「えっ!? グラスさん、復帰レース決まったんです!?」
「はい。随分と時間がかかってしまいましたが~……もう、脚は大丈夫ですので~」
「もう大丈夫なんですよね!? 良かったー! やったーやったやったーっ!」
「そ、そこまで喜ばれると、少し反応に困りますね~……」
ある日、ドロップスティアーは両手を上げつつ、全力でその場でジャンプをしていた。世代屈指の無意味な跳躍力により、その高度は無駄に高かった。
春頃に骨折してしまった、グラスワンダーの復帰。これはドロップスティアーにとって、あるいはグラスワンダー本人と同じぐらい喜ばしい事だった。
「だってだって! やっとですよ! やっと走れる様になったんですよね!? ベッドの上にいるグラスさんとかもう見たくないですよ自分! いやマジで! ホンットにやです!!」
「……そ、そこまでですか~?」
「そこまでですっ!!」
あまりの勢いに困惑するグラスワンダーに対し、ドロップスティアーは全力で断言する。
ドロップスティアーは身近な知人の怪我や事故、そして病院に対し極めて強い嫌悪感を抱いている。そもそも彼女が”ヤマ娘”として致命的に歪んだのは、事故による両親の喪失が原因だ。
瀕死の母親を前に、何も出来ず助けられなかった。全てを喪失し、虚無の様な想いを抱いて入院した。故に、彼女にとって近しい者の入院という二連コンボは、限りなくトラウマを刺激する事象だった。
だからグラスワンダーの入院の時には、かつてない程の恐慌を見せたのである。
「で、で! どのレース出るんですか! 応援しに行きますよ自分!」
「それは――」
「――ふっふっふ……グラスばかり見ていて、アタシの事を忘れてはいませんか!?」
「! この、別に孤独でもなんでもないシルエットは……まさかっ!」
「そう! 世界へ羽ばたく怪鳥――」
「エルさんじゃないですか!」
「……何か打ち合わせでもしてたのですか、二人とも?」
会話を遮る様にいきなり後ろからやってきたエルコンドルパサーに対し、ドロップスティアーはやたらテンポの良い掛け合いで迎えた。
当然だが、二人は打ち合わせも何もしていない。ヤマ勘による感知は日常だと集中しなければ働かないので、エルコンドルパサーの存在には声をかけられるまで気付かなかった。
が、この二人は元々普段のノリの波長が近い。なので不意に声をかけられても、即興の茶番劇が出来た。
「……で。エルさん、いきなりどうしたんです?」
「私の復帰戦は、毎日王冠。……そこで、エルとも走るんですよ」
「え、マジですか。復帰レースでいきなり最強決定戦すんですか」
「当然! エルはこの瞬間をずっと待っていたんデスからね!」
グラスワンダーの復帰戦は、GⅡ・毎日王冠。そこでエルコンドルパサーもまた出走する事を決めていた。
現状無敗のマイルカップ覇者・エルコンドルパサー。彼女にとって最大の心残りは、そのマイルカップで自身の親友でありライバルである”怪物”・グラスワンダーと対決出来なかった事。
半年前のニュージーランドトロフィーで公式初対戦を迎える筈だったライバルと勝負する事は、エルコンドルパサーにとって悲願の一つだった。
「……っていうか、毎日王冠っていつのレースです? 聞いた事無いレース名なんですけど」
「次の十一日ですね。……まぁ、ティアちゃんが知らないのは、無理もありませんか」
「へ?」
「ふふん! エル達が挑むのは、
「……グラスさん達もそんなん出るんですか!?」
毎日王冠。それはクラシックシニア混合の重賞レースであり、基本的にシニアクラスの重賞ウマ娘達が集う場所だ。
当然、シニアクラスのウマ娘達は強い。純粋なレース経験も多く、クラシック期のウマ娘とは完成度が違う。出れるから出るという、雑な理由で挑むべきレースでは断じて無い。
実際、今回の毎日王冠に出走を決めているクラシック期のウマ娘は、グラスワンダーとエルコンドルパサーの二人だけであった。
