高度育成高等学校奉仕部   作:碧河 蒼空

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今回は本当に難産でした••••••。
言葉に出来ないものを言葉にする渡航氏に脱帽。


捻デレ

 昨日の騒動を経てしばらく寮の部屋に立て籠る事を決めたわけだが、俺は昨日と同じ時間に目覚め、学校へ行く仕度をしていた。

 

 遅刻・欠席がクラスポイントの減点対象となる以上、24時間引きこもる訳にもいかない。規則通りの時間に登校して授業を受ける事は必須なのだ。

 

 Cクラスに目を付けられているであろう俺は出来る限り人目に付くよう、登下校は人が多い時間を狙うなど、Cクラスがちょっかいをかけにくい状況を作る必要があった。

 

 ま、それでも万全を期すことは不可能なんだが。

 そもそも、まだ俺が狙い撃ちにされると決まったわけではない。希望的観測を持つ気はないが、今から気にし過ぎる事も無いだろう。

 

 さて、普段の俺は逆に人気の少ない早めの時間に登校するので、ピークタイムまでまだ時間がある。俺は時間を潰すためにカバンから本を取り出した。

 

 背表紙には数字とカタカナが印字されたラベルが貼られている。この本は図書館で借りたものだ。

 ポイントを節約する必要があるこの学校において、三年間読む全ての本を購入するのは得策ではない。幸いにもこの学校の図書館は大規模で蔵書も多かった。

 もっとラノベが多ければ言うことないのだが、三年間は本に困ることは無さそうなのだから、贅沢は言えない。

 

 

 

 “ピンポーン”

 

 

 本を開こうとしたタイミングでドアのチャイムが鳴る。

 

 俺は本をテーブルに置いて玄関へ行くと、ドアスコープの向こうには雪ノ下と由比ヶ浜が立っていた。由比ヶ浜が携帯端末に目を落としながら雪ノ下に声を掛けると、雪ノ下も携帯端末を操作しだす。

 

 次の瞬間、俺の携帯端末が震えだした。画面には“雪ノ下 雪乃”の文字。

 

 俺は音を立てないように部屋の奥へ戻ってから応答する。

 

 

「もしもし」

『もしもし。今あなたの部屋の前にいるのだけど、開けてくれるかしら?』

 

 メリーさんかよ••••••。

 端末から聞こえてくる向こう側の音には雑音が混じっていることから、恐らくスピーカーフォン機能を使って由比ヶ浜も会話に参加するようだ。

 

「悪いがもう学校に向かってる所なんだ」

『それはおかしいわね。貴方の位置情報が私の目の前を示していたのだけど』

「は?位置情報?」

『私達以外と関わりのない貴方は知らないのかも知れないけど、この携帯端末は友達登録した相手の位置情報を知ることが出来るの』

 

 おいおい何だよそれ!?学校は生徒のプライバシーを何だと思ってるんだよ!?

 それとも何か?この機能が必要になる時が来るってのか?それはそれで嫌な予感しかしないんだが••••••。

 

「••••••今BクラスはCクラスと揉めてんだ。お前らしばらくは巻き込まれないように不要な接触は控えた方が良い」

『Bクラスは、ね。その中でも貴方は特に目を付けられているようだけど。ずいぶんと勇ましかったそうね』

 

 雪ノ下から発せられる声音の温度が下がった。

 

「••••••おい、何でお前が知ってるんだよ」

『昨日、一之瀬さんと神崎君が相談にきて、昨日の一部始終を話してくれたわ』

 

 ••••••まったく。うちの委員長は余計なことをしてくれる。

 

『そもそも、貴方と私達との繋がりなんて調べようと思えば簡単なのよ。それこそポイントを使えば尚の事ね。私達を巻き込まないようにと言うなら端から貴方は喧嘩を買うべきではなかったのよ』

 

 ぐうの音もでない正論を雪ノ下に突き付けられた俺は黙ることしか出来なかった。

 

 

 ••••••そんな事は分かってるんだ。

 だが、咄嗟の判断と言うのはどうしても人の本質が表れるのだ。そして、人の本質はそう簡単には変わらない。

 俺の本質って奴はどうしようもなく間違っているのだ。

 

『ねえ、ヒッキー••••••』

 

 ここにきて今日初めて由比ヶ浜の声を聞いた。

 

『ヒッキーは凄いからさ。きっと今回の事も一人で解決しちゃうと思う。でも、それでも私はヒッキーを手伝いたいな』

「••••••これは俺が撒いた種だ。だから俺が方を付けるべき問題だ」

 

 自分でこなせるタスクを人に頼るのは甘えだ。ましてやCクラスとのいざこざに二人を巻き込むなど、あまりに利己的ではないか。

 

『うん。ヒッキーはそう言うと思った。でも、私もゆきのんもヒッキーと一緒にいたいの。今もこれからだって、こんな時にヒッキーを一人にしたら“本物”に届かないと思うから』

 

 由比ヶ浜の言葉を聞いた俺は一瞬呆気にとられた。

 

 ーー『俺は、本物が欲しいっ••••••』

 かつて俺が二人の前でさらけ出した願望が紡いだ言葉。

 わかりたい、知っていたい、知って安心したい、安らぎを得ていたい••••••わからないことはひどく怖いことだから。そんな独善的で独裁的で傲慢な、本当に浅ましくておぞましい願望。

 けれど、もしもその醜い自己満足を押しつけ合うことができて、その傲慢さを許容できる関係性が存在するのなら••••••。

 

 俺は頭をくしゃくしゃとかくと、テーブルに置かれた本を鞄に突っ込んで玄関へと向かう。

 

 玄関の扉を開くと目の前には当然、雪ノ下と由比ヶ浜がいた。二人は何の前触れもなく出てきた俺に対し目を丸くしている。

 

「••••••今の時間は登校する生徒が一番多いからな。毎日この時間に部屋を出ればCクラスの奴らだって手を出しにくいだろうよ」

 

 二人にそう言ってエレベーターへと歩き出す。そんな俺を追いかけてきた由比ヶ浜は隣に並んで顔を覗き込んできた。

 

「まったくヒッキーは素直じゃないんだから」

 

 この由比ヶ浜の笑顔を意地悪に感じてしまうのは、きっと俺の気のせいなのだろう。

 

 気付くと雪ノ下も俺の横を歩いていた。




 彼女が一人で立てることも、彼女がそういうだろうことも知っている。だが、それでも俺は手を差し出すのだ。たぶん、これからも。
(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。より)




本作の八幡チョロいなぁ••••••。
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