オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです 作:F.C.F.
【固定イベント/選抜レース直前】
入学から早数ヶ月。
サナリモリブデンは学友達と共にトレセン学園にてレースとトレーニングの基礎をみっちり学んだ。
流石はウマ娘にとっての最高学府だけあり、その密度と指導の丁寧さは入学前の環境とは一線を画していた。
講師陣の熱意も尋常のものではなく、学園の環境に慣れるまで生徒の大半が殆ど悲鳴を上げながら机に噛り付いていたのも記憶に新しい。
もちろんその苦労の分、実入りは大きい。
サナリモリブデンの体は見違えるほどに引き締まってきている。
トモの張りなどは入学前とはもはや比べ物にもならない。
「いよいよだねぇ、サナリン。どう? 自信のほどは」
そんなサナリモリブデンに、同室のウマ娘ペンギンアルバムが髪をまとめながら問いかける。
彼女は普段から髪をハーフアップにまとめているが、そのまとめ方は日によってまちまちだ。
三つ編み状に編み込んでみたり、ふんわりさせてボリュームを出してみたり。
どうにも見た目へのこだわりが強いタイプらしくクラスメイトにアドバイスを求められている場面も多い。
サナリなどはマメだなぁと感心するのみで、簡素なショートポニーばかりだが。
それはともかく、ペンギンアルバムの質問は最近のトレセン学園ではあちこちで繰り返されているものだった。
毎年恒例、この時期の学園は一種独特の興奮と緊張に包まれるのだ。
夢の舞台に足を踏み入れられるか。
それを決定付ける「選抜レース」を翌日に控えているためである。
選抜レースとは、トレセン学園に所属しトゥインクルシリーズを目指すウマ娘たちが、トレーナーとの契約のために走る校内レースの事である。
ここで上位入賞を勝ち取る、あるいは自身の素質をアピールする事が出来れば晴れてトレーナーにスカウトされ、夢への第一歩を踏み出せるというわけだ。
逆に言えば、ここで躓けばそもそも夢を追う事すら許されない可能性が生まれる事を意味する。
選抜レース以外にもトレーナーとの契約を勝ち取る方法はあるものの、それはより狭い道となってしまう。
この状況下ではルーキー達が平常心を保つのは中々難しい。
【イベント分岐判定】
≪System≫
展開分岐のため、各種ステータスを用いたランダムな判定を行います。
下限を1、上限を参照するステータスの数値としたランダムな数値を算出し、判定の難度と比べて展開を決定します。
ランダムな値が難度以上の場合は成功、未満の場合は失敗として進行します。
また、難度の2倍以上の場合は大成功、3倍以上の場合は特大成功として扱われます。
1〜10が出た場合は大失敗となり、通常の失敗効果に加えて更なるマイナスイベントが発生します。
難度:30
参照:賢さ/90
結果:75(大成功)
≪System≫
今回は平常心を保てているかの判定を行いました。
賢さの値90を上限としたランダムな数値は75となり、難度30の2倍以上のため大成功となります。
サナリモリブデンは選抜レース前でも全く少しも緊張していないという事になりました。
「自信はない。順当に行けば勝てる理由がないし」
だが、サナリモリブデンはというとケロリとしたものだった。
制服に袖を通しながら平然と答える。
それにペンギンアルバムはギョッとした顔で振り返った。
「ちょ、ちょっとさなりーん、走る前からそんなんでどうするのさ!」
「本当の事。アルも私の成績は知ってるでしょ」
「うぐっ、そりゃ確かにそうだけど……」
しかし、当の本人に反論されて言葉に詰まる。
サナリモリブデンが入学してからこちら数ヶ月。
ペンギンアルバムはサナリモリブデンが模擬レースで勝利するどころか、5位までに入着したところさえ見た事がなかった。
より正確に言うならば、最下位でなかったケースさえ数えるほどでしかない。
芝での余りの走らなさを見かねた教員がダートを勧めてみたものの、そちらではなお悪かった。
今ではサナリモリブデンと言えば脱落者候補の筆頭格だ。
