「っしょあー! 完全復活、パーフェクトドロップスティアーですー!」
「うるせぇぞだあほ。室内では声に音量スライダーを付けてこい」
ライスシャワーとの再会から翌日。ドロップスティアーはトレーナー室へ入室と同時に、開口一番クソデカボイスをかました。
名入はきっちり一日で気持ちを切り替えてきた事に安堵しつつ、これを機にちょっとぐらいは大人しくなってくれりゃ良かったのにと、耳を抑えながら思った。
「いやぁ、聞いて下さいよトレーナーさん! 昨日、ライスさんに会って励ましてもらったんですよ! もう百万人力ですよねこんなん! おかげで今の自分は怖いモン無しですよ!」
「あん? お前、ライスシャワーと話出来たのか。ムダにツイてんな、お前」
そしてドヤ顔でドロップスティアーは昨日、ライスシャワーと出会った事を名入に話す。それに対し名入は、皮肉も忘れて巡り合せの強さに素直に驚いた。
名入にとって、ライスシャワーは理想のウマ娘の一人である。データ信者たる名入が、実績や能力以前の所で純粋に好んでいるウマ娘だ。それに加えて、ドロップスティアーが神格化している彼女に相談に乗ってもらったと思えば、この
”悔しい”という気持ちへの相談相手として、ライスシャワーに匹敵するウマ娘はそう居ないだろう。そういう意味では、このウマ娘の悪運が羨ましいまであった。
「それでそれで、いつでも話し相手になってくれてもいいって連絡先まで交換出来て! もう感無量ですよね、あっはー!」
「うるせぇー……ガチでうるせぇー……いつものバカ笑いが三割増しでうるせぇー……」
神戸新聞杯での調子が嘘の様に無くなり、完全に調子に乗っているドロップスティアーに、名入はなんかもうげんなりしていた。無駄な手間暇もかからず調子が戻った事は良い事だったが、極端が過ぎる。
このまま喋らせ続ければ、再びいつぞやのライスシャワー礼賛が始まってしまう。実際にあった過去からその事態を予測した名入は、会話の主導権を強引に握る事にした。
「おい、だあほ。ムダに元気になったのは良いが、神戸新聞杯の振り返りをさせろ。そしてそのクソうるせー声は俺から距離を一ハロン置いてから出せ。わかったな?」
「む。……距離はともかく、レースの反省は確かにしなきゃですね」
後回しにしていた神戸新聞杯についての反省会。レース当日も含めると丸二日後回しにしていたそれは、極めて重要事項である。ド正論を受けたドロップスティアーは、流石に落ち着きを取り戻した。
名入の正面の椅子に座り、机越しに向かい合う。負けた理由と得た情報を考え、これから先どうすればいいか、方針と対策を決めなければならない。
何も考えず全力でトレーニングしてレースするだけで勝てる状況ではない事を、先日のレースではこれ以上無い形でハッキリと突き付けられたのだから。
「まず、お前の敗因だが。コレはハッキリしている」
「どーせ『お前が弱いのが悪い』でしょー? はいはい、知ってますよーだ」
「いや、違う。今回お前が負けた理由は、
「へ?」
ドロップスティアーはその言葉に、思わず名入の顔を二度見するぐらいに驚いた。
先日の神戸新聞杯は、完敗も完敗だった。こちらが考えた作戦は、キングヘイロー側の対策によって完全な直線での実力勝負に持ち込まれてしまった。
直線に入れば勝つ、だからコーナーで負けない仕掛けをされた。その結果、圧倒的な能力差で置き去りにされた。ドロップスティアーはそう考えていたのだが、名入の見解は異なる。
「
「――え?」
「より正確に言えば、俺はあの時
「……はいぃぃぃ!?」
普段の態度から考えられない殊勝な答えかと思えば、凄まじい事実を名入はぶっちゃけた。
レース前、名入は確かに『全力で負けてこい』とは言ったが、キングヘイローを好きに走らせない作戦を提案していた筈だった。不足している現状で、最適解がこれしか無いとも言った。
にも関わらず、全てが終わった今。いけしゃあしゃあと名入は、最初から自分が敵だったと言い切ってきた。
