プロローグ・その一
――ドロップスティアー。”黄金世代”と呼ばれる今年のクラシック戦線、様々な騒動と論議を呼んだウマ娘。
しかし、その背後にあった真相を、当雑誌・月刊トゥインクルは光栄にも
「いやー、実は六歳ぐらいの頃にですね。自動車事故に遭って、目の前でおとーさんとおかーさんが死んじゃったんですよー」
『あの光景は数え切れないぐらい悪夢として見たんですよねー』。自身の暗い過去をそう一見軽く話した彼女の笑顔には、隠し切れない確かな陰りがあった事を、インタビュアーである乙名史は見抜いた。
そして彼女の母親が、今際の際に残した遺言。『辛い事があっても、まけないでね』。幼少期からその言葉だけを支えとし、トラウマと常に向き合い生きてきた彼女にとって、その愛の言葉こそがレースにおける勝敗の異常な程の執着に繋がってしまった。
青葉賞で彼女が勝利者インタビューで言った事を、記者は昨日の事の様に思い出せる。『負けたくない以外に理由が要るのか』。その発言の裏にあった、文字通り命を懸けられた事による重みは、赤の他人でしか無い自分には想像する事すら
「まぁそれが行き過ぎてダービーじゃあんな事やっちゃったんで……ホントに今でも、スペさんや関係者の皆さんには申し訳なく思ってます。……ごめんなさい……」
論議の中心となった件のダービー問題において、トレーナーからの指示として行ったとされる自殺的な走り。彼女のトレーナーは未だに前言を撤回せず、それ故にトレーナーとしての責任が未だに追求されている戦法。
しかしあの時、トレーナーは『勝てるならやれと指示したが、本気にするとは思わなかった』とも言っていた。つまり彼女は、強く勝利を願い過ぎた余り自ら指示に従った。
『まけないで』、その母の遺言を守る為。命を懸けた言葉のままに、命を賭けて勝利しようとした。その事に対し、ドロップスティアーはスペシャルウィークにも謝罪したと言い、インタビュー中に無関係な記者に対してすら土下座をした。
しかし、件の彼女のトレーナーは未だに頭を下げてはいない。ウマ娘に頭を下げさせ、自分は何もしていない。思わず記者も憤りに走りそうになったが――かのトレーナーは、
「病院で目が覚めた後、自分もトレーナーさんに過去についてぜーんぶ教えたんですよ。そんでその後腐ってた自分に、トレーナーさんなんて言ったと思います? 『次の菊花賞は、絶対にお前が勝つ』、なーんて断言してきたんですよ? 笑っちゃいますよねー」
それを聞いた記者は思った。”論より証拠”、彼女のトレーナーは自らの行いを振り返り、彼女の過去を知り、戒めとした。故に彼は、
トレーナーは彼女の暗い過去を打ち明けられ、全てを知った。そしてその後、ダービーの様な事が二度と起こらない・起こさせないという覚悟を決めたのだ。それを菊花賞の勝利という形で、言葉無く示したのである。
事実、彼女が獲った菊花賞での走りは、ダービーとは一転していた。あの菊花賞において、
「で、菊花賞の作戦。アレ成功させる為に、トレーナーさんの謹慎終わってからめっちゃ頑張ったんですよね。『俺を信じろ』『難しく考えるな、お前は勝手に完成する』とか言われたんで、その後ぜーんぶトレーナーさんの指示に従う事にしたんですけど……ビックリするぐらい、夏はまともな練習に変わったんですよー」
重い過去を共有し、名入トレーナーはやり方を変えた。正当な走りと作戦を以て勝つべく、真っ当なトレーニングと戦略を組み立てる事にしたのだ。
記者も聞き込んだ限り、そのトレーニング内容に問題と言える部分は皆無だった。まるでトレーナーとしての原点を思い出したかの様な、走りの基礎を徹底的に見直して正すモノ。そして、その上で彼女の走りは変わった。
菊花賞という最も厳しい長丁場に耐え得るスタミナ・コーナーワーク・そして速さ。それらを得る為に、彼女のトレーナーは方針を一新した。そして実際に、彼女は菊の冠へ至ったのである。
