雪ノ下、由比ケ浜、椎名、俺の四人がやって来たのはまるで高級ホテルの中にある様なレストランである。
なんつーか、場違い感が半端ない。
俺が行くレストランといったらもっぱらサイゼなのだ。創業より弛まぬ企業努力を重ね、今もなお低価格高クオリティを実現している全学生の大きな味方。千葉県市川市本八幡を起源とする千葉県民の誇りである。
閑話休題、そこはかとなく居心地の悪さを感じている俺に対し、雪ノ下は堂々としていた。県議会議員であり建設会社社長の父をもつ雪ノ下はこういった高級店にも行き慣れているのだろう。
ちなみに、席順は丸いテーブルを囲うように俺から時計回りに由比ケ浜、椎名、雪ノ下が座る。
ふと、このテーブルにAからDクラス全ての生徒が揃っていることに気付いた。一昔前のブラウザゲームであるならばチームスキルが発動しそうである。
椎名と雪ノ下は本の話に花を咲かせている。といっても、喋っている時間は椎名の方が長い。
由比ケ浜はというとメニューを見つめながら頭にクエッションマークを浮かべていた。見るに見かねた俺は由比ヶ浜にメニューに書かれた品がどういったものかを教えている。
四人とも注文するものが決まった所で雪ノ下が手を上げてウェイターに合図を送った。それだけの仕草一つ見ただけで彼女の姿が洗礼されて見えるのは、俺が未だこのレストランの雰囲気に気後れしているせいだろうか。
「す、すんませーん!注文いいっすかーっ?」
大きな声でウェイターを呼ぶ声がレストランに響く。どうやら声の発信源は隣のテーブルの様だ。そこに座っている四人の男子生徒の内、一人は暴力事件の協力依頼に奉仕部を訪れた綾小路だった。
綾小路は制服を着ているが、他の三人は随分とラフな格好をしている。二人がアロハシャツ、もう一人はTシャツとハーフパンツを着ており、このテーブルだけが明らかに浮いていた。
現在、この船を利用しているのが教職員を除くと全員が高校生なのでドレスコードは無いのだろうが、このレストランを利用している他の生徒は制服を着用している。
「えっと、山内くん。こういう所ではあまり大きい声は出さない方が••••••」
綾小路を始め、彼らはDクラスなのだろう。クラスメイトの由比ケ浜が声を控えめにして注意した。相手が悪目立ちしているだけあって、その姿はどうにも気まずそうである。
「は?何だ、由比ケ浜か。じゃあどうやって店員を呼ぶんだよ」
だが、こいつは由比ケ浜の善意にも回りから向けられている視線にも気付いていなかった。
「お前ら、Dクラスだな」
彼らと俺達のテーブルの両方と隣り合っている席に座る一人の男子生徒が話に割り込む。
「いいか?ここはお前らのようなクズの来る店じゃない」
そいつはDクラスの彼らを見下したような発言を続けた。その内に我慢の限界がきたDクラスの一人が彼に詰めより、胸ぐらを掴み上げる。
「弥彦。下らない挑発は止めたまえ」
そこでようやく割り込んできた男子生徒と一緒に食事をしていたスキンヘッドで大柄な男が彼を止めた。
「葛城さん••••••」
「バカンス中とはいえ生活態度で減点されることも考えられる。Aクラスの生徒としての自覚を持て」
「あ、はい」
あれだけイキッていた男子生徒がもう一人の男の言葉で急に大人しくなった。
クラスメイトとはいえ、Aクラスにも序列が出来ているのか。そういえば、Aクラスは二人のボスがしのぎを削っていると聞いた気がする。だとすると、あいつがその内の一人か?