「ど、どーゆー事ですかぁトレーナーさん! ってかアレで自分がどんだけ凹んだと思ってんですか! ライスさん居なかったらあと三日はグダグダだったと思いますよ自分!」
「うっせーなー、お前が今更こういう負けで凹むとは思わなかったんだよ。それに、作戦ミスっつっても
「……ますます意味がわかんないんですけど……?」
ドロップスティアーが敗色濃厚のレースで凹む事は、名入の想像外の出来事だった。故に多少は罪悪感を感じていたのだが、ドロップスティアーを信用していたからやった事でもある。
負けても経費として割り切れる、ウマ娘らしくない
しかし最終的には自分も納得して実行した様に、ドロップスティアーには今回の作戦の”間違い”が分からない。最終コーナーで大外を回るというキングヘイローの対応が無ければ、作戦は通っていた筈なのだから。
「まず、作戦の概要は間違ってない。キングヘイローを後方に抑えて、最終コーナー以降で仕掛ける。こうしなきゃ、勝率は完全なゼロだ。だが、俺は意図的にお前に
「ご、誤解……?」
「あの作戦は共同通信杯のエルコンドルパサー戦とほぼ同じ流れだったが、
キングヘイローに仕掛けた今回の策は、エルコンドルパサー戦の流用だ。これは先行を許せば確実に負ける相手に対し、ドロップスティアーが取れる作戦としては最善に近い作戦である。
しかし、名入が意図的に隠蔽した二つの要因。それにより、ドロップスティアーは生まれて初めて本気で悔しさで落ち込み、自分がどうしていいかわからなくなる程の敗北を味わった。
それを聞かされて割とドロップスティアーはガチギレしそうではあったが、ともかく最後まで説明は聞く事にした。そして言い分を聞いた後に、震脚をぶち込む事を考慮し始めた。
「敗因の大本は、コースだ。共同通信杯と神戸新聞杯は、立地が違う」
「…………いや。当たり前じゃないですか」
「その”当たり前”に落とし穴があんだよ」
負けたのは走るコースの違いのせい。何かと思えば、とんでもない肩透かしの内容に、ドロップスティアーの怒りは一気に萎んだ。
共同通信杯は東京レース場、ドロップスティアーが散々走って予習してきた場所である。全レース場で二番目に長い最終直線という超絶な不利があっても、あれこれ奇策や武器を使う事で好走してきた場所。
神戸新聞杯は阪神レース場、初めて走る右回り・平坦なコース。合宿の最中に座学を挟んでいたとはいえ、走った事の無い場所というだけで不利だった戦場である。
だがそんな事は、ドロップスティアーとて事前に分かっていた事だ。それのどこに、”誤解”とやらが発生する余地があるというのか。
「共同通信杯と神戸新聞杯で最も異なるのは、距離だ。1800メートルと2400メートル、この距離の違いがどんだけ遠いか、青葉賞とダービーでお前はよく知ってんだろ」
「……いや、そりゃ分かりますけど……」
「そして今回の落とし穴は、
走るコースだけでなく、距離も違う。そんな事もやっぱり言われるまでも無い、当然の事だ。
神戸新聞杯を走る以前より、単純な距離の違いだけではなく、スタート位置・坂の位置・コーナーの角度に至るまで、ドロップスティアーは散々にコースのレイアウトを教えられてきた。今更そんな当たり前の事を重ねて言われても、逆に困る。
しかしドロップスティアーはこの距離の差に、今回の作戦の
「お前、最後に脚残んなかったろ。その一番の理由は、
「……ブ、ブロックの距離……?」
「勘任せっつっても、お前のブロックは他に出来るウマ娘が居ないレベルの異常技術だ。脅迫マーク以上に、お前はあのブロックで神経を使う筈なんだよ」
ヤマ勘ブロック。ドロップスティアーの武器であり、レースにおいて非常識な技の一つ。
音への過敏さによって誰よりも速くスタートを決め、狙ったウマ娘の前を取ってから自分の減速に強制的に付き合わせる、先行策殺しと言える技。しかしこの技は、真っ当な技術で無いが故の弱点がある。
見えない背後を走る相手に対し、完璧に合わせる。意識をし続ける。いつライン移動をされても即時に反応すべく、勘をフル稼働させ続ける。そんな芸当をして、
