特別試験の説明を終えた星之宮先生は俺達を放置してDクラスが集まってる所へ向かって行った。
この場には学校から支給されたテント一つと段ボールトイレに吸水シート、そして俺達Bクラスの生徒が残される。
「先生行っちゃったし、一先ずこの一週間をどう過ごすか決めようか」
一之瀬がリーダーシップをとり、Bクラスがこの試験に挑むに当たる基本方針が話し合われることとなった。
「最初にポイントについてだけど、みんなで話し合って必要最低限のものはポイントを使おうと思うの。勿論、
「意義な~し!」
「私も!」
あちこちから一之瀬に賛同する声が上がり、反対する声は聞こえない。ここまでは予想していた通りだ。
ふと先生がDクラスで何をしてるのか見てみると、今まさにDクラスの担任越しで綾小路と話をしていた。あの二人、面識あったのかね?
続いてターゲットが由比ヶ浜に切り替わった。由比ヶ浜は苦笑いをしている事から察するに、先生はダル絡みしているのだろう。
「比企谷君は何かあるかな?」
「あ?悪い、聞いてなかった」
Dクラスと星之宮先生に意識を向けていた俺は、一之瀬に声を掛けられるまでこちらで交わされている話を聞いていなかった。
「今は必要なものを話し合ってる所だよ。やっぱり使うポイントはできるだけ少なくしたいしね」
一之瀬は男女で分かれるためのテントやプライバシーの保たれるトイレなど、今までに上がった提案を教えてくれた。
「そういうのは拠点が決まってからで良いんじゃないか?拠点の環境によっては必要なものも変わってくるだろ」
一之瀬の言っていたテントだって洞窟など屋根がある環境ならば風避け程度あれば済むかもしれない。むしろ、拠点の選択こそ一週間この無人島で過ごす上でかなり重要になるだろう。特に水源や日陰の有無、地形は生活環境を大きく左右するはずだ。
俺の言葉に対し、神崎が一番にリアクションを示す。
「確かに比企谷の言う事はもっともだな。一之瀬、俺も比企谷に賛成だ。今上がったものの中でも必要無いものが出てくるかもしれない」
「分かった。それじゃあ、拠点が決まったらまたこの場を設けるって事で良いかな?」
勿論、すぐに欲しいものがあったら遠慮しないで言ってね、と付け加えて一之瀬が皆に提案すると、それ以上に意見が上がることは無かった。
そうこう話していると先生はさほど時間が経たないうちに戻ってきた。俺達は拠点を探すべく無人島の森の中へと入って行く。島の構造は内側に行くにつれ高くなっているので、浜辺からスタートした俺達は必然と登り坂を進むこととなる。
••••••俺はいったい何をやってるんだろうか。
学年中がクラスポイントに釣られて貴重な夏休みの一週間を特別試験なんてもんに費やされている。本当ならばエアコンの効いた部屋に引きこもっていただろうが、現実は真夏の空のもと道無き道を歩いている。
俺はこの学校に入学した事に対して何度目か分からない後悔をするのだった。
みんなの後ろに着いて歩いていた俺は最後尾にいる先生に声を掛ける。
「先生、一つ聞いても良いですか?」
「どうしたの?流石に女の子のスリーサイズは教えられないわよ?」
何で今そんな事を俺は聞くんですかね?
隙あらば俺をからかう先生に、もはや今日何度目になるか分からない溜め息を吐きそうになった。
溜め息を吐くと幸せが逃げるらしい。というより、この人に隙を見せたら俺の精神が削り取られる。
「体調不良でリタイアする場合は先生の診察を受ければ良いんですか?」
この人はこんなんで保険医だ。試験続行が可能か否かの判断は下せるだろう。
「その場合は自己申告で大丈夫よ。あっ、でも~」
先生は俺の右肩に手を置いて、耳元に自身の口を寄せた。
「私が奉仕部の顧問になったのは君への先行投資だってこと忘れないようにね」
耳に感じたこそばゆさが俺の頬を火照らせるのを感じる。
何でわざわざ甘い声で囁くんだ、この人は。そのあざとさは一色並み。ただ、それに加えて大人の色香を乗せてくる為、破壊力は一色の比じゃない。
落ち着け、俺••••••。眼を閉じて呼吸を整え平静さを取り戻そうと試みる。
「駄目だよ~比企谷くん」
「っ!?」
意識外から声を掛けられた為、俺の心臓が跳ねた。声の主は小西••••••
「••••••小橋だからね」
「何だよ藪から棒に?」
「比企谷くん私の名前ちゃんと呼んだこと無いの気付いてる?」
「そうだっけ?」
「そうだよ~」
改めて思い返すと、確かに小橋という名を口にした記憶が俺には無かった。
小橋はジトッとした視線を俺に向けている。
「それで、何が駄目なんだ?」
先程、小橋が口にした言葉の意味を俺は尋ねた。
「比企谷くんリタイアしようと思ってない?」
「それは無いから安心しろ」
小橋の懸念に対し、俺は即座に否定する。
真のボッチは目立つのを嫌うのだ。
何の理由も無しにリタイアしようものなら悪目立ちすること間違いなし。重要度の高い役割は陽キャ達に任せ、自分は脇役に徹する。参加はするけど参画はしない。これが鉄則。
俺は小橋の疑うような視線を躱すように歩く足を早めた。
「あっ、待ってよ~」
小橋は小走りで追いかけてくる。ダジャレではない。
「特別試験っていうけど~、これってクラスのみんなとキャンプするみたいじゃない?きっと楽しいよ~」
「学校行事のキャンプってあれだろ?テント張りやバーベキューの焼きだったり花形は陽キャ達がやるだけやって、俺らは地味な仕込みとか面倒な後片付けを押し付けられるやつ」
「偏見が過ぎるよ••••••」
若干引いている小橋を尻目に俺は淡々と坂を登る作業をこなしていくのだった。