普段の奉仕部では雪ノ下と由比ヶ浜の二人が話をしていることが多く、俺は基本的に本を読んで過ごしている。勿論、無視されているわけではなく、俺だって声を掛けられれば返事をするし、発言の一つや二つくらいする。
しかし、そんないつもの様子とは打って変わり、今朝の由比ヶ浜はやたらと俺に話題を振ってきた。
雪ノ下も会話に参加しており、俺が我ながら捻くれた事を言うと彼女に軽くディスられるのだ。出会った当初は俺に対し常に棘しかなかった彼女だが、今や俺が捻くれたことさえ言わなければ普通に話しをしているのだ。
学校に到着すると、クラスの違う雪ノ下と由比ヶ浜とは玄関で分かれ、二人はそれぞれの教室へ向かい歩いていった。
「ねぇ、比企谷はどっちかと付き合ってたりするの?」
「あっ、それ私も気になる!」
先程まで俺達の後ろを歩いていたクラスメイトの中から、二人の女子が俺に絡んできた。
不意打ちを食らう形になり腰が引けるが、俺の背部はすぐ壁にぶつかる。
「いやっ違うから••••••てかどちら様?」
「え?いやいや、同じクラスじゃん」
二人の内、腰まで伸ばしたポニーテールを揺らす釣り目の方が信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
「そう言われてもなぁ••••••」
一月程の間に話をしたクラスメイトなんて一之瀬くらいで、その一之瀬ですら言葉を交わした回数を数えるのに片手で事足りる。
結局の所、クラスメイトというのは同じホームルームに属しているというだけで、そこに人間関係が構築されるか否かはまた別問題である。俺みたいなボッチにとってクラスメイトというのは同じ教室で学問に励むだけの赤の他人でしかないのだ。
「私が網倉でこっちが小橋ちゃん。クラスメイトの名前くらい覚えてよね!」
「お、おう」
ポニテの女子が網倉、もう片方の青髪ショートボブが小橋ね。
「でもそっかー。ね、比企谷くんは全く気がないの?ね、ね」
「••••••あいつらとはそんなんじゃねぇよ」
小橋の問いを俺は否定する。
「てか何?急にグイグイと」
さっきからこの二人は距離感が近く、思春期の男子には心臓に悪い。もし俺が訓練されたボッチじゃなかったら速攻で告白してフラれるところだったぁー。フラれちゃうのかよ!!
「そりゃこの手の話題が好きじゃない女子なんていないでしょ」
それは偏見ではないのだろうか。由比ヶ浜なんかはその手の女子に含まれるだろうが、雪ノ下は他人の色恋沙汰なんて興味ないはずだ。
「ほら、二人とも。比企谷君困ってるよ?」
ここで一之瀬が助け舟を出してくれた。
「ちぇ~••••••でも意外だよね。いくら昨日は柴田くんを助ける為とはいえ、昨日の比企谷くんはちょっと怖かったんだよ?それが由比ヶ浜さんとは普通に話をしてたし、何なら雪ノ下さんには尻に敷かれてる感あったもん」
「そうそう!それに比企谷ってばクラスで誰かと話してるの見たことないから、昨日の件もあって何だか不気味だったよね」
そりゃそうだろう。昨日は俺が孤立するように動いたのだから。ただ、それも一なんとかさんのお陰でだいぶ狂わされたが。
「とりあえず教室に行かない?ここにいたら迷惑になるし」
一之瀬の言う通り、まだ登校してくる生徒が多く居る中で集団登校してきた俺達がいつまでもここで突っ立ってると邪魔にしかならないだろう。
女子二人も一之瀬の提案に従い、俺達は教室へ向け足を踏み出した。
教室に到着する否や自分の席に座って寝た振りを決め込もうとした俺であったが、一之瀬が机を挟んだ俺の正面にやって来た。俺は席に着いているが、一之瀬は立ったままなので、自然と一之瀬が俺を見下ろす構図となる。
「比企谷君、ちょっと良いかな?」
「え、何••••••カツアゲ?」
「違うよ!?」
••••••どうやらカツアゲでは無いらしい。
「今日も昼休みに話し合いをしようと思うんだけど、それに比企谷君も参加して欲しいの」
「••••••何で俺?別に俺が居ようが居まいが好きにすれば良いだろ」
「だって比企谷君この学校のこと気付いてたんでしょ?」
一之瀬の言っているのは昨日の朝に星之宮先生が言っていたことだろう。
「••••••確信できる情報はほとんど無かったよ」
昨日の朝までは俺の妄想でしかなかったのだ。
「それでも比企谷君の力がBクラスには必要だと思うの」
「••••••俺に何をしろってんだ?お前みたいな人気者と違って、俺なんかの妄想をクラスの奴らが真に受けると思うか?」
“何を言ったか”よりも“誰が言ったか”が重要なんだ。俺には人気も権威も無い。むしろ昨日の件で俺の株価はストップ安なまである。そんな奴が何を言ったところで人は耳を傾けたりはしない。
「卑下しすぎだと思うけどな~」
にゃはは~、と一之瀬は苦笑した。
「だったらお昼休みに比企谷君の価値を証明しようよ」
何を言うかと思えば、そんなこ••••••
「比企谷君の言うところの妄言だけど、実は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんから聞いてるんだ」
一之瀬が俺のアキレス腱を口にする。
「比企谷君がいつ何に気付いたのか、それをみんなが知れば比企谷君の力がこのクラスに必要って分かるんじゃないかな?」
「••••••情報を独占していた俺へのヘイトが上がるだけだろ?」
「それはどうかな?比企谷君が思いも寄らない結果が待ってるかもよ?」
そう言う一之瀬は大層自信あり気だ。何を根拠にすればそんな絵空事を堂々と語れるのだろうか?
「比企谷君は黙って座っていれば良いから。私に任せて!」
「••••••分かったよ。はなから余計な口出しをするつもりなんて無いしな」
今さら俺の評判が地に落ちた所で何も変わらない。元々、昨日の騒動でそうなる予定だったからな。
今回は第一稿があと2つ出来ているので、チェックと修正が済み次第、順次上げていきます。