――青葉賞。GⅡレースの一つにして、日本ダービーのトライアル競走。
その価値は、GⅡの中でも一際抜けている。このレースで二着以内に入ったウマ娘は、日本ダービーへの優先出走権を得られるからだ。
クラシック三冠の一つにして、最大の栄光を競うとすら言われる日本ダービーに出られるのは、優駿十八人。そして皐月賞で五着以内に入ったウマ娘は、ダービーの優先出走権も得られる。
つまり皐月賞で入着したウマ娘は、怪我でもしない限りそのままダービーにも出てくる。この時点でダービーに出られるウマ娘は、残り十三人。
そして、トライアルにより優先出走権を得られるウマ娘は三人。青葉賞の上位二人と、プリンシパルステークスの勝者一人。
これら計八人を除くと、世代の高位に居るウマ娘達が皆出走を望むこのレースの枠は、残り十人。”最も運のあるウマ娘が勝つ”このレースは、出走するだけでも運を問われるのだ。
だから、勝つ。勝たなければいけない。そう強く願うウマ娘達が今日、この東京レース場に集まってきた。
「耳タコだろうが、おさらいはしとくぞ」
「ええ、お願いします」
青葉賞当日、ドロップスティアーの控室。名入とドロップスティアーは、これまでで一番の真剣な面持ちで向き合っていた。
GⅡレースは当然、GⅢレースよりレベルが上だ。それもダービーへの出走を賭けているのだ、そこに集うウマ娘達は当然選りすぐりの精鋭揃いである。
ドロップスティアーの戦績は五戦二勝、勝鞍の一つはGⅢ。それら全てで入着している重賞ウマ娘とはいえ、プレオープン戦ですら負け、勝ちの一つがほぼフロックに等しい彼女の人気は、フルゲート・十八人の中では八番人気。上の方ではあっても、せいぜい好走するだろうな、程度の前評判である。
「青葉賞は東京2400メートル。お前が散々使ってきたプランA・Bだが、今回は
「
「そうだ」
ドロップスティアーの基本戦術、スタートダッシュを活かしてのコーナー逸走・妨害によって相手を消耗させる二つのプラン。だが、今回のレースでそれは使えない。
これまで走ってきたレースでは、最初のコーナーまで200メートルも無かった。故にドロップスティアーは単なるスプリント力で先頭を取り、誰よりも速くコーナーに入る事が出来た。
しかし、東京2400メートルの第一コーナーは、スタート地点から350メートル地点にある。そんな遠い位置の第一コーナーを先頭で奪うには、ドロップスティアーのピッチ走法ではスタミナを使いすぎる。
よって今回、最初のコーナーで相手のラインを乱れさせる先制攻撃とも言うべきプランA・Bの二つは両方死んでいる。今までずっと使ってきた作戦が使えないこの立地は、痛恨と言って良い。
「ダービーと同じ条件のこのコースは、データ的には先行有利だ。次点は差し。理由、復唱」
「最終直線の長さは、溜めた差しウマが有利。ただし多人数で競い合う以上、最終コーナーで抜け出せない事がある。なのでなるべく前目に付いて、それを維持したまま勝負する先行バが優勢、でしたね」
「ああ。ついでに、2400っつー長さはこの時点のクラシックレースの最長距離なせいで、逃げがろくに前に残れん。距離の長さとラストの坂でバテる」
「で、追込バも差し先行が壁になって、前に抜けにくい、と」
そして更に悪い情報として、このレースは実質的な長距離と言えるレースでありつつ、最終直線が長い程決まりやすい追込が不利というデータがある。
本来、東京レース場は差し・追込が優勢である。だがGⅡ・GⅠのフルゲート状態では、最終コーナーでポジションを取ろうとするウマ娘達によって横広がりの展開となる。差しですら早めに仕掛けなければ詰む、これはそういうレースだ。
「つーワケで、お前の不利条件が全て揃った素晴らしいレースだ。お前の今までのレースを見りゃ、ほぼボロ負け確定って感じだな」
「でしょうね」
実の所、このレースの上位人気三人は重賞ウマ娘ですら無い。それでも人気な理由は、青葉賞以前のレースで殆ど三着以内を取ってきた安定感と、彼女達の内二人が先行バであるからだ。