明日の選抜レースを終えれば自主退学する事になるのではと、ペンギンアルバムだけでなくクラスメイトからも心配の目を向けられている事に本人も気付いている。
座学では実践に反してトップクラスな上に授業に対する態度も実直そのものな分、彼女に向かう視線に痛ましさは強い。
「うー……なんか秘策とかないの? 私やだよぉ、サナリンがいなくなるの」
「そんな簡単に秘策なんて用意できたら誰も苦労しないと思う」
だがだからといって勝てるなどと言えるだけの材料はない。
サナリモリブデンの脚は未だ芝への適応を終えていない。
正当な実力など一度も発揮できておらず、選抜レースで急にそれが叶う可能性もほとんど存在しない。
夢見がちな少女ならともかく、現実から目をそらさないだけの硬質さを持つ彼女は現状で勝ち目があるなど冗談でも舌に乗せられない。
ただ、同室の心配を少々拭い去る事だけは出来るようだった。
「でも後半だけは心配しなくていい。別に、明日負けても終わりじゃないんだから」
「へ? ……いや、こないだ先輩の説明聞いてたでしょ? 選抜落ちからの敗者復活率は1割もないって……」
「そうだね」
「そうだね、って……。トレーナーの目も厳しくなるから合格ライン上がるし、そもそも見てくれる人も少ないって言ってたじゃん」
「うん、言ってた」
不安そうに言い募るペンギンアルバム。
対してサナリモリブデンは、眉ひとつ動かさない。
「でも、可能性があるならやればいいだけ」
肩をすくめてヒョイッと言うだけだ。
あたかもこんな普通の事は言葉にするまでもないだろうとでもいうように。
「私はやるよ。絶対にトレーナーと契約して、トゥインクルを走る。だからアルは私の事は心配しないでいい。自分が勝つ事だけ考えておいて」
「……間違いなく本気な上に楽観してるわけでもなさそーなのが怖いよねー、サナリンって」
「楽観なんかできるわけない。選抜落ちに向けられる同情の視線の中で惨めな気持ちでもがくのとか想像だけで嫌になる。けど間に合わなかったから。やるよ」
「もー! 何食べてればこんな子に育つのかなー! このぉ」
「あっ待って脇腹はやめて」
一通りの意思表明を聞き終え、ペンギンアルバムは立ち上がった。
そのままの勢いでサナリモリブデンに飛びつき、脇腹をぐりぐりとえぐる。
対する抵抗は弱い。
単純に弱点を攻められて力が入らないというわけではない。
一度の挫折ごときで諦めないとの言葉を聞いても未だ残るもやもやを受け止めてくれているのだと、これまでの付き合いでペンギンアルバムにもわかっていた。
それがまた、ペンギンアルバムになんとも言い難い感情を生みはするのだが。
「サナリンの考えはわかった、もう心配しない。でも一番いいのは選抜で勝つ事なんだからね。明日は全力の全力でやんなよ?」
「ん、それは当然。限界まで根性振り絞る」
よろしいと頷いてペンギンアルバムはサナリモリブデンを解放した。
そこまでの経過の中で互いの登校準備は整っていた。
息の荒い芦毛が、鼻息の荒い小柄な青毛に引きずられるように寮を出て、部屋には誰もいなくなった。
こうして、選抜レースに向かって時間はゆっくりと過ぎていく。
トゥインクルシリーズへの挑戦権を賭けた最初の戦いは、もう目前に迫っていた。
【イベントリザルト】
≪System≫
原作アプリ同様、主人公のウマ娘はトレーニング以外でも日常イベント等で成長します。
成長:根性+10/賢さ+5
獲得:コンディション/好調
≪System≫
成長するステータスはイベント展開によって変動します。
今回の場合、肝の太さを示したため、根性と賢さが上がりました。
また、やる気が上がりました。
スピ:56
スタ:74
パワ:53
根性:100 → 110
賢さ:90 → 95
馬魂:93
調子:好調/次のレース時、能力が少し上がる状態。レースが終わると解消される。
そうして、選抜レース当日。
体操服に乱れがない事を確認してサナリモリブデンはコースに設置されたゲートへと歩みを進めていく。
その途中、多くの人々のざわめきを背に受けながらだ。
選抜レースはトレセン学園でも大きな行事のひとつとなっており、学園内外問わず注目度は高い。