「? ”も”、というのはどういう事ですか、ティアちゃん」
「セイちゃんさんもクラシックシニアのレース出るらしいんですよねー……えーと、確か京都大賞典って名前のレースでしたっけ――あれ?」
「どうかしたんデス、ティア?」
「……
二人と同様に、シニア混合レースに出走するセイウンスカイの事を想起したドロップスティアーは、思わずスマートフォンのスケジュール表を見る。
十月十一日。その日は京都大賞典が行われる日であり、名入が『セイウンスカイが何やらかすか実際に見てくる』と言って、ドロップスティアーに急遽休みを与えた日でもあった。
同じ日に、同じく格上に挑戦する友人達。ドロップスティアーはとんでもない偶然があったものだと思いながら、平然とシニアクラスに喧嘩を売りに行く三人の強者っぷりに少し引いていた。
「……セイちゃんがそういったレースに出るというのは、少々意外ですね~」
「菊花賞を前にやる気十分、という事デスね!」
「トレーナーさん曰く、スペさん達との対決を避ける為だろって言ってたんですが……それにしたって、自分から強い相手に挑みに行くとかスゴいですよねぇ」
「……? 強い相手に挑みに行くというのは、当たり前の事じゃないんデスか?」
「あっダメだ、強者すぎて価値観が合いません」
こんなに自分とエルさんで意識の差があるとは思わなかった。いや結構あると思ってはいたが、しかし格上挑戦を何一つ疑問に思わないエルコンドルパサーの言葉で、ドロップスティアーはレベルの違いを再確認した。
実際エルコンドルパサーはこれまで無敗の、マイル戦では世代最強のウマ娘だ。グラスワンダーぐらいしか対抗バがいないんじゃないかとすら言われたこのウマ娘に、最早クラシックレースという枠組みは狭すぎる。
そしてそのグラスワンダーも、復帰戦でいきなり格上レースを挑む有様。”黄金世代”は伊達では無い、そう考えたドロップスティアーはちょっと距離を感じてしまった。
「ティアちゃんは、セイちゃんのレースを見に行かなくて良いのですか? 菊花賞で当たる以上、私達のレースを見るより優先すべきだと思うのですが~……」
「自分がセイちゃんさんのレース見て、なんかわかるワケ無いじゃないですか。小難しい
「……ティアとトレーナーさんは、ホントに変わった関係デスよね……」
見るからに不機嫌そうな顔で自分のトレーナーの事を語るドロップスティアーに対し、グラスワンダーとエルコンドルパサーは揃って微妙な表情を浮かべた。
ドロップスティアーというウマ娘は、行動こそ滅茶苦茶だが性格は明るく温厚である。そんな彼女が嫌そうな顔をするのは、ほぼ自分のトレーナーについて話す時だけだ。
ウマ娘にとって担当トレーナーは、一心同体・一蓮托生のパートナーである。二人三脚でトゥインクル・シリーズを走るにあたり、お互いを信じ合うという事は当然の事だ。
にも関わらず、ドロップスティアーは全くと言っていい程自分のトレーナーを良いように話す事が無い。言及するだけで毎回露骨に顔を歪めている。
彼女の変則的な唯一無二のレース戦術は、トレーナーと綿密に打ち合わせた上で成り立っている代物の筈だ。にも関わらず、信頼関係という物がまるで見えない。本当に見えない。
「まぁ、そんなワケで。ばかトレーナーさんがセイちゃんさんトコ行くから、丁度自分も休みなんですよ。だから絶対、二人の応援に行きますからね!」
「ふふっ。尚更、負けられなくなりましたね、エル?」
「ブエノ! でも、勝つのはエルデスよー!」
ともかく、ドロップスティアーはグラスワンダー対エルコンドルパサーという、間違いなく世紀の一戦の日に偶然完全なオフを与えられていた。
このレースを観戦する以上に有意義なオフがあるだろうか、いや無い。ドロップスティアーはとんでもなく久々に、完全な観客気分でレースを見に行く事を決定した。
