ヤマ娘 ~Crazy Derby~   作:灰の熊猫

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『夏』

「――長い様で、短い謹慎だったぜ。その分、財布がガッツリ行ったが」

「あはは。担当ウマ娘の力にかこつけた悪党トレーナーさんには、丁度良い授業料だったんじゃないんですかー?」

「それもそうだな。弱いヤツに頼ったツケが回っただけだ」

「なにをー!?」

 

 ダービーより一ヶ月、七月初め。トレセン学園の夏休みであり、そして秋へ向けての本格トレーニングたる夏合宿・前日。

 名入が例のダービーで受けた罰則は最大級ではあったが、最大限の罰金によって謹慎期間その物はギリギリ夏合宿に間に合った。というか、事情を知るシンボリルドルフが後ろで限界まで動き回り、そう調整した。

 

『出来る限りの事はする。私は彼女の父親にそう言ったからね。……それでも、これが限界だったのだが……』

 

 色々ぶっちゃけて吹っ切れたドロップスティアーは、ある種自分の最大の関係者であるシンボリルドルフにも自分の過去を打ち明けた。

 名入に語った様な重苦しい調子ではなく、『まぁ昔ちょっとこう事故った後にこうなって更に事故っちゃってーあははー』ぐらいの凄まじく軽い口調での説明ではあったが、それだけでも聞いたシンボリルドルフは本気で顔を悲壮一色に染めた。

 それ以後、シンボリルドルフは名入に下った処分のフォローに更に尽力した。マスコミに定着した人格のマイナスイメージばかりはどうにもならなかったので、それ以外――公式的な処罰を緩くする方面へと舵を切った。

 『大事な時(クラシック)期でトレーナーを一時的にも失うのはウマ娘の為にもならない』『人格的に問題があるのならば、むしろ担当に向き合わせるべきだ』『その為に謹慎期間の一部を観察処分とし、厳重な注意の下で再発防止に務める』など、様々なフォローによって実質的な謹慎期間を減らす。

 結果。名入は夏合宿直前で、トレーナー業に復帰出来た。

 

「合宿か……はー、お前らは良いよなぁ、いつでも海に入れてよ……こっちゃ炎天下で監視だの、合宿所でメニュー考案で缶詰だのでめんどくせぇのに……」

「その炎天下で誰がそのメニューやると思ってんです? ……どうせキッツいトレーニングやらせんでしょ?」

「安心しろ、予定的には例の地獄マラソン程じゃねえ。お前が思うよりは余程フツーのトレーニングになるだろうぜ」

「…………ホントかなぁ」

 

 ドロップスティアーは名入の言葉に、心底疑問を抱いた。

 ここまで名入が自分に命じてきたトレーニングを思い出す。限界まで坂路の全力疾走、限界まで潜水プールトレーニング、限界までマラソン。振り返れば、常に限界へのロードであった。

 夏合宿は海辺の合同訓練施設・宿泊所で行われる。故にいつものモーションキャプチャースーツを用いた、ポリトラックコースのマラソンは出来ない。というか、人目の付きやすい合同合宿中にあの格好をし続ければ、本当にメンタルが折れる。

 折れれば、弱った今の涙腺では絶対に泣いてしまう。心という器は一度(ひとたび)ヒビが入れば二度とは戻らない、それをドロップスティアーはよく知っている。

 

「ぶっちゃけ、()()はもう出来てる。そもそも、あのマラソンにはミッドフット・パーマー式走法を覚える以外にも()()()()があったからな」

「そういうの濁しまくるのどうかと思いますよホント。そういうなんか別の事あったんなら、ちゃんと口にして下さいよ」

「トレーニングっつーのは複合的な要因で出来てんだ。別の事意識させると、逆に効率が落ちる。お前は元々一点集中するバカだ、狙いを逐一教えてたら逆に効率が落ちるだろ、だあほ」

「……むぐ」

「ん? ……なんだ、反論ナシか? 珍しいじゃねーか」

 