新人ウマ娘をスカウトせんとするトレーナー達はまず当然。
他には自分達を後ろから追ってくる後輩を見定めんとする現役のウマ娘。
将来のスターの第一歩を目にしようと心を躍らせる熱心なレースファン。
さらには各種メディアの記者までもが観戦に訪れ、カメラも入って専門的なCSチャンネルに限られるが放送もされる。
もちろん実際のトゥインクルシリーズのレースと比べればその人数は遥かに少ない。
だが、これまでは外部に公開されない模擬レースしか経験のない者にとってはその程度の衆人環視であってもプレッシャーは大きくのしかかる。
現にサナリモリブデンと共に出走する同期のウマ娘達は多くが表情を硬くし体を震わせていた。
そんな中、サナリモリブデンは普段通りの平常心でゲートに向かっていく。
【レース生成】
≪System≫
レースを生成します。
選抜レースのコースはサナリモリブデンが最も有利な条件に設定されます。
天候、バ場状態はランダムに決定されます。
天候は晴れと曇りの比率が高く、バ場状態は天候によって変動幅が変わります。
【選抜レース/芝1200メートル/右回り/中央トレセン】
構成:スタート/前半/後半/スパート
天候:晴
状態:良
難度:30(ジュニア級1月の固定値)
【枠順】
≪System≫
枠順はランダムに決定されます。
サナリモリブデン以外の出走ウマ娘は、原作アプリ版のモブウマ娘からランダムに選出されます。
ただし、アプリ版の能力・外見・性格は適用されず、初めての出走登録時にランダムに決定されます。
また、一部のグレードの高いレースには能力の高いウマ娘が固定出走する場合があります。
1枠1番:サラサーテオペラ
2枠2番:サナリモリブデン
3枠3番:オーボエリズム
4枠4番:デュオクリペス
5枠5番:ソーラーレイ
6枠6番:ブラボーアール
7枠7番:フリルドレモン
8枠8番:インディゴシュシュ
【ステータス補正適用】
≪System≫
適性やスキルにより、出走時のステータスに補正がかかります。
アプリ版とは異なる補正ですが、仕様です。
バ場適性:芝E/スピード&パワー-40%
距離適性:短距離B/スタミナ&賢さ+10%
バ場状態:良/補正なし
スキル:冬ウマ娘○/ALL+5%
状態:好調/ALL+5%
スピ:56-16=40
スタ:74+14=88
パワ:53-15=38
根性:110+11=121
賢さ:95+19=114
『晴天にも恵まれ絶好の日和となりました、中央トレセン特設レース場。バ場状態は良。まずは芝短距離部門からの開始となります。1組目のウマ娘がゲートに向かいますが落ち着きのない子が多いようです』
『毎年の事ですが、やはり最初の組はどうしても不安そうな様子が目立ちますね。出走までの間に少しでも落ち着いてくれるといいのですが』
どうやらそれはサナリモリブデンにとって多少のアドバンテージになるようだ。
会場に響き渡る実況と解説が言う通り、競争相手となる7人は誰もが表情を硬くし体に余計な力が籠っている。
『5番ソーラーレイ、ゲートを嫌がっていますね。係員となにやら揉めています』
特に5番のウマ娘などはあからさまに平静を欠いていた。
集中のために深呼吸しようとしたタイミングで前進を促されたのが悪かったらしい。
ゲート前で係員を睨み、強く脚を踏み下ろし芝を一搔きして威嚇までしている。
ゲートに入らなければレースにならない以上もちろん最終的には素直に収まるのだが、そのもたつきで全体に苛立ちが広まっていく。
『ソーラーレイ、何とか収まりました。その後はスムーズに続いていきます。おっと、4番デュオクリペスがこれは、ゲートの壁を叩いていますか?』
『あーいけません、これはいけません。よくありませんよぉ』
『ソーラーレイとデュオクリペスのにらみ合いに係員が仲裁に入ります。大丈夫でしょうか』
そのイラつきはちょっとした喧嘩も引き起こしたようだった。
スムーズな進行を妨げた5番に対し、後から入った4番のウマ娘が壁を叩いて怒りを表明する。
そんな事をされれば当然5番も再点火するのが道理だ。