幸い、毎日王冠は東京レース場――府中にあるトレセン学園に限りなく近い場所で行われる。遠くのレース場に行くべく荷物をまとめたり、行き帰りの便について考える必要は全く無い。
「……しかし。そう易々とは勝たせてもらえない、でしょうね……」
「……デスね」
「へ? なんか、気になる事あるんですか?」
しかし一転して、唐突に最強怪物コンビの顔が
先程までは互いをライバル視し、互いに勝つと言い合っていた。が、グラスワンダーの『勝たせてはもらえない』という言葉。これに対し、エルコンドルパサーも同意している。
つまり、この二人は
「次の毎日王冠には、
「……それでも、勝つのはエルデスけど、ね……」
「え、二人がそこまで言うレベルの相手居るんです? そりゃシニアクラスの方々が強いだろうってのはわかりますけど……」
二人して口を重々しくするのを見て、心底ドロップスティアーは疑問に思った。
そりゃシニアクラスのウマ娘は強いに決まっている。が、それを承知の上でこの二人は毎日王冠に出る事を決めているし、そしてこの怪物コンビは間違いなく今世代最強クラスのウマ娘だ。
グラスワンダーは怪我明けの身だが、ジュニア期では歴史上最強と言われた。エルコンドルパサーは無敗のまま、マイルカップを制した。正直ドロップスティアーには、この二人が負ける所が考えられないまである。
「……年明けから無敗で、現在五連勝。しかも前走で
「――はい?」
グラスワンダーが言った言葉に、ドロップスティアーは耳を疑った。
今年無敗で五連勝。宝塚記念――上半期ナンバーワンを決めるとされている、最高峰のGⅠレースの勝者。そんな夢みたいな、そして相手として想定すると悪夢の様なウマ娘。
なんだそれ。どんな化物だ。グラスさん達の勝負楽しみー! と結構呑気していたドロップスティアーも、その内容には流石にビビった。
「エルの目標は、世界最強。だから
「私とて同じ事。……たとえ、ブランクがあろうと。只の復帰戦で済ませるつもりなど毛頭ありません」
「……あ、あのぉー……二人がそこまで覚悟するレベルの方って、一体……?」
急にヤマ勘が作動するレベルで圧を発し始めた二人に、ドロップスティアーは顔を引き攣らせながら質問した。
これまでのドロップスティアーに、シニアクラスのレースや現状を見る余裕は一欠片も無かった。”黄金世代”と戦うにあたり、限界ギリギリのトレーニングでひたすら地力と作戦を積み上げていたが為に、宝塚記念という大レースの事すら全く耳に入れていない。
だから今最も世間を騒がせている、そのウマ娘の名を知らなかった。
「
「……スペさんに?」
シニアクラスになってから無敗。宝塚記念を制し、今最も話題となっているウマ娘。
”異次元の逃亡者”、サイレンススズカ。それが怪物達の次戦の相手だった。
◆ ◆ ◆
「えっ、スズカさんの話? 急にどうしたの、ティアちゃん」
「いや、なんかグラスさんとエルさんが次のレースで当たる”最も恐ろしい相手”って、すっごい殺気立ってて……で、なんかスペさんに聞くのが早いって言われたんですけど。何でです?」
「そりゃそうだよ! スズカさんは私の憧れで、同じ部屋の先輩だもん!」
「そ、そうなんです?」
グラスワンダーに言われた通り、ドロップスティアーはスペシャルウィークの元へ訪れ、そして件のサイレンススズカという先輩について聞いてみた。
が、思った以上に勢い良く応えられた。目を輝かせながらいつもより一回りは大きい声を出し、明るい顔を浮かべるスペシャルウィークの反応は、予想外の物だった。
スペシャルウィークのルームメイトにして、憧れの先輩。一体どういうウマ娘なのか、その勢いと熱量により少し興味が湧いてきた。
「スズカさんはね、凄いんだよ! 最初っから飛ばして、でも最後で思いっきり突き放すの! それでそれで、走り終わった後も本当に気持ち良かった、ってクールな顔してて! 私もスズカさんみたくなれたらなぁ……なんて、思ったりしてねっ!」