「エルコンドルパサーに仕掛けた時は、コーナー以降の直線だけでやったからマシだった。だが今回は、
「……そんな疲れるんですか、あの技?」
「……自覚が無ぇあたりお前の異常さは分かるが、間違い無ぇよ」
神戸新聞杯のスタート地点は、ホームストレッチから始まる。そして今回ドロップスティアーは、キングヘイローの先行策を封じるべく、その最初の直線からブロックを始めた。
そして速度を上げればブロックを躱しやすいコーナーでも続行し、さらに第三コーナー直前のバックストレッチの終わりまでブロックに徹していた。これは雑に言えば、
元々強者のプレッシャーを受ける事を前提とするこの技術は、脅迫マークよりも神経を費やし疲れやすい技だ。しかし名入はその事実を伝える事無く、そのままやらせた。
「お前は序盤から中盤まで脚を抑えつつキングヘイローを抑え込んだつもりだった。だがそれ以上に、神経に
「……あの……なんで教えてくれなかったんです、それ……?」
「教えてもお前が勝てる筋がほぼ無かったからな。余計な先入観無しでやらせた方がマシと判断した」
「トレーナーさんのばかぁー!!」
ドロップスティアーは名入に大声で怒号した。今回の悔しさをぶつけるべき相手はコイツしか無いと確信したから。
実際に使う自分が技の弱点を把握出来てなかったのも悪いのだが、まさかレース前から裏切られていたとは。名入との間に生まれかけていた信頼関係は、割り箸の如くあっさり折れた。
ちなみに名入は不要な信頼を求めていないし、ドロップスティアーも名入の非情さは分かっているので、互いにダメージはあまり発生していない。
「それを踏まえりゃ、第一コーナー辺りでブロックやめて抜かせて、マークに切り替えるのが最善だったって感じだな。むしろあんな距離ずっとアレやってて、疲れた自覚ナシのお前がおかしいだけだ」
「…………」
「おいやめろバカ。無言で立って脚上げんな。まだ話の途中だ」
「……二つ目の誤解があるんですよね? トレーナーさんが知ってて、黙ってた」
「ああ」
「もう撃っていいですか?」
「やめろ」
震脚スタンバイモードに入ったドロップスティアーを、名入は冷や汗交じりに静止する。
まともなアスリートなら、『負けてこい』どころか『最初から間違った作戦と分かっていた』と言われて受け入れられる訳が無い。その点ドロップスティアーは無言で脅迫しているが、激怒して掴みかからないだけまだ理性的な対応と言えた。
しかしまだ話は途中である。二つ目の敗因・誤解。ドロップスティアーは自分で考えても、まだそれが分からない。なので、一旦
「二つ目は、最終直線の
「……は、はぁ……? じ、”実質的”……?」
再び、意味不明な言葉が飛んでくる。
阪神レース場・外回りの最終直線は長い。しかしその距離は476メートル、東京レース場の525メートルに比べれば短い。その辺りの計算もして、ドロップスティアーはキングヘイロー相手に仕方ないとはいえ早くタイミングと速い加速のスパートに踏み切った。
しかし、”実質的”というのがさっぱり分からない。この短縮された50メートルに、一体何の誤解が発生するというのか。
「お前が東京レース場で好走してきた要因の一つは、
「
「ああ。だが阪神の最終直線を思い出してみろ、坂はどこにある?」
「……ゴ、
そこまで自分で暗唱して、ドロップスティアーは顔を引き攣らせて名入が教えなかった”誤解”を理解してしまった。
東京と同じく末脚勝負となる、ロングストレート。しかし阪神レース場の最終直線は、自分にとって
「阪神は最終コーナーからその仁川の急坂まで、ずっと下りだ。つまり、
「……と、東京と、
東京レース場の最終直線は確かに阪神より長い。しかし、早仕掛けしてきたドロップスティアーが先頭を取れたのは、
どんなウマ娘も、レース終盤の坂で加速し辛い。故に東京レース場での最終局面は、コーナーを抜けて坂を凌いでからの最高速勝負となる。
しかし阪神では、坂の前に
「緩く長ぇ下りで加速出来るあのラストは、お前にとっちゃ不利にしかならん。お前が
「あの……実質的な長さ、って……」