壁越しに一触即発となった2人へと、慌てた様子の係員が集合する。
結局枠を移動させての引き離しなどは行われずに収まったが、また少々の時間が浪費された。
その間、サナリモリブデンはと言えば、一人平然と黙想していた。
狭く暗いゲートも苦にせず、ただただ集中を深めていく。
そうして、役目を終えた係員が離れていく気配を察知すると同時に目を開き、体を沈めてスタートの姿勢を取る。
『スタート前から荒れ模様となりましたが、各ウマ娘ゲート入り完了しました。夢のはじまり、トゥインクルシリーズへの挑戦権を賭けた最初の勝負、選抜レース。芝短距離部門第1組。……今スタートしました!』
【スタート判定】
≪System≫
綺麗にスタートできたかどうかの判定です。
この判定はモブウマ娘も同様に行います。
難度:30
参照:賢さ/114
判定:97(特大成功)
『2番サナリモリブデンぽーんと飛び出していきます。1番サラサーテオペラは大きく出遅れ。他は揃ってのスタートです』
ガシャンと音が響くと同時、サナリモリブデンは真っ先に飛び出した。
開いていくゲートに鼻先をこするかというほどの好スタート。
出足の質は冷静さに優れ集中力に富む彼女の強力な武器である。
負け続けた模擬レースの中でも、スタートでハナを切れなかった経験はほとんどない。
(まずは良し。後はいつも通り、勝ち筋をたぐれる可能性を目指すだけ)
【前半フェイズ行動選択】
≪System≫
サナリモリブデンはフェイズごとに行動を起こし、その成否を判定します。
行動内容は、得意な脚質、レース展開、習得済スキル、性格、トレーナーとの相談内容などを元に自動決定されます。
行動:加速して先頭に立つ
難度:30
補正:絶好スタート/+30%
参照:パワー/38+11=49
結果:34(成功)
その直後から熾烈な位置取り争いが始まる。
わずか一歩でも短く、ほんの少しでも楽に、そして速く走るための場所を求めて8人全員が睨み合う。
『スタートの勢いのまま2番サナリモリブデンが先頭に立ちました。少し開いて4番デュオクリペス、外に5番ソーラーレイ。2人のすぐ後ろに7番フリルドレモンが続きます』
サナリモリブデンはと言うと、全く危なげなく好位置に収まった。
自身が最高のスタートを決めた事もあり内ががら空きだったのだ。
2番のサナリモリブデンとしてはわずか一歩二歩程度内側に身を寄せるだけで良い。
右隣、1番のサラサーテオペラは出遅れたらしく姿がないため、進路妨害や接触の恐れもない。
後は逃げを打ってハナに立つ事さえ出来れば、先頭の最内という絶好のポジションを勝ち取れる。
『そこから1バ身開けて3番オーボエリズム。殆ど差がなく8番インディゴシュシュ、6番ブラボーアール。その後ろ大きく離れて1番サラサーテオペラが最後尾』
幸いな事に、実に珍しくサナリモリブデンの加速は叶った。
他に逃げを選んだウマ娘もいないようで、何の問題もなくハナの奪取に成功する。
スローペースな部類とはいえ、真っ当な逃げウマ娘らしい速度で先頭を駆けていく。
【レース中ランダムイベント】
≪System≫
レース中、フェイズ毎にランダムにモブウマ娘が行動を起こします。
行動内容はAIのべりすとの文章自動生成を用いて生成されます。
ただし、突然虚空からシンボリルドルフが乱入してくるなどのありえないイベントが生成された場合は再抽選が行われます。
また、一部能力の高いウマ娘は思考に基づいた行動を起こす事があります。
モブウマ娘の行動:デュオクリペスがソーラーレイと小競り合いを起こす
「この……っ! 鬱陶しいんだよオマエッ!」
だが、問題なく走る事が出来た時間は長くなかった。
突然サナリモリブデンの後方から怒声が上がる。
同時に、背を追う足音が急激に大きくなり始める。
(……あ、これ、まさか)
「はぁ!? アンタが突っかかってきてんでしょうが! ウザいのはそっちだってのッ!」
湧きあがった嫌な予感は、応じるもうひとつの怒声で即座に肯定された。
わざわざ振り返るまでもなく、サナリモリブデンにも理解できる。
スタート前から険悪だったソーラーレイとデュオクリペス。
