リコリス・リコイルレス TS転生者・観世セイカの戦闘記録【完結】   作:璽武通

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7.彼女にとっての最終決戦(後編)

「……これで死んでくれるといいんだけど、どうせ死んでないんだろうな……」

 

 使い切った自爆ドローン用のコントローラーを机に置き、通常の上空監視用ドローンのコントローラーを手に取りながら、セイカはカールグスタフM4の射撃班に指示を出す。敵がそう簡単に死なないやつだった時はどうすればいいか? 簡単だ。死ぬまで殺し続ければいい。

 

「ストアマネージャーよりダインスレイヴ6へ。船長室にもう1発撃ち込んでください。照準は右に1メートル修正」

『──ダインスレイヴ6了解。照準、右に1メートル修正……射撃準備よし!』

「ストアマネージャーより突入部隊へ、船長室に再度砲撃します。デンジャークロース。……ダインスレイヴ6、撃てっ!」

 

 号令を掛けた3秒後。榴弾が撃ち込まれた船長室から本日4度目となる爆炎が上がった。モニターに映るその映像を眺めながら、セイカはぽつりと呟く。

 

「それにしても……まさか、本当に船長室にいるとは」

 

 私の勘も捨てたものじゃない。そんなことを思いながら、彼女は突入部隊の状況を確認する。

 

 現在、作戦はフェイズ3に移行している。突入部隊はコンテナ船の船尾側面に停車した突入支援車から続々と甲板上へ乗り込み、ブリッジの出入り口を確保すべく猛攻撃を仕掛けている最中だ。

 

 先陣を切って突入したリコリスが構えるAA-12ショットガンがフルオートで散弾をばら撒き、男たちが血飛沫を上げながらなぎ倒されていく。外階段には40ミリグレネードが撃ち込まれ、割れた窓や開いた扉にはM67破片手榴弾が投げ込まれ、爆発音と共に男たちの悲鳴が響き渡る。ブリッジ内から外へ向けての抵抗がなくなるまでは3分もかからなかった。

 

『──こちらパニッシャー隊! 突入地点を確保! 繰り返す、突入地点を確保!』

「ストアマネージャー了解。作戦をフェイズ4に移行します。シュヴァルツ隊は1階を制圧。パニッシャー隊は弾の補給を行いつつ外階段を警戒。上階にいる敵を封じ込めてください! ケルベロス隊は機関室を制圧し、電源を遮断。船内の照明を消した後、シュヴァルツ、パニッシャー両隊でブリッジ内の敵を殲滅してください!」

『──シュヴァルツ1了解! さあ、行きますよ!』

『──パニッシャー1了解! サトミ、ユノ! まずはキミたちから補給を!』

『──ケルベロス1了解。行動を開始します』

 

 船上の突入部隊への指示を飛ばし終えた後、セイカはすぐにコンテナヤードにいる火力支援部隊へと連絡を取る。

 

「ストアマネージャーよりダインスレイヴ隊へ。ブリッジの中に何か動きはありますか?」

『──こちらダインスレイヴ1。特にないねー。見えるのは血の跡と死体だけ。みんなビビッて窓の近くには近づかないし』

「分かりました。引き続き、監視を続けてください」

『──はーい、ダインスレイヴ1了解!』

 

 全部隊への指示を出し終えたセイカはドローンを操作し、煙を上げ続けている船長室の様子を確かめる。榴弾とC4爆薬で4回も爆破したせいで天井板が完全に崩落し、外からは何も見えない。普通に考えれば中にいる人間は間違いなく死んでいるべき状況だが、真島は普通ではない男だ。奴なら重傷を負いつつも生きている可能性は充分に考えられる。

 

「……本当に厄介なヤツ」

 

 セイカはモニターを睨み、吐き捨てるようにそう言った。

 

 

 

 

『──ケルベロス1より各部隊へ。機関室を制圧。これより照明を消します。ナイトビジョンの準備を。──5秒前……3、2、1』

 

 船内での戦闘が始まってから4分後。機関室を抑えたリコリスたちが配電盤を操作し電力を遮断、船の内外は暗闇に包まれた。

 

 暗闇は人間が持つ本能的な恐怖を煽る。何か特殊な体質や才能でも持っていない限り、人間は暗闇の中では何も見ることができないからだ。何も見ることができなければ、危険が迫っていても気付くことができない。危険が迫っていても気付くことができなければ、待っているのは『死』だけだ。このコンテナ船の中にいるテロリストたちのように。

 

 サプレッサーでパシン、パシンと抑制された銃声が、ブリッジ内に断続的に響く。最新モデルの四眼ナイトビジョンを装着したリコリスたちが放つ銃弾は、暗闇の中で正確に敵の身体を撃ち抜き、確実に命を奪っていく。

 夜間戦闘部隊であるリコレス隊にとって、暗闇とは恐怖の対象ではない。全暗黒の戦場こそが彼女たちのステージなのだから。

 