その上、上がりが速い。上手く位置取りさえすれば、最終直線で彼女達に匹敵するウマ娘は今回居ないだろうという程に、十分な速さを持っている。
そして今回は良バ場。直線が長く、末脚をフルに使える。そういう意味で、重バ場に強いが上がりが遅い追込ウマ娘のドロップスティアーは、まるで本命に値しない。
「
「当たり前でしょうが」
勝負所。それはドロップスティアーにとって、”勝負”では無く”勝利”に拘る為のスイッチに等しい言葉である。
不利だろうがなんだろうが、このレースで勝ちに行く。勝たなければならない。それこそ”絶対”に、である。
だから名入は、これまで散々
「今回警戒すべきは、二番人気のタヤスアゲインだ」
「……? 一番人気は?」
「
一番人気のウマ娘を、完全に無視する。これはデータ的には極めて危険な作戦ではあったが、しかし名入には分かる。
「そいつは前走まで、差し一本だった。ほぼ連対取ってるっつーバケモンみたいな安定感はあるが、多分このレースじゃ
「なんでです?」
「
このレースに出ている殆どのウマ娘に言える事なのだが、青葉賞に出てくる殆どのウマ娘は重賞レースの経験が無い。オープン戦をこなして順調にステップアップし、地力と自信を備え、調整してこの青葉賞に来るというケースが多い。
何故ならば、
「皐月賞と青葉賞は間隔が近い。そして当然、皐月で好走出来る奴はそのままダービーに出れるだけの地力を持ってる。つまり悪い言い方をすりゃ、ココは概ね
『青葉賞の優勝ウマ娘はダービーで勝てない』。そんなジンクスすら言われている理由は幾つもあるが、名入はシンプルに実力・自信の不足で皐月賞を回避するからだ、と考えている。
当然、GⅡレースに出るウマ娘が弱い訳では無い。弥生賞から皐月賞に行くウマ娘の様に、ダービーの同条件であるこのレースを予習として選ぶという理由も大いにある。
だが、皐月賞に出るウマ娘達に比べれば、どうしてもレベルは相対的に劣ってしまうのだ。少なくとも名入はそう考えているし、実際にドロップスティアーも皐月賞は全力で回避した。実際に勝てないので。
「……で、問題のタヤスアゲインなんだが。コイツは恐ろしい事に、
そんな中、二番人気に推されているウマ娘は、極めて間隔が短いにも関わらず皐月賞から青葉賞にやって来た。この短期間で調整が難しい状況下で、青葉賞に挑んできたのだ。
その理由はただ一つ。彼女は、皐月賞で入着出来なかったからである。
「”三強”以外レースにならなかった、地獄の皐月賞。あの中で掲示板にも入れなかった、にも関わらずダービー目指して此処に来た。そういう奴には意地がある」
”絶対にダービーに出る”。堅実にオープン戦を勝って調整してきたウマ娘より、そういう石に齧り付く様な想いを持つウマ娘は追い込まれている。そんな相手は死力を尽くす。大勝か大敗か、そのどちらかの波に乗って来る。
名入はそのウマ娘の波は、大勝寄りだと仮定した。実際、情報を集めた限り仕上がりはかなり良い。皐月という大舞台の経験も持つ、二番人気。来るならコイツだろうと目を付けた。
「という訳で、本命はタヤスアゲイン。内側有利って言われてるこのコースで枠が二番ってのもヤバい。だから、
故に、名入はマーク相手をタヤスアゲインに絞った。十八人がひしめき合い、先行好位を維持し続けたいこのレースで、最初から内側。それだけで驚異である。
ちなみにドロップスティアーは、悲しい事に十七番の大外スタート。重賞ウマ娘でありながら人気が低いのは、その最悪のスタート位置も相俟っての事である。
中京ジュニアステークスの様に、外を回されるのは基本的に”絶対”の不利である。内の先行有利のこのレース、しかも最初のコーナーは取っての揺さぶりが出来ない。戦術的には、既に負けていると言っても過言では無い。
「……なら、
「
なので、
とはいえ、ドロップスティアーが考案したという時点で普通に使われるレース技術とは違う。名入的には『よくそんな事思いつくな』って感じの、しかし自爆特攻技とすら言える強制斜行に比べれば断然マシな技だった。
「もっかい確認しとくが。お前の一つ目の武器の”ヤマ勘”とか言うの。それ、今回機能してねえんだな?」