よりにもよって2人共に先行を選んでいたばかりに、並走する内に怒りが再燃したのだろう。
『前に戻りまして変わらず先頭のサナリモリブデンに4番デュオクリペスと5番ソーラーレイが猛然と差を詰めていきます』
『2人そろってかかっているようにも見えますね。大丈夫でしょうか』
レース中に叫ぶのは思いのほか堪えたのだろう。
怒声はそれきり聞こえないが、互いより一歩でも前に立とうという怒気はかえって強く伝わってくる。
2人は競り合い、加速し、サナリモリブデンが稼いだリードが食いつぶされていく。
並のウマ娘なら平静を失ってもおかしくない場面である。
【抵抗判定】
難度:30
補正:スキル/冷静/+20%
参照:賢さ/114+22=136
結果:35(成功)
(そのまま怒りあって共倒れなんてのは期待すべきじゃない。短距離だし、かかってても走り切れる可能性は高い。追われて焦らず、油断もするな)
だがサナリモリブデンは持ち前の冷静さで乗り切った。
心中で自身に要点を言い聞かせ、変わらず先頭を進みコーナーへと入っていく。
【前半フェイズ終了処理】
≪System≫
ウマ娘はフェイズ終了毎にスタミナを消費します。
消費量はレース展開や行動内容、スキル、精神状態などに左右されます。
消費:中速(4)/加速(2)/平静(0)
補正:逃げA(-1)
消費:4+2-1=5%
結果:スタミナ/88-4=84
【後半フェイズ行動選択】
行動:加速して差を広げる
そうして自身の平静を確認した後、サナリモリブデンは再び脚に力を籠めた。
自身の末脚、その余りの鈍さを十分理解しているためだ。
多少の無理は承知の上で、今リードを稼ぐ以外に彼女に勝ちの芽はない。
難度:30
補正:なし
参照:パワー/38
結果:13(失敗)
だが。
「……っ!」
加速はひどく鈍かった。
足先に注ぎ込んだはずの満身の力が芝のクッションに遮られ、どうにも地面に伝わらない。
それどころか芝の上を蹄鉄がすべり、体がコーナーの外へと流れていく。
そうなれば。
『各ウマ娘、3コーナーから4コーナーへ向かっていきます。先頭のサナリモリブデンちょっと外にヨレた。その内をついてソーラーレイ、デュオクリペスが抜け出していく』
前に前にとかかっている後続2人が見逃してくれるわけもない。
お前はどいていろ。
こいつとの勝負の邪魔をするな。
そう言わんばかりの、あっという間の抜き去りだった。
【レース中ランダムイベント】
モブウマ娘の行動:後続が仕掛ける
『後ろも続々としかけていく。フリルドレモン、インディゴシュシュも前2人に迫ります。サナリモリブデンはここまでか。外からはブラボーアールも上がっていく。さぁ最終直線だ。泣いても笑ってもここで勝負が決まります』
当然、他のウマ娘もだ。
1人、2人、3人と速度を失ったサナリモリブデンの前へ行く。
こうなればもはや希望は絶えたに等しい。
最終直線のたたき合いは、彼女にとって最も目の無い賭けだ。
(だからなんだ。やる。やれ)
それでもと、サナリモリブデンは歯を食い縛った。
体を前傾に。
残った全能力を注ぎ込んで、スパートをかけろと己の脚に命じる。
【後半フェイズ終了処理】
消費:中速(4)/加速失敗(4)/平静(0)
補正:逃げA(-1)
消費:4+4-1=7%
結果:スタミナ/84-5=79
【スパート判定】
≪System≫
最終直線でのスパートの質を判定します。
スパートの質は、スピード、スタミナ、パワーの3つの判定の結果で決定されます。
判定はスタミナが最初に行われ、成功度によって残り2つの判定に補正が与えられます。
難度:30
補正:なし
参照:スタミナ/79
結果:46(成功)
難度:30
補正:なし
参照:パワー/38
結果:28(失敗)
難度:30
補正:なし
参照:スピード/40
結果:1(失敗/マイナスイベント発生)
そうして。
極めて順当に、サナリモリブデンは失敗した。
加速しない。
速度はわずかにも上がらない。
それどころか。
(左足に違和感。ケガ、じゃない。……地面の感覚がダイレクトすぎる。落鉄?)
