど、確信を持って言える。

 

「これから来る人は、私よりずっと強いから」

 

「それって……」

 

 

 

「姉貴!!」

 

始まりの街の路地裏から、ソイツは駆けてくる。中世的な顔立ちに同年代の男子に比べてやや低めの身長に黒髪と黒目。私とは似つかない容姿をした少年。

 

カワイイ見た目のくせに、バケモノみたいに強い──────

 

「待ってたわよ、和人!」

 

────────私の弟何だから!!

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