「早めにここに来て出走する皆の顔見ましたけど。やっぱ、ピリっとキませんね」
今回、エルコンドルパサーを苦しめた二つの武器――ヤマ勘ブロックと強制斜行は使えない。強制斜行は先行を最初から取る相手には通じないし、ヤマ勘ブロックは”黄金世代”と同じかそれより上の相手にしか使えない。
この二つは組み合わせる事によって絶大な効果を発揮するが、相手と状況に左右される上に、組み合わせなければマーク相手に強い影響を与えられない。
――だが。
「なら
青葉賞に出走する時点で、ウマ娘達はダービーを目指すという気概を持ってここに来た。しかし、観客席からですら強者の存在を感知して、見るまでも無く勝利したウマ娘を言い当てる程に磨いた勘は今回、一切働いていない。
ヤマ勘が働かない。つまりそれは、
「……少し。少しだけ、言っといてやる」
「はい?」
名入はココアシガレットを取り出し、中身を一齧りする。それからタバコの様に指先で挟んで構える。
今回のレースは、不利要因の塊。今までのレース経験の殆どが使えず、コース的に脚質もまるで合わない。普通に考えれば、”絶対”に勝てないレースだ。
「ここに”絶対に勝てないシリーズ”は居ない。そして作戦がハマってもオープン戦でボコられた、
名入はこの青葉賞に至るまで、ありとあらゆる苦難と虐待に等しいトレーニングをこのウマ娘へと与えてきた。
この時に至るまで、出来る事は全部やった。考えた事は全部授けた。思った事は全部ぶつけた。
だからこそ、断言出来る。
「今日このレース、お前以上に鍛えてきた奴は居ない。お前より経験を積んできた奴は居ない。そして、
そんな名入の言葉に、ドロップスティアーは心底驚いた。目が点になった。
名入は基本的に口が悪い。態度も悪い。やらせるトレーニングも悪い。それ故に、今までドロップスティアーをまともに褒めた事も一度も無かった。
遅いし弱いし生意気だし、マジやってらんねー。そんな事ばかり言ってきた名入が、契約してから今日初めて。ドロップスティアーを、まともに激励したのだ。
「――”レースに絶対は無い”。今のお前は、
もう一度、ココアシガレットを噛む。名入はドロップスティアーへ真っ直ぐな言葉を、明後日の方向を向きながら言った。
「俺は”絶対”が嫌いだ。大外が不利? 追込が勝てない? 手始めに、そのクッソ下らねえ”絶対”を叩き潰せ。それだけの力は、お前にくれてやった」
それだけ言って、名入はドロップスティアーに向き直り。
「その上で、走って勝てるかどうか。それはお前の仕事だ。お前の、お前にしか出来ない仕事だ」
その言葉は、契約の直前に言った言葉だ。
だがしかし、今含む意味は大きく異なる。
「……出来るな?」
「――あはっ」
ドロップスティアーは、傲岸に振る舞う名入なりの激励に対し、おかしくって笑った。どうしてこう、『お前なら絶対に勝てる』とか言ってくれないのか。
決まっている。走るのは、勝負するのは、勝つのは。自分自身が走るべき道だからだ。自分が選んだ、自分だけの道。あの時に決めた、何があるかもわからない未明の道だ。
「まーた忘れたんですか、トレーナーさん? 自分は――」
だから、ドロップスティアーは何度も言った言葉で応える事にした。
期待とも言えない期待に対し、昔から持つ自分の答えで。
「
そう言って、牙を剥いた笑顔を返してやった。
◆ ◆ ◆
《曇り空の下、青葉賞。日本ダービーへの道を目指す、十八人のウマ娘が揃いました》
東京レース場・2400メートル・フルゲート十八人。条件だけ見ればダービーとほぼ同じ、壮観と言える状況。
日本ダービーの優先出走権を争う、GⅡ最高峰のレース。『青葉賞ウマ娘はダービーで勝てない』、そんなジンクスが散々語られながらも、皐月賞とはまた異なる強者達が集うこのレースの注目度は高い。
広い観客スペースには人間・ウマ娘問わず、多くの客が訪れていた。そして、その中でも一人。その一人の周囲がそのまま席であると言わんばかりに、あるウマ娘がひしめき合う観客達を割る様にして、ゴール板前の最前列へとやって来ていた。
