――幸い。ドロップスティアーは、小学校に登校する事は出来た。
当然だが、小学校付近には多数の車が行き交う。彼女の致命的なトラウマたる、トラックの通行もある。そのトラウマの払拭は、そう簡単にいかなかった。
「……うっ……うぅぅっ……」
山道は長く険しく、歩いて登校するには立地的には最悪である。なので彼女はウマ娘らしく、走って登校していく。ここから彼女は、険しい坂道を降りるにあたり、スピードを抑え込む為のヒールストライクによるピッチ走法を無意識に体得し始めた。
そして、公道に出る。少しの距離、信号二つ分。狭い峠道から出て、それだけ走り抜ければ小学校に辿り着ける。そう、信号が
元々隣町に行くにも狭すぎる峠道に隣接する、この道路は車の交通量が少ない。祖父母の居た住宅街の十倍はマシだった。
しかし公道である以上、車は必ず来る。その中には、時折トラックも混じっていた。
(こわいっ、こわいこわいっ……)
彼女は、
車道を目視するのも怖かった。だから、ギリギリまで横断歩道前では俯き、『そろそろ』と思ったタイミングだけで顔を上げて、目の前を確認する癖がついた。
自分の進路に車が居ないか、視界内の全てを
その過程で、
この瞬発力と対応力を得る為に、フォアフットによる一瞬のスプリント力が鍛えられた。たった少しの長さである横断歩道を渡るだけの、そんな極端なスプリンターになった。
『無理に学校まで行く必要は無いんだぞ。通信教育の準備はあんだから』
おじさんはそう言ってくれた。わたしの新しい家の為に全てを捨て、ろくに売れない駄菓子屋なんて店を始めてくれた、義理の父親という事になったおじさん。
だが、彼女はトラウマの恐怖に耐えながらも小学校に行く事を選んだ。祖父母の前で暴れ散らし、そこからの流れで叔父の優しさを感じ取った事が理由の一つ。
そして、もう一つは。
『スティアちゃんは、まけないでね』
最後の最期、彼女の母親が苦しみながら、しかし笑って言った今際の遺言。
怖い。怖い怖い、怖い怖い怖い。あの血と死のトラウマは、トラックを見れば必ずフラッシュバックする。
――だが、同時に。
『まけないでね』
母親の最期の激励も、思い出す。あの言葉は、
小学生でありながら、ドロップスティアーは母の遺言を必死で果たすべく。トラックを見るだけで怯え竦み、全身を震わせて汗を流しながらも。自分に可能な限りの努力を尽くした。
車に怯えないように。車を目にしないで済むように。車を見ても、
(うんっ……わたし、まけないよ。……おかーさんっ……)
信号の音と共に、瞬時に車道の車が赤信号で止まっている事を確認し。誰よりも速い加速で横断歩道を渡り、車道を目にしない様にする。
彼女は、
◆ ◆ ◆
「――この世界には。三女神様と呼ばれる、ウマ娘の神様が居るって話をするねー?」
「「「はーい!」」」
「…………」
ドロップスティアーは、学校では静かな子供になった。彼女に起こった悲劇は、学校の教師達全員が周知していた。
しかし、出来る事が無い。精々が親と車に関係する話をしない――つまり、普通の生徒より少し気を遣った扱いをしつつ、何事も無かった様に振る舞う事。それがせめてもの、最大限出来る事だと思っていた。
だから、普通通りの授業をする。この日・この時間割は、道徳の授業だった。
「一番最初のウマ娘、って言われててね? 三人の女神様がウマ娘達を見守ってくれていて、力を与えてくれてる。だからウマ娘は、人間より力が強いって言われてるの」
「へぇー……そうなんだー……」
「ズルいよなー、ウマ娘って」
「こら男子ー、ズルいなんて言っちゃダメよ? どれだけ強く生まれても、それから頑張らなきゃウマ娘だって人間に負けちゃう事もあるんだから」
ウマ娘は種族的に膂力が高い。見た目的には耳と尻尾を除き普通の人間と変わらないにも関わらず、不可思議で未解明のそういった力。それを道徳の授業では、『三女神様が与えてくれる加護』としていた。
