少しずつ相手を意識し始めるキリアスとそれを察したミトが書きたかった。
問題は俺の技量では満足に表現できない事だ………泣
洞窟での激闘かあ数日。
私たちは、ホルンカの村から迷宮区最寄りの街──トールバーナに拠点を移し、デスゲーム攻略に邁進しています。
キリト君はアントロテリウムとの闘いで何かを思いついたらしく、片手剣と別の武器を組み合わせて戦うスタイルを日々研究しているみたいです。
一番しっくりくるのは、鎌と剣の組み合わせみたいですが、装備重量がかさむ事と、わざわざ持ち変えるよりミトと連携した方が強いと言うことで、別のパターンが無いか試行錯誤を重ねています。
ミトの方は、防具を新調しました。今までは胸当て以外は革装備だった装いを、全身軽金属装備の鎧に身を包んでいます。
曰く、いざと言う時に壁役になれるのが両手武器持ちの私しかいないから、とのこと。
あの戦いで、私を護れなかったことを凄く悔やんでいるみたいでした。
そして、私は────────────。
*********
「アスナ、最近落ち込んでるよな」
弟の口から出た言葉を聞いて、ミトは少し驚いた。僅か1か月前までは私はともかく直葉との会話すらおぼつかなかったキリトから女の子を心配する言葉が出るとあ思わなかったのだ。ましてやアスナ自身が隠していることに気付いてまで。
「気付いてたんだ」
「最近、気付いたらアスナをみてることがあって……それでなんか変だなって」
「キリト……」
「いくら考えても、アスナがなんで落ち込んでるかわからないんだ。アスナには笑っててほしいのに、どうすればアスナが喜ぶのか分からなくて………」
なんだか、少しだけ安心した。
キリト──和人は他人への興味が薄い子供だった。きっと峰高さんと翠さんが本当の両親じゃないと知ってしまって、ヒトとの繋がりというものが分からなくなってしまったのだろう。もしかしたら、私というある日突然桐ケ谷家に現れた異物も和人の心に影響を与えたのかもしれない。
そんなキリトが誰かの心を思って悩んでいることが、ミトは嬉しかったのだ。
「ホントは自分で考えろって言わなきゃいけないんだろうけど、特別に教えてあげる」
「?」
「もっとアスナを頼ってあげて。守るべきお姫様じゃなくて共に戦う仲間として、アスナを見てあげなさい」
「よくわからないけど、分かった」
意味は理解できないけどやるべきことは分かったというキリトの返答にミトは満足げに頷く。
「いつか私の居場所は無くなるんでしょうね………」
キリトに背を向けて呟いた言葉は、誰に届くことも無く消えていった。
*********
「私は、なんでこんなに弱いんだろう」
ミトとキリトの会話からおよそ8時間前。女子部屋として借りている宿屋のベッドの上でアスナは膝を抱えながら呟いた。
隣に座るミトの肩に頭を預けながら、アスナはポツリポツリと言葉を紡ぐ。
アントロテリウムとの戦いで自分は何もできなかった。
自分から敵を倒そうと言い出しておきながら、真っ先に戦闘不能になった。
その後は何もできず、ミトとキリトに守られるだけだった。
……強くなったと、思っていた。
自分もミトやキリトと並んで戦えるのだと。
けれどそれは錯覚だった。
私は、一人じゃ何もできない弱いままなのだ。
こぼれる涙のような独白を聞きながらミトはアスナをそっと抱き締める。今はどんな言葉もアスナの重荷にしかならないと感じて、ただ寄り添う事しかできない。
「私が弱いだけならいい。でもそれでミトやキリト君が傷つくのは耐えられない……」
「…………アスナ」
絞り出すように吐き出されたその言葉が、彼女の本心なのだろうとミトは直感する。
「私が居なければ、2人とももっと先へ進めるのに、私のせいでミトとキリト君に迷惑をかけているのが辛いの」
「迷惑だなんて思ってない!」
アスナの言葉にミトは思わず語調強く反論する。
そんなミトの反応にアスナをゆっくりと首をふる。
「私はミトとキリト君の足手まといでしかない。それは悲しいけど事実だよ。でも────」
「────だから私は強くなる。今度こそ、ミトやキリト君を守れるように」
「アスナ………」
良かった。アスナが自分は無力だと思い詰めているんじゃないかと思ったけれど、違った。
アスナは強い。彼女が思っているよりもずっと。だってアスナは洞窟の戦いで一度も目を閉じなかったのだ。
初見殺しの攻撃で動けなくなって、死の恐怖に呑まれそうになった時でも、決して目の前の敵から目をそらすことをしなかった。
ミトが自分の命を諦め、瞳を閉じたときでさえ、迫りくるモンスターを真っ直ぐに見据えていたのだ。
アスナは強い。きっとこの先、誰よりも、きっとキリトよりも強くなる。
「私のせいで傷つくキリト君もミトも、もう見たくないんだから─────!」
決意と共に放たれた言葉を耳にしながら、ミトはアスナを抱き締める。
最後の言葉だけ、名前を呼ぶ順番が変っていたことに、微かな温もりを感じながら。