 一点集中するバカ。『周りが見えていない』と責められた身としては、これ以上に効く指摘は無かった。

 レースの世界に身を置くアスリートとして極度すぎるその心の視野の狭さは、実の所トレーニングにおいてはかなり有効に働いていた。勝つ為に余計な寄り道はしない、そういう割り切り過ぎた素直さが、名入の変則的なトレーニングから得られるモノをスポンジの様にすんなりと吸収・学習させてきた。

 だからこそメジロパーマー式走法という、回転効率は良くともトゥインクル・シリーズの一般常識から外れた走行フォームを、先入観無しに体得出来たのである。

 

「夏合宿、当然だがお前の友人連中も地力を底上げしてくる。そこで差をギリギリ離されない様にしつつ、走りを仕上げていく。……正念場だぞ」

「分かってますよ。……菊花賞で勝つって、言ったんで」

「……? 誰にだよ」

「え、皆にですけど」

「だあほーっ! せめて直前まで狙い伏せとけやーっ! 勝率下げてどーすんだーっ!」

「『絶対勝つ』って言ったのトレーナーさんじゃないですかーっ!」

「お前のせいで下がったんだよだあほーっ!」

 

 やんややんや。復帰直後の二人は合宿目前にして、早速意見違いで衝突していた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「ん~……あー、ねむ~……キングー、おぶってー」

「よしキングさん、自分もおぶってください」

「ドロップスティアーさん、あなたがスカイさんを背負いなさい。私は先に行ってるわよ」

「対応が早すぎませんか!? えっ、ちょ、えぇ!? マジで自分がセイちゃんさんおぶる流れです!? ホントにもう降りてるし!」

 

 合宿所にマイクロバスが到着し、眠気でふにゃふにゃ状態のセイウンスカイと、ついでとばかりに乗じて我儘を言ったドロップスティアーを、キングヘイローは置き去りにして下車した。

 余計な事にはまともに付き合わない。キングヘイローはこの二人に対する一種の攻略法を既に学習し、巻き込まれる前にさっさとバスより降りた。見事な先行策だと感心してどこもおかしくはなかった。

 

「ティアちゃんさん、よろしくー。……くぅー」

「マジで眠いんですか!? え、えぇー……うーん……まぁ、いっか」

 

 そしてセイウンスカイは眠る。うたた寝とかではなく、ガチ寝であった。これまでのバス内でも眠っていた様に見えたが、ちゃんとは眠れていなかったらしい。

 とはいえ、別に拒絶する理由は無い。自分とセイウンスカイの荷物バッグを肩に背負い、その上でセイウンスカイも背負いとことこバスから降りる。

 一目見れば、明らかに重量過多の状態。しかしドロップスティアーは別にこの程度では然程重さを感じない。()()()()()から。

 

「なんか……もう懐かしいですね、()()も」

 

 実の所ドロップスティアーは、父親から()()()()()()()()()()()()()を喰らった事が何度かある。それが、()()()()であった。

 仕入れる駄菓子を背中に背負わせ、物理的に動きに制限を与える。駄菓子その物が殆ど売れない以上、毎日は使えない技。しかし時折そうやって駄菓子のダンボールを抱えさせたり背負わせたりすると、ドロップスティアーは平時の無茶が一切出来なくなる。

 ドロップスティアーの近道行為は、身軽であるが故に出来る曲芸だ。『いつもの罰だバカ娘』と大荷物の運搬をさせれば、山道の道路部分をのんびり歩かざるを得なくなる。

 負けないまま負けるという思考を直伝した父親も父親で、そういった抜け道的な手口を考案し、少しでも娘のショートカットを封殺しようと画策していたのである。

 

「やれやれ、遅いじゃな――バッグごと背負ってきたのあなた!?」

「キングさんがやれって言ったんじゃないですかー。セイちゃんさんの部屋どこです?」

「……下ろしていいわよ、重いでしょうし。普通に起きてもらうわ」

 

 そしてセイウンスカイを背負ったまま、()()()()()()して宿泊施設の前まで着く。キングヘイローは平然と二人分の荷物とウマ娘一人を背負って駆けてきた事に、言った本人ながら本気でビビった。