「東京のラスト。他のウマ娘はコーナー直後の坂で脚が鈍るが、お前はろくに気にせん。極論を言うなら、東京での最終直線はお前にとっちゃ
「……うそぉ……」
阪神レース場の起伏は、ゴール前の仁川の急坂以外ほぼ無い。そしてその手前には、急坂を上る為の加速区間が十分に用意されている。
東京レース場でドロップスティアーが先頭に立って押し切ってきたのは、コーナー直後の坂でろくに消耗せず、息を入れられる程の余裕がある場所だったから。しかし阪神の最終直線は、最後の急坂を押し切れるだけの下りという余裕が存在する。
同じ上がり勝負となりやすい東京と阪神での”誤解”とは、そのコース構造の実態にあった。
「……つー事で。この二つの見落としと誤解を掛け合わせた結果、お前は全力で負けた。上手く行きゃ、キングヘイローを急坂で落とせる可能性はあったがな」
「…………怒っていいです?」
「仕方ねーだろが、
意図的な情報隠蔽によって負けたドロップスティアーは、ぴきぴきと青筋を立てていた。
確かに自分は自分自身の技の性質を把握出来ていなかった。阪神レース場について学んでおきながら、その実態の理解が浅かった。しかしそれを事前に伝えないのは、本当にトレーナーとしてどうなんだ。
やはり一発
「そんな状態で、
「……はい?」
名入の言葉に、上げようとしていた腰を止めた。
キングヘイローにはぶっちぎられ、初めて掲示板入りを逃した。そんな状態で『好走した』と言われ、思考が少し止まった。
いくら不利要因を
「確認しとく。お前、キングヘイローをブロックしてる途中、
「……? え、ダメでした?」
「最終コーナーでキングヘイロー抜く時――いや、その前から。お前、色々考えてたろ」
「……なんで分かるんです?」
「……やっぱか……」
名入は神戸新聞杯は最初から負け戦だと割り切っていた。どれだけ不利だろうと、京都レース場の構造を把握する為のリハーサルと思って出走させた。
そして意図的に誤解を与え、どれだけ作戦通りにいっても最終直線の勝負で負けるだろう。そう考え、そして実際そうなった。
しかし、レース中に
「お前、かなり前にフリースタイル・レースに出た時の話したろ。そん時、『なんか自分が有利なレース展開に勝手になったんですよねー』、とか抜かしてたな?」
「ええ、まぁ……なんか言い方にトゲがありません?」
「そこはどうでもいい。……これまでお前は、事前に決めた作戦通りに迷わず行動してきた。だが、前のレースで確信した。今のお前は、
名入はそう言い、間抜けな顔を晒す目の前のウマ娘を見やった。
トゥインクル・シリーズも知らない、レース外からやってきた、坂に強いだけの野生のウマ娘。レースについて全く知識を持ち合わせず、誰よりもこの世界に疎い筈だった彼女は、
その片鱗は、ダービーの時からあった。いかに事前に多量の予習をし、禁止していた武器を許可したと言っても、彼女は事前の作戦も無しにダービーを走り、そして二着を取った。
奇策ありきで走ってきた彼女にとって、この結果は競走能力の明確な進歩を表していた。
「長いブロックで消耗しながら、お前は作戦外のアドリブも入れていた。仕掛け所一点読みだったこれまでと違い、想定外の事態にもマシな判断をした。正直、嬉しい誤算だったぜ」
「……あれ。もしかして、一応褒めてんです?」
「……単純な勝ち負け以外の所で、今回のレースはデカい収穫を確認出来た。それは事実だ」
名入はドロップスティアーの言葉を、否定せずはぐらかす。しかし事実上、認めているも同然だった。
状況を見て判断し、現場でレース展開を把握して作戦を修正出来る様になった。精神を使い消耗するブロックの最中、想定外の事態。そこでレース的な判断が出来るという事は――
「対応力は、そのまま
これまでのレースでは、一点読みの綱渡り様な勝ちばかりを目指してきた。しかしそれはドロップスティアー本人のレース能力が低かったが故の事だ。
その事情が変わった。名入の作戦を迷わずに実行するだけしか勝ち目が無かった状態から、脱却しつつある。レース中の思考力という、擬似的なスタミナも付いていた。
