ミトにはコレから思いっきり冒険してもらいます
「ここはどこ?」
それが目を覚ましたミトの第一声だった。
目の前に広がるのは、砂漠の様な砂景色。所々真っ白な建造物らしきものが見えるが、そのどれもが崩れ壊れている。
「いつの間にか夜になってるし……」
天を仰げば煌々とか輝く白い月。不思議なことに空には月以外の星はなく、地上の荒廃ぶりと相まって、この場所から現実感を取り払っている。
「まぁ死後の世界って言われれば納得の風景だけど」
地獄でも天国でもない。かと言って煉獄なんてものでもない。けれども死者の彷徨う幽世としてはこれ以上ないほど相応しい光景だ。
「………そっか。私、死んじゃったのね」
死後の世界、と口に出してようやくそれを実感した。そう。あの時ミトは、ボスの攻撃に晒されたディアベルを庇って、死んだのだ。
「キリトとアスナには悪いことしちゃったなぁ」
自分の後先考えない行動に、今更ながら苦笑が漏れる。
本当に申し訳ないことをした。できるなら最後まで彼らと共にありたかった。
けれど、自分の選択に後悔はない。あの時、ディアベルを、ベータテストでコンビを組んでいただけの他人を助けに飛び込めた事は、深澄の人生に於いて最も誇りある出来事だった。
「あれ……?おかしいな。涙が止まらないや…………………………」
悔いはない。でも、少しだけ、寂しいとは思う。
「ごめんね。和人。明日奈。直葉。翠さん。峰高さん。…………………私、もう会えないや」
だからこの涙は禊だ。これから旅立って逝くものが、未練を洗い流す儀式。
それが枯れ果てた時こそ、桐ヶ谷深澄の門出なのだろう。
「…………………………………………よし」
一時間か二時間か。あるいは最も長かったのかも知れない。月の満ち欠けも日の傾きもないこの世界では、時間の感覚さえ曖昧だ。
それでも長い長い間続いた嗚咽は止み、少女は顔を上げる。
「………………………………何処へ逝きましょうか?」
立ち上がって、服についた砂を払う。そこでようやく自分がsaoでの装備を纏っていることに気付いた。
「死んでもゲームの格好なんて、私らしいわね」
背負うものも無くなった軽い足取りでミトは歩き始めた。ハミングを口遊み、まだ見ぬ世界に胸を躍らせながら。
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「ここは、何処だ……?」
夜の砂漠のような荒野でディアベルは目を覚ました。
ぼやけた頭が二日酔いのように鈍く痛む。
「いや酒なんて呑める歳じゃないんだけどな」
自分の抱いたおっさんのような感想を振り払うようにツッコミを入れる。
馬鹿なことをやっていても埒が明かないと周囲を見渡してみれば、目に入るのは一面の砂景色。
夜空はただ一つの月を除いて墨をバケツでぶちまけたかのように黒い。
全てが死に絶えたかのような寒々しい世界の中で唯一目を引く物があった。
「あれは………?」
おぼつかない足取りでフラフラと歩み寄るとその全貌が見えてくる。
それは大理石のような、漆喰の壁の様な真白な材質でできた石碑だ。一面に文字が彫りこまれ、所々が朽ち果てて掛けている。
「日本語で書かれてるんだな………」
ゲームに出てくる古代の石板、のような雰囲気だと言うのにそこに掛かれた文字はなんの変哲もない日本語だ。
これではまるでゲームの中にいるみたいだ。
「ッ!そうだよ!俺はSAOで死んだはずじゃ………」
今頃になってそのことを思い出す。ディアベルはリーダーとしてボス攻略レイドを率い、そして戦死したはずだ。
「ここは、SAOの中なのか……?」
見下ろしてみれば、まさしく初期装備といった風情の小手とグローブ。全身は金属製の鎧で包まれている。
その姿はまさしくデスゲームと化したSAO本サービスをプレイしていた自分だ。
「だとしたら、まだ死んだわけじゃない……?」
そこまで考えて、大きなヒントが目の前にあることに気付く。
ここがSAOの中だとして、この意味ありげな石碑がこの場所と無関係であるとは思えない。
「読んでみるか」
ひび割れ、風化した石碑の文字は些か読みづらかったが、それでもディアベルは解読を始めた。
そこに書かれていたのは────────────
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汝、選ばれし勇者なり。
ここは戦士たちの坩堝。蟲毒の器。
浮遊城の頂上、紅玉宮。そこへ至る最後の砦を護る番兵。
選ばれし
戦え。戦え。戦え。戦え。戦え。
戦い、勝ち残った者のみが、再び浮遊城に還ることを赦される。
選ばれしものよ。戦え。
明けぬ夜に包まれた、砂塵舞う荒野で、朽ちた命を散らせ。
汝らの戦場の名は『