 流石に速度こそ上げれないものの、山道でも無い平地であれば荷物を背負ったまま走った所で、本当になんら負担を覚えない。世代一の無駄な力持ちは伊達では無かった。

 名入が脚の使い方やプールなど、偏ったトレーニングばかりさせてきたのは、本当に彼女の全身がパワーの塊だからという理由もあった。とにかく彼女は、地力だけはあるのだ。コレは地力ではなく、本当に純粋なる膂力だったが。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「しっかし自分、海ってなんか初めて見る気がします」

「私も海水浴場(こんなところ)初めてだよ! わぁ、ホントにあるんだ、海の家……!」

 

 セイウンスカイをキングヘイローが叩き起こし――文字通りすぱーんといい感じの音を立てて頭頂をしばいた――、全員が共有する畳の大部屋へとやってくる。スペシャルウィークは窓から海辺を眺め、黄色を基調としたやたらカラフルな海の家に目を輝かせる。

 ドロップスティアーとスペシャルウィークの二人は、海水浴に来た事が無い。中央の生徒であれば合宿でなくとも、リゾート施設の多いこの付近には夏休みで訪れる事が出来る。だがこの二人の場合、内陸の育ちである為に海水浴という物とは無縁であった。

 

「これから二ヶ月、ここで過ごすんだよね……! わぁ、わくわくするなぁ……!」

「ふふっ。今の内にそんなにはしゃいでいては、トレーニングの分の体力が無くなりますよ、スペちゃん?」

「わわっ、そ、そっか! じ、自己管理、だよね! ……気をつけなきゃ……!」

「スペちゃんは極端だなー。どうせ一日目は休みなんだし、今日ぐらいはのんびりすればいいんだよー……くぅ」

「スカイさんは早速布団敷かないの! あれだけ寝てまだ足りない訳!?」

「楽しい合宿になりそうデスねー!」

 

 ”黄金世代”が揃って、これからの合宿に向けて明るい顔をしている。しかしセイウンスカイの言う通り、一日目はどこのトレーナー・ウマ娘も休みであった。

 主に炎天下の砂浜という立地で行うトレーニングは、ただ走るだけでもえげつない程の負担と消耗を招く。加えてバスによる長時間の移動と、普段住む寮とは全く異なる宿泊施設という環境の変化は、調子の高低がそのままパフォーマンスに直結するウマ娘にとって無視出来ない要因だ。

 故に、必ず一日目は休んで自由行動。海で泳ぐなり遊ぶなり、この瞬間だけはプロのアスリートではなく完全な年頃の少女として過ごす。英気を養った上で、この二ヶ月続く自分との戦いに挑むのだ。

 

「――よし! じゃあ皆さん、まずはビーチバレーでもしますか!」

「少し抵抗がありますね~」

「絶対に嫌よ」

「普通に泳ぐとかどうデスか?」

「一瞬の考慮すら無い! なんでですか!」

「ティアちゃんさんや……二度同じ手でやりこめるのは無理があるって……」

 

 両手を叩いたドロップスティアーの提案は、三つのジト目を受けて即時却下された。

 グラスワンダー・キングヘイロー・エルコンドルパサー。ほぼ同時に反対意見を上げた三人は、かつて”一流トリオ”と一日だけのチームを組み、そしてバレーボールで完敗した者達である。

 正月、羽根突きの代わりに提案したバレー大会で散々ボコボコにされた彼女達は、ドロップスティアーの狙いを既に見切っている。即ち、また自分の得意分野に引き込んで良い思いをしようという考えである。

 現状彼女が”黄金世代”相手にマウントを取れる唯一と言って良い勝負方式。しかしそんな物に二度と引っかかりはしない。彼女に選択の自由を与えては、付け上がるだけである事はもう思い知ったのだから。

 

「ま、まぁビーチバレーはともかく……エルちゃんの言う通り、私は一回海、泳いでみたいな! プールとは全然違うだろうし!」

「……まぁ確かに。自分も”海で”泳ぐっていうのは興味がありますね」

 