それが確認出来た事が、今回名入にとって予想外の収穫だった。
「でも、これからどうすんです? 『足りてない』の、どーすんですか?」
「夏合宿ん時言ったろ、『挑む直前までなんも知らんまま従え』って。何も考えず、言われた通りにトレーニングこなせ」
「…………」
「……メチャクチャ不満そうな顔してるトコ悪いが、これは実際お前だけの問題じゃない。
「へ?」
レースの反省は終えた。その上で収穫はあった。ならばこれからどうするのか。
そこで相変わらず名入は現状維持――なんの疑問も抱かずトレーニングする方針を変えないと言ったが、一つ気にかかる単語を零した。
「菊花賞で当たる”三強”連中の実力。こいつがわからん事には、最終的な作戦が具体的に立てられん。……キングヘイローは京都新聞杯にも出る、っつってたんだよな?」
「『全部勝つ』って言ってましたよ。大マジな顔で」
「トライアル勝ったっつーのに、贅沢な話だぜ。……そこでセイウンスカイやスペシャルウィークとも当たるだろ。アイツらがブチ当たった時のデータ見て、菊花賞でどう走るか判断する。だからまだ勝つ作戦を考えるにゃ早ぇんだよ」
菊花賞で勝つ為に必要な作戦。これまで相手やコースを分析して戦ってきた名入達にとって、夏で”三強”達がどこまで仕上がったか、そのデータは必須だった。
しかしこればかりは、実際にレースで走る姿を見ない限りはわからない。キングヘイローの強さについては今回のレースで思い知らされたが、京都レース場という場所でどれだけのパフォーマンスが出せるか、正確な情報が欲しい。
菊花賞の前哨戦、京都新聞杯。そこで、全てが決まる。
「――ん? ……あの、トレーナーさん」
「んだよ」
「……『足りない』って……自分の仕上がりの事だけじゃ、なかったんですか?」
「あん?
「トレーナーさんのばかぁー!!」
「何でだよ!?」
ドロップスティアーが凹んでいた原因の一つ、”不足”。本人はそれを、純粋に自分の力の事だけだとばかり受け取っていた。
合宿前半での苦戦が響き、”三強”と戦える状態では無いと。レース後にこの先勝てるかどうか不安となったのは、力不足と言われた事で自分に自信が持てなかったからでもあった。
◆ ◆ ◆
「――がーーーッ! マジかよオーーーイッ!?」
「うわ!? な、なんですかトレーナーさん、急に――あれ、なんかデジャヴなんですけど」
「マジかよー! マジで
反省会が終わった後日。再び菊花賞に向けてトレーニングをしている最中、名入は絶叫した。
聞き覚えのある絶叫に、ドロップスティアーは一旦脚を止めて名入の元へやってくる。派手な絶叫を上げた名入は、パソコンの画面を眺めて顔を大きく歪ませていた。
「今度は何あったんですか。今度こそ絶叫コンテスト開催決定したんです?」
「うるせー! 想定外の事が起きた、っつーか起きるんだよ! あーあーあー!」
「……なんかトレーナーさん、前も同じ事言ってましたよね」
またなんか言い出したコイツ。神戸新聞杯の前にも見た名入の取り乱す姿を見て、ドロップスティアーは割と冷たい感想を抱いていた。
珍しい光景と言えど、二度目ともなれば流石にもう慣れる。これから何か、名入が予想していなかった”想定外”の事が起こるのだろう。しかし、何を取り乱す事があるというのか。
ドロップスティアーはこのまま菊花賞に直行するし、”黄金世代”とレースで当たって負け確定となる様な、最悪の展開はもう無い筈なのだが。
「京都新聞杯!
「――は?」
「アイツ、
「……え、えぇ……? きょ、京都大賞典……?」
「スペシャルウィーク達を回避出来る、
今回、名入が取り乱した”想定外”。京都レース場を予習しながら、同時に京都新聞杯を回避出来る唯一の、
GⅡ・京都大賞典。シニアクラスの強者達が出走する格上のレースを選ぶ事で、セイウンスカイは
本番前に信頼度を投げ捨てていくトレーナー
史実98年、セイウンスカイの前哨戦は京都大賞典でした。
もう少し短い説明パートにしたかったんですが、色々あって短縮出来ませんでした。