ここをキャンプ地とする。
俺達の拠点が決まった。
予定だと俺等は無人島に建てられたペンションで一週間を過ごすはずだったのだがあら不思議、クラス全員が入るにはあまりに不十分なテントと段ボール製の簡易トイレを渡され野に放たれたのだ。藤○Dも真っ青である。
まあ、それでも幾分かましな拠点を手に入れることは出来たのではないだろうか。
木が多く、テントをいくつも広げられるスペースこそ無いものの、その木陰によりここでは真夏の日差しを浴びること無く過ごすことが出来るだろう。何より井戸があり水の確保が可能なのは大きい。水質は不明だが、見た目は綺麗だ。たとえ飲料として使えなかったとしても有効活用できるはずだ。
この場所を占有する為にはまずキーカードを端末装置に読み込ませるリーダーを決めなければならない。
「万が一どこかのクラスが当てずっぽうで指名する可能性を考えれば、一之瀬やその他も目立つ者は控えた方が良いだろう」
そう言う神崎自身も一之瀬と同様の理由で避けた方が良いのは間違いない。
そうなるとクラスの中心人物ではなく、それでいて目立った行動をしていない者となる。該当者は多数いるが、条件が条件なだけに決め手に欠ける者ばかりだ。
「は~い」
間延びした声と共に挙手をしたのは小橋だった。こいつならリーダーの条件を満たしているし、自ら立候補するのであれば彼女で決まりで良いだろう。
この場にいる全員の視線が小橋に集まる。
「リーダーは比企谷くんが良いと思いま~す」
「••••••は?」
だが、彼女がしたのは立候補ではなく生け贄を差し出す事だった。
「夢ちゃん?どうして比企谷くんなの?」
そうだ。こういうのはやる気のあるやつがやるべきであって、俺のようないやいや参加している奴がやるもんじゃない。
「さっき比企谷くんにこの試験キャンプみたいできっと楽しいって言ったんだけど~、良いところは陽キャがやって自分達は地味な仕込みや面等な片付けを押し付けられるって言うの。だからリーダーをしてもらって比企谷くんにも楽しんでもらおうと思ったんだ~」
いやいや。リーダーなんて面倒な仕事だからね。
「そうなんだ。なら賛成かな。試験とはいえせっかくの学校行事なんだし、私も比企谷君含めみんなと楽しみたいしね」
みんなも良いかな?と確認をとる一之瀬に反対する者はなく、誰もが肯定的な言葉を発する。
「それじゃあ比企谷君、リーダーお願いね」
委員長である一之瀬が俺をリーダーに任命する言葉を言った。既に断れる空気では無くなっている。
ーーはぁ~~~••••••。
「比企谷くんよろしくね~」
ニコニコしながら俺に言う小橋に俺は恨みの視線を向けた。
「それじゃあ先生に報告に行こう。キーカード貰ってここを抑えないとね」
だが、そんな俺の精一杯の抵抗ですら一之瀬によって妨害された。仕方なく俺は星之宮先生の元へ行き、先生から俺の名が刻まれたキーカードを受け取る。そのキーカードを端末装置に読み込ませると、モニターにはBクラスの文字が浮かび上がり、この場を俺達が占有したことを証明した。
「これで拠点を確保したわけだが、これからどうするつもりだ?」
俺は一之瀬に問う。
いっそうの事、これからBクラスがとる行動をサイコロの出た目で決めるのはどうだろうか?その際、5は【全員でリタイア 豪華客船】にする事を提案したい。
ちなみに、サイコロで一番出やすい目が5と言われている。5の面は裏側の2と比べて窪みが深く、僅かに軽くなりやすい為だ。
「それなんだけど、周囲を探索するグループと拠点を整えるグループに別れて行動するのが良いと思う。スポットの占有は早い者勝ちだし、周囲に何か役に立つものがあるかも」
「その前にみんなが船から見た情報を出し合わない?闇雲に探すより効率的でしょ」
声を上げたクラスメイトの提案により、俺達は情報を出し合うこととなった。一部不自然に木が生えていなかったり、釣りの出来そうな岩礁、周囲と比べ一際大きな木などなど、様々な情報を出し合う。四十人規模のクラスで集められた情報ともなるとそこそこの量となった。この情報を元に探索グループに割り振られたクラスメイトがこの島を調査する。
俺は拠点を整える班に残った。只でさえ歩きにくい所を進んできたのだ。これ以上歩き回りたくない。しかもこの後に発見されたスポットの占有ラリーが控えているので、少しでも体力の温存に努めたかった。
他にも体力に自信がない者が拠点に残っている感じだ。この例に漏れるのが一之瀬で、彼女はクラスの指揮をとる為、ここに残っていた。
俺はリーダーを任されたわけだが、それはキーカードを使える人間というだけであり、Bクラスを率いるのは飽くまでも一之瀬なのである。それでも面倒なものは面倒なのだが。
「比企谷君、そっちにも敷いて」
「ああ••••••」
支給されたテントを組み立てたは良いものの、中に入るとテント下の地面の固さが想像以上に伝わってきて、お世辞にも体を休める環境ではなかった。そこで無限に支給される簡易トイレの吸水ポリマーシートを重ねてテントの下に敷くことにしたのだが、今その作業をしているのは俺と、俺に告白の機会を奪われた白波だった。
「ねえ、比企谷君は帆波ちゃんのこと好きなの?」
今まで事務的な言葉しか投げ掛けてこなかった白波が設営作業とは無関係な話題を俺に振る。
「フラれたんだぞ?今やどうだっていいだろ」
俺は愛想なく振る舞い答えた。
白波は一之瀬に本気で恋をして、あの時告白に踏み切ったのだ。それは彼女にとって必死に絞り出された勇気の結晶だったのだろう。そんな彼女を前に、あれは嘘だったと言葉にするのは憚れた。それが彼女の恋路の邪魔をした俺にとって誠意に欠ける態度だったとしても。
白波は俺を一睨みした後、作業に戻る。
「私、帆波ちゃんの事諦めてないから」
作業の手を止めず、視線を落としたまま白波はそう俺に言った。
「••••••そうか」
俺に視線を向けることのない白波を尻目に、俺は密かに笑う。俺も作業を続けたまま白波に答えた。