コーナーからの立ち上がり。
サナリモリブデンは崩れていた体勢を立て直そうと左足に大きな力をかけた。
おそらくはその時だろう、レースシューズから蹄鉄が外れて落ちたのだ。
突然変化した足裏の感覚と、地を噛むグリップ。
それに対応しきる能力はデビュー前のウマ娘には存在せず、サナリモリブデンもまた同様だ。
ただでさえ鈍い末脚はここにきて錆びて折れたも同然となった。
まともなスパートなどかけようもない。
『ソーラーレイとデュオクリペス2人の競り合いだ。両者一歩も譲らない。後ろからはインディゴシュシュ。ブラボーアールも外から良い脚で来ているが届くか』
選抜レースのクライマックスはサナリモリブデンを置き去りに進んでいく。
ここまで出遅れを取り返せなかったサラサーテオペラにもかわされ、模擬レースで慣れ親しんだ最下位の定位置へと今日も追いやられていく。
(当たり前の結果が、当たり前に出ただけ。……負けるというのはわかってた)
サナリモリブデンは心中で呟く。
そもそもとして能力が足りていない。
勝ちを拾える可能性は極小で、本番でそれを引き寄せられるなど現実ではそうそう起こりえない。
事前に立てていた予測のうちで最も確率の高いものが的中しただけだ。
(つまり、予定を変更する理由はない。やれ)
なので。
彼女は何の動揺もなく、2度目のスパートを己に命じた。
【スパート判定】
≪System≫
1度目のスパートで勝利できず、かつ戦意が残っている場合、2度目のスパート判定を行います。
2度目のスパート判定は根性を用いて判定されます。
難度:30
補正:なし
参照:根性/121
結果:91(特大成功)
「───ぁ」
体がさらに一段、深く沈む。
まるで地面に沿うように。
ひとつ間違えば転げて故障に繋がりかねないほど。
「ぁぁああああぁぁぁぁああ!!」
蹄鉄を失った脚は、これまでよりもなお力を地面に伝えられない。
速度は確かに上がってはいくが、そのペースは絶望的な遅さだ。
走るための感覚の全てがこの試みに無意味との判断を下している。
それでもと、サナリモリブデンは吠え、走った。
『ソーラーレイ抜け出した。ソーラーレイだ。後ろはちょっと届かない。ソーラーレイ、1着でゴールイン! 2着はデュオクリペス。3着は接戦でしたがわずかにブラボーアールがインディゴシュシュをかわしたか。以下オーボエリズム、フリルドレモン、サラサーテオペラ。最後に今サナリモリブデンがゴール。芝短距離部門第1組は、ソーラーレイが激しい競り合いを制して1着を勝ち取りました』
だが、それだけ。
着順には何の影響も及ぼさずにレースは終わった。
7着サラサーテオペラとの差は縮まりはしたが、観客は誰一人としてそんなところは見ていない。
「はぁ、はっ……くっそ、オマエ、はえーな……やるじゃん」
「っふぅ、そ、そっちもね。正直しつこすぎて、途中もう無理かと思ったわ」
「勝ったからってフカしてんなよ、全然落ちなかったくせに。……次はアタシが勝つかんな。首洗って待っとけよ」
「はん、何回やっても同じよ。次やる時は格の差を見せてやるから泣きべそかく用意しときなさい」
勝者であるソーラーレイと、接戦を演じたデュオクリペス。
歓声と拍手が注がれる先は彼女たちだけだ。
人々は新たなライバル関係の誕生を喜び、喝采を送っている。
最下位のウマ娘になど見向きもしない。
「…………」
そんなわかり切った事に、サナリモリブデンはいちいち思考を回すつもりはなかった。
敗者は潔く退場するのみ。
勝者や上位入賞者にはこの後トレーナーのスカウトが待っているが、彼女には何の予定もない。
脱落した蹄鉄の回収を係員に依頼した他に口を開く事もなく、サナリモリブデンは静かにレース場を後にした。
【レースリザルト】
着順:8着
【レース成長処理】