ふと由比ヶ浜に視線を向けると、彼女は居心地が悪そうに縮こまっている。
男子生徒は主語をDクラスとしていた。そして、由比ヶ浜はこの場でクラスメイトと言葉を交わしたのだ。きっと、男子生徒からは由比ヶ浜も彼らの仲間だと認識されていることだろう。
「君達もマナーを勉強したらどうだ?回りの迷惑にならないように」
スキンヘッドの男、葛城は彼らを貶めているわけではなく、純粋にここでの振る舞いを嗜めているのだろうが、頭に血が昇っている彼にはその真意は届かない。
「はぁ?俺達は別に••••••」
「••••••あいつだろ?須藤って」
「ほら••••••この間暴力事件おこした」
このレストランにいるほぼ全ての生徒が彼の事を話題にし始めた。その中には誹謗中傷もあり、彼は一新にヘイトを浴びる。
「っざけんなっテメェら!!」
「君はまた、同じ過ちを侵すつもりか?」
ついには仲間に促され、彼は他の三人と共にこの場を去った。
「由比ヶ浜さん、貴方は気にしなくても良いわ。あんなの、しょうもないたわごとよ」
雪ノ下も由比ヶ浜の様子には気付いていたようだ。
「うん••••••ありがとう」
由比ヶ浜は力無く笑みを浮かべる。
「聞き捨てならないな」
先程の男が今度は雪ノ下に突っ掛かった。
おーおー、何とも無謀な••••••。
「下のクラスの奴とばかりつるんでるからお前自身、品性が落ちるんだろ?しかも、そこの女はDクラスだろ?Aクラスの看板に泥を塗るのだけは止めろよな」
「••••••面白い事言うのね。貴方のこれまでの発言がどれだけAクラスの看板とやらに泥を塗っているのか気付いていないのかしら?」
雪ノ下は立ち上がって相手のそばまでいくと、そいつを見下ろして口撃を開始した。
••••••さて、俺は今のうちにデザートを何にするか考えておこう。
時期的にジェラートやグラニータといった冷たいものが良いだろうか。
「あの••••••放っておいて良いのでしょうか?」
椎名が雪ノ下の様子を伺いながら俺に問う。
「大丈夫じゃねぇの?あいつが負けることは無いだろうし、トラブルに発展させるほどあいつも馬鹿じゃない」
第一、由比ヶ浜がディスられてプッツンいってるあいつを下手に止めたら、こっちに飛び火しかねん。
先程ウェイターによって運ばれてきた珈琲に砂糖と練乳を混ぜつつ雪ノ下の様子を伺うと、既に彼女の方が優勢であった。男子生徒も反撃を試みるものの、その度に何倍にもなって返ってくる。
スキンヘッドの男も雪ノ下を宥めるが、火に油を注ぐばかり。そりゃそうだろう。トラブルに発展するまでツレを放置したのだから、そいつもまた同罪である。いうなりゃ運転手が飲酒するのを止めない同乗者みたいなもんだ。
涙目になっている男を尻目に、珈琲に口を付ける。うん、やっぱり珈琲には練乳だな。
「ところで由比ヶ浜は本、進んでんのか?」
前に本を紹介してと言っていた由比ヶ浜にラノベを貸していた。かいけつゾロリは不満なようであったが、いきなり純文学は厳しいと思った次第だ。
「そうそう、半分読み終わったんだ!主人公が月を指差したとこ思わず笑っちゃったよ!」
由比ヶ浜は誇らしげに話すが、俺の貸したラノベの半分っていったら、ちょうど一冊分である。
二十日くらいかけてラノベ一冊かぁ••••••。
それでも由比ヶ浜からしたら、それだけでも達成感を得られたのだろう。
「由比ヶ浜さんも本を読むのですか?」
椎名が本というワードに反応して、由比ヶ浜に話しかけた。
「えーっと、私はこの前ヒッキーに借りて読み始めたばっかなんだ」
椎名に対しては遠慮がちに話す由比ヶ浜。
そりゃそうだ。椎名はガチの読書家なのだ。由比ヶ浜のようなビギナーとは違う。
「そうなんですね。比企谷君がお勧めする小説、私も興味あります。由比ヶ浜さんの次にお借りしても良いですか?」
「別に構わないが、こいつに貸してるのラノベだぞ?」
正直、椎名がラノベを読んでいると所なんて想像できないんだが。
「ラノベというのもを読んだことはありませんが、だからといって食べず嫌いをするつもりもないです」
「分かった。由比ヶ浜が読み終わったら貸すわ」
椎名と本を貸す約束をした後は、椎名と由比ヶ浜が親睦を深める時間となった。
ちなみに、隣のテーブルでの勝負の行方は雪ノ下の完全勝利に終わったのは言うまでもない。
~あとがき~
ヒッキーが由比ヶ浜に貸しているラノベは“わたしたちの田村くん”です。めっちゃ古いラノベですね。
前話にて八幡×響け!ユーフォニアムを書いた話をしましまが、読んでみたい方いますか?
八幡が吹奏楽部に加わる所まで書いたのですが、それ以降を書くかと言われると、多分書きません。
貰ってくれる方がもしいるなら貰ってくださいって感じです 笑
1話はこの作品と同じくらいの長さで全6話ですので、さらっと読めるボリュームではあります。
読んでみたいという方はコメントをください。