しかし。この時、ドロップスティアーの耳に入ったのは、そんな言葉では無い。
(……
負け。負ける。その言葉の重みを、誰よりも心に刻んでいるのはドロップスティアーだった。
『まけないでね』
事故からしばらくして尚、眠れば悪夢として見る、あの時の惨状。しかし、その夢の最後には必ず、母親の最期の言葉が蘇る。
あれがあるから、ドロップスティアーはトラウマに懸命に立ち向かう努力をして、こうして小学校にも無理を通してでも登校している。
だからわたしは、
「――それで、三女神様はいつでも見守ってくれていて。ウマ娘を導いてくれる、っていう話があるの」
「みちびく?」
「いい事をしたウマ娘には、いい事をしてくれる、って事よ。それこそ、一杯いい事をすれば、三女神様が天国に連れて行ってくれるって言われてるのよー? 男子も、ちゃんと誰かに優しくすれば、三女神様から力を貰えるかもよー?」
「えー! マジかよ、じゃあ頑張らねーとー!」
「女子に負けるとか、かっこ悪いもんなー!」
道徳の授業で、ウマ娘と人間の心理的な差異をなるべく埋める事は重要な事だ。
男子が横暴を振るえば、ウマ娘は暴れる。ウマ娘が暴れれば、止める事は難しい。なので、なるべく平等に。少しでもいじめなど、トラブルを防止する為の道徳を教え込む事は、極めて重要な事である。
――重要で
「――……せんせー。聞いても、いい?」
「えっ? ドロップスティアーちゃん、どうしたの?」
「
「「――――」」
一瞬、教室全体が沈黙する。
事故以前のドロップスティアーは、社交的で明るい子供だった。しかし事故が起きてからは、内向的で悲痛な雰囲気を常に漂わせていた。
事故が起きた直後、クラス内では彼女が両親を喪った事はすぐに知らされた。教師達が良識をしっかりと教え込み、クラスメイト達はなるべく彼女の親に関係する話題は避けていた。
だから、その質問の重さに。クラス中の全員が、黙り込んだ。
「――ええ。三女神様は、良い事をした人間も、ウマ娘も。ちゃーんと、天国に連れて行ってくれるのよ」
「…………そっかぁ」
教師は努めて、必死に笑顔を取り繕って、そう答えた。ドロップスティアーは再び沈黙し、静かに道徳の教科書と向き合う。
ドロップスティアーは、その日。天国と神の存在を知った。
(――天国に、いるんだね。おとーさん、おかーさん)
知ってしまった。
(
◆ ◆ ◆
「……うううーーーっ……!!」
「なんだお前、テスト用紙と睨めっこして」
「今回のテスト! 九十六点だったのっ!」
「なんだ、すっげーメチャクチャ高得点じゃんかよ」
「違うっ! わたしは、
そして、もう一つ。ドロップスティアーには、ある変化が訪れた。
即ち、重度の――極度とすら言える、
『まけないでね』
その言葉は激励であり、
だが、その反面として負けず嫌いになった。ありとあらゆる全ての、
「四点! 四点、負けたの! 負けちゃいけないのに! おかーさんに、おかーさんに言われたのに! 『まけないで』って!!」
テストでは常に満点を求めた。体育でも限界まで練習を尽くした。
誰にも負けてはいけないと、そうあれかしと。彼女の母親の
叔父はドロップスティアーに対し、人生的に献身な事をやっていたが、彼女の父親には遠く及ばない程ぶっきらぼうな性格だった。
テストで満点を取った時には不器用ながら褒める事が出来る。だが、こういった彼女自身が納得できない結果には、褒めると逆に機嫌を損ねられた。『負けは負け』と、そう断固たる態度を取られてしまう。だから、どうして良いか悩んでいた。
「……おかーさん……ごめん……ごめんなさい……」
彼女の負けず嫌いは、それこそ
しかし、あまりにも支柱として芯が強すぎた。その言葉は彼女の命を支えながらも、ほんの少しのミスも許さない自罰的な性格を与えてしまった。