「『別にトレーナー資格の剥奪はどうでもいい、だが俺には責任がある』。そうトレーナーさんは、すっごい真剣な顔して言ってましたよ?」
彼女のトレーナーは、
担当の暗き過去を共に背負い、在り方を考え直した。彼が行った・指示した事の全ての贖罪にはならないだろう。しかしそれでも、名入トレーナーは”トレーナー”の本懐として、菊花賞という大舞台で勝たせる事で、言葉にしないまま戒めを証明してみせた。
自分のウマ娘に栄誉の光を与え、自分は影に徹する。”沈黙は金”、その言葉通りに名入トレーナーは今も沈黙を守り続けているのだ。その果てに資格の剥奪を望まれようと、それすら己の責と厭わず覚悟して。
「ま、トレーナーさんの性格が悪いのは確かですけど。菊花賞で勝った後、ガラにもなく笑って『勝ってくれて感謝してんだよ』『お前が相棒で良かった』とか言ってて……
重い過去を乗り越え、二人三脚で掴んだ冠。
今や”黄金世代”の一角にまで登り詰めた彼女の苦笑の裏には、互いに寄り添った確かな歩みがあった事が伺えた。
◆ ◆ ◆
「――なん、っじゃこの記事ぁああぁあ!?」
時は菊花賞の直後、名入はトレーナー室で絶叫していた。約一週間前に発刊された”月刊トゥインクル”今月号を見て、天井を見上げながら思っくそ絶叫した。
名入はテレビや雑誌などのマスメディアという物を重要視せず、ろくに興味関心を抱かない。そんなモン見る暇があれば、趣味と実益を兼ねてレース映像を見た方が良いと思っている。なのでそういうメディアは基本シャットアウトしており、目も通さなければアポも受け付けない。
担当たるドロップスティアーというウマ娘も、別にメディアに顔を出す必要を感じていないと考えている事も相俟って、このコンビは殆どメディアを寄せ付けない事で有名であった。
「おはよーございやーす。あれ、どうしたんですかトレーナーさん? そんな顎外れた間抜けヅラしちゃって」
「どうしたはこっちのセリフだぁぁっ! ンだこの記事!? お前いつこんなん応じやがった! つーか逆アポって聞いてねーぞ何無断で行動してやがる!」
そんな事もあって、菊花賞というGⅠを獲った後も名入はテレビ・新聞・雑誌、それら一切の取材申し込みを知らぬ存ぜぬで貫き通し、その時間を全てドロップスティアーがラストで絞り出した末脚の考察に費やしていた。
しかし最近、学園の雰囲気がおかしい。より正確に言えば、名入を見る周囲からの視線がおかしい。そう感じた名入は、サブトレーナー時代に世話になっていた先輩トレーナーへ『何なんスかね最近』と相談し、そして無言で今月の月刊トゥインクルを渡された。
『良いウマ娘を持ったな』。そんな言葉と温かい目を贈られ、意味も分からず雑誌片手にトレーナー室に帰り、そして今雑誌を開いて絶叫。そこへ事態の下手人だろうドロップスティアーがやってきた。そんな状況であった。
「あはっ、今更気付いたんですかそれー? ウマッターとかじゃ軽くバズってたぐらいなんですけど、ホントトレーナーさんってメディア関連見ませんよねー。データキャラが聞いて呆れますよ」
「知るかボケ俺のデータにマスゴミはノイズなんだよ! つーか質問に答えやがれ、マジで何だよこりゃ!」
「何って……月刊トゥインクルにインタビューされに行っただけですが?」
「”だけ”じゃねーだろがぁ! お前この内容、
名入が絶叫してる様をドロップスティアーは嘲笑うかの様に、いつもより三割増しで憎たらしい笑顔を浮かべている。その顔を見て、名入はこのインタビュー記事が目の前のウマ娘により
このインタビューの内容に嘘は無い、記事のドロップスティアーも嘘は言ってない。だが、
月刊トゥインクルの乙名史という記者が、世間的には悪人と呼ばれ続けている名入をわざわざ庇う様に良く語るメリットは無い。つまりこのインタビューは、勝手に逆アポを取ったドロップスティアーの手によって半ば
