リコリス・リコイルレス TS転生者・観世セイカの戦闘記録【完結】   作:璽武通

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3.予定変更

 6月1日。時刻は午前0時を過ぎ、静寂に包まれているDA東京支部。誰もいない食堂の片隅の席に座っているセイカは、テーブルの上に置いたノートパソコンの画面をじっと見つめていた。

 

 画面に映し出されているのは、東京郊外の緑豊かな地域で現在作戦行動中のリコレス隊・3班の映像。暗視カメラ独特の緑色の映像の中で、10人のリコリスたちは雑木林の中からSCAR-Hをセミオートで撃ちまくり、100メートル先にある反社会勢力のアジトの中と外にいる者たちを一方的に殺戮していた。

 

 ライフルから敵へとまっすぐ伸びる夜間照準用の赤外線レーザー。銃口に装着されたサプレッサーの先端に瞬く小さなマズルフラッシュ。宙を舞う空薬莢。本当にこれは日本国内の映像なのだろうか。映っているのが制服姿の女の子たちではなく、迷彩服姿のいかつい男たちだったら、南米辺りで活動中のアメリカ軍特殊部隊かなにかの映像にしか見えないだろう。

 

 セイカはノートパソコンを操作し、建物の真上を飛んでいるドローンからの映像に切り替える。

 ドローンに搭載された赤外線カメラは、銃弾が命中して人生を強制終了されていく者たち──頭を吹っ飛ばされて倒れる者。血だまりの中でもがき苦しむ者──の姿をはっきりと捉えていた。白黒の映像で映るその凄惨な光景を、セイカは目を逸らすことなく見続ける。それが己の義務だとでも言うように。

 

『──3班より4班へ。表の掃除を完了。突入準備は?』

『──できています。4班、移動を開始。周辺警戒よろしく』

『──3班了解。気をつけてね、“いのちだいじに”だよ』

 

 やがて建物の外で動く者がいなくなると、4人ずつの2チームに分かれた4班のリコリスたちが待機地点から移動を開始する。殺戮の現場となった建物の敷地内へ彼女たちが侵入すると、セイカは映像をドローンから4班リコリスのヘルメットカメラのものに切り替える。

 

 映像は白黒から再び緑色へ。まるで映画かFPSゲームのワンシーンのように建物の中へ突入するリコリスたちの姿が見えるようになった。 

 電力を遮断され暗闇に包まれている建物内では、雑多な銃を持った男たちが右往左往していた。高性能の暗視装置をセットしたヘルメットを被っているリコリスたちは、恐怖に震えながら銃口をあらぬ方向に向けている彼らとは真逆に、暗闇の中でも正確に己の敵に銃口を向けている。

 サプレッサーで抑制されたSCARの銃声が鳴るたびに、リコリスたちの足下に転がる死体が増えていく。まるで作業のように淡々と、彼女たちは敵を殺し続けていく。

 

『──A6、クリア。1階を制圧、2階へ移動します』

『──4班へ。2階の角部屋に敵影あり。ちょっと待ってて、排除するから……仕留めた。行っていいよ』

『──了解……2階に上がった。3班、私たちを撃たないでよ?』

『──3班より4班へ。撃たないよ、ペイント弾以外はねー』

 

 冗談を言いつつも、油断することなく進んでいくリコリスたち。その映像を見ているセイカの頭の中では、嫌な想像がぐるぐると渦巻いていた。もし、あの建物に大量の爆弾が仕掛けられていて、敵が自爆したら? もし、部屋の中にいた敵が大口径の機関銃を乱射して、4班のリコリスたちが壁ごと撃ち抜かれてしまったら……?

 

 不安で微かに震える手を、セイカはぎゅっと握りしめる。心の中の不安を吐き出すように、大きく息を吐く。大丈夫、みんな優秀なリコリスだから。大丈夫……。

 

 セイカはノートパソコンの画面を見つめ続ける。ヘッドセットに耳を澄ませ続ける。自分の大切な部下であるリコリスたちが敵を殺戮していく姿を、自分の記憶に刻み込みながら、セイカは10時間前に楠木司令から下された命令を思い出していた。

 

「……リコレスを夜間戦闘専門部隊に、か……」

 

 4月に起きた銃取引を巡る一連の事件。その少し前からDAはリコレス隊の扱いについて、リリベルを有する組織との交渉を行っていた。

 多人数かつ重武装で作戦行動を行うリコレス隊は、リリベル側の領分を知らぬ間に侵していた。そのうえ見事に成果を上げ続けて立場を磐石なものにしていくリコレス隊に対して、警戒感を覚えたリリベル側はDAにリコレス隊の解隊を要求。しかし、DAは断固としてそれに応じなかった。良い感じに育った優秀な手駒をそう簡単に捨てるわけがない。

 

 交渉という名の口論は平行線のまま進み、ヒートアップし続けて、そのうち武力衝突でも起きてしまうのではないかというレベルになった頃、上層部がようやく介入し一つの協定が結ばれた──いや、結ばされたというべきか。