叔父は、義理とはいえ彼女の父親だ。出来得る事は全てする、捧げられる事は全て捧げる。彼女の”おとーさん”と”おかーさん”にはなれないまでも、自分に出来る全部でこの娘に向き合う事を決めていた。
だから――デコピンをかました。
「あいたーっ!? な、なにするの、おじさん!?」
「バカ娘。『まけないで』ってのは、そうじゃねーんだよ」
「……?」
ドロップスティアーは、この叔父の事を保護者として認めていた。新しい父親としてはまだ思えないまでも、自分の為に出来る事を全てやってくれた優しいおじさんだと。
おとーさんやおかーさんには及ばないけれど、優しい人。たまに意地悪だけど、それでもわたしより凄い人。だから、叔父の言葉には極めて従順だった。
「学校の一部に、入試とかがあるってのは知ってるか?」
「にゅーし?」
「……でっかい、一回限りしか受けられないテスト。
「……でっかい、大勝負」
叔父には、彼女の傷を受け持つ事は出来ない。彼女の母親の想いの全てを、正しく認識させる事は出来ない。自分は、優しかった
だから、小細工を弄する事にした。自分の中の持論を授けて、
「学校のテストなんてのはな、その最後の一番でっかいテストで点数取る為にあるんだ。つまり、
「……まけても、いい……?」
「おう、マジも大マジだ。俺はいっつもテストで負けっぱだったが、肝心なトコではギッリギリ勝ってきた。お前程頭良くも、強くも無かったんでな。
遺言であり激励であり支柱である、『まけないで』という言葉。これが間違っているなどと、口が裂けても言えない。言ってはならない。
だから、
「いっつも負けない様にするのは、誰だって無理だ。俺なんぞ、学生時代には解答欄一個ズラして0点取った事マジであった。あれはガチで効いたわ」
「……バカだよね、おじさん……」
「知ってるよ。……だから、
「……ホントの、勝負」
おじさんは、バカな人だった。カーショップの車のついでに、うっかり自分が交通する為の
おじさんは、人生的な判断――勝負で一度、大負けの様なバカをやらかした。だが、その後自分にとって正しいと言える事――
バイクを買わなかった理由は、『エンジン音がうるさくて気に食わなかった』とか言っていたが。大きなエンジン音が車を想起させる可能性を考慮して――自分の為にわざわざそういう選択をした事を、ドロップスティアーは分かっていた。
おじさんは途中経過はともかく、最後には自分の思い通りの
「九十六点、上等じゃねーか。ちっとだけ直せば勝負に間に合う。最後の最後に、負けなきゃいい。……”おかーさん”じゃないけど、俺はそう思うぜ」
「……最後の最後に……負けなきゃいい……」
「つーか九十六点て。お前は小学生時代の俺に圧勝してんだぞ。小学生の頃、俺七十点以上取れなかったぞ。イヤミかよお前。俺の弱さをナメんなよ」
「……あはは。やっぱり、おじさんはバカだ」
「おうよ、バカだ。だが、負けてないバカだぜ」
ふんぞり返って、ココアシガレットを咥える叔父。彼には、負けた時の悔しさがまるで見られなかった。
自分の愛車まで勢いのまま売り飛ばしたと気付いた時は、本気で愕然としていた。だがその後、『いいアイデア思いついたわ』と即日で山から降りて、大きなカゴを付けたパワーのある電動自転車で帰ってきた。
『見ろよコレ、めっちゃカッケーだろ』。愕然としていた前日とは打って変わって、本物の笑顔で
叔父は、わたしの為になるだろう最も正しい選択をした。
「……うん。わたし、負けない。最後の最後だけ、一番おっきな所だけ負けなきゃ、それでいいんだよね?」
「おうよ。オイオイ、また一つ賢くなっちまったじゃねーか。子供の頃の俺にまた勝ってるぞお前。連戦連勝じゃねーか、羨ましい」
「バカ。バカおじさん」
「……」
