リコリス・リコイルレス TS転生者・観世セイカの戦闘記録【完結】   作:璽武通

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5.徹底的にやります

 ──真島があの船にいるのは間違いない。では、あの船のどこに真島はいるんだろう?

 

 楠木がセイカに真島の討伐命令を下した日の数日前。クルミが喫茶リコリコを通してDAに送ってきた情報を基に、セイカは定位置である食堂の片隅の席で、真島がアジトにしている船と同型の貨物船の内部構造図を確認していた。

 

 近いうちに真島の討伐作戦が始まるのは間違いない。その時に備えて、セイカは船内のどの部屋が真島の私室というか、定位置なのかを特定しようとしていた。

 アニメの世界だからなのか、この世界で生きる大抵の人には“定位置”といえる場所がある。転生してからの16年と数カ月の経験から、セイカはそう考えていた。

 例えば楠木の場合はDA本部の執務室か指令室。セイカの場合は食堂の片隅の席がそうだ。朝でも、昼でも、夜でも、そこに行けばほぼ確実に彼女に会える。それらと同じように、あの貨物船の中での真島の定位置はあるはずだと、セイカは思っている。

 

 セイカは思考を遠い過去に潜らせ、前世で見ていたアニメの『リコリス・リコイル』に関する記憶を漁っていく。もう前世の記憶は完全に薄れて親兄弟の顔も思い出せないのだが、前世で好きだったアニメやら漫画やらのオタク知識だけはなぜかやたら鮮明に思い出せた。

 

 劇中であの貨物船の中に真島がいたのは、6話・7話・10話。各話ごとに棚や机の位置が異なっているため、おそらくは全て別の部屋。どれが真島の私室なのか判別できない。そもそも私室などない、という可能性も十分にある。

 考えろ。細部までよく思い出せ、手がかりはあるはずだ。劇中の描写だけでなく、設定資料集に載っていた情報も参照して……。

 

 ──やっぱり、あそこかな?

 

 しばらく思考を巡らせた後、セイカは結論を出した。

 6話で真島がロボ太を詰問していたシーンの部屋。制作資料集の美術設定で『真島のアジト』と書かれているあの部屋は、よく見ると奥の壁に2着の黒いコートが掛けられていた。もし、あれが真島がいつも着用しているものだとしたら、あの部屋が真島の私室・定位置である可能性は高い……かもしれない。

 

 そう考えたセイカは部屋の特定を始める。探すのは窓が1つ、扉が2つ、壁には火災報知ベルがあって、大きな執務机やソファや備え付けられている広い部屋。

 

──船長室……ここ、かな? ここっぽいね、うん。

 

 特徴が一致している部屋を見つけたセイカは、その部屋の位置を確認する。ブリッジ(船橋)の4階、右から2番目の窓がある位置の部屋。そこが真島の定位置だと、セイカは判断した。直感と経験に基づく確信が6割、そうだったらいいなぁという願望が4割で。

 

 ──で、問題はどうやって真島に奇襲を仕掛けるか……。

 

 うーん、と腕組みしながらセイカは考える。彼女は自分の部隊の実力を信じている。だが、基本装備の拳銃とアサルトライフルだけでなく、フルオートショットガンや軽機関銃にグレネードランチャーといった通常の任務で使うには過剰火力(Dangerous)な装備──通称『D装備』で武装した40人のリコリスを普通に投入しても、真島を確実に殺せるかは微妙なところだと思っていた。

 

 真島は目の前で車が爆発しようが、地上数百メートルの高さから落ちようが、五体満足で生還できる異常に頑丈な体を持っている。そのうえ、状況判断も逃げ足も早い。

 正攻法じゃダメだ。正確に場所を特定したうえで、思いもよらない手段による全力の攻撃を初手で食らわさないと逃げられる。そんな気がしてならない。

 

 ──“思いもよらない手段による全力の攻撃を初手で”……アレを使えば、可能なのでは?

 

 セイカの脳裏に浮かんだのは、冗談半分で調達要求を出してみたら本当に調達されてしまったとある兵器のことだ。本当になんで楠木司令が調達を許可したのか分からない代物で、普段は電子ロック付きの武器ケースに入れてDA本部の武器庫の最奥に封印されている。

 一応、自衛隊の北富士演習場を借りて何度か射撃訓練はしたので、実戦投入は可能だ。だが、実戦で使用する許可が下りるかどうかは──いや、調達が許可されたんだから、状況次第では使用も許可されるのでは?

