オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです   作:F.C.F.

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ジュニア級 8月トレーニング結果~9月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

スピードトレーニング

 

 


 

 

芝を駆ける。

郷谷と契約して以来、サナリモリブデンが最も多く行ってきた事だ。

だが、今回のそれは今までとは趣が違う。

 

「3、2、1、スタート!」

 

流すように走るサナリモリブデンに、コース外から郷谷の合図が送られる。

その瞬間に加速が開始された。

ほとんどジョギングのようだった状態から段階的に速度を上げていきトップスピードを目指す。

そして到達したならば、それを維持する。

 

それだけのトレーニングだ。

高速で走るために必要な筋肉に負荷をかけ、鍛える。

高速で走る感覚に慣れ、より安定する走行姿勢を覚えこむ。

スピードを鍛えるには基本的にこれの繰り返しだ。

 

単純に、厳しい。

適応訓練は成長の実感が難しい精神的な辛さ。

それに対しスピードトレーニングはとにかく身体的にひたすら辛い。

ウマ娘の全力を叩き込まれた脚が甚大な負荷に悲鳴を上げる毎日だ。

どちらがマシかは個々人によるだろうが、トレーニングに臨む者にかかる負荷はどちらも相当なものである。

 

だが今のサナリモリブデンは高いモチベーションを維持していた。

回転させた脚を下ろし、芝と土を蹄鉄で噛み締め、後方に蹴り飛ばし、そしてまた回転させる。

そのサイクルがサナリモリブデンにとってかつてない精度で行われる。

 

6月、メイクデビュー。

サナリモリブデンは敗北こそしたが、そのレース中に待ちに待った適応がようやく叶ったのだ。

 

生まれる速度も、加速力も、これまでとは段違いだった。

なるほどと、サナリモリブデンは満ち溢れる実感をもって理解する。

この走りが出来る者と以前の自分。

2者を並べて勝負になると思う方がおかしいと。

 

勝てないとは理解していた。

しかし、その現実的な遠さは現在に到達してようやく噛み締めるにいたった。

 

そしてだからこそ、もうひとつ分かる事がある。

 

(今はもう違う)

 

サナリモリブデンの精神が高揚する。

合わせて速度が上がる。

これまでの限界速度を一段破り、その上への到達法を急速に理解する。

 

(勝負になる。それも、対等の勝負に)

 

高揚が成長を呼び、成長が高揚をもたらす。

正の循環はサナリモリブデンの体の内を巡り続ける。

ターフに刻み込む一歩一歩が自信に変わっていく実感が今の彼女にはあった。

 

「はぁっ……はあっ……ふぅ」

 

やがて一周が終わり、サナリモリブデンはクールダウンに入る。

その表情は普段通り変化に乏しいが、瞳の奥は充実感に満たされており、全身からは熱気が噴き出さんばかりだ。

 

「お疲れ様です、サナリさん。これでメニュー終了ですね。あとはストレッチをして───」

 

「トレーナー」

 

だからか、いつもは決してやらない事だが、サナリモリブデンは郷谷の言葉を遮った。

 

「まだやれる。……ううん、もう少しやりたい。走りたい」

 

「ふむん? 珍しいですねぇ、サナリさんから言い出すなんて」

