雪ノ下と由比ヶ浜と共にエレベーターを降りてエントランスに入ると、早い時間には見ることの無い人混みが広がっていた。
俺はそれを少し鬱陶しく思いながらエントランスを抜けようとすると、人混みの中に見知った顔を見付ける。
特に声をかける事なく学校へ向かおうとしたのだが••••••。
「やっはろー!帆波ちゃん」
「あ、おはよう!結衣ちゃん」
由比ヶ浜がその見知った顔の持ち主、一之瀬に声を掛けた。
一之瀬の依頼を奉仕部が受けたという事を考えれば、二人が知り合いであるのは不思議ではない。••••••ないのだが、二人とも仲良くなるの早くないですかね?
そういえば••••••。
「なあ、雪ノ下。一之瀬はどんな依頼をしたんだ?」
依頼のタイミング、それと二人が部屋の前で話したことを考えるに、一之瀬の依頼が俺に関わることであることはまず間違いないだろう。
「それは私が今答えるべきものではないわ」
「は?何でだよ」
「奉仕部のあり方に関わってくるからよ。貴方が依頼の為に表面上取り繕っても意味がないもの」
••••••つまりは、俺が何か変わることを一之瀬は求めたという事なのだろうか。
昨日の挑発行為やクラス参加に消極的な事など、思い当たる節が無いことも無い。むしろ思い当たるだらけなまである。
「比企谷君と雪ノ下さんもおはよう」
由比ヶ浜と挨拶を交わしていた一之瀬が俺達にも声を掛けてきた。
「おはよう、一之瀬さん」
「••••••うっす」
俺は昨日の事件もあり、一之瀬相手に気まずさを覚え、ぶっきらぼうに返事をする。一方の一之瀬はそんなもの意に介す様子なく
「それじゃあ比企谷君も来たことだし、みんな行こうか!」
「••••••は?」
一之瀬の発言を一端はスルーしかけたが、それが聞き捨てならない事に気付く。俺のリアクションを受けて一之瀬は頭の上に疑問符を浮かべた。
「あれ?比企谷君クラスのグループチャット見てない?」
一之瀬によると、一人でいる所をCクラスにちょっかい出されない様にしばらくは単独行動は控えよう。その一環で通学はおよそ八人一組で班分けしたメンバーでするとの事。
これは昨日の放課後、俺が速攻で帰宅した後に話し合われ、部活などで参加できなかった人の為にグループチャットで共有されているらしい。
「集団登校かよ••••••」
全学校の事情を知っている訳ではないが、集団登下校が行われるのは小学生までではないだろうか?
「こういうの久し振りだよね!」
そう楽しそうに話す一之瀬は登校班のみんなで和気藹々と学校へ向かう絵面を想像しているのだろう。
「てか嵌めたな、お前ら」
俺は雪ノ下に抗議するが、等の本人は涼しい表情を崩さなかった。
「心外ね。私も由比ヶ浜さんも三人でなんて言ってないのだけど」
雪ノ下の反論にこれっぽっちも納得はいかないが、彼女と舌戦を繰り広げたところで俺に勝ち目がない事は二年という月日で身に染みている。俺は溜め息を吐くと学校へ向け歩き始めた。
「早く行かねぇと人波が捌けんぞ」
わざわざ登校時間を送らせたのは多くの生徒の目をCクラスに対する抑止力とするためだ。こんな所で油を売っている場合ではない。••••••だから決して雪ノ下から逃げた訳ではないのだ。
そんな俺の横に雪ノ下と由比ヶ浜が並び、後ろから一之瀬を始めとしたBクラスの生徒が続いた。
~Other side~
時は少し遡り、龍園率いるCクラスの生徒がBクラスを後にした直後のこと。
「龍園さんっ良いんですか?あんなやつ調子に乗らせてっ」
王を自称し集団の先頭を歩く龍園に問うのは、ついさっき比企谷に掴み掛かった男。その体躯は前を歩く龍園よりも大きい彼であったが、王にへり下るその姿は比企谷の前に立ち塞がった時よりも小さく見えていた。
「バカか。ミイラ取りがミイラになってどうすんだよ。あそこで手を出してたらペナルティを食らうのはこっちだ」
今回、龍園達がBクラスに乗り込んだ目的は二つ。学校側の出方を伺うことと、Bクラスの生徒にどんな奴がいるか探るためである。こちらの挑発に乗って向こうが手を出してくれれば儲けもの程度の思惑があったが、飽くまでもそれはオマケであった。
「で、これからどうする訳?」
今回、Cクラスに乗り込んだメンバーの中で唯一の女子が龍園に問う。
「想定よりも収穫が少なかったが、あの腐り目以外は予定通り個々につつく」
最初こそあの場を支配していた龍園だったが、それを比企谷は見事に主導権を奪ってみせた。それも一之瀬以外の介入を許さない形でだ。故に龍園が持ち帰ったBクラスの情報は彼が当初思っていたほど多くはなかった。
もう少し探りを入れることが出来ていれば適材適所の人員配置が可能であったが、それが叶わぬとも今後の計画に変更はほぼ無いようだ。
「腐り目はひよりに探らせるか」
ただ一点を除いて。
~Other side end~