「ばーか。ばかばか、ばーか」
「…………生意気ばっかり言うヤツは、こうだー!」
「ぎゃぁーっす!」
その日、叔父から初めて手を出された。加減に加減をされて、両耳近くの側頭部に拳を、優しくぐりぐり埋め込まれた。
その時。わたしもおじさんも、どっちも本気で笑っていた事は、強く覚えている。
◆ ◆ ◆
「――ホンットーに。高いしなっがいなぁ、この山……」
それから一年ほどして。トラウマを抱える娘に対して雑な、しかし献身的な叔父の――”オヤジ”と認めた彼の育成方針によって。ドロップスティアーは、トラウマの大体に耐えられる成長をしていた。
車を見ても怖がらなくなった。トラックは多少怖いが、冷静に見れば居眠りをするトラックの運転手など全く居ない。テレビのニュースでも居眠り運転の事故は時折しか報道されない――見る度に最悪の気分になるが――あたり、本当に稀な事なのだとちゃんと分かった。
負けても良い事を知った。どんな勝負でも、本当に勝つべき所は別にある事を知った。『まけないで』という言葉を、支えにのみする事に成功した。
義父は見事、深すぎるトラウマを癒す綱渡りの様な子育てを成功させたのである。
「……あー……なんか、ラク出来る方法ないかなぁ……」
小学校からの帰り道、自分の家までの山道を途中までは走り――しかし、急坂に阻まれてまるで走り切れずに息を上げ、最終的には歩く羽目になる。当時の自分に選択肢は無かったが、それにしたってこの立地は登下校には最悪である。
直線距離的には近いせいで、自転車通学も認められない。というか、山の道が狭くてぐねぐねしている道なせいで、自転車使っても遅い。小走りの方が圧倒的に速い。
この過程で、彼女は少しでも楽な走り方――アウトインアウトのラインを考えに考え、ピッチ走法を無意識に体得していった。それでも尚、全く体力が足りない。トレセン学園の生徒ですらスタミナ切れを起こす、この山道では。
「オヤジー、帰ったよー? ……買い出しかぁ」
自分の家につく。ガラガラの駐車場と、ショボい駄菓子屋。最初の内はあれこれ一杯のお菓子があって楽しかったが、流石に一年も過ぎれば駄菓子のバリエーションにも限界が出てくる。
たまに少しだけ訪れる、峠道を通る途中の車。そこで物珍しさから少しは売れるが、そもそもこの山道を通る車の方が少ない。それはトラウマを抱えるドロップスティアーにとって極めてありがたい事だったが、在庫は常に山盛りである。ちょっと反省して、売れない事を前提に量をほぼ仕入れない事が常だった。
この店が自分の為に設けられた、採算度外視のハリボテである事はもう知っている。だがそれでも、”店”としてはあまりにチンケである。かつて自分が恐怖し狂乱した、車が大量に並んでいた駐車場。そのがらんとした広さに対し、迫力で完全に負けている。
「『ナメんな絶対一山当ててやる』とか言ってるけどさー……無理があるって、やっぱ。……バカオヤジ」
ドロップスティアーは店頭のココアシガレットを一箱取って、無断で食べ始める。一個ぐらい無くなってもバレないだろう、最初はそう思っていたのだがあまりに客が少なすぎてバレる事に気付いた。
盗み食いの罰は、皿洗い一回。つまり、皿洗いさえすれば無断で食べても良い。その
薄ら甘いチョークの様な、妙な駄菓子。しかし、時折食べる度に慣れてきた変な駄菓子。だから今日も食べつつ、オヤジが帰ってきて夕飯になるまでの時間を待つ。
駄菓子を食べながらテレビを見てダラけるだけなのも、昼寝をするのにも飽きる。そういう気分じゃなかったから、ドロップスティアーは道の外れの頂点――展望台へと向かった。
「……ここの見た目は、最高なのになー」
展望台から街を見下ろす、山の高みから見る景色。この場所だけは、間違いなく地元で一番だと思っていた。
