リコリス・リコイルレス TS転生者・観世セイカの戦闘記録【完結】   作:璽武通

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リコリコのコミカライズ版の13話と14話を読んで、北押上駅で真島を仕留めたくなったので書きました。……あの戦闘に関して色々と補完されたのは嬉しいんだけど、読んでて辛い。悲しい。


没案版最終決戦『重武装女性戦闘車両/5秒間の最終決戦』

 

 私には、ずっと考えていたことがある。この世界が『リコリス・リコイル』の世界であると気づいた、あの日から。

 

 優れた才能や特殊能力など無いサードリコリスの私でも、『バランスを取らなくっちゃなぁ!』などというふざけた理由でテロを起こすあの男、真島をどうにかして殺せないか。ずっと考えていた。

 

 一般の人々や仲間たちに犠牲を出さず奴を殺せるなら、どんな手段も厭わない。もし、私の命と引き換えに確実に奴を殺せる方法があるなら教えてほしいくらいだ。私の命1つで凶悪なテロリストを殺せるのなら安いものだろう。

 

 そんなことを考えていた私はある日、思いがけない出来事と騒動の末にとてつもない力を手に入れてしまった。軍用装備で武装したセカンドリコリスの1個小隊の指揮権という、強大過ぎる力を。

 その戦力を投入し、武力を行使するタイミング。それを間違えなければ、奴を殺せる見込みは十分にある。

 

 悩みに悩んで、私が真島との決戦の舞台に選んだのは……東京都墨田区、北押上駅の2番線ホーム。原作という史実通りに事が進めば、35人ものサードリコリスが犠牲になる惨劇が起きる場所。

 

 私はみんななら真島を殺せると信じている。でも、重くのしかかる不安はつきまとって離れない。……それでもやるしかない。やらなければ、いつか、どこかで大勢の人が死ぬのだ。

 

 Who Dares, Wins(挑みし者こそが勝利する)。逃げたら1つ、進めば2つ。精一杯の勇気と決意を胸に、私は部隊を動かすための書類にサインをする。

 

 

 ──信じよう、今まで通りに。私の大切な仲間たちを。そして、自分の悪運を。

 

 

 

 

 7月某日の夕刻。北押上駅に向かう自動運転の地下鉄車両の中。ベージュ色の制服に身を包んだサードリコリス・観世セイカは床に座って、ノートパソコンの画面を見つめていた。

 

 その画面には、北押上駅に設置された防犯カメラの映像──黒いコートを着た緑色のボサボサ頭の男と、灰色の作業服を着た男たちが、旧ソ連製の軍用銃を手に2番線ホームをうろつく姿が映っている。

 

 セイカはパソコンの画面からちらりと視線を外し、自分の大切な仲間たちに向ける。

 紺色の制服の上にプレートキャリアやチェストリグを纏い、ベルギー製のアサルトライフル(FN SCAR)かイタリア製のセミオートショットガン(Beretta 1301 Tactical)で武装した20人のセカンドリコリス──DA本部直轄の特殊作戦部隊『LycoLess』の隊員たち。

 

 彼女たちは防犯カメラからの映像を基に最も効果的な攻撃位置を割り出し、各車両に分散して配置についている。

 適度に緊張感を保ちつつ、経験に基づいた余裕を感じさせる彼女たちの頼もしい姿に、緊張と不安が少し和らぐのをセイカは感じた。

 

 その時、彼女の腕時計からアラーム音が鳴り響いた。北押上駅に到着するまであと1分であることを告げる音だ。

 

「……到着まで50秒! 総員、戦闘準備!」

 

 アラームを切ってセイカは部隊に号令をかけた。リコリスたちはヘルメットを被ってストラップを締め、銃のボルトハンドルを引いて初弾を薬室に装填。そして、隣にいるパートナーと頷き合ったり、拳を突き合わせたりしてから床に伏せて待機する。

 

 彼女たちと同じように床に伏せながら、セイカは改めてパソコンの画面に目をやり、真島の立っている位置を確認。真島を最短距離で撃てる位置にいるリコリスへと指示を出した。

 

「真島は杏佳先輩と夏恵さんの前です! 全弾ブチこんでやってくださいっ!」

「了解、任せて!」

「ミンチにしてやります!」

「……10秒前! ……5、4、3、2、1!」

 

 カウントが0になり、車両が北押上駅に進入した直後。テロリストたちが銃を乱射し無数の銃弾が車両に浴びせられた。

 窓ガラスが砕け、壁が穴だらけになっていく。頭上を銃弾の嵐が通り過ぎていく中、この事後処理のために鉄道会社の人たちがどれだけの苦労を──残業とか休日出勤とかする羽目になるのかを考えて、セイカは心が痛んだ。

 

 ──事前に防げなくて本当にごめんなさい。奴らに報いは受けさせますから……!