≪System≫
ウマ娘は原作アプリ同様レースでも成長します。
成長の度合いは着順、レースのグレード、レース展開によって異なります。
成長:ALL+1/ウマソウル+1
経験:芝経験+1/短距離経験+1/逃げ経験+1
スピ:56 → 57
スタ:74 → 75
パワ:53 → 54
根性:110 → 111
賢さ:95 → 96
馬魂:93 → 94
芝:E(1/10)
短:B(1/30)
逃:A(1/50)
≪System≫
ウマ娘は所定の値まで経験を積む事で適性がランクアップします。
経験はレースで小~大、トレーニングで中程度得る事ができます。
「ちょっとー! ちょっと待ってください! そこの芦毛の子!」
選抜レースでの敗北後。
帰路についていたサナリモリブデンは突然呼び止められ、不思議そうに振り向いた。
声の主は20代前半ほどに見える女性だった。
それがレース場から必死に走ってきている理由がサナリモリブデンにはわからない。
だがわからないからと無視するわけにも行かず、立ち止まって到着を待つ。
「芦毛の子、とは私ですか?」
「そうそう、貴女です! はー、ふぅ。えーと……サナリ、サナリモリブデンさんでしたよね? 全くもう、こんなにすぐいなくなると思いませんでしたよ。最近の子はみんなそんな風に切り替えが早いんですかね」
女性はパーカーにジーンズ、足元は量産品のスニーカーといったラフな姿だった。
明るい茶色の髪はざっくりしたウルフカットで活発な雰囲気がある。
トレーナーにもマスコミにも見えず、ウマ耳も尻尾もない。
一見した印象はごく普通の大学生といったところ。
レース観戦に来ていた一般客だろうかとサナリモリブデンは推測した。
彼女が息を荒くしていたのはほんの少しのこと。
身体能力に優れているようで、さほど間を置かずに呼吸が整っていた。
そんな女性が言う切り替えとはつまり先ほどの敗北の事だろう。
選抜レース最下位。
何の言い訳もできない実力不足。
トレセン所属のウマ娘の誰もが求めるトレーナーからのスカウトなど望めない、絶望的な立場。
確かに普通ならば泣き崩れるかレース場の隅で俯いて立ち尽くしているのが似合いなのかもしれない。
「結果は議論の余地なく確かなもので、あそこに留まって悔しがった所で時間の無駄です。そんな暇は私にはありませんので」
だがあいにくと、このウマ娘の硬さは並大抵ではなかった。
言葉は平然と、眉ひとつ動かさずに吐き出される。
「そもそも分かり切っていた敗北です。調整が間に合いませんでしたから。予想が現実になっただけの事で切り替えも何もありません」
「ははぁ、負けると分かっていたと」
「はい」
「だから悔しがる事はない?」
「いいえ」
女性からの問いに、サナリモリブデンはきっぱりと否定を返す。
「時間の無駄と言ったのはレース場に留まる事です。悔しい気持ちは当然あります。私は負けたんですから」
実際に、サナリモリブデンは臓腑を焼かれるような痛みを感じていた。
肉体ではなく精神が悔恨に軋み、己の不甲斐なさに血を流さんばかりの怒りを覚えている。
しかしそれらを抱えたまま歩みはわずかも緩まない。
それがサナリモリブデンというウマ娘のパーソナリティだというだけの事。
「勝てないと事前に自分で分かってたのに?」
「分かっていたと言っただけです。負けていいと思った事も、負けるために走った事もありません」
「くふっ」
「?」
硬質の答えに、女性は小さく噴き出した。
楽しくてたまらないとその顔に書いてある。
サナリモリブデンとしては何か笑われる点があったかと不思議な心地だった。
「ふふ、最後にもうふたつ。最終直線、もう何をどうしても追いつけないと分かっていましたよね?」
「はい」
「じゃあ、なんであんなに必死に走ったんですか? 諦めて力を抜いても良かったでしょう?」