「別に良いじゃないですか、ウソは一個もついてないですよ自分。まぁ、ちょこっと? 乙名史さんに良い風に取られる様には言葉を選びましたけど?」
「選んだ上に並び替えてんだろーがぁ! 美談っぽく仕立てやがって、どんな三文記事だよ小っ恥ずかしい!」
「でもウソは一個もついてないですし……」
「お前は正直者であっても詭弁家なのは知ってんだよ、だあほー!」
ドロップスティアーは嘘をつかないが、故意に相手を騙す悪知恵はある。その悪知恵と屁理屈で以てシンボリルドルフを負かしたからこそ、彼女はこの中央に居るのだから。
故に名入はキレた。このウマ娘は、
乙名史という記者について、ドロップスティアーは軽くだが知っていた。青葉賞の勝利者インタビューにおいて、唯一自分達の戦術を肯定してきた記者。かなり暴走的であったが、名入の露悪的な態度にもまるで怯まず超ポジティブに受け取った突撃っぷりは、強く記憶に残っていた。
だから
「……誰がこんな事してくれって頼んだ。俺がこんなんで喜ぶと思ったのか、ふざけんな。お前は黙って自分の勝負に集中してりゃいいだろが、無駄な事してんじゃねーよ」
だが、名入からすればこれは限りなく不要なお節介でしか無かった。いっそ迷惑まであった。
名入はメディアにどう言われようと構わない。ドロップスティアーの走りが完成し、自分の悲願たる菊花賞で勝った今、自分のトレーナーとしての名声など些細な事である。
超が付く程の癖ウマ娘ではあるが、ドロップスティアーはまともに走れる様になった。菊花賞で真っ当に勝利した事から、今では”黄金世代”の一角として高く評価されている。故にトレーナー契約の義務たる最初の三年が過ぎれば、名入としては適当に誰かに引き継いで貰い、全ての悪名を背負ったままこの学園を去る事も視野に入れていた。
「はぁ? 自分がトレーナーさんを喜ばせる為にやった? ばーか、
「あぁん?」
「
名入が心底嫌そうな表情を浮かべているのに対し、ドロップスティアーはその様子を想像通りとばかりに受け流す。
ここ一年半の付き合いで、ドロップスティアーは極めて遺憾ながらも、このトレーナーが自分と大きな共通点を抱いている事を知った。故に、その内心も想像がついてしまった。
それは、一点に対する執着心。かつてダービーという大勝負において、勝っても負けてもそれで終わりで良いという、文字通り後先考えていなかった自分と類似している、と。
「ダービーの後、トレーナーさんも自分に無断でこっちを庇ったじゃないですか。自分はアレ嫌だったって言いましたよね、『ウソついてんじゃないですよ』って」
「ありゃ、俺がやりたいからやっただけっつーだろうが」
「はい。だから、自分もやりたい様にやらせてもらったってだけです。
ダービーの後、”プランX”の範疇に無いドロップスティアーの自殺行為について、名入は自分が全てを計画した諸悪の根源であると、全メディアの眼前で堂々と嘘をついた。
それこそが名入の大きな悪名に繋がっており、そして名入自身もそのままで良いと思っている。何せ名入は自分の信念を貫き、その果てに菊花賞で勝つウマ娘を育てるという夢を叶え、それ以上の望みを持っていないから。
つまり今の名入には、
なのでやり返した。自分の責任を勝手に庇われた時の様に、こっちも勝手に庇った。それも、最も名入が望まないだろうやり口で。
「『生きてる間に一回でも菊花賞で勝てりゃそれでいい』、でしたっけ? 何勝手に
名入はこのままトレーナーとして死んでも良かった。だが、それはかつてドロップスティアーが陥っていた様な、自分勝手な逃げでしかない。
本当に責任を取るつもりならば、自分の勝手に最後まで付き合ってもらうのが筋である。『組むからには、これからのレースはお前だけの勝負じゃない』、そう言った以上はそうすべきだ。