 

「……まあ、その時が来たら聞けばいいか……」

 

 判断を下すのは楠木司令だ。自分が考えても仕方がない、とセイカは思考を打ち切った。

 

 ──数日後。セイカにリコレス隊の全兵力を投入して真島を討伐せよとの命令がついに下された。その時に楠木の発した「どんな手段を使ってでも、奴を仕留めろ」という言葉に従い、セイカはどんな手段をも使うことにした。

 

「ねえ、セイカ。本当にアレ、持っていくの?」

「はい。持っていきますし使ってもらいます」

「い、一体何を撃たせるんですか……?」

「それは後で教えますね」

 

 大規模テロ等への備えのための超法規的な火力が備蓄されたDA本部の武器庫。その中をセイカは、台車を押している部下たちを連れて歩いていた。

 目的地である最奥の区画。そこに置かれた電子ロック付きの武器ケースの前で立ち止まったセイカは、IDカードをセキュリティ端末に通し、さらにパスワードを入力する。ピピッという電子音と共に、ロックが解除された音が響く。重い蓋が開かれ、中に収納されていた物が姿を現した。

 

 それは、スウェーデン製の携行型無反動砲『カールグスタフM4』だった。

 全長は99センチ。チタンと炭素繊維複合材の採用により本体重量は6.8キログラムと非常に軽量で、10代半ばの少女でも容易に持ち上げられる。戦闘訓練を受けたリコリスならなおさらだ。使用する弾頭は対戦車榴弾・多目的榴弾・空中炸裂弾・対建造物弾など多岐にわたる。さらに照準器は目標までの距離や弾種に合わせて弾道計算を行い、正確な射撃を可能にするデジタル制御式。スウェーデン軍でも配備が始まったばかりの最新型である。

 

 セイカはその濃緑色の砲身を優しく撫でる。頼んだよ、とでも言う様に。そして蓋を閉め直し、部下たちと一緒に武器ケースを台車に載せて、来た道を引き返していった。

 

「……あ、そうだ。C4も持って行かないと」

「C4? 何に使うの?」

「ドローンに積んで標的のいる部屋に突っ込ませます」

「「えっ?」」

 

 うちの隊長、何かとんでもないことをしようとしてない? 硬直する部下たちを置き去りにして、セイカはC4爆薬を置いてある棚に向かうのだった。

 

 

 

 

 東京都内某所。午前1時。DA東京支部の市街地内拠点の1つである広い倉庫内では、2時間後に行われる真島の討伐作戦に使用する車両の最終点検が行われていた。

 

 整備士たちが特に入念にチェックを行っているのは、荷台に移動式高架昇降システム(Mobile Adjustable Ramp System)を搭載した中型トラック──通称『突入支援車』だ。

 油圧装置によって最大高12メートルの道板を迅速に展開する能力を持つこの車両は、貨物船への突入を行う今回の作戦において特に重要な役割を持つ。もし、この車両と装備が作戦中に作動不良を起こしたら、目も当てられない事態に陥るだろう。そんなことは絶対に避けねばならない。

 

 自分たちの背負う責任の重さを感じながら作業を続ける整備士たち。彼らから少し離れた所では、リコリスたちが戦闘準備を整えていた。

 作業机の上に並べられた大量の銃と弾薬。基本装備のグロック21自動拳銃に、SCAR突撃銃。特殊作戦用装備(D装備)のAA-12フルオートショットガンやM249 PARA軽機関銃、EGLMグレネードランチャー。そして、切り札のカールグスタフM4携行型無反動砲。

 

「んっふふー♪ ついに、ついに実戦デビューだよ、ヘイル♪」

 

 3班でポイントマン(斥候)を務める少女、世羅サトミは上機嫌な様子を隠そうともしなかった。鼻歌交じりに弾薬箱に手を伸ばし、AA-12の32連ドラムマガジンにダブルオーバック(中型動物の狩猟・対人用に使われる散弾)をカシャコン、カシャコンと装填していく。

 リコレス隊でも随一のショットガン使いであり、普段はベネリM4のような標準的なショットガンを使用している彼女にとって、今回の作戦はようやく巡ってきたチャンスだった。『ヘイル』と名前をつけるくらいに愛しているAA-12を、やっと実戦で使えるのだ。

 

「ふふっ、うふふ……♡ ついにミニミで、実戦で、全力の制圧射撃ができる……!」

 

 同じく3班に所属し、オートマチックライフルマン(機関銃手)を務める冨原アヤミは、妖しい笑みを浮かべながら5.56ミリ弾の200発弾帯をM249用の弾薬パックに収めていた。

 普段使っているHAMR(SCARの分隊支援火器モデル)ではなく、ベルト給弾のフルオート射撃によって猛烈な弾幕を張れるM249 PARAを実戦で使える機会がようやく訪れて、彼女のテンションは上がりまくっていた。

