昼休み。昼食を取るのに十分な時間が経過した頃、教室には昨日同様クラスメイト全員が席に座っていた。
昨日と違う点を挙げると、周囲からチラチラと俺の様子を窺う視線が見てとれる。
「比企谷くん注目されてるね」
隣の席に座る小橋が、突っ伏して寝た振りを試みる俺の脇腹を指で突ついて声をかけてきた。
今朝知ったのだが、小橋の席は俺の隣なのだ。そんな訳もあって、今日は度々、彼女から声をかけられている。
今朝も同じ様に脇腹を突つかれて変な声を出してしまったのは別の話。
「••••••やめてくれ、気にしないようにしてんだ」
今も俺の精神はゴリゴリと削れているのだ。
昨日までクラスメイトに認識されていたかすら怪しい俺がCクラスのヤンキー共に啖呵を切った訳だから仕方がないのは分かるが、もう少し遠慮と言うものをして欲しい。
「じゃあ始めようか」
昨日と同じように一之瀬が教卓の前に立つと、俺へ向いていた視線は全て彼女へと集まった。
「みんな何度も集まってもらってごめんね。今日集まってもらったのはみんなに知っておいて欲しい事があるんだ」
そう前置きをした一之瀬。昨日の昼休みに放課後、そして今回。これだけ短期間に三度も会議を開いているにも関わらず、Bクラスの中に空席は見られない。これは一之瀬の持つ人徳所以なのだろう。
「私はこれからAクラスを目指すために比企谷君の力をもっと借りたいと思ってるの」
一之瀬はまず本題から切り出した。クラス内から発言が生まれないので、彼女は言葉を続ける。
「勿論、昨日みたいに他のクラスと喧嘩をしようって事じゃないよ」
「なら、一之瀬は比企谷の何処に価値を見出だした?」
ここで初めて一之瀬意外の者が発言した。物腰が固そうなイケメンが切れ長に縁取られた三白眼で一之瀬を見詰めて問う。
そえいえば、こいつは昨日も先生に質問してたっけか。
「質問しにきたのが比企谷君だけって、昨日の朝、星之宮先生が言ってたよね?つまり、比企谷君は早くからこの学校の仕組について気付いていたんだよ」
「••••••つまり、比企谷はポイントが減ることを知りながらみんなに黙っていたのか。なら、比企谷が誰かに相談していれば、ここまでBクラスが後退することは無かったんじゃないのか?」
ま、そういう風に考えるよな。
4組中二位と聞けばまずまずの結果だが、Bクラスはcpの1/3を失い、ほとんど減点されることなく940cpを残したAクラスに300近いcp差を付けられてしまったのだ。もしも俺がBクラスに俺の得た情報を共有していて、Bクラスの奴らが学校達生活を見直したのならば、ここまで差は開かなかったはずだ。
「神崎君の言いたい事は分かるよ。その事なんだけど••••••」
一之瀬は神崎と呼んだイケメンをはじめとしたクラスメイト全員に頭を下げた。
「みんなごめんっ!私が比企谷君にみんなには黙っているようにお願いしたの」
••••••は?
「••••••どう言うことだ?一之瀬」
三白眼のイケメンが一之瀬を問いただす。
「実は何度か比企谷君にはポイントについて相談を受けてたんだ。でも、その時は不確かな情報でみんなを不安にさせるのは良くないと思ったの」
「それは随分と早計な判断だったんじゃないか?」
「にゃはは••••••そうだね。だから比企谷君は悪くないの。今回の事は全部私の責任」
つまりはポイントを大きく減らした責任を一之瀬が肩代わりしようって魂胆か。
確かに俺なんかよりも、人気者である一之瀬の方が反感は買いにくい。多くのクラスメイトは無条件に一之瀬を赦すだろう。現にあちこちから一之瀬を宥恕する声が上がっていた。
だが、皆がみな聖人である訳がないんだ。必ず一之瀬に不満を持つものは現れる。
「おい、一之瀬」
今回の件は俺の蒔いた種だ。その責任を彼女に押し付けて良いはずがない。
「いつ俺がお前に相談なんかした?••••••お前に責任を被って欲しいなんて言ったか?」
奉仕部が一之瀬の依頼を受けている以上、昨日のようなやり方は出来ない。俺は悪意を抑えて一之瀬の言葉を否定する。
「比企谷君はそう言うと思ったよ。でも、昨日みたいに比企谷君一人が被害を被ることはやめて欲しいな」
しかし、一之瀬は昨日の一件を引き合いに出して自身の言葉に信憑性を持たせた。
「だから勘違いするなって。昨日の事は、あわよくばCクラスを仕留めようとしただけかもしれないだろ」
「じゃあ、仮に私が比企谷君を庇おうとしているとして、何で比企谷君は今それを邪魔してるの?」
確かに一之瀬に責任を押し付けた方が得なのはあきらか。何故、一之瀬の邪魔をするかと問われれば、そんなのは決まっている。
「俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はないんだよ」
「••••••よく分からないけど、私だって自分の責任を比企谷君に押し付けるつもりはないから」
一之瀬の言葉を受け、俺は顔をしかめる。一之瀬の真っ直ぐな瞳は俺を捉えて離さない。
「そこまでだ!」
三白眼のイケメンが俺達の口論に割って入った。
「一之瀬、もう十分だ。みんなもそうだろ?」
イケメンの言葉は一之瀬でも俺でもなく、その他のクラスメイトに向けられたものだった。
「まあ、比企谷くんが悪い人じゃないのは分かってたしね」
小橋がイケメンの問い掛けに答える。
「何はともあれ、昨日は比企谷に助けられたのは間違いないしな」
それを皮切りに、他にも肯定的な意見が次々とクラスメイトから発せられた。
そんな時、一人の生徒が立ち上がる。
そいつは昨日、Cクラスの王様が一之瀬に詰め寄った時に一人龍園に立ち向かった男子だった。
彼は体の向きを変え、俺の元へ向かって歩いてくる。
「比企谷••••••」
俺の前までやってくると、男子生徒は頭を下げてきた。
「すまんっ。昨日はお前に割りを食わせた!」
••••••ちょっと待ってくれ。この場の展開に俺は着いていけていない。
「一之瀬、これはどういうことだ?」
俺は全てを知っているであろう一之瀬に尋ねた。
「ごめんね••••••実は昨日の放課後にはみんな知ってたの」