つまり、菊花賞の勝利は自分だけのモノでは無い。負けた汚名も、勝った名誉も、全てを共有するべきである、と。
――というのが、
「……それに。この記事読んだ人は、どう感じると思いますー? 『極悪トレーナーが間違いに気付き、深く反省して思い直した』。そういう風に捉えると思うんですけどー? 実際自分、トレーナーさんの指示で菊花賞に勝ってますしー?」
「……お、お前……」
「ふっふっふ……そこそこの付き合いですからね、自分は分かってんですよ……トレーナーさんがマジで嫌がりそうな事を……」
が、ドロップスティアーはそんな恩を恩で返す様な真似をするつもりは無かった。
むしろ、
名入に対する、とっておきの嫌がらせ。それは――
「これからトレーナーさんは、『担当ウマ娘と向き合った事で改心し、綺麗になったトレーナー』として、これからずーっと! 生暖かい目で見られ続けんですよー! あーっはっはっは! どうでしたか、ここ最近のなまぬるーい周りの空気はー!?」
「テメェェェ!! ソレが本当の狙いかぁぁぁ!! 何してくれやがんだぁぁぁっ!!」
マイナスイメージの反転。深い心の傷を負った担当ウマ娘に対し、改心して献身的となったトレーナー。そう周囲の認識を変える事で、名入の
どんなに悪ぶっても、実績は変わらない。ダービー前までは悪性であったが、その後から善性を得た。名入本人がどう振る舞っても、そう周囲からの視線は変わってしまった。
しかもその認識には、数々の根拠がある。まずダービーの後において、謹慎が終わった後も名入は公的に観察処分を受けていた。そして観察処分の期間中――主に夏合宿において、名入は超正当派なトレーニングによってドロップスティアーの走法を完成させている。
その上で、数々の思惑を駆使して菊花賞で作戦勝ちした。しかもレコードという歴史に残る形によって。これ程の実績と担当本人からの証言があっては、最早単なる悪人とは誰も言い切れない。
結果。名入は、”口が悪くとも内心では担当想いのツンデレトレーナー”と、本人的には超絶不名誉極まりない目で見られる様になってしまったのだ。
「あっはー! 実に耳に良い叫びですね、清々しい気分です! 良かったじゃないですか、汚名返上出来て! これからも担当の為を想って頑張りましょうね、優しさを取り戻した”自称”極悪のトレーナーさん・カッコ笑い!」
「がぁあぁあぁ! ガチで腹立つコイツ! そんな
「だからやったんですよーだ! あーっはっはっはっ!」
発狂するかの様に頭を抱えて叫ぶ名入を見て、ドロップスティアーは指を指して爆笑した。この顔が見たくて、わざわざインタビューされに行ったまであった。
名入は自分の悪性を自覚しており、悪人と見られる事は事実であるとして何とも思わない。だが、その自覚からかけ離れた善人と思われる事は受け入れ難い、ある種実直な一面があった。
コイツは善人扱いには耐えられない。そう読んでドロップスティアーは、今回の”嫌がらせ”を練り上げ、行動に移った。完全に払拭した自分の過去を使い、名入というトレーナーの改心物語を仕立て上げ、GⅠウマ娘という立場とメディアを用いて拡散した。
青葉賞からダービーまでの悪印象が大きいだけに、菊花賞の勝利という大義名分を得たドロップスティアーの語りは、いかにも大衆が好きそうなストーリーとして周囲に認知されてしまったのである。
「ここ一週間のトレーナーさんの姿はとんだお笑いでしたよ? トレーナーさん、なーんも知らないでフツーに過ごしてたんでしょ? いつ気付くのか楽しみにしてたんですけど、思ったより気付くの遅くって。もう会う度に笑い堪えてましたよ」
「バカ野郎ォォォ! 何をやってやがる! ふざけんなァァァ!!」
トレーナー室はいつも通り、しかしいつもとは異なる騒乱に満ちる。基本的にこの二人の言い争いは、どんぐりが背を比べるべく体当たりをかますかの如き、同レベルの不毛な争いだ。