 

 その協定の中にあった項目の1つ。それが『リコレスの活動を夜間に限定する』というものだった。

 

 DA東京支部が誇る特殊作戦部隊『リコレス』。この部隊が本領を発揮するのは夜間戦闘である。

 その理由は単純だ。制服の上にチェストリグやらボディアーマーを重ね、アサルトライフル等の長物で武装した彼女たちは、人目の多い日中は活動しづらい。必然的に彼女たちが動くのは、人々が寝静まった深夜からになる。

 

 故に、リコレスの隊員たちは夜間戦闘技術を徹底的に磨き上げている。暗視ゴーグルを装備した際の独特の視野や距離感に対する適応。赤外線レーザーサイトや暗視スコープといった夜間照準器を装着した銃での迅速で正確な射撃。自分たちと同じ装備を身に着けた敵に対しての対処法。暗視装置を一切使わず、暗闇に慣れた己の目と感覚だけを頼りに闇の中の敵と戦う方法までも。

 闇の中を音も無く駆け抜けて、社会を乱す者の存在を容赦なく抹消する。そんな隠密夜間戦闘に、完璧に適応したリコリスたちの特殊部隊。それがリコレスだ。

 

 適材適所という考え方で見れば、リコレス隊の活動を夜間に限定するのはおかしいことではないのかもしれない。それに、昼間に電波塔事件のような大規模テロが起きた場合は、リリベルが初動対応に当たることも協定で決まった。DAのリコリスたちが危険な任務に駆り出される可能性が減るわけだし、悪い話ではないと、セイカも色々と思うことはあれど納得はしている。だが、セイカには1つだけ懸念していることがあった。

 

(真島を殺すチャンスが……どうしよう……)

 

 4月の銃取引の際に武器商人を捕縛し、そこから銃の行方を追って真島の居場所を探し当てて、リコレス隊の全兵力を投入して真島を確実に殺す。セイカはそういうプランを立てていたのだが、リコレス隊の存続を巡るゴタゴタのせいで頓挫してしまった。

 一応、代替えとなるプランは考えた。だが、それはセイカにとって正直あまり気乗りしない内容のものだった。

 

(……やっぱり、やるしかないのかなぁ……。あのお店に行き辛くなるのは嫌だけど……仕方ないか……)

 

 そう考えながらセイカはポケットからスマホを取り出し、メールアプリを立ち上げる。宛先は『喫茶リコリコ』、タイトルは『お仕事の依頼』。「個人的なお仕事を依頼したいので3日後にそちらに伺ってもいいでしょうか」という旨の文面を打ち込み、送信アイコンをタップする。深夜だし、返事が来るのは早くて7時間後といったところだろうか。

 

 スマホをポケットにしまい込んだセイカがノートパソコンの画面に視線を向けると、ちょうど4班が建物の制圧を完了させたところだった。

 

『──こちら4班。オールクリアです。これより撤収します』

『──こちら3班。了解です。回収地点アルファに車を回すねー』

 

 トラブルが発生することも無く、無事に任務を終えた部下たちの姿を見てホッと息を吐くセイカ。彼女は無線機のスイッチを押して、部下たちに労いの言葉をかける。

 

「3班及び、4班のみなさん。お疲れ様でした。みんな、怪我はありませんか?」

『──はーい隊長。3班、全員無事でーす!』

『──こちら4班。イズミがコケて膝を擦りむいたことを除けば無傷です』

『──ちょっ! 班長! なんでバラすんですか!?』

『──報告は正確にしないといけないでしょう? それと、今度からはニーパッドを装着しなさい』

『──うぅ……アレ、あんま好きじゃないんですよねぇ……』

 

 部下たちの賑やかな声を聞いて、くすりと笑ったセイカは「帰り道も気を付けてくださいね」と言い残して無線を切る。そして、ノートパソコンを閉じてから大きく伸びをすると、ポケットの中のスマホがメールの受信を知らせる振動を伝えてきた。

 

 取り出したスマホの画面を見ると、喫茶リコリコからの返信が来ていた。

 起きてたんだ。こんな時間に。きっと、私と同じように夜間の“お仕事”をしていたのだろう。そう考えつつ、セイカはメールを開いて目を通す。営業終了後に時間を割いてくれるらしい。セイカは感謝の言葉を入力して返信し、スマホをポケットにしまった。

 

 これで準備は整った。後は私が覚悟を決めればいいだけ。大丈夫、私はやれる。……やらなければならない。リコリスたちのために。DAのために。日本の平和のために。

 セイカはヘッドセットを外し、ノートパソコンと一緒に鞄にしまっていく。荷物を纏め終え、彼女は椅子から立ち上がった。

 

「……DAにちょっかいを出したツケは、しっかり払ってもらいますね。ウォールナットさん」

 

 ここにはいない人物に向けて、そう呟いたセイカは食堂を後にする。ぱちん、というスイッチの音と共に食堂の明かりは全て消え、暗闇に包まれた。

 

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