「――ティアが青葉賞、かー。皐月賞出ないと思ったら、コッチ狙いだったんだねー」
「あん? ……”帝王”サンじゃん。珍しい顔だなオイ、王サマがこんな下々の場所に何か用あんのか?」
「『ココアシガレット咥えた、柄と口が悪いトレーナーなんで一発でわかりますよ』。……ティアが言ってた通りでビックリしてるよ、ボク……」
”帝王”、トウカイテイオー。誰もが知る大スターウマ娘は、青葉賞という舞台に自分が散々面倒見てきた問題児が出ると聞いて、トレセン学園から観戦にやって来た。
彼女は両手にはちみーマシマシ・ビッグサイズのカップを手に持っており、元々の小柄さが余計に際立って見える。しかし彼女の小柄な体の内に秘める偉大さを知る誰もが、彼女が進む道を自然と空けた。空けられたスペースを通り、トウカイテイオーはこの絶好の席――ゴールする瞬間を目の当たりに出来る、その場所でふんぞり返っている名入の横にまでやってきたのである。
「ティア、とんでもなく走り込んでるのは知ってたけど。実際問題、大丈夫なの? 皐月賞程じゃないけど、青葉賞はキッツいレースでしょ?」
「そりゃそうだ。アイツが出れたのは、東スポ杯でギリ勝利したおかげでしか無い。前評判の人気通り、アイツの不利は言うまでもねーよ。大外にも回されるあたり、マジでアイツ運無ぇわ。マジでめんどくせぇ」
「……『正直にド失礼かますんで、自分でもマジ怒ります』って言ってたよ、ティア」
「陰口たぁとんでもねーヤツだな。全く、これだから弱ぇくせに生意気ばっか垂れるバカは困る。アンタもそう思わねーか、帝王サンよ」
「めっちゃ陰口じゃないそれ? めっちゃティアの言ってたまんまの人なんだけど、キミ」
トウカイテイオーは出会った時に時折、ドロップスティアーの話を聞く。そしてその中で基本的に話題に出すのは、この傲岸不遜でド失礼なトレーナー・名入についての話だった。
年始から始まったトレーニングについて聞いた時、トウカイテイオーは正気を疑った。体壊すからそんなトレーニングはやめよう、割と本気でそう説得した事もあった。だが結局、彼女はそのトレーニングをここまで続け、そして今も体を壊していない。
ドロップスティアーの頑丈さは知っている。だが無茶をさせておいて壊れていないのは、トレーナーの手腕でもある。故にトウカイテイオーは、名入というトレーナーに興味があった。
そして聞いてた通り、本当に失礼でイヤミなトレーナーだなぁと思った。
「確かに青葉賞はGⅡの中でもレベルは高いし、その上で大外スタートは超絶不利だ。もうクッソ不利だ。だがアンタが大外スタートのダービーで勝った様に、運が悪かろうが勝ちようはある」
「それはボクが強かったからでしょー? ティアは……えーと、言っちゃなんだけど……」
「ま、当時のアンタにゃカケラも及ばんな。まるで、全っ然、程遠いぜ。ペースを上げりゃ逸走、ヘタクソなピッチ走法でスタミナは垂れ流し、そのくせ直線で伸びねえ。加速力以外マシなトコ無し、いいトコ探すのに苦労すらぁ」
「…………」
事実だ。このトレーナーは、本当に事実を述べている。トウカイテイオーが口を噤んだ、彼女がこの場で不利たる条件と弱点を
ドロップスティアーは、常々トレーナーについて愚痴っていた。仮にもトレーナーなのだ、そんな大袈裟に悪く言わなくても良いだろう。そう思っていたのだが、この調子で接されてはそりゃ愚痴も言いたくなるだろう。
しかし、そんなに弱点だらけである事を理解しているにも関わらず、このトレーナーは青葉賞にドロップスティアーを出した。記念受験をさせるのなら、皐月賞に出すだろうに。
「――それも
「え?」
ファンファーレが鳴る。次々に出走者がゲート入りしていく。
十七番、ドロップスティアー。彼女は、ダービートライアルに挑む身とは思えない程にゲート前で落ち着いて、緊張している全員がゲートに入るまで何度もゆっくりと深呼吸を繰り返している。
間違いなく、彼女が一番気負っていない。彼女が勝負で信じられない集中力を発揮するのは知っている。だが、この東京レース場の大外という不利を良く知るトウカイテイオーにとって、それは目を見張る程の落ち着きだった。
