[ 美藤 智貴 ]
駅前ロータリー 事故現場/07:41 P.M.
美藤「こりゃひどいな…」
ないと思っていた。あのニュースの報道はよくドラマで見るフィクションだと。そう思っていたはずなのに美藤の足は自然と駅前へと進んでいた。残っている仕事を放り出してきた。最早傘など意味をなさないほど濡れていた身体には未だ降る土砂降りが容赦なく降り注いでいる。目の前に広がるのは事故現場の撤去作業に勤しむ作業員たち。ある程度は片付けが進んでいたのかニュースで見た時ほどの惨状ではなくなってたものの、依然として大破したバスとトラックが遺されていたため、その壮大さを物語っている。この雨の中だというのに野次馬の数は多くいて美藤はその様子を後ろから眺めていた。
「もうほんと凄かったんだから!私最初から見てたんだよ!」
「ちょっと奥さんそれ本当?」
美藤の耳には割烹着に身を包んだお婆さんがまるで鬼の首をとったような口調で事故の様子を野次馬の主婦に話しているのが聞こえてきた。この状況で不謹慎な。そう思いつつも美藤の意識はそのお婆さんの話に傾いてゆく。
「バスがロータリーへグーンと曲がったところにさ!あのくそ意地悪そうな顔した兄ちゃんが運転したトラックがズドーンと突っ込んで来たんだよ!そしたらバスがツルツルと回転してあの真ん中のでっかい木にぶつかってさ!もうほんとベーゴマみたいにツツーッとだよ!」
「あのでっかいバスがかい。乗ってた人たちはどうしたんよ」
「思わず私も飛び出てさ!近くまで行ったらもう酷い酷い!うーうー唸ってる人もいれば、頭から血流して動かない子たちもいてね…。中でもあの高校生の様子は心が痛んだね。男の子がさ!隣に座っていた女の子を守るように身体をこうやって覆っててさ!あまりにたまげたもんだから私が慌てて警察に電話したのよ!」
話に出てきた男の子と女の子。その子たちがうちの生徒でなければいいが。傘を握る右手に思わず力が入る。そこに胸ポケットにしまっていた携帯電話が震えた。傘を持ち直し携帯を開くとそこには学年主任の石黒の名前が。慌てて野次馬から離れ、駅の構内に移動すると濡れた手に苦戦しながら携帯を開いた。
美藤「はい。美藤です」
石黒「おお繋がった!美藤先生!駅前で起こった交通事故の件なんだけど!ニュースは知ってるね!」
事故現場にいたタイミングで石黒からの着信。しかもその内容が正にこの事故のことだとわかりより一層美藤に緊張感が走る。
美藤「もしかしてうちの生徒が⁉︎」
石黒「ああ…残念ながら。けど今保護者の方から連絡が来た。君が受け持つ小川誠、今野麻美、阿部夏美、そして羽鳥純が巻き込まれたが幸い"全員"無事であることが確認できた!」
美藤「ほ、本当ですか」
石黒「しかし羽鳥純の状態は他の3人より重症らしく回復まで時間がかかるらしい。ともかくうちの生徒全員が無事だということで、大事には至らなかったが、この件については後日全校集会を開く予定となった為、明日は急遽職員会議を行います。いつもより30分早い出勤をお願いします!では」
石黒は必要最低限の要件だけ伝えると電話を切った。巻き込まれた生徒はやはりうちの生徒だったが、その全員の無事が今確認できた。安心のあまり膝が崩れ落ちそうだったが、通じて意識を保ち力を入れ直すと肩の荷を下ろしてゆっくりと帰路についた。
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[ 羽鳥 純 ]
某市内 商店街 / 38:17…38:16…38:15…
エリアギリギリまで追い詰められた清水めがけ、だるま成人は勢いよく飛び跳ねる。闇夜に消えたその大きな身体を見て、誰しもが想像できた結末に絶望するも、その中でただ1人、純だけが無意識下で叫んでいた。
純「清水さん!今のうちにこっちに!」
純の声を聞いて清水の顔がハッとする。忙しなく動かして止まった脚に再び力が注ぎ込まれた。飛び上がってから落ちてくるまでそう時間はない。でもあのスーツなら。一か八か。清水の脚部分が迸る血管の如く隆起する。その溜めた力を一気に放出し、駆け出した。
その結果は。
清水は走りきれなかった。