 

 セイカが心の中で鉄道会社の人たちに謝罪している内に、甲高いブレーキ音を立てて車両は停止した。

 数秒後、銃撃が止むとリコリスたちはホーム側から自分たちが見えないように注意して、慎重に身を起こす。

 

 パラパラと窓ガラスの破片を落としながら扉が開く。車両の中に乗客たちがいないことにようやく気付いた真島は、「は?」と困惑した声を漏らした。

 

 作中においてこの時、超人的な聴覚を持っている真島がなぜ車両内のリコリスたちの存在に気付けなかったのか。セイカはその理由について仮説を立てていた。

 

 銃の発砲音というものは、聴覚に激しいダメージを与えてくる。特に屋内での射撃時は耳栓やイヤマフ等による耳の防護は必須だ。

 真島たちは駅のホームという音が反響しやすい場所で、耳の防護もせずに、大人数で大口径の銃火器を乱射しまくった。それによって真島は一時的な難聴状態になっていたのではないか。その仮説は、どうやら正しかったらしい。

 

「──攻撃開始」

 

 静かに、はっきりとした声でセイカが号令を発する。20人のリコリスたちは俊敏な動作で立ち上がり、構えた銃の安全装置を解除。一斉に射撃を開始する。

 

 市街地での近接・閉所戦闘及び強襲作戦に対応するための訓練と、幾多の実戦を経験してきた彼女たちの射撃は極めて迅速かつ正確だ。遮蔽物も無い場所で棒立ちしているテロリストの胴体に初弾を撃ち込むまでのタイムなど、2秒もかからない。

 

 1人の敵に対して2人がかりでの同時射撃がテロリストたちを襲う。1発で重傷、2発で致命傷、3発以上ならほぼ即死。

 瞬く間に雑兵は全員射殺され、生き残っているのは真島だけになった。

 

 

 

 

 自分がミスを犯したこと──敵を甘く見たことに真島が気付いたのは、散弾が脇腹を抉り、ライフル弾が右肺に穴を穿った後のことだった。

 

 東京都内で犯罪組織を殲滅している正体不明の処刑部隊。その存在を真島は4月に取引を行った武器商人から聞かされて知っていた。

 だが、誰にも正体を掴ませない狡猾さを持つその闇の中の存在が、ここまで大掛かりで大胆な手段を取ってくるのは完全に想定外だった。

 

「が、ぁっ! ぐぅっ!?」

 

 銃弾が次々と着弾し、真島の体から肉片が飛び散り血飛沫が舞う。「やっべ」などと言う間も余裕も無い。肩に提げていたPK機関銃が床に落ちて転がった。

 

 紺色の重武装少女たちは、真島が倒れるまで絶え間なく銃弾を浴びせ続ける。

 腕に、腹に、胸に大穴が開き鮮血が溢れ出す。目の前で車が爆発しようが、地上数百メートルから転落しようが死なない頑丈な体だが、さすがに銃弾は防げない。

 

 向けられる銃口の数が、放たれる銃弾の数が増えていく。

 猛烈な銃火に嬲られる真島はこの場から逃走することも、懐から爆弾の起爆スイッチを取り出すこともできなかった。もっとも、起爆スイッチは散弾が当たって砕け散り、ただの不燃ゴミと化していたが。

 

 攻撃が始まってからの5秒間で、40発近い銃弾をその身に受けた真島の体がぐらりと傾く。そして彼は、ぐちゃっと湿った音を立てて床に仰向けに倒れた。

 

「かひゅ、ぅ。ごぶ……っ」

 

 床に広がっていく血だまりの中で、真島は血の泡を吐きながら咳き込んだ。肺をズタズタにされ、気道にも血が流れ込み、まともに呼吸ができない。

 

 死にかけで身動きできない真島の視界に、紺色の重武装少女が入ってくる。彼女はまだかろうじて息をしている真島を見下ろして、驚きに目を見開いた。

 

「……嘘でしょ、まだ生きてるの?」

 

 彼女はそう言うと、アサルトライフルを構えて引き金に指を掛ける。

 人差し指にぐっと力が入ったところで、彼女は振り向いて後ろを見た。そして誰かと短く会話を交わしたかと思うと、彼女と入れ替わるようにベージュ色の制服を着た少女が歩み出てきた。

 

 肩にかからない程度の長さの黒髪と、やや垂れ気味な黒い瞳。それなりに整った可愛らしい顔立ち。どこの町にもいるような、ありふれた見た目の10代半ばの少女。

 

 少女は右手を背中に回し、背負った鞄から拳銃を抜いた。両手でしっかりとそれを構え、銃口を真島の眉間に向ける。

 

 アイアンサイト越しに真島と少女の目が合った。慈悲など一切存在しない、殺意に満ちた少女の眼差しに射貫かれて、真島の頭の中に浮かんだのは昔の記憶。 

 

 10年前。戦場と化した電波塔で交戦した少女。あの場にいたテロリストたちを瞬く間に撃ち倒し、最後の1人になった真島に銃口を向けてきた幼い少女。

 

 今目の前にいる少女は、あの少女とは別人であることは気配から分かる。

 だが、今の状況と彼女が向けてくる敵意が、真島にかつての記憶と感覚を鮮明に蘇らせ、表情を恐怖に歪ませた。

 

 少女が引き金を引き、マズルフラッシュが瞬く。亜音速で撃ち出された45口径弾に脳を砕かれ、真島の意識は永遠の闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

「はあ、ぁ……」

 

 グロック21をサッチェルバッグに戻し、大きく息を吐くと、セイカは立ち眩みを起こしたようにふらりとよろめいた。

 

「セイカっ!? ──明那! こっち来て!」

 

 慌てて傍にいたリコリスが彼女の体を支え、衛生兵を担当しているチームメイトを呼ぶ。だが、セイカは「大丈夫です」と言ってそれを制した。

 

「あはは……久しぶりに現場に立ったのとか、大物を殺ったのとかで、なんだかすごく、疲れました……」

「本当に大丈夫なの? ……後始末は私たちに任せて、中で休んでなさい。ほら」

 

 そう言うと彼女はセイカを支えながら車両まで連れて行き、中へ押し込んだ。

 

「すいません。お願いします……私は報告書を書いてますね」

「いや、休みなさいっての」

「何か仕事してないと、気が休まりません……」

「あー、もう。この仕事中毒リコリスめ……勝手にしなさい」

 

 呆れた様子でそう言ったリコリスはセイカに背を向け、駅の構内に仕掛けられた爆弾の捜索と解除作業をしている仲間たちのほうへと向かった。

 彼女の背中にひらひらと手を振って見送り、セイカは床に置きっぱなしにしていたノートパソコンを拾い上げてから、座席にゆっくりと腰を下ろす。

 

「あぁ……ついにやった。やっちゃったぁ……」

 

 弾痕だらけになった壁に後頭部をこつんとぶつけながら、セイカは呻くように呟く。

 真島を殺すという悲願を果たせたというのに、その表情に達成感はない。今の彼女の胸中を満たしているのは、未来への不安とでも呼ぶべき感情だった。

 

 今まではほぼ原作通りに事が進んでいた。でも、真島を殺したことでここから先は完全に未知の未来。原作知識はあまり役に立たないだろう。これからは自分の力で、起きた事態に対処していかなければならない。

 

 様々な悪い未来予想図がセイカの頭の中に浮かんでは消えていく。真島を殺したことが吉と出るのか凶と出るのかわからない。制作が決まっていた新作アニメのほうで真島がいないと詰む場面とかあったらどうする?

  

 目を閉じてしばらく悶々と考えていたセイカだったが、やがて大きく息を吐いて目を開けた。

 

「……よしっ。悩むの終わり」

 

 悩んだって仕方ない。悩んでる暇があるなら、みんなや自分の未来のためにできることを考えよう。大丈夫。きっとなんとかなる。今までだって大変なことは色々あったけど、みんなのおかげで乗り越えられた。

 

 ──信じよう、今まで通りに。私の大切な仲間たちを。そして、自分の悪運を。

 

「……The unknown future rolls toward us. I face it, for the first time, with a sense of hope……」

 

“私たちの目の前にあるのは未知の未来。私は初めて、その未来に希望があることを感じている”

 

 未来に起こる惨劇を防ぐために主人公たちが戦う、往年の傑作SFアクション映画。そのエンディングのセリフを呟いて、セイカはふっと微笑んだ。

 

「さて、まずは……報告書、書かないとね」

 

 彼女はノートパソコンを膝の上に置き、軽やかにキーボードを叩き始めるのだった。




本編ではコンテナ船で真島を仕留めて終わりましたが、当初のプロットでは北押上駅で真島を仕留めて終わるはずでした。それに、リコレスを夜戦部隊にする予定もありませんでした。
展開に悩んで色々と当初のプロットから変わりましたが、バレットとかカールグスタフとか派手な銃火器を出せたので結果的にはよかったと思ってます。
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