高度育成高等学校奉仕部   作:碧河 蒼空

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合掌

 入学式が行われた翌朝、俺の食卓にはトーストと茹でウィンナー、インスタントコーヒーが並んでいた。

 昨日までであれば小町が少しばかり手の込んだものを作ってくれるのだが、今日からそういう訳にはいかない。小町ぃ、早速お兄ちゃんホームシックだよ······。

 

 ちなみに本当ならウィンナーも食卓に上がる予定は無かったのだが、昨日スーパーで見切り販売していたのを衝動買いした。お値段はなんと0ポイント!10万ポイントも配っているにも関わらず、浪費癖のある生徒の為にこんな救済措置があるとは何て親切な学校なのだろうか(すっとぼけ)。

 

 朝食を終えて自室から出た俺は、エレベーターホールでエレベーターの現在地を示す数字が一つずつ小さくなっていくのをぼんやり眺める。

 

 エレベーターの到着を知らせるチャイムが鳴って扉が開くと、中には先客が一人乗っていた。

 

「あ、比企谷君おはよう!」

「お、おう」

 

 声を掛けられるとは微塵にも思っていなかった俺は不意を突かれた為、言葉に詰まりながらぶっきらぼうに返事をする。そんな俺に対し、目の前の少女は一切気を悪くした様子は見られない。

 

 俺は彼女の身体的特徴と記憶の照合を計った。

 薄桃色の髪は癖っ毛がなく、その先端はスカートに掛かるほど伸ばさされている。群青色の瞳を宿したぱっちり目は(まなじり)が上がっているが、キツそうな印象を全く受けない。それは彼女の顔が人懐っこい作りをしているからだろう。

 

「朝早いんだね」

「今までと違って誰も起こしてくれないからな。早めにアラームかけといたんだよ。あー······」

 

 結局、少女の名前が出てこなくて俺は言葉を詰まらせた。

 

「もしかして私のこと分からない?」

「悪い。同じクラスだってのは覚えてんだが······」

 

 実は同じクラスかどうかも定かではないのだが、この学校で自己紹介したのはクラスでだけだし、昨日話をしたのは雪ノ下と由比ヶ浜を除けば星之宮先生と万引き未遂少女だけである。故に俺の名前を知っている目の前の少女はクラスメイトである可能性が高い。

 

「気にしないで。仕方ないよ、まだ二日目なんだから。私は一之瀬 帆波。よろしくね、比企谷君」

 

 そう言って一之瀬は微笑んだ。彼女の容貌の良さも相俟って凄まじい破壊力である。俺がまだ素人であったならば勝手に勘違いしてフラれて今日の放課後にはクラスメイト全員に噂が拡散されていたであろう。しかし、今の俺は訓練されたボッチ。だから顔が暑いのはきっとエレベーターの中が暑いせいだ。管理人さん、ちょっと暖房が強すぎやしませんかね?

 

 1階に到着したことを知らせるチャイムが鳴り扉が開いた。開放された玄関から舞い込んでくる春風が火照った顔には心地が良い。

 

「ねえ、比企谷君は昨日の放課後は何してた?」

 

 俺の心情など知ろうはずもない一之瀬は変わらず人懐っこい表情を向けながら会話を繋ごうとしている。

 

 今、俺に向けられている表情はきっと俺以外の者にも向けられているはずだ。一之瀬 帆波は純粋で優しい子なのだろう。だからこそ思わずにはいられない。

 

 ――これから彼女に死地へ送られるであろう男子共に合掌······。




 最初は雪ノ下と絡ませる予定でしたが、よう実キャラが星之宮先生と万引き少女しか出てきていないなと思い、急遽一之瀬に出てきてもらいました。

 綾小路でも良かったのですが八幡はBクラスなので一之瀬の方が無難かなと。
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