清水の元にだるま星人の巨体が容赦なく降り注いだ。
純「清水さぁーん‼︎」
倉今「そんな…」
石村「くそぉ!」
立ちこめる土煙の向こうでは、だるま星人の下敷きになっている清水の姿が見える。あれだけの巨大に踏み潰されたというのに幸いにも原型を留めているようだ。石村は目の前の惨劇に取り乱し、視界が不明瞭な中Xガンを乱射する。純も見よう見まねで持っていたXガンを構えトリガーを弾くが苦しくもカチカチとトリガー音が奏でられるだけであった。ところどころ身体が弾けるだるま星人が踵を返す。清水を仕留めただるま星人が次なるターゲットを定め始めたようだ。ワナワナと振動して飛び跳ねる。
石村「あっ…」
夜空を見上げた石村が力無い声を漏らす。暗い夜空で見えるはずないのにどうしてなのだろう。だるま星人と目が合った。彼は悟った。次のターゲットが自分に定まったことに。
純「ダメだ。ダメだ…!」
次第に大きくなるだるま星人のシルエットに向け、ただひとり純だけが諦めずにトリガーを弾く。何度も何度も弾く。けれどもXガンはカチカチと鳴るだけ。もう最早なす術は無く希望は潰えたと思われたとき。
ギョーン。
純が弾いていたトリガーから変わった音が聞こえた。
倉今「逃げて!」
石村は逃げる暇を与えられることなくだるま星人に踏み潰された…と思われたのだが。
石村「…あれ?」
石村は生きていた。顔を覆っていた腕を下ろし、自分の身に何が起きたのか確認する。辺りにはとてつもない量の肉片が広範囲に広がっていた。ビクビク動く肉片には自身に迫っていただるま星人の面影がある。
純「よくわかんないけど…間に合った…」
両手で構えたXガンを降ろし、純は胸を撫で下ろして清水の元へ。他の2人も慌てて駆けつけると瀕死の状態の清水が横たわっていた。
石村「清水さん!大丈夫ですか!」
清水「はははっ…やられてしまった」
彼の周りにはスーツから流れたドロドロとした液体で溢れていた。どうやら五体満足の状態で奇跡的に意識もある様子。特に大きな外傷は見えず、冗談を言うほどの余裕を見せているがあの巨体にのしかかれたのだ。安心はできない。
純「まずい…早く救急車呼ばないと!電話持ってる⁉︎」
倉今「いや。持ってない」
純「そんな…」
石村「電話なんてあっても通じないです。それよりも早くだるま星人を倒しに行かないと…」
あれだけ親密そうにしていた相手が瀕死の状態だというのに清水の元を離れようとする石村。あまりにも薄情な振る舞いに流石に倉今も見過ごせなかったようだ。
倉今「ちょっと君。正気?」
純「どこに行くんだ!見て分からないのか⁉︎ 清水さんは今危険な状態だ!あんなだるまよりも今すぐ病院に…」
石村「だるま星人を全部倒すことが清水さんを救える唯一の方法なんです!」
倉今「…!」
純「…どういう意味?それってここから出られないことと何か関係あるの」
声を荒らげながら石村は手首につながるコントローラーを操作している。大粒の涙を流しながら何かを探しているような様子だった。
石村「何が起きてるのかはミッションが終わったら詳しく話します。部屋に戻れれば清水さんは元に戻る。だから早く倒さなきゃ…」
純「ちょっと。石村くん落ち着いて」
石村は大きく深呼吸をしながら息を整える。純と倉今にかけていた言葉がどこか自分に言い聞かせている言葉のようにも聞こえる。鼻を啜り手の甲で涙を拭う。すると震えていた身体が次第に静まっていった。コントローラーを握っていた手が固まり動かない。その石村の様子は何かイヤな予感を掻き立てる。
石村「そんな…」
純「石村くん?」
石村「マズい…」
倉今「何!どうしたの!」
石村「来る!デカいのが…ヤバいのが!」
ドシーン。
人は何か情報を得るとき様々な感覚を兼ね備えているものだ。
目から映る景色を取り入れる視覚。
口に含みその味を堪能する味覚。
芳しき香で心をも癒す嗅覚。
360°あらゆるところから音を拾うことができる聴覚。
そして様々な物質を握り自身の力に変えることができる触覚。
その他第六感という言葉もあるが、もっと現実的な言い方をすれば気配と言う言い方もできるだろう。様々な分野で発達するその全ての感覚にも引っ掛からずそれは突如現れた。