「B-5クリア。2階を制圧。シュヴァルツ隊は3階に移動します」

『──パニッシャー1了解。こっちも移動を──』

 

 群れで狩りをする狼のように、外階段にいる部隊と高度に連携して攻撃を仕掛け、ブリッジ内の敵を殲滅していくのはコールサイン『シュヴァルツ1』の國宗メイリが率いる部隊。2階を制圧した彼女たちが、3階に移動しようとした時だった。その3階からAK突撃銃を乱射する音が聞こえて来る。こっちはまだ誰も3階に移動していない筈なのに、だ。

 

「シュヴァルツ1よりパニッシャー1へ。もう3階に上がりましたか?」

『──いや、まだ階段の途中だけど……。もしかしてあいつら、同士討ちしてない?』

「ああ、なるほど……」

 

 3階に視線を向けながらメイリは納得したように呟く。しばらくそのまま様子を窺っていると銃声は止んだ。どうやら今の乱射で負傷者が出たらしく、男たちの怒鳴り合う声が響き渡る。

 

『──パニッシャー1よりシュヴァルツ1へ。喧嘩を止めに行ってあげようか』

「そうですね、行きましょう。みんな仲良く同じ場所に送ってあげますか」

 

 メイリたちは3階に上がり、男たちに銃弾を撃ち込んで喧嘩を止めさせた。そして全ての部屋をクリアリングし終えると、4階へ移動する。

 

 4階に到達した瞬間、メイリたちは足を止めた。まるで手負いの獣のように荒い呼吸音が微かに聞こえてきたからだ。

 それまで以上に周囲を警戒し、慎重に歩を進めていった彼女たちは、船長室へ続く長い廊下の奥に人影を見つけて立ち止まり、手前の角で身を潜める。

 

 廊下の奥にいたのは、身長2メートルはあろうかという大男だった。しかも2人。1人は金髪の白人。もう1人は黒髪の黒人。カールグスタフによる砲撃か自爆ドローンの爆発を食らったのか、どちらも血まみれの状態だった。船長室の扉の前で仁王立ちしている2人はギラつく殺意に満ちた目と、携行型に改造されたM134ミニガンの銃口を廊下の先に向けている。

 M134ミニガン。6本の銃身を持つ電動式ガトリングガンで、連射速度は最大で秒間100発にも達する。そんなものを持っている敵は、1発で確実に仕留めないとまずい。仕留めそこなって反撃を許せば、こちらがあっという間に蜂の巣にされかねない。

 

 どうにか奴らに隙を生じさせられればいいのだけど、位置が悪く外階段にいる部隊からの支援が得られない。さて、どうしようか。数秒、思考を巡らせたメイリは火力支援部隊に通信を繋げる。

 

「シュヴァルツ1よりダインスレイヴ1へ。50口径による狙撃支援を要請します。標的は船長室の手前、およそ1メートルの位置。3発ほど撃ち込んでください」

『──こちらダインスレイヴ1。了解だけど、だいぶ奥だし当たるかどうかわかんないよ?』

「かまいません。敵の気を引いてくれれば充分です」

『──あー、そういうことか。オッケー。……それじゃ、準備は良い?』

「はい、いつでも」

『──3つ数えたら撃つよ。──1、2、3!』

 

 合図の直後、ブリッジの壁を強力な50口径ライフル弾が叩いた。1発、2発、3発と続くその着弾音に大男たちの注意が逸れる。それと同時に、メイリたちは角から顔半分とSCARの銃口を出して大男たちの頭に素早く狙いを定め、引き金を引く。サプレッサーを装着した銃口に小さなマズルフラッシュが閃き、放たれた弾丸は男たちの頭部に命中した。

 

 次の瞬間、男たちの手にあったミニガンが床に落ち、頭から大量の鮮血を吹き出しながらその場に崩れ落ちる。メイリたちは警戒を緩めず、倒れた2人の男に2発ずつ銃弾を浴びせて完全に息の根を止めた。

 

 これで邪魔者はいなくなった。あとは船長室にいる真島を殺すだけだ。……もう死んでいるかもしれないが。

 

 メイリたちは扉の前で隊列を組み、ハンドサインで合図を出し合ってから扉を僅かに開け、閃光音響弾を投げ込んだ。100万カンデラの閃光と180デシベルの轟音が発された後、彼女たちは部屋の中に突入して──銃声が響き、先頭にいたリコリスが被弾して倒れた。

  

 仲間が撃たれたことに動揺しつつも、特殊作戦部隊としての冷静さを保ち続けたメイリたちは突入を続行。瓦礫が散乱する部屋の奥で壁にもたれかかり、座り込みながらこちらに拳銃を向けている真島の姿を視認すると、7人のリコリスは一斉に射撃を開始した。

 重傷を負っているからか、それとも弾切れなのか、真島は反撃もせず一方的に撃たれ続けた。その手に持っていたチアッパ・ライノリボルバーが床に落ちて乾いた音を響かせる。胴体に30発近いライフル弾を喰らい、真島の身体は壁にべっとりと血の跡を残しながら傾いていく。

