俺が展望デッキに上がると、既に転落防止用の柵の近くには既に多くの生徒が集まっていた。
正直、あの中に割って入って行きたくないのだが、これからあの人垣の向こうに
先程、放送されたアナウンスはこうだ。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
素晴らしい景色を眺めること自体が有意義という価値観もあるだろうが、この旅行で学校側が何か企んでいると予想する今、決してスルーして良い情報ではないだろう。
俺は人垣から少し離れたところから目の前に並ぶ頭の間から奥の景色を覗き込む。
「あれ?比企谷、こんなとこでどうしたんだ?」
人垣の中にいた柴田が俺を見付けて声を掛けてきた。彼の周囲にはBクラスの生徒が固まっていた。
「そりゃ意義のある景色を見に来たんだよ」
今、ここにいる生徒の目的はこれと考えて良いだろう。
「んなことは分かってるよ。そんなとこじゃ見えないだろ?ほら、こっち来いよ」
「お、おい••••••」
人垣から出てきた柴田は俺の手を引いて元居た場所へ戻っていった。
おいっ誰だ?いま“柴×比企”って言った奴は!?
「見ろよ、もう島に近付いてるぞ」
あまり踏み込まない方が精神衛生上良いだろうと考えた俺はツッコむのをグッと堪え、島へと視線をやる。
前半一週間はコテージで宿泊と聞いていたので、ある程度開発はされているのかと思っていたが、今見える限りただの無人島にしか見えない。
「桟橋、通りすぎたな」
「••••••だな」
俺は大きく溜め息を吐いた。杞憂に終わってくれれば良かったのだが、そうも行かないらしい。
船は島の岸に沿って舵を切っていた。
「これから行われるイベントに備えて、しっかり島を見ておけという所か?」
「••••••さもずっと一緒にいた風に話すなよ、神崎」
いつの間にか横にいた神崎が話に混ざる。
そういう事を女子にすると引かれる上にキモがられるぞ。ソースは俺••••••。
「つっても何を見れば良いんだ?何の変哲もない島にしか見えないぞ?」
柴田は首をかしげながら島を見つめていた。
「地形を見ておくだけでも役に立つかも知れないぞ。ほら、どこぞのブラック企業では新人研修で無人島サバイバルをさせるとこもあるらしいからな」
俺は冗談めかして言うと、神崎と柴田が真剣に考え込む。
「なるほど••••••あり得るな。無人島という立地にも納得がいく」
いや、小粋なジョークのつもりだったんだが••••••マジ?
本当にそうだとしたら早々にリタイア出来ないだろうか?••••••リタイア即退学とか無いよね?
俺は再び溜め息を吐くと島の観察を始める。
「あんまり溜め息を吐くと幸せが逃げちゃうよ?」
一之瀬、お前もか••••••。
神崎同様、突然現れた一之瀬が俺の後ろから声を掛けてきた。
「逆だ。幸せが逃げたから溜め息を吐くんだよ」
「比企谷君、幸せが逃げちゃったの?」
「あの島で何させられるのかと思うと不幸だよ」
「ならまだ逃げてないね。無人島で何が起こるか分からないんだもん。楽しい一週間が待ってるかもよ?」
「••••••だと良いんだがな」
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』
このアナウンスが地獄への案内でないことを俺は切に願う。
ーーはぁ~~••••••。
俺はデカい溜め息を吐く。
島に上陸して告げられたのは特別試験を行うという旨のものだった。
その特別試験の内容とは、クラスに支給されるポイントと交換可能な食料やレジャー用品などを用いて、一週間この無人島で過ごせというものだ。
これだけ聞けば期間の長いキャンプという風にも聞こえなくはない。実際、ポイントと交換できる品の中にはビーチボールやバーベキューセットなどもあるので、行楽を楽しむことも可能であった。
だが、当然それだけでは終わらない。試験と名を打っているだけあって生徒達をサバイバルへと駆り立てるルールが存在する。なんと、今回の特別試験で余ったポイントはそのままクラスポイントに加算されるのだ。
支給されたポイントは300ポイント。仮にこれが現在のクラスポイントにそのまま加算されればBクラスの
つまり、ポイントを切り詰めれば切り詰めるほど今後の学校性活を有利に運ぶことが出きるようになるのだ。
これにより、ポイントをギリギリまで使い、無人島での一週間を豪遊するという選択肢は無くなった訳だ。
「追加のルール説明をするね」
全体での説明の後、クラスごとに分かれ、担任から追加の説明を受けた。
島のあちこちにスポットが存在し、そのスポットを八時間占有することができる。それは、自分達のクラス以外は許可無くエリアを使用できなくなる事を意味する。
また、スポットを占有する毎に一ポイントが加算される。つまり、一つのスポットを試験期間中占領し続けることができれば20ポイントが加算されるということだ。ただし、このポイントはこの特別試験では使うことができず、試験時間が終わった時に精算されるらしい。
ちなみに、スポットの占有はリーダーのみが可能で、リーダーの名前が占有に使うカードキーに刻印される。
最終日の点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられ、正解すると50ポイントを得られるが、外すと逆に50ポイントマイナスになる。
更に、リーダーを言い当てられたクラスのボーナスポイントは全て没収となってしまう。
これらの追加ルールによってクラス対抗の図式まで生まれてしまったのだ。
先生はこの試験のテーマを“自由”と言った。確かに、この一週間でポイントを使いきり、遊んで過ごすことも可能だろう。ただ、この学校の仕組みを考えればそうもいかないだろうな。
また、ポイントを節約して
ほんと、俺がBクラスに配属されて良かったわ。協調性のあるやつらが集まっているし、委員長の一之瀬も上手い塩梅で調整してくれるだろうからな。あまり節約しすぎて体調を崩しても元も子もない。
ちょっと長いキャンプ程度になるだろうし、ほどほどに参加してやろう••••••そう思ったのだが••••••。
「それじゃあ比企谷君、リーダーお願いね」
Bクラスの総意が一之瀬によって告げられた。
ーーはぁ~~~••••••。
~基本ルール(考察wikiより)~
・各クラスは1週間、無人島での集団生活を行う。
・配布された腕時計は1週間後試験終了まで外すことなく身につけておかなければならない。
この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPS、緊急ボタンも備えている。
・テントや衛生用品は最低限配られるものの、飲料水や食料などは試験専用の300ポイントを消費して購入する必要がある。
試験終了時、各クラスに残っているポイントはその全てをクラスポイントに加算した上で夏休み明けに反映される。
・マニュアルは1冊ずつクラスに配布される。紛失などの際には再発行も可能だが、ポイントを消費する。
~マニュアルに載っているルールのまとめ(原作掲載分)~
以下に該当するものは、定められたペナルティを科す
・著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる。
・環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント。
・毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人につきマイナス5ポイント。
・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収。
・ 7日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。他クラスのリーダーを的中させることが出来たなら、的中させたクラス1つに付き50ポイントを得る。ただしリーダー以外の生徒を指名した場合は1クラスにつき50ポイントを失う。
・最終日にリーダーを言い当てられたクラスは言い当てたクラス1つにつき50ポイントを失う。また、試験中に貯めたボーナスポイントを全て失う。
~スポットに関するルール~
スポットを占有するには専用のキーカードが必要である。
1度の占有につき1ポイントを得る占有したスポットは自由に使用できる 一 他が占有しているスポットを許可無く使用した場合50ポイントのペナルティを受ける。
キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定される。
正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない。