桐ケ谷深澄の冒険   作:三毛の高志

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いつか3人で

 

 

「待ってたわよ、和人!」

 

夕日を背にこちらに掛けてくる黒髪の少年に向けて私は呼びかける。和人はゆっくりと速度を堕として歩み寄ると、私たちの手前で足を止めた。

 

「?」

 

けれど、どこか様子が変だ。普通もっと近くまで来るはずなのに、今は10メートル以上離れた所で立ち尽くしている。むしろ僅かに後退る様にも見えるし、その目線は大きく私とアスナから逸らされている。

 

「あぁそういう」

 

いつも見ているから慣れてしまったが、アスナは絶世の美少女だ。慣れてしまった私でも時折ドキリとさせられるくらい可愛い女の子だ。

女子に耐性のない、廃人ゲーマーの和人には近寄りがたいものもあるのだろう。

 

「和人、そんなとこで突っ立ってないでコッチ来なさい。アスナに紹介するから」

 

「お、おう……」

 

和人は私に言われて渋々と言った様子でこちらにやってくる。それでも視線は頑なにアスナから逸らされている。

……ここまで来るといっそ病気だなぁ。育て方間違えたかも……。

内心で弟の女性免疫のなさに呆れながら、私はアスナに向き直る。

 

「アスナ、こいつがさっき言ってた私の弟。こんな見た目だけどゲームの腕は一流だから。………ほら和人、挨拶なさい」

 

「う………。い、いつも姉の深澄がお世話になってます。弟の桐ケ谷和人です。………えっと、プレイヤーネームはキリトです……。よろしくお願いします」

 

「こ、こちらこそいつも美澄さんにお世話になっております。クラスメイトの結城明日奈です。よろしくお願いします」

 

「ここは見合いの席か」

 

あまりにも堅苦しい挨拶の応酬に思わず頭を抱える。よく考えれば、アスナもアスナで幼稚園から女子校育ちのお嬢様だ。当然ながら、同年代の男子に免疫などあるはずもなかった。

これからパーティ組むっていうのに先が思いやられるなぁ。

 

「とにかく!これから私たちは三人でパーティを組む。それでこのゲームを攻略して現実に戻る!いい!?」

 

「「は、はい!」」

 

こういうところは息ピッタリと。まぁなんとかなるのかな?

先行きに一抹の不安を抱えながら、私たちは、フィールドへと踏み出した。

 

 

*********

 

 

仮想の太陽が沈みゆく斜陽の中を私とアスナ、そしてキリトはホルンカの村を目指してひた走る。

私が戦闘に立ち、殿をキリトが努める。その間で走るアスナは不安そうに眉を寄せてベータテスター二人の走力に必死についてきている。

その様子を横目に窺いながら、速度を落とさなくてもいいと判断する。

はじまりの街を出て既に10分強。モンスターの攻性化(アグロ)範囲を避けて走り続けたために、これまで一度も戦闘は行っていない。

最短ルートと、モンスターの情報を知り尽くしたベータテスターでなければ出せない速度で走り続ける。

 

「来た!」

 

だがその快進撃もここで終わる。最短ルートのど真ん中にオオカミ型のモンスターがポップしたのだ。

イノシシ以上の耐久力と蜂以上の俊敏性、そしてそのどちらにも勝る攻撃力を備えた序盤における最大の関門。それが2体同時。

 

「はあっ!」

 

即座に手前に居た一体に下段からの切り上げを見舞う。鋭く尖った鎌の先端がオオカミの胸元から背中まで貫き、HPゲージが大きく減少する。鎌を引き抜く勢いのまま回転させ、今度は首筋を掻き切るように薙ぐ。その一撃でオオカミのHPがゼロになるとともに、ポリゴンの欠片となって消滅した。

 

「ッ!アスナ!」

 

けれど、その僅かな戦闘の間にもう一体が私を通り過ぎてアスナへと襲い掛かる。ベータ時代であれば、こんな雑魚など一撃で倒していた。それが出来なかったのは偏に、アバターの違い、だ。

つい数時間前まで使い続けていた大男のアバターは、猫背気味であることを加味しても190センチ以上ある。それに比べて今の私は、160センチそこそこといったところだ。

いくら中学生の女子としては長身の部類入るが、それでも頭2つ分近い差ある。

その体格の違いが私の攻撃を鈍らせた。先程の攻撃も、本来なら弱点である喉元を狙ったのだ。そこを突いていれば、一撃死させられたのに……ッ!

 

「えっ嫌ッ止めて!」

 

モンスターへの恐怖から動けないアスナ目掛けてオオカミが襲い掛かる。

 

「助けて……ッ」

 

「フッ!」

 

アスナの柔肌を噛みちぎろうとする凶牙を一振りの直剣が弾き飛ばす。

空中に跳ね上げられたオオカミの腹部を、閃光を帯びた剣が切り裂く。

片手直剣ソードスキル──バーチカル。単純な縦斬りだが、それゆえにブーストされた剣撃の威力は、容易くモンスターを葬り去った。

 

「え、と……。大丈夫……?」

 

「あ、ありがとう」

 

オオカミを倒したキリトがぎこちなくアスナに手を差し伸べる。アスナもおずおずとその手を握って立ち上がる。

 

「あ、えと……」

 

「あ、あれ……」

 

そのままキリトとアスナはお互いの手を握ったまま立ち尽くしている。そうかぁ恋愛経験皆無な二人だとこうなるのかぁ

 

「おーいそこ二人~。睦み合ってないで先を急ぐわよ~」

 

「「うわあぁ!」」

 

二人は私の言葉に手を放しながら飛び退る。そういう反応も初心というかなんというか……。

 

「………良かった。和人がいてくれて」

 

未だにドギマギしている二人に聞こえない様に小さく呟く。私一人では、きっとこの戦闘でアスナをこれ以上の危険に晒していただろう。もしかしたら、この戦闘で私はアスナを失っていたかもしれない。

 

けれど。これで確信できた。

和人と、キリトと一緒なら、アスナを護りながらこのゲームを攻略できる。

そして、いつか成長したアスナと3人で、このゲームを──────────

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