 

「……楽しそうね、アンタたち……」

 

 40ミリグレネード弾を腰のポーチに詰め込んでいるグレネーダー(擲弾手)の白坂ユナは、彼女たちに向けて呆れ気味に声をかけた。2人はきょとんとしながら互いの意思を確認するように顔を見合わせ、うんうんと頷き合う。そして、声を合わせて笑顔で言った。

 

「「楽しい!」」

「……ああ、そう。それはなによりだわ」

 

 大火力至上主義でトリガーハッピーな2人の返答に、ユナはため息混じりにそう呟くことしかできなかった。

 弾込めを終えた彼女はEGLMを装着したSCAR-Lをスリングで肩から下げ、ポケットから手帳を取り出して開く。

 そこに書かれているのは今回の作戦概要。何度も確認したそれを、ユナはもう一度見返す。

 

 

────────────────

 

 

 ・各班のコールサインと役割

 

 1班(シュヴァルツ):ブリッジの制圧

 2班(パニッシャー):橋頭保の確保

 3班(ダインスレイヴ):狙撃及び火力支援

 4班(ケルベロス):機関室の制圧

 

 ・部隊行動基準

  

 All weapons free & Kill 'em all

 

 ・全体の計画

 

 1. dreiがブリッジに制圧射撃開始。カールグスタフで船長室を砲撃

 

 2. 砲撃効果判定のため、C4爆薬搭載ドローンが着弾地点に突入。状況によってはそこで起爆

 

 3. 突入支援車によりzweiが船へ突入。ブリッジ周辺を制圧・確保

 

 4. einsがブリッジ、vierが機関室へ突入。船内を掃討

 

 5. 真島を処刑、死亡を確認

 

 6. クリーナーの到着後、撤収

 

 

────────────────

 

 

 ……こんなの、どうやって承認させたのよ? そんな疑問が頭に浮かんでしまうほどの無茶苦茶な作戦。それを立てた張本人であるセイカの姿を探して、ユナは辺りを見回してみる。

 この場にいるリコリスの中でサードリコリスはセイカだけだ。ベージュ色の制服を着た彼女はすぐに見つかった。

 

 セイカは整備が完了した突入支援車の上に立っていて、誰かと電話をしているようだった。その表情はだいぶ不機嫌そうに見える。

 一体誰と話しているんだろう。そんな疑問を持ったユナは、こっそりと近づいて耳を澄ませてみた。他者に聞かせられないような機密性の高いことを話しているなら、あんなところで堂々と話すわけがない。そんな言い訳を心の中でしながら。

 

「……はい、それは重々承知しています。返す言葉もございません。……ですが、真島がどれだけ厄介な男であるかは、本部の方々も理解されているはずでは?」

 

 本部、と聞いてユナは首を傾げた。彼女にとって“本部”とは楠木司令のいるDA本部のことを指す。だが、セイカが今話しているのはそれとは違う“本部”のようだ。

 

「奴は電波塔事件において、大勢のリコリスを……おそらくリリベルも殺したうえ、まんまと逃げ延びた男です。私たちの怨敵と言ってもいいでしょう。奴を甘く見て、中途半端な戦力と武装で討伐に向かえば、10年前と同じ失態を犯すことになります。幸い、現場は東京港に停泊中の貨物船です。多少銃声が響いたり、爆発が起こったりしても、火災が発生して積み荷に引火したとでも発表すれば隠蔽は容易です。ですので──徹底的にやります」

 

 アルミ製グリップストラットの足場板を、セイカは金属カップ入りの特殊ローファーを穿いた足でカンカンッ! と踏み鳴らした。突如響いたその音に驚いて、ユナはびくっと体を震わせる。

 まさか、聞き耳立ててるのバレた? そう思ったユナはセイカの様子を窺うが、どうやら気づいていないらしいのを察するとホッと胸を撫で下ろした。

 

「……はい、そういうことです。私たちを甘く見ないでください、虎杖司令。こういう時のために飼われているのが、私たちリコレスです。皆様にかけていただいた高い飼育費、無駄にはさせませんのでご安心ください。……はい、失礼致します」

 

 通話を終えたのか、セイカはスマホを耳から離すと小さくため息をついた。そして、突入支援車の上から降りると、倉庫内の一角に設営された前線指揮所のほうへと歩いていく。東京港の地図が貼られたホワイトボード、司令部や前線部隊と情報を共有するためのパソコンや無線機、ドローンのコントローラーなどが並べられたそこに入ったセイカは無線機に手を伸ばした。東京港に先行して偵察・監視にあたっている3班から定時連絡が入ってきたらしい。