 あまりにも真っ当なエルコンドルパサーの意見に対して、スペシャルウィークが同調する。

 これからプールトレーニングの代わりに泳ぐ事になるだろう海だが、本当の意味で自由に泳いでいいのは休みの日ぐらいである。下調べにもなるし、純粋にここでしか出来ない楽しみでもある。

 満場一致。六人は、スクール水着に着替えて海で遊ぶ事にした。

 

  ◆  ◆  ◆

 

()()()ーーーッ!」

「ギャーーーッ!」

 

 そんな直後、海水を浴びせ合うという正真正銘のお遊びの最中。バケモノじみたパワーで海を叩き割る踏み込みによってエルコンドルパサーを吹っ飛ばすバカ娘がいた。

 水浴びせ対決がいかにお遊びだろうが、勝負は勝負である。ならば全力を尽くさねば無作法というもの。そう思ったドロップスティアーは、新たなレース外の技能を編み出していた。

 震海脚。とんでもない水柱を立てて水を浴びせる、水辺限定の必殺技である。

 

「――くっ、ううっ……! なんてパワーデスか……!」

「あはははっ! そんなモンですか”怪鳥”さん! それでは”世界最強”など夢でしかありませんなー!」

「そうですね~。早々、頂点など取れるモノではありませんよ?」

「全くね。たった一人倒しただけで勝ち誇るなんて、脇が甘いわ」

「へ?」

 

 例によってレース外で調子に乗るドロップスティアーの両脇を、グラスワンダーとキングヘイローが固める。二人が同時に脇下に腕を通す。

 そして、前方のエルコンドルパサーを倒しただけで調子に乗っていたバカを、息を合わせて思いっきり海の方へと投げ飛ばした。

 

「ぎゃーーーっす!!」

「ふふっ。やはり、まだ周りが見えていないようですね~」

「自業自得ね。少し海に浸かって反省すると良いわ」

「…………そういう話だったっけ、セイちゃん?」

「良いんじゃない? なんでも」

 

 すぽーんと遠くまで投げ飛ばされたドロップスティアーが着水する様を、四者四様の感情で眺める。ただ一つ確かな事は、彼女がエルコンドルパサーにのみ注目(マーク)した結果、二人に後ろから差されたというだけの話である。

 いや、なんか違う。スペシャルウィークはそう思っていたが、セイウンスカイは割とどうでも良かった。完全に他人事として、波打ち際で腰を下ろしちゃぷちゃぷ足で水面を弾いていた。

 

「……ありゃ? ……全然戻って来ないんだけど、ティアちゃんさん」

「え? ……い、いやいや、そんなまさか……」

「……や、やり過ぎましたか~?」

 

 が、投げ飛ばされたドロップスティアーが一向に浮上して来ない。

 二人がかりでぶん投げた分、飛距離は確かに出ていた。しかし完全に沖にまで飛んだ訳でもなく、海面の波も然程立っていない。そして彼女が水泳が下手という話も聞いた事が無い。

 にも関わらず、十秒以上経っても彼女の姿が水面より上がってこない。ちょっと落ち方がまずかっただろうか。怪我されても困るので、本気でぶん投げた訳では無かったのだが。

 だが、ちょっとだけ心配を始めたキングヘイローとグラスワンダーには、彼女について()()()()()()()()がある。

 

「――()()()ーッ!」

「「きゃああーっ!?」」

 

 ()()()()で潜ったまま近くへと戻ってきたドロップスティアーが、()()()()()()()の要領で前方宙返りし、()()()()()で海中から水柱を蹴り上げる。

 彼女のロングスパートを支える根幹たる、異常なまでの潜水技能。それらを知らずに彼女の接近を許した二人は、震海脚の”裏”と言える技の波濤による返撃を受け、吹き飛ばされた。

 

「……ふ、ふっふっふ……うぇっ……さ、最後に、最後に負けなきゃあいいんですよ……自分にこの手の勝負で勝とうなんて、甘いんじゃあないですか……うぇえ、しょっぱぁ……」

「いや思いっきりむせてるじゃん。海水ちょっと飲んでるじゃん。全然勝った姿じゃないよ」

「っていうか、普通に遊ぼうよ、ティアちゃん……」

 

 見事自分を後ろより差した二人を倒したドロップスティアーは、海水を僅かに飲んで苦い顔を浮かべていた。それは勝者の姿でも無ければ、そもそも遊びで浮かべる形相でも無かった。

 ふざけた事を真剣に本気で取り組む。それこそがドロップスティアーの真髄であるが、はっきり言って全くもってこの場に不釣り合いな姿勢であった。セイウンスカイもスペシャルウィークも、本気で白い目で見ていた。

 

「でもスペさん、海で遊ぶって言っても、あんまりガチで泳ぎ過ぎても疲れすぎますし。皆で遊ぶってなったら、こういう事しか無くないですか?」

「水浴びで相手を吹き飛ばす事は絶対”こういう事”じゃないと思うんデスけど……」

「えーと……あ、そうだ! スイカ割り! 海に来たら、アレやってみたいって思ってたんだ! やろうよ!」

「……確かに、興ずるには良いかも知れませんね~」

 

 単なる水浴びまで全力勝負――だいたいパワーゴリ押し――に持ち込むウマ娘と、こんな事で遊んでいては埒が明かない。丁度適度に体も濡れた事だし、ここらで一つ純粋な海の定番の遊びをしてみるのも悪くない。

 当然だが、スペシャルウィークの発案は突発的な物であり、誰もスイカなど持っていない。だが元々ここはトレセン学園で毎年使われる合宿施設であり、海の家に行けば普通に売っている。

 なので、早速六人は海の家へと向かおうとして――

 

「アタシを呼んだか、若人諸君っ!」

「あっ、ゴールドシップ姐さん!」

「「「ひゃあぁっ!?」」」

 

 ()()()()()()()()()()()ゴールドシップに止められた。

 

「姐さん、どうしてここに! お忙しいんじゃなかったんですか!」

「ヤボな事言うなよティア……折角の海だぜ? ……土遁の術。覚えてーだろ……?」

「土遁! 忍術も出来るんですか姐さん!」

「あったりめーだろー? 海での合宿ってのはな、火遁・水遁・土遁・雷遁・風遁の五行術を全部覚える為に始まったんだぜ……? 今ゴルシちゃんが始めた」

「わぁ……流石です!」

 

 砂浜に()()()()()()()()()としか思えない、そんな登場の仕方に対し”黄金世代”は何のリアクションも返せない。一方でドロップスティアーは、目の前に湧いて出た謎の先輩に対し目を輝かせて応対した。

 登場も意味不明なら、会話の内容も理解不能であった。ツッコミどころが多すぎて、どこに触れればいいのか分からない。会話に入り込む余地が無い。ドロップスティアーを除く五人全員がそう思っていた。

 

「ところで姐さん、何故土遁を中断してまで自分達の前に?」

「本当はゴルシちゃん印の焼きそばパンで海の家のシェアを完全に奪うつもりだったんだが……気が変わった。たまには別の経営戦略を取ろうと思ってな……スイカ、要るんだろ?」

「あるんですか、スイカ!」

「ああ、ココにな!」

 

 そう言って、ゴールドシップは自分よりも浜深くに埋め込んでいたモノを引っ張り出す。それは、大型のクーラーボックスであった。

 勢いのまま、クーラーボックスが開く。そこにあったのは、大量の()()()であった。

 

「……使いな。一級品のメロンだ、使い方次第じゃ、この”HAMA”の”テッペン”に立てる」

「姐さん……! ありがとうございますっ!」

「良いってことよ、初期投資だ。お代はスイス銀行に振り込んでおいてくれ。アタシそのメロンの値段知らないし口座も無いけど」

「分かりました! 後で相場調べときますね!」

「励めよ。そのメロンに負けねえぐらい、ビッグな存在になってみせな……あ、メロン全部ここに置いてくから。ゴルシちゃん新作の激辛ソーメンのダシの探究にゃいらねーし」

「ありがとうございます! 完成したら食べさせて下さい!」

 

