ーー夜・沈利の部屋
私は部屋に戻ると制服から普段着に着替える。キャミソールとパンツスタイルって組み合わせである。
「着替えと言っても箱から出せる服しかないけど」
休みの日に荷物を箱から出さないといけないわね。それにしてもこの巌戸台の分寮って結構部屋があるのに桐条先輩とゆかりしかいないのかな?
「新参者の私がウロウロするわけにもいかないし」
学校から持って帰ってきた教科書等を机の棚に並べていく。こんな感じで転校初日を終えることに。
沈利が自室にいる頃、1階のみんなで集まる場所に美鶴が本を読んでいたら真田がやってきた。
「ちょっと出かけてくる」
「ん?」
「気づいているかるか?このところの新聞記事」
「ああ、それまで普通だったある者が、ある日を境に急に口も聞けないほどの無気力症に陥る。最近流行りらしいな」
その無気力症は、新聞記事によればストレス性ということで片付けられている。だが真田は、
「そんなわけあるか。絶対❝奴ら❞の仕業だ。でなきゃ、面白くない」
「相変わらずだな、1人で大丈夫か?」
「なに、心配ない。トレーニングのついでだ」
そう言って真田は巌戸台の分寮の外へ出ていく。
「全く、明彦のやつ…遊びじゃないんだぞ…」
美鶴は、真田の出ていった玄関の方を見つめていたのだった。
2009・4・08・(水)・あと1日
私は、巌戸台分寮からモノレールに乗って学校までやって来ている。昨日はゆかりと一緒だったけど今日は1人だ。慣れるまでは少し時間がかかるかな。校門に近づいた時話し声が聞こえてきた。
「ねえ、聞いた?あの噂」
「あー、アレでしょ?トイレのなんだあっけ?」
「古ッ!!ちーがーくーて!1年の、ナントカさんって子の話!」
「学校来なくなっちゃってね、家でずっーと、壁に向かってるんだって。で、お母さんが話しかけたらね、❝来る…来る…❞って呟くんだってー」
「ふーん」
「信じてないんでしょ」
私は彼女達の話を聴いていたら学校の予鈴がなった。しかし壁に向かって❝来る来る❞ってなんだろう?と考えながら私は歩き出した。
昼休みが終わり午後の授業が始まる。現代文だ、教科担当はもちろん担任の鳥海先生である。
「はい、教科書開いてー。最初の小説は、❝葛西善蔵❞か。今年はマニアックねぇ。葛西も良いけど、先生、最近は窪田空穂にハマってるのよね。歌人としてが有名だけど、随筆もとってもいいのよ。なんで教科書に無いのかしらね。今度持ってくるから、そっちやろうね。ねぇ、伊織君!先生の話、聞いてた?先生の好きな作家、言ってみなさい!」
伊織は鳥海先生の話をうわの空で聞いていたようで、慌てふためいている。
「おい!おいって!先生、誰が好きって?」
伊織は誰かに助けを求めているが、誰も助け舟は出さない。私は仕方がないと思い伊織に助け舟を出す。
「伊織君、鳥海先生の好きな作家は、❝窪田空穂❞よ」
「えーと、窪田空穂ですかねえ」
「そう、そうなの!先生の話、ちゃんと聞いてくれたのね!」
「えっへへ〜、オレ、真面目ッすから!」
「ふぅ〜助かったぜ、沈利!!」
「どういたしまして」
クラスメイト達の声が聞こえてくる。
「麦野さんが教えてあげたんだって。真面目に聞いてるんだね」
しばらくは、私の噂話が続くのであった。
そして放課後になり、特別に用も無いので、巌戸台の分寮に帰ることにした。
沈利の恋人は、誰が良いですか?
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1ー真田明彦
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2ー荒垣真次郎
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3ー小田桐英利