こういう所を推していけば、少しは売れ行きもマシになるだろうに。車に対するトラウマは、もう殆ど無い。車が通るだけで怯えていた、負け犬だった”わたし”はもう居ない。
「
ドロップスティアーは一人称を、意識的に変えた。小さな負けに一々拘泥する、車を見るだけで怯える、トラウマを抱える”わたし”を変える為に。
負ける弱い”わたし”を、最後には勝てる”自分”になろうと。少しでも早く大人になって、オヤジの心配を無くそうと。そうして、
”わたし”を止めた瞬間、身が軽くなった。負けても『最後に勝つ』と思える様になった。『まけないで』という母親の遺言を、自分を強くする為だけに使える様になった。
――だけれど。ドロップスティアーには一つ、”わたし”だった頃から変わらない、叶えたい願いがあった。
「……会えるのかな……おとーさん、おかーさん……」
展望台の柵に両手をかけ、遠い空を見上げ。”天国”に居るらしい、おとーさんとおかーさんの事を思い出す。
自分は頑張っているつもりだ。だけれど、女神様が天国に連れて行ってくれる程頑張れているだろうか。何度も負けて、勝って、負けて、そういうのを繰り返して。未だにオヤジに迷惑をかけている自分は、本当に天国のおとーさんとおかーさんに会いに行けるのだろうか。
(――天国に、行ける?)
道徳の授業を思い出す。居なくなったおとーさんとおかーさんは、きっと天国に行った。
それは、
じゃあ。
「……
ドロップスティアーはそう言って、
ここから下まで落ちれば、あの時の交通事故と同じぐらいの――
ドロップスティアーが保護された一年で、唯一払拭されなかった物。子供が絶対に抱く、当然の事。義父による献身的な教育により
もう一度、両親に会いたい。
「――……」
ここから落ちれば、おかーさん達に会えるかもしれない。そんな気持ちで、崖下を眺める。
自分は一年、頑張ったつもりだ。女神様が見守ってくれているなら、一度ぐらいは天国に連れて行ってくれるだろう。そんな想いで、崖下を見つめる。
そして、彼女は。本気で崖下へ向かって脚に力を入れ――
「……あ、れ?」
そのせいで、脚から力が抜けた。だから、もう一度。もう一度、柵を越えようとして。
「――ッ! うあ、あ……!?」
瞬間、
「なっ、なんっ、でっ……ぅ、あっ……」
もう一度、柵に手を伸ばす。だが、もう脚は動いてくれなくなった。
生存本能。後に、”
――彼女は。
「――あ……ああっ……あぁぁっ……!!」
ドロップスティアーは、下手に賢かった。義父の教育方針と、トラウマに負けない強さを得る為に、周囲よりも精神的な成熟が早かった。早くならざるを得なかった。
だから、子供の今でも、今の自分の反応でわかった。
おとーさんとおかーさんに会いに行けない。そして、
本当に良い人を導いてくれるのなら、良い人を殺さない筈だから。良い人が死んでも、元に戻してくれる筈だから。一年トラウマと戦う中、
――
「――ぅ……ぁ……あ……」
「おーい、帰ったぞー。……何やってんだバカ娘?」
「あ……あ……」
オヤジが帰ってくる。ぶっきらぼうで乱暴だけど優しい、二人目の父親。
だけれど、それが逆に強く強調させた。天国に行けない事を。
――そうして。
「――うあ゛ぁぁぁーーーッ!!!」
「!? オイ、どうしたッ!? ……ッ! くそっ、救急車、救急車だ! クソッタレがッ!」
ドロップスティアーは、落ち着いてから暫くぶりの発狂へと至ってしまった。
目を逸らし続けていた、目を向ける余裕も無かった。そんな真実を本能レベルで理解して、山彦と共に気絶した。
起きて正気を取り戻した後。彼女は心底、
勝負服について:
シオンの花言葉は、「君を忘れない」「追憶」。
モミジの花言葉は、「大切な思い出」「美しい変化」。
そして、青いモミジなどこの世には存在しない。
ただの少女は
体は前へと進める。それでも、心だけは弱いままだった。