 出るだけ出て、言うだけ言って、モノだけ置いて。突如湧いたゴールドシップは、全身砂まみれのまま海の家へと腕を回して向かっていった。

 その場に残ったのは、色とりどりの大量のメロンのみ。ちゃっかりクーラーボックスで冷やされており、状態は良好。大きさも申し分ない。

 ただ、スイカでは無いという事だけが問題であった。

 

「流石姐さんです……! 皆がスイカ割りをやる事を見越して、これ程のメロンを事前に用意しながら土遁の術を……!」

「……ねえ。いい加減ツッコんでいいの、コレ?」

「……ティアちゃんは、その、ゴルシさんの()()についていけてるの?」

「? ついていくも何も、姐さんがスゴいのは確かでしょう?」

 

 何言ってるんです? 唯一湧いて出たゴールドシップと普通に会話――普通な部分は欠片たりとも無かったが――していたドロップスティアーは、困惑を隠せないセイウンスカイとスペシャルウィークに対し本気で不思議がっていた。

 ゴールドシップ姐さんに出来ない事は無い、故に驚くに値しない。そして行動に対しても、スイカが無い自分達に対してメロンを置いていくという、ワンランク上の対応をしてくれた。感謝こそすれど、疑問に思う事など何もない。

 誰もが置いてけぼりにされる行動と会話の中で、ドロップスティアーの中にあったのは偉大なる先輩に対する純粋な尊敬の念のみであった。

 

「……考えたら負けな気がするわ」

「……同感デス」

「……ひとまず、叩き割るのはよしておきましょうか~。本当に立派なメロンですし、トレーナーさん達にも分けるべきかと」

 

 まともに考えたらダメだ。そう結論付けたキングヘイロー・エルコンドルパサー・グラスワンダーは、ひとまずこのやたら立派なメロンの処遇について決めた。

 スイカなら砕く様にしても然程惜しくはないが、そのメロンはあまりに立派過ぎた。スイカより一回り下程度の直径がある、やたら上質なメロン。これを遊びの的として砕いてしまうのは、勿体無いを通り越して冒涜的である。

 

「えー? やんないんですか、メロン割り。姐さんが折角用意してくれたのにー」

「やるわけ無いでしょおばか、素直に割る用のスイカ買うわよ。それに、”折角”の貰い物なら、大事に食べるべきでなくって?」

「――っ!? まさか姐さんが望んでいたのは、この考え違いを見破る思考力を養う事……!? 『使い方次第』とは、この事だったんですね……!」

「じゃ、セイちゃんこの一番おっきいヤツ貰ってくねー」

「あっ! セイちゃんズルいよー! それ私が欲しかったのに!」

 

 謎のショックに打ち震えるドロップスティアーを完全に放置する事に決めた五人は、砂浜に散らばったメロン達――ちゃっかり六個、人数分だった――を拾い上げていく。

 たった今の事態は何もかもよく分からなかったが、先輩からの有り難い差し入れだったという事にする。そう決めて、全員がメロンを回収していく。

 そうして六人は、スイカ割りをしようと思ったらメロンを手に入れたという、棚からぼた餅・ワープ進化的な得をした。

 

  ◆  ◆  ◆

 

「スイカ割りでも自分は負けませんよー! 行きま――」

「――ティアちゃんさんや。今()()()ね?」

「ど、どうしたのセイちゃん!? なんか影からズアッて来たけど!?」

()()()()()()()()()を付けてた。……言った筈だよ? もう読み負けない、ってさぁ……」

「エル」

「イエース!」

「ぎゃああーーーっす!」

「……おばか……」

 

 その後。改めて全員が普通にスイカ割りを楽しもうとする中、平然と不正をして見破られたバカ娘が”怪物”コンビによって再び海に放り投げられたりしたが、それもまた青春の夏を彩るのどかな一幕であった。

 




South SUNAHAMA……醒めちまったこの合宿に……暑いのは……ウマ娘達のRUNNING……

遊びは全力で取り組んでこそです。
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