が、今日この場に限り、状況を支配をしていたのは完全にドロップスティアーであった。最早何を言おうと、大々的にメディアで拡散された印象を覆す事は出来ない。
トレーナーが沈黙を続けているのも、記事の通り自らの過ちを重く自覚し、担当のみに名声を与えようとしているからだ。雑誌の発刊から名入がメディアに対応しなかった事も、そういった印象が独り歩きする要因と化してしまっていた。
そしてこの事態は、誰一人として損をしていない。名入は悪質トレーナーとしての印象を回復されてしまい、ドロップスティアーはただ事実は述べただけ。そこにちょっとの作為はあっても、ウソは無い。
ただでさえ美談として仕上がった物語な上に、発刊から一週間もの時が経ち浸透し切った今、名入はどれだけ喚いてもこの状況を脱却する手段が無かった。大人しく周囲の生暖かい目を受け入れるしか無かった。
「ま、そんなワケで。トレーナーさんは残念ながら、これからも”トレーナー”を続けざるを得ませんね。何せ改心の果てにGⅠ獲らせたトレーナーです、今更辞めるなんて早々受け入れられませんよー?」
「…………」
「ダービーの後に勝手に悪党ぶったツケです。精々これからも頑張って下さいよねー?」
そしてこれにより、名入はトレーナーを辞める名目を失った。ダービー後での悪印象という大きな
しかし、それに匹敵する実績は打ち立てた。改心の果てに担当に菊花賞の冠を与えた、そんな印象が上から重ねられた以上、GⅠトレーナーとして辞めさせるには惜しい人材となった。
名入はトレーナーとして、
「……だあほ……めんどくせー真似しやがって……」
「言ったでしょ、やり返しただけだって。トレーナーさんの都合なんか知りませんよーだ」
ドヤ顔でウィンクするドロップスティアーに、名入は大きく溜息を吐いた。普通のトレーナーであれば限りなく喜ばしい事だったが、名入としては極めて不本意な事であったから。
目的は果たした、残るは憎まれ役の幕引きだけ。そう思ってた所で想定外のどんでん返しを食らい、トレーナーとしての責任を”辞職”から”継続”へとすり替えられてしまった。
かつて名入が勝手に庇った時の様な、ドロップスティアーによる勝手によって。
「……マジで覚悟しとけよお前……こうなりゃ、地獄の底まで付き合って貰うからな……」
「知らないんです? 自分死にたくても死ねないんで、そこまで付き合ってられませんよ」
こうして、名入は自分を終わらせる道を失った。
そして代わりに、新たな始まりに付き合わされる羽目になった。”絶対”にとことん歯向かう、超絶めんどくさい癖ウマ娘。そんな自分の担当と最後まで歩まされる道を。
尚この後、ドロップスティアーは名入の意図せぬ地獄――
「――あ、そうだ。トレーナーさん、落ち着いた時で良いんですけど。ちょっと頼み事があるんですが」
「あぁ? ……お前から”頼み事”って、なんか珍しく感じるな」
一連の話を終え、ドロップスティアーは珍しい単語を出した。
ドロップスティアーは名入に対し、基本的に頼み事や相談をしない。トレーニングやレース関係以外の物事に対し、名入という人間は相談相手として圧倒的に不適格だからだ。
『そんなどーでもいい事俺に頼むなだあほ』。名入の思考と性格は、相談前からそんな幻聴が聞こえる程、取り付く島も無いだろうと認識していた。そういう悪い方向の信頼をしている。
だが今回のドロップスティアーの頼みは、
「言っとくが、現状は菊花賞のあの末脚を思い出すのが最優先だ。それを理解してんなら、一応聞くだけは聞いてやる」
「分かってますって、だから『落ち着いた時で良い』って言ってるんですよ。……で、自分の頼みなんですけど――」
本編のオマケ話の一つです。名入は永遠に笑い話としてコレで弄られます。
エピローグはホントは一話としてまとめるつもりでしたが、キリの問題で分割します。