Cクラスの輩が出ていったことにより一瞬だけ静まり返った教室もすぐにざわつき始める。こちらをこそこそ窺う者もあちらこちらにいた為、俺は居心地の悪さを覚えた。
「比企谷君、もうあんな事はやめて欲しいな」
乱れた制服を整えて席に戻ろうとする俺を一之瀬は改めて窘める。
「比企谷君が柴田君を庇ってくれたのは分かるよ。でもあれは言いすぎじゃないかな?」
「••••••別にそんなんじゃねぇよ。妙な勘違いすんな」
俺は改めて席に戻るために一之瀬から視線を外した。
「あのまま殴られてたかも••••••ううん、怪我するくらい痛め付けられたかもしれないんだよ?」
「それは無いだろうな。あの状況で暴力を起こせば実行犯は誰であれ主犯は奴らを引き連れてきた王様だ。それに、ここは監視カメラの死角が無い教室だぞ。証拠としては十分すぎる」
俺が監視カメラの存在を指摘すると、今まで気付いていなかった者達が驚きの声を上げる。
「そんなの希望的観測が過ぎるんじゃないかな?」
「それならそれで奴らは最悪退学、少くとも停学は免れないだろうよ。イエローカードを食らえば今ほど大胆な手段はとれなくなる」
まあ、それもやり方次第ではあるが。
「それは浅はかだよ。手段が陰湿になるだけ」
一之瀬もそこには気付いている様子。だけど俺にはそんなの屁でもないのだ。
「こちとら陰湿な嫌がらせには慣れてんだよ。それにクラスを巻き込む心配も無いだろうよ。一之瀬が俺を止めてくれたお陰で俺の行動はクラスの総意で無いことが証明された。お前が善人で助かったよ。••••••だからもう良いだろ?いい加減うぜぇよ」
最後に俺がクラスで孤立することで今回のプランは完成される。とっさの思い付きにしてはなかなか上等ではないか。
「っ!そういう問題じゃないよ!!」
俺は声を上げた一之瀬に圧倒される。
クラスメイト全員に分け隔てなく物腰穏やかに接していた一之瀬。挨拶程度なら俺だって何度もされたことがある。先程の王様にさえ冷静に対処していた一之瀬が声を荒げるなんて思ってもみなかったのだ。
一之瀬もそんな自分にらしくないと感じたのか、大きく一呼吸おいてから再び話し始める。
「今回の件で比企谷君がどんな人が分かった気がする。あえて言う必要も無いと思ってたけど、比企谷君の為に改めて言うね」
口調には落ち着きが戻ったが、まだ声には若干険しさが残る。
「さっきも言ったけど、私はみんなとAクラスを目指したい。それは誰かを犠牲にして成し遂げるものじゃなくて、全員で笑って卒業するの。それは比企谷君だってそう」
一之瀬はどうしようもない善人で優しい女の子だ。昔の俺ならいとも簡単に惚れていただろう。もう少し後の俺ならば、その優しさを素直に受け入れることが出来なかったに違いない。
そして、今の俺はあえて突き放すのだ。
俺は嘲笑を浮かべる。
「一之瀬ならそれが出来るってか?お前だって気付いてんだろ?学校がある程度の盤外戦術を容認してることに」
「未だに誰も先生達が来ないのを見ると、ね」
減点に値する行為が行われていないか常にカメラを通して見張っているにも関わらず、先程の騒ぎに学校関係者が一切駆け付けて来ない。
王様の言っていた目的とやらは大方、学校が引いているボーダーラインを探る事。Bクラスの誰かがまんまと挑発に乗れば儲けもん程度だったのだろう。
「とてもじゃないがお前にあの王様の相手が務まるとは思えねぇよ」
「そうだね。一筋縄にはいかないと思う。だからさ••••••比企谷君も手伝ってよ」
一之瀬は俺に向かって右手を差し出した。
「あのよぉ、いい加減「もう良いんじゃない?一人で抱え込もうとしないでさ」
当然、俺は拒絶反応するんだが、その言葉を最後まで紡ぐことを一之瀬の言葉にによって阻止される。
「だから妙な勘違いす「悪いけどもう確信してるんだ。柴田君や私の代わりに矢面に立って、今だってみんなを巻き込まないように一人孤立しようとしてる」
••••••せめて最後まで言わせろよ。
「いや、だか「いい加減諦めなって、比企谷。帆波ちゃんって結構頑固だよ」
一之瀬とは別の女子までも俺の言葉に被せてきた。
その言葉の直後に予鈴が昼休みの終わりを告げる。俺はこれ幸いと逃げるように自分の席へ戻った。