リコリス・リコイルレス TS転生者・観世セイカの戦闘記録【完結】 作:璽武通
千束たちが身体を機械に繋がれた老人・松下と共に東京の名所を巡り、その道中で暗殺者サイレント・ジンと交戦した日の夜。セイカはリコリス棟の自室で、キャリーケースに詰められた荷物を確認していた。
「冬用の制服と靴下は入れた……パソコンとスマホの充電ケーブル、よし……書類も揃ってる……」
彼女は明日、大阪への出張に旅立つ。DA大阪支部にて新設された重武装リコリス部隊のアドバイザー業務や、姉妹組織との折衝など、いくつもの重要な仕事をするために。
期間は3ヵ月と長く、状況によってはさらに延びる可能性もある。東京に帰ってくるのは来年になるかもしれない。
「部屋の鍵は明日、受付に返却……それから、“あれ”は部隊に預けて……」
荷物の確認を終えた彼女は、机の上に置かれた小包に視線を向けた。それには『喫茶リコリコ行き』『精密機器が入ってます。取扱注意!』と書かれたメモが貼り付けてある。
セイカは机の前に立って、小包を持ち上げた。片手どころか、指一本でも持ち上げられるくらい軽い小包。だが、その中に入っている物が持つ価値や意味は、途轍もなく重大だ。
「……原作知識で出来ることは、これが最後かな」
感慨深げにそう呟いた時、ポケットの中のスマホが着信音を鳴らした。すぐさま小包を置いてスマホを取り出し、通話ボタンをタップして応答する。
「はい、観世です。……はい、わかりました! すぐに行きますっ!」
どうやら
小包を開けた。中には『千束のカメラ』『喫茶リコリコへの依頼書』『ロボ太の絵』『ミカ宛ての封筒』が入っていた。
富士フイルム社製のX100V。幼い頃の千束が持っていたカメラであり、彼女の大切な思い出が詰まっている。
依頼内容:ロボ太のPCのデータ削除
期限:可能な限り早めに
報酬:千束さんのカメラ
今回の依頼について説明します。ターゲットは自称「世界一のハッカー」、ロボ太です。
4月の銃取引の際に発生したラジアータのハッキングによって、DAのドローンが撮影した映像が流出しました。当時現場にいたリコリスたちが映ったそれを、彼が持っている可能性があります。放置するわけにはいきません。
同梱した彼を釣り出すための餌を使って居場所(墨田区内にいるかも?)を特定し、PCのデータを削除してください。ハッキングによる削除でも、物理的な破壊でもどちらでも構いません。
ロボ太の処遇については普段なら殺すところですが、今の私は人生の転換期で情けを感じています。彼が世間一般の皆様にご迷惑をおかけせず、真っ当に生きていくように説得なり脅迫なりしてください。手段は一任します。
・追伸
千束さんへ。今のうちに言っておきますが山岸先生のところでやる定期健診、ちゃんと予定通りに行ってくださいね。
その際はたきなさんも、千束さんが注射を嫌がって逃げたりしないように同行してください。あそこには私の部隊の衛生兵も常駐していますが、まあ念の為に。
2枚の画用紙に色鉛筆でそれなりに上手く描かれた絵。ロボ太を釣り出すための餌。ダークウェブにアップロードしてみよう。
1枚目はアニメの設定資料っぽいロボ太の全身と彼の部屋の絵。
2枚目は「この国のトップハッカーが入れ替わる時がついに来た! 老人よさらばだ!」と言いながら床で笑い転げているロボ太の絵。その下にはこんな文章が書かれている。
『リコリスの現役はせいぜい18だ。それだけ生きれば十分』なんてことをミカさんはもう思っていないと信じて、10年後も千束さんがミカさんのそばで笑っていることを願って、この情報を提供します。
千束さんの胸に埋め込まれた拍動なしの完全置換型人工心臓。以下に記載するのは、その製作者の詳細です。ウォールナットさんなら居場所を探し出せるはず。
これは楠木司令も知らない情報です。取り扱いにはご注意ください。
名前:川辺楓
学位:博士(医学)(2000年3月 東京中央大学)
経歴:2008/04~2011/03 永山医科大学医学部 準教授
2003/04~2008/03 北海道医科大学 循環器病研究センター 講師
2001/04~2003/03 東京中央大学 大学院医療工学系研究科 特任研究員
1998/04~2001/03 東京中央大学 大学院医学系研究科 特任研究員
委員歴:2008~2011 日本人工心肺学会 技術賞選出要員
2007~2011 日本循環器テクノロジー協会 神林賞選定要員
2007~2011 日本人工心肺学会 評議員
2002~2011 日本人体医工学会 国際委員会 幹事
2001~2011 日本人体医工学会 代議員
論文:完全置換型人工心臓駆動用バッテリー駆動システムの開発
佐須大学循環器病研究センター型補助人工心臓の挙動解析
人工心臓用体内バックアップ二次電池の急性動物実験
人工心臓におけるシート型磁気センサシステムの開発
・追伸
吉松シンジには最大限の警戒を。彼にとってはアラン機関の思想が全てです。
千束さんに殺人をさせる状況を作るためなら、彼は手段を選びません。真島に千挺の銃を送ったのも、千束さんにサイレント・ジンを殺させようとしたのも、黒幕は彼なのでしょう。
真島の件については犠牲者を出すことなく阻止できましたが、私の持っている手札は尽きました。もしまた同じような事態が起きた時、犠牲者無しで阻止できる自信はありません。
誰かが覚悟を決めて引き金を引き、全てを終わらせる必要があります。千束さんの自由のために、犠牲者を出さないために。どんなにつらい思いをすることになったとしても。