「帝王サンよ。確かアンタ、肝心のダービーで超大外・二十番だったか? ヤベーよな冷静に考えて。内側に十九人とかイカれてんのかって感じだ」
「よく覚えてるねそんなの……まぁ確かに、あの時はボクでもちょこっとは不安だったけどさ」
「十九人全員、有利取れる
トウカイテイオーは無敗で日本ダービーを制した。そこで彼女が『皇帝を超えたか』と言われたのは、単なる勝利時の後続との差では無く、
ダービー時のシンボリルドルフは中央、十番での出走で一と四分の三バ身差の勝利。対してトウカイテイオーは、超大外・二十番で出走して三バ身差を付けて勝ってみせた。
『最も運のあるウマ娘が勝つ』という言葉は、その圧倒的なまでのスタート地点での内外距離から生まれた。それに対しトウカイテイオーは、その最悪の運すらも純粋な実力で制しながら無敗で二冠目を戴いた。誰も文句の付けようが無い、”帝王”の名に相応しい勝利であった。
「……さっき言った、『今日まで』ってどういう意味?」
「帝王サンよ。アンタ、自分が負けたレースの事はちゃんと覚えてるか?」
「え゛っ。い、いきなり何? ……いや、忘れるワケ無いけどさー……」
トウカイテイオーの敗戦。骨折とそれに伴う不調の中でも、彼女は殆ど一着を取ってきている。だがそんな彼女にも、トゥインクル・シリーズの中で三度だけ、完敗としか言いようが無い印象的な負けが存在する。
メジロマックイーンに挑み、最後にはスタミナ負けした天皇賞・春。
二度の骨折明けから挑み、大逃げウマ娘にペースを狂わされて負けた天皇賞・秋。
そしてその時の大逃げウマ娘に、見事逃げ切られてしまった一度目の有馬記念。
そのどれもが、トウカイテイオーにとっては苦渋の敗北である。
「そんなら。ある意味
「へっ?」
《全ウマ娘、ゲート入り完了。青葉賞、今――スタートしました! 先頭は十七番、ドロップスティアー!》
名入の妙な言葉に顔を向けた瞬間、青葉賞は開幕した。
しまった、一瞬見逃した。しかし見逃していても、ドロップスティアーはいつも通り、誰よりも速くスタートを決めているのはわかる。大外から飛び出した彼女は、他のウマ娘よりも数段前に出ている。
だが、彼女はスタミナを多く消耗するピッチ走法の使い手だ。最初のスタートダッシュから先行寄りの位置を維持出来ない。実際彼女は、相手に影響を与えない――斜行を取られない上手い速度で斜めに進路を取りつつも、後続に呑まれ始めた。
だがその走り方は遥か以前、トウカイテイオーと出会ったばかりの頃の姿勢から、遥かに洗練されている。差しよりも後方の外側をスローに走りながら、上体は綺麗に起こされていた。
「――あれっ?」
瞬間。トウカイテイオーは、凄まじい
”帝王”を始めとするトウカイテイオーが数々持つ二つ名の一つに、”天才”という物がある。これは主に彼女の持つ天賦の才・全身の柔軟性とバネを指して言われている言葉だ。
だが、実際に彼女は”天才”だった。シンボリルドルフ程の明晰な頭脳や分析力は持たないが、
三度の骨折明け・復活の有馬記念。一年ぶり、ほぼぶっつけ本番のレースでも彼女はスタートダッシュをしくじらなかった。有馬記念のコースの厳しさを念頭に入れて中盤までは後方に、そこから前方へ移行。好位に喰らいつき、最後には当時最強と言われたビワハヤヒデを見事差し切る末脚を完璧に使うレース展開をしてみせた。
そんな彼女は、レースに関して思考力が極めて高い。”天才”と呼ばれる通り、彼女は頭に頼らず直観で答えを導き出す力が優れている。だからこそ、ドロップスティアーの変化した走りを見て、
「……
体を真っ直ぐ起こし、肘と膝を綺麗に曲げ続けて走るフォーム。
ピッチ走法でありペースも抑えているが、それは間違いなくトウカイテイオーに苦渋を呑ませた彼女の走りと極めて類似していた。
強い走りが欲しかったので実際に強いヤツ(アニメ版パーマー)を手本にします
一応言っときますけど、「三つ目」と「四つ目」はそこまで酷い技では無いです。その分だけ少し弱い技ですが。