ボスだるま星人【お゛い お゛い お゛い】
どのだるまよりも大きく高いその身体。その大きさは通路を完全に封じ、全長は家屋や商店を優に超えている。見ただけでわかる。きっとこのだるまが今まで襲ってきただるまの総大将なんだと。
石村「うぉぉお!」
純「マズい…早く奥に隠れて!」
倉今「…!」
Xガンのトリガーを弾き無鉄砲に突っ込んでいく石村のそばで、純は倉今にアタッシュケースを押し付けて裏道の方へ押し込んでゆく。こんなところでまた戦闘が。すぐ近くで清水が無防備に倒れている。早く安全なところに移動させなくては。
純「スーツに着替えて!」
これまでの出来事で純は確信していた。和田や福田、清水や石村も来ていたあのスーツはとてつもないパワーを秘めていると。そして"かほちゃん"という名前がそこにいる女子高生のことであると。
純 (あれさえ着てれば取り敢えずは大丈夫なはず…)
ボスだるま星人は今石村と相対している。清水はちょうどその背後だ。今のタイミングなら敵に見つかることなく清水を移動させることが出来る。
石村「くそ!くそ!早く倒れろ!」
石村は我武者羅にXガンのトリガーを弾く。ボスだるま星人の身体には着々と被弾の後が目立ち始めた。にも関わらず、ボスだるま星人は微動だにしない。バンバンと表皮が弾けて着々とダメージを与えているようにも見えるが、見た目ほどの損傷は無いのか意にも介さずただじっと目を瞑って動かない。しかし、その身体に変化が訪れた。身体が震え、顔が石村のある方向へ向き直る。
石村「⁉︎」
小さな身体と大きな顔が相向かいになる。そしてずっと瞑っていたボスだるま星人の大きな目と口がカッと勢いよく開かれれた。
ボスだるま星人【 お゛ い 】
石村「…⁉︎」
石村の方向一帯に向かい、とてつもない衝撃波が放たれる。石村の身体を簡単に持ち上げて紙屑のように吹っ飛んだ。その衝撃は閉じられた複数の建物のシャッターが一気に拉げるほどだった。
石村「か…はっ…!」
身体を強かに打ち付けて呼吸ご困難になった。石村が着ていたスーツはキュルキュルと音を立てて悲鳴をあげている。
石村「こんな…ただ吹っ飛ばされたぐらいで…」
純「……。」
ボスだるま星人の目が再び閉じてじっとして動かなくなった。純が息を殺して清水の元へ辿り着いた時、石村は自分の身体に鞭打って立ち上がり、再び攻め出した。。石村のXガンが改めて炸裂する。先程よりもクレーターの数が増えるが依然として決定的なダメージは与えられていない。
石村「くそ…。くそ!」
純 (よし。これで清水さんは大丈夫なはず)
倉今が隠れる場所とは対極の裏道。純は清水の身体を移動し終えた。そしてボスだるま星人が動かなくなって1分ほど経った頃だろうか。ずっとじっとしていた身体が遂に動き始める。
ボスだるま星人【 お゛ い 】
石村「ぎゃ…………」
再びボスだるま星人の目と口が開かれた。またも衝撃波が飛んでくるのかと思われたが。ボスだるま星人は身体を震わすとその巨体から想像できないほどのスピードで駆け出して強烈なタックルをお見舞いした。認識できたのは一瞬だけであった。まともに喰らった石村はまるでゴムまりのように弾け、吹っ飛ばされる。信じられない回転を見せ、衝撃波で中の様子が剥き出しになった商店へ突っ込むと、石村の身体は動かなくなった。積み上げられた段ボールの中で埋もれる石村からは清水の時と同様、スーツからドロドロとした液体が流れていた。
純「石村くん!…あっ」
倉今「…え?」
石村を戦闘不能にしたボスだるま星人の次なる標的が倉今に定まった。定点のまま身体の向きを彼女に向けて震え始める。その動きはさっき見せた突進する前の予備動作と同じ。
純「まずい…」
またあの突進が始まる。潤はそう確信して自分の危険を省みずに倉今の隠れる裏道へ駆け出した。自分が標的とわかりヘタレ込む倉今に手が届いたのと殆ど同じタイミングで…5mを超える巨体がとてつもないスピードで突っ込んでいった。
○ARRIVE
???
TOTAL ???
●DEAD
???
TOTAL ???
11:21……11:20……11:19……