「お、おおう……」
掛かっている。とんでもなく掛かっている。これまで無い程に熱の入ったスペシャルウィークの様子に、ドロップスティアーは圧倒された。
スペシャルウィークにこんな一面があるとは。自分にとってのトウカイテイオーやライスシャワーの様な存在なのだろうと察し、ドロップスティアーはなるべく余計な言葉を発しない様に、しかし必要な質問だけする事にした。
「最初っから飛ばすって事は、作戦は逃げの方なんです?」
「そうだけど、そうじゃないの! スズカさんは、大逃げが得意なんだ! しかも、
「……えっ」
スペシャルウィークの語った言葉に、ドロップスティアーは耳を疑った。
大逃げという作戦については、ドロップスティアーもよく知っている。何せ今の自分の走行フォームの原型がメジロパーマーという大逃げウマ娘の走り方であり、副次的にその策の性質も教え込まれた。
最初から全力で先頭を走り、道中で莫大なリードを取って後続との距離を惑わせる。それにより、ラストスパートの仕掛け所を誤らせるという作戦だ。
しかし、大逃げは原則最後までスタミナが保たない。ただでさえ他者とペースを合わせず走る逃げという作戦は、スタミナを浪費する。そして大逃げはそれを越え、最初からスパートをかけるのに近い無茶をするのだ。
最終直線での勝負こそが王道であるレースの世界で、そのスパート分を最初に稼ぎ、最後には垂れながらゴールする。それが大逃げという作戦の筈なのだが――
「五月末にあった金鯱賞も凄かったんだよ! スズカさん、GⅡなのに
「……ウ、ウソでしょ……?」
宝塚記念の更に一つ前、金鯱賞。そこでサイレンススズカは、重賞レースを本来ハイリスクである大逃げで大差勝ちするという、凄まじい走りによって観客達の度肝を抜いた。
一度前に出たサイレンススズカに対し、誰もが最後まで差を詰める事が出来なかった。レース開始から永遠に差が広がるかの様な、一人だけ別の次元を駆け抜ける様な走り。それ故に、”異次元の逃亡者”。
宝塚記念を勝った事で、彼女こそが今のシニアクラスの、そしてトゥインクル・シリーズ最強のウマ娘なのではないか。そう言われる程の強さであった。
「……なんか、とんでもない方なんですね……自分、グラスさんの復帰レースってだけで観に行くだけのつもりだったんですけど……」
「ティアちゃんも毎日王冠観に行くの? なら、一緒に行こうよ! 私も行く予定だったから!」
「あ、スペさんも休みなんですね」
「元々スズカさんの応援に行くつもりだったんだけど、グラスちゃん達の事も気になるし! うわー、楽しみだなぁ……!」
スペシャルウィークもまた、毎日王冠の日はトレーニングを休みにしてもらっていた。何せ一番の憧れの先輩と、友人二人が同時に出るレースなのだ。観に行かないという選択肢は存在しない。
こうして今年のダービー一・二着という何気にとんでもないコンビは、一般観客気分で一緒に当日観戦しに行く事となった。
◆ ◆ ◆
「うひぇー……なんか、とんでもない人の数ですねー……」
「スズカさんもだけど、グラスちゃんやエルちゃんもすっごい注目されてるからね……ほら見て、今日の人気表」
「サイレンススズカさんが一番人気、グラスさんが二番、エルさんが三番……グラスさんへの期待がスゴいですね」
毎日王冠・当日。GⅠレース並に観客がごった返している東京レース場にやってきたドロップスティアーは、スペシャルウィークから見せられた今日の出バ表の人気を見て、正直な所意外だなと思った。
サイレンススズカというウマ娘が圧倒的に人気なのは、小耳に挟んだレベルのドロップスティアーでも当然だとは思っていた。だが、エルコンドルパサーを抑えてグラスワンダーが二番人気というのは驚愕に値する。