 

 メイリは床に倒れて動かなくなった真島に足早に近づくと、レッグホルスターからグロック21自動拳銃を抜き放ち、頭に45口径弾を2発撃ち込んだ。頭蓋が砕け、脳漿が飛び散る。

 真島に完全にトドメを刺した彼女はすぐに踵を返し、撃たれた仲間の元へ駆け寄る。

 

「ぐうぅぅ……っ! よくも、撃ちやがったな、クソ野郎……っ!」

「動いちゃダメ、ハル! 傷口はどこ……!?」

「シュヴァルツ3よりストアマネージャーへ! ハルが被弾! 1名負傷! 繰り返す、1名負傷!」

『──こちらストアマネージャー! 直ちに救護班を──』

「シュヴァルツ1よりストアマネージャーへ。その必要はなさそうですよ?」

 

 撃たれた仲間の被弾箇所を確認して、メイリは安堵した様子でそう言った。

 

「ハルは無事です。お腹を撃たれましたが、ボディアーマーで弾は止まっています」

「いや、無事じゃないって……。めっちゃ痛いし……。うぐぉぉ、これは救急搬送が必要なレベルだわ……」

 

 そんなことを言って腹部を押さえているものの、彼女は仲間の肩を借りながら立ち上がって余裕のある表情を浮かべた。

 

『──大丈夫ですか? 本当に、本当に大丈夫なんですか?』

 

 無線機から聞こえてくるセイカの泣きそうな声に、メイリたちは顔を見合わせてくすりと笑った。無反動砲だの自爆ドローンだのを使うような苛烈で容赦のない作戦を立てて、数十人のテロリストどもを殺戮させておきながら、軽いケガをした部下の身を案じておたおたしている。それがなんだかおかしくて、つい笑いが零れてしまったのだ。

 

「はい、隊長。大丈夫です。作戦を続行……いえ、フェイズ5は完了しましたね。シュヴァルツ1よりストアマネージャーへ。ターゲットダウン。船長室にて真島を射殺。死亡を確認しました」

『──えっ……?』

 

 メイリのその報告を聞いて、セイカは何を言われたのか理解できていないような声を出した後、しばらく沈黙した。返事がなかなか返ってこないことに疑問を感じつつ、メイリは応答を待った。

 

『──そう、ですか……。真島を……そうですか……』

 

 喜んでいるような、戸惑っているような、安堵しているような……複雑な感情のこもった声色で、セイカはただ静かにそう言った。そんな彼女の反応に、メイリたちはセイカがこの作戦にどれだけ深く、強い思いを抱いていたのかを改めて実感した。

 

 

 

 

 真島が死んだ。原作という名の正史において大勢のリコリスたちを殺し、まんまと生き延び、逃げ延びた真島が、リコリスたちによって殺された。

 

 メイリから「真島を射殺した」という報告を受けた直後、セイカはそれをすぐには信じられなかった。メイリから確認のために送られた、数十発の銃弾を体に浴びてさらに頭を撃ち抜かれた真島の死体の写真を見てもなお、これが事実であるということを受け入れるのには時間を要した。

 

「……三友恵利、市来絵理佳、白根朱美、広松春音、宿野麻依……」

 

 DA東京支部の拠点の1つである広い倉庫内。その片隅でパイプ椅子に腰掛けて、折り畳み机の上に置いたノートパソコンの画面を見つめながら、セイカはそこに映るリコリスたちの名前を読み上げていく。

 

「……佐守侑里、田端彩、森村優香、谷花沙有理、三浦奈々子、加藤三咲……」

 

 全員の名前を読み上げ終えたセイカは椅子から立ち上がり、目を閉じて1分間の黙祷を捧げた。10年前の電波塔事件において、戦死した彼女たちに。

 

 ──先輩たちの犠牲は、決して無駄ではありませんでした。みんなが、仇を討ってくれました……。どうか、安らかに眠ってください。

 

 心の中で弔いの言葉を述べてから、セイカはゆっくりと目を開いた。それからまた少しの間、画面の中の彼女たちの姿を見つめた後、セイカはノートパソコンの電源を落として鞄に収めた。

 

 外に出て空を見上げる。現在時刻は午前4時50分。空はすっかり明るくなっていて、夜闇の中の存在であるリコレス隊は活動を終える時間だ。

 

 真島の討伐作戦はDAの勝利で終わった。真島とその手下たちは全員死亡。4月の事件以来、行方知れずになっていた千挺の銃もコンテナ船で見つかった。

 東京港に出撃していた部隊は事後処理をクリーナーに任せて撤収、前線指揮所も片づけを終えて機材は全て箱の中。あとはもう本部に帰還して、日常に戻るだけだ。──悪人どもを秘密裏に処刑し、平和な日本を守るという日常に。

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