ミトが居ねぇと筆が進まねぇなぁ。
『Mitoがパーティを離脱しました。』
唐突に視界に表示されたメッセージの意味を咄嗟にアスナは理解できなかった。だがそれは、メッセージの存在を無視で来たと言うことではない。
「え?………がっ!?」
茫然と動きを止めたアスナの腹部をネペントの鞭のようにしなる蔓が打ち据える。金属防具のほとんどない、防御よりも回避に重点を置いたアスナにとってそれは致命的な一撃と言ってよかった。
最後のポーションによってギリギリ
「な、んで……ミト……!」
『Mitoがパーティを離脱しました。』
そのメッセージが何を意味するのか。理解したくないとアスナの感情が告げている。しかし、アスナの明晰な頭脳は一つの答えを導き出していた。
(裏切ったの……?ミトが、私たちを……?)
ありえない、と思う。だがしかし表示されたシステムメッセージがその事実を確たるものにしている。
ありえない、でもそうとしか考えられない。その二つの思考がぐるぐると巡り続ける。
そして気付けば、アスナの周囲をネペントの群れがスクラムを組むかのように取り囲んでいる。
「しまった……!」
もしもアスナが重金属鎧で全身を固めたタンク職だったなら防御力に任せて強引に突破する事もできただろう。だがフェンサーであるアスナに、攻撃を受けながら走り抜ける体力などありはしない。つまりは──────
「こんなの、もう」
──────詰みだ。人一人通れない程囲まれてはアスナにはどうする事も出来ない。そのことを認識しただけで、アスナは全身から力が抜けるのを感じた。指先の感覚が無くなり、細剣が滑り落ちる。脚に力が入らなくなってその場にへたり込んだ。
ここで、アスナ──結城明日奈の
それはもう、誰にも変えられない未来────────
「そんなの俺は認めないッッ!!!」
壁の様に連なったモンスターの向こう側から、声がした。
アスナの視界を塞ぐモンスターの群れが切りはらわれる。青い閃光を纏った剣撃が往復する。そのたびに一匹、また一匹とモンスターがポリゴン片へと変わっていく。
嵐のような闘いの中心にいるのは黒髪の少年。ミトの弟なのだから、アスナよりも年下であるはずだ。
だが、鬼神のごとく戦う姿からはそんな気配は微塵も窺えない。
アスナとそう変わらない小さな体から考えられない迫力がそこにはあった。
「キリト、君?」
どうやって?彼とは別々に行動していたはずだ。アスナを助けに来ることはおろか、彼自身生き残ることすら難しいはずなのに。
「立てるか、アスナ」
「う、うん」
「俺が来た方向が一番脱出し易い。2人で一気に突破しよう」
今し方キリトが現れた方向に視線をやると明らかにモンスターの密度が低いのが見て取れた。
「あれだけの数をどうやって……」
「崖に落としてきた」
キリトの言葉にアスナは愕然とする。確かにキリトの居た場所からここまでくる間には小さな崖があったはずだ。そこへモンスターを誘導できれば、剣を振るだけでは倒せない数を一網打尽にできるだろう。
しかしそれは、自分も落下死するリスクを伴う危険な賭けだったはずだ。
「な、なんて無茶を……」
「無茶くらいするさ。その………」
「今なんて?」
「なんでもない!それより早く離脱するぞ!」
「わ、分かった!」
幾度か言葉を躱したことで体の感覚も戻ってきた。ぐっと息をのんで細剣を拾い上げると目の前のネペント目掛けて真っ直ぐに構える。
「行こう。キリト君」
「ああ。絶対に生き残るんだ。………どっかのバカ姉貴も迎えに行かないとだしな」
「ふふっ。そうだね。……………そのあとでいいから、さっきの続き聞かせてね」
「………………ナンノコトダカ」
「あははっ」
絶対絶命の窮地にも関わらず、アスナは朗らかな笑い声をあげる。キリトが隣にいるだけでこんなにも心が強くなれるなんて想像もしていなかった。
そして何より。
(待っててね……ミト)
数分後、ネペントの大群を振り切って息を突くキリトとアスナの姿があった。