 

 その姿を見つめていたユナは、ふと何か思い立ったようにさっきまでセイカがいた突入支援車の上へと登った。およそ3メートルの高さにあるそこからは、倉庫内の様子が一望できる。

 

 戦闘準備を終えたリコレス隊の面々は、仲間たちと思い思いに作戦開始までの時間を過ごしていた。スマホでゲームの対戦をしていたり、ノートパソコンでアクション映画を見ていたり。次の菓子店業務で作るチョコレートケーキはガトーショコラにするか、ザッハトルテにするか、それともデビルズフードケーキにするかで熱い議論を交わしている者たちもいる。

 

 特殊部隊が全兵力を投入して行う大規模で重要な作戦の直前にしては、緊張感のない光景がそこにはあった。だが、漂っている雰囲気はどこかヒリついている。怒りや苛立ち……そういった感情を彼女たちが抱いているのは確かだった。それはユナも例外ではない。

 

 ──なんなのかしらね、このムカつく感じ……。出撃が決まってから私もみんなも、ずっとこの調子……。

 

 自分たちの胸中で静かに燃えている謎の感情。その正体はなんなのだろうか。突入支援車の上でうろうろと歩き回りながら、ユナはその答えを探す。

 

「……あぁ、そっか。これって……」

 

 考えた末にユナはある結論に達した。気づいてみれば、それはとても単純でわかりやすいものだった。

 

「臨時休業、させられたからか……」

 

 ユナはここに来る10時間ほど前、DA東京支部のリコリスたちが暮らす寮の食堂で起きたことを思い出す。

 リコレス隊を総動員して真島を討伐することが決まり、創作菓子店リコレスは夕食時の営業を臨時休業することになった。そのため、食堂に置いてあるスタンド看板に『諸般の事情により、今晩は臨時休業させていただきます』という張り紙をしたのだが──。

 

『えぇぇーっ!? そんな殺生なぁ! 買い置きのクッキーも切らしちゃったのにー!』

『あたしにチーズケーキ無しで今日を乗り切れと!?』

『嘘、でしょ……? 今日は、新作があるって……』

『アップルパイ……私の、生きがいが……。ううっ……』

 

 それを見たリコリスたちからは悲鳴が上がった。膝から崩れ落ち、床に両手をついて絶望に打ちひしがれている者もいる。冗談みたいな光景だが、彼女たちにとっては本当に絶望的な事態なのだ。

 日本の平和を守る暗殺者としての訓練と任務に日々励み、時にはその命を儚く散らすリコリスたち。そんな彼女たちにとって、夕食時に楽しむ美味しいデザートは明日への活力と小さな幸福を与えてくれる大切なものなのである。それが唐突に無くなったとなれば、こうなるのも無理はない。

 

 ──私たちの作るお菓子を、みんないつも楽しみにしてくれてる……。みんなが幸せを感じられる時間。それを毎日欠かすことなく提供することが、私たちの誇りであり使命だった……。

 

 でも、テロリストどものせいでそれを邪魔された。いつもの日々。平穏な日常。ささやかな幸せを感じられる時間。悪党どもにそれを壊されるのは、とても腹立たしい──いや、あってはならないことだ。ああ、なるほど。だから私たちは、こんなにムカついているのか。

 

 納得したユナはポケットからスマホを出して、メールアプリを開く。受信ボックスには、寮で自分たちの帰りを待つ友人たちから届いたメールが並んでいる。『とっとと悪党どもをぶっ殺して帰ってこーい!』『早く帰ってきてシフォンケーキ作って♡』『ケガしないように気をつけてね』といった食欲と友情が混ざり合った数々のメッセージを見て、ユナは思わず頬を緩めた。

 

「……“徹底的にやります”、か」

 

 さっきセイカが言っていた言葉を、ユナは口に出して繰り返した。

 

 ……うん、そうだ。徹底的にやってやろう。真島とその手下どもはテロリストだ。平和な日常を享受している人々を機関銃で撃ち殺したり、爆弾で吹っ飛ばしたりしてはしゃいでいる連中だ。

 待っていろテロリストども。お前たちがやってきたことを、今度は私たちがお前たちにやってやる。お前たちのクソみたいな日常を、私たちがぶっ壊してやる。お前たちが殺してきた罪のない人々が感じた恐怖を、私たちが今夜思い知らせてやる。

 

 そんな思いを込めて、ユナはタクティカルブーツを履いた足でカンカンッと足場板を踏み鳴らした。

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