グラスワンダーは半年の怪我明けで、レース自体も昨年末以来のウマ娘だ。十ヶ月間もレースに出ず、その復帰戦ではいきなり格上挑戦。その上で他のシニア級ウマ娘と、今年マイル最強を証明したエルコンドルパサーを抑えての二番人気。
それだけ”栗毛の怪物”への期待と人気は高い。それに対しドロップスティアーは、サイン貰っといて良かったーという、小市民極まり切った感想を思い出した。
「あっ、パドックだよ! スズカさんの枠は……二番だね!」
「九人中、エルさんは四番でグラスさんは六番か……うへー、キッツいなー」
パドックが始まり、ドロップスティアーは出バ表を見てついつい自分の立場でこのレースについて考えた。
毎日王冠は東京レース場・1800メートル。即ちドロップスティアーの主戦場とも言うべき立地であり、自然とこのレースの有利不利が分かる。
東京2000メートルと違い、1800メートルは最初のコーナーが緩く速度が乗せやすい。そして府中の坂有りのロングストレート前に少しでも内側を取るべく、最初に前目を取ろうというハイペースの初動が必然的に起こる。
九人という少人数のこのレースでは、長い直線での差し・追込による末脚勝負となりやすい。しかしそれを差し置いても、ゲート時点で内側を取っているというだけでこの
そんな状況で、肝心の格上の相手は内枠。自分なら負け確定のお手上げ状態だ。
(それでもエルさんとグラスさんなら、きっとなんとかしてくれるでしょ)
が、割と根拠の無い自信と信頼によってドロップスティアーはその想像を否定した。
そんな格上と走る事を決めたのは、他ならないあの二人なのだ。”怪物”と”怪鳥”、その強さと恐ろしさは自分が一番良く知っている。主に散々ボコボコにされてビビり散らかしてきた身体が。
サイレンススズカというウマ娘が強いのは間違いないのだろうが、それでもこのレースの二番・三番人気――対抗バは、グラスワンダーとエルコンドルパサーである。十全の状態のあの二人が負けるとは思えない、そう考えて――
《二番、サイレンススズカ。一番人気です》
「あっ、スズカさん出てきた! スズカさーん! がんばってくださーい!」
「――……」
「…………あ、あの、スペさん。あの方が、サイレンススズカ先輩、ですか?」
「うん、そうだけど……どうしたのティアちゃん、顔真っ青だよ?」
「い、いやー、その……
「え? ……スズカさん、別に怖い顔なんてしてないよ?」
だらだらと、ドロップスティアーの全身から冷や汗が吹き出る。
ヤマ勘は、自分と相手の実力差があればある程強く働く。そしてその勘が告げていた。
当のサイレンススズカ本人はレース前とは思えない程リラックスした涼しい顔をしているが、自分の勘は全力で叫んでいる。
――あれは。
《四番、エルコンドルパサー。三番人気です》
「エルちゃーん! ファイトー!」
「…………」
パドックの番が巡ってエルコンドルパサーが出てきた後も、ドロップスティアーの鳥肌は止まっていなかった。
顔を見せたエルコンドルパサーに対しても、きっちり勘は働いている。今日も彼女は強い。間違いなく強いと感じ取れた。
しかし。
(ヤ、ヤバ過ぎませんか、アレ……?)
ドロップスティアーの身体に、先程感じ取った恐怖と衝撃が未だに残っている。
自分が勝負する訳でも無い相手に対し、しかも軽い顔見せだけで。これだけ恐ろしいと感じた事は、初めての事だった。
(……い、いやぁ……グラスさん達なら、なんとか、してくれます、よね……?)
自分とあの二人は違う。自分が走れば必敗の相手だろうが、あの怪物コンビが負ける姿など想像も出来ない。
そう思っていながらも、ドロップスティアーは顔を引き攣らせて、先程まで抱いていた根拠の無い自信と信頼が揺らいでいる事を自覚していた。
……まるでラスボスのバーゲンセールだな……(冷や汗ダッラダラ)
この主人公にとってスズカさんは天敵なので、相対的に感じる力量差がデカいです。