リコリス・リコイルレス TS転生者・観世セイカの戦闘記録【完結】 作:璽武通
──真島を殺したからといって、別に何かが変わったわけじゃない。
──相変わらず悪党どもは、どこからともなく湧いてくる。今日も、明日も、明後日も。
──この『リコリス・リコイル』の世界は、そういう世界なのだから。
◇
富士山の麓の国有地内にあるDA本部。そこに併設された東京支部内の食堂で、定位置である片隅の席に座っているセイカはいつものように書類仕事をしていた。
真島の討伐作戦でかなり派手な手段を行使したせいで、普段よりも彼女が処理しなければならない書類は多い。部隊の責任者としてDAやリリベルの上層部だけでなく、国家公安委員会やら防衛省やらにまで提出しなければならない書類が、彼女の前に山となって積み重なっている。
そんな書類の山を、セイカは手際よく片付けていく。やがて一段落ついたところで彼女はペンを置き、書類から視線を上げて周囲を見回した。
今はちょうど夕食の時間のため、1日の課業を終えたリコリスたちで食堂は大いに賑わっている。特にセイカが店長を務める菓子店『創作菓子工房 リコレス』の周りは、食後のデザートを求めるリコリスたちが集まってきゃあきゃあと楽しそうな声が響いていた。
その笑顔溢れる光景を見つめながら、セイカは考える。非業の死を遂げる運命にあった彼女たちを、自分は本当に救えたのだろうか? と。
セイカの視線の先にいるのは、原作の物語の中で真島に殺されたリコリスたちだ。地下鉄駅での戦闘で天井を爆破され、瓦礫に圧し潰されて死んだ子たち。単独行動中に集団で襲われて殺害された子たち。
その真島は今日の夜明け前、セイカが率いるリコレス隊によって射殺された。目の前で車が爆発しようが、地上数百メートルの高さから落ちようが五体満足で生還するような男でも、砲撃と自爆ドローンによる爆発を4回、胴体にライフル弾27発と頭に拳銃弾2発を喰らわせればさすがに死ぬ。
真島は完全に、確実に死んだ。だから、彼女たちの死の運命は回避された。もう心配ない。とは思うのだが……やっぱり不安がまとわりついて離れなかった。真島みたいなやつがどこかに現れて、東京で暴れて、彼女たちが殺される可能性は無いとは言い切れない。この世界には、ろくでもない悪党が多すぎる。
この悩みは、誰にも話せない。話せたとしてもどうしようもない。……でも、自分にできることは何もない、なんてことはない。彼女たちが──全てのリコリスたちが、非業の死を遂げる可能性をほんの少しでも低くするために、できることはある。
観世セイカはサードリコリスだ。彼女個人の戦闘能力は大したものではない。だが、彼女が思いがけず手にすることになった武力と権限は、他のリコリスたちとは比べものにならないほど大きい。
それを正しい形で使えば、この東京支部にいる多くのリコリスたちを守ることができる。成果を上げ続けて、重武装リコリスの有用性をもっともっと証明し続ければ、他の支部でもリコレス隊のような特殊作戦部隊が設立されることになるかもしれない。もしそうなったら、東京支部以外のリコリスたちだって守れるようになる。
「……よしっ」
自分にできることを精一杯やろう。そう決意して気合を入れ直し、書類仕事を再開しながらセイカは願う。日本の平和を守るため、死と隣り合わせの日常を送っているリコリスたちが今日も、明日も、明後日も、無事に帰ってくることを。美味しいお菓子を食べて、小さな幸福を享受できることを。
──儚いリコリスたちの人生に、少しでも多くの幸福がありますように。
ベージュ色の制服に願いを宿して、今日もサードリコリス・観世セイカは戦い続ける。その手に銃ではなく、ペンを握って。
観世セイカの物語は、これにて完結です。この作品にお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。