「はぁ、それは……」
簡潔に説明しようと、サナリモリブデンは言葉を探す。
呼吸を数度繰り返す程度の間。
じっと返答を待っていた女性に、彼女は率直に説明する。
「これは既に決めた事なのですが、私はトゥインクルを走ります」
「っく、く、なるほど? 走りたい、ではないんですね」
「はい。そのためには勝利が最短の道で、なので最後まで走りました。つまり単純に必要だったのでそうしただけです」
「そうですか? ではふたつ目。あの走りに、意味はあったと思いますか?」
サナリモリブデンは肩をすくめる。
ふぅ、と息を吐いて、至極残念そうに続けた。
「ありませんでしたね。ですがそれは結果論です」
「一万回走って一万回は同じ結果になると思いますが?」
「同意します。あのタイミングで私の努力が報われて勝利できるなんて事が起きるとは到底思えません。おそらく100%と言ってもいいでしょう。……それで」
それはまるっきり鋼の質感だった。
硬く、重く、揺るがず、削れず、溶けず、曲がらず。
この年齢で既に完成されきった、くろがねの精神が表出する。
「絶対に報われないと分かっている程度の事が、脚を止める理由になりますか?」
「あっはははははははははは! 最高! いいですねぇ! そういうの大好きですよ!」
女性は大笑いして、大声で叫んだ。
腹を抱えて体を「く」の字に折り、ひぃひぃと苦しげな声すら上げている。
何がそこまでツボに入ったのか、サナリモリブデンには理解できない。
ただ本人が楽しそうなら良いかと特に気にしなかった。
女性の笑いに悪意の気配は感じられない。
ならばそれで良しとして、黙って波が収まるまでを待つ。
「はー、数ヶ月分は笑いましたね。こんな愉快な事ってないです。ふふ、お礼に、一つ貴女に教えてあげましょう」
ひとしきり笑って満足したらしい。
目尻に浮かんだ涙を拭ってから女性が言った。
「あの走りには意味がありましたよ。レースでの勝利には貢献しませんでしたが……私が貴女を見つけられました」
悪戯っぽく微笑んで、パーカーのポケットを女性が探る。
そこから取り出されたのは、キラリと光るトレーナーバッジだった。
「自己紹介させてもらいますね。
「…………は?」
「お、いい顔。ちゃんと年相応な部分もあるんですね。うんうん、私トレーナーに見えないですよねぇ。よく言われるんです」
思わずぽかんと口を開けたサナリモリブデンに、郷谷はケラケラと笑う。
「行く先の希望の無さを知りながら、それがどうしたとまっすぐ走って落ちていける。素晴らしい。最高の才能です。トゥインクルを共に走るなら私は他の誰より貴女がいい。現状の不足なんてどうだっていい事です。私が全力で埋めてみせますので」
郷谷の手が差し伸べられる。
己が磨くべき原石を見つけたトレーナー特有の瞳の光とともに、ひたすらまっすぐに。
「サナリモリブデンさん。三年間の専属契約を、私と結んでくれませんか?」
打算も何もなくただ純粋な好意に満ちたそれを現実だとサナリモリブデンが認識し握り返す1分後まで、郷谷がほんのわずかにも手を下ろす事はついぞなかった。
≪System≫
選抜レースに敗北しましたが、スカウトが発生する条件「素質を示す」を達成しました。
ランダムな外見、性格、サポート効果を有したトレーナーが1人生成されます。
トレーナー候補が1人しかいないため、トレーナーを選ぶ事は出来ません。
名前:郷谷 静流
年齢:23
性別:女性
髪型:明るい茶色のウルフカット
象徴:苦瓜/絶望を笑い飛ばし助け起こす者
サポート:失敗率ダウン(トレーニングが失敗しなくなる)
【戦績】
通算成績:0戦0勝 [0-0-0-0]
ファン数:1人
主な勝ちレース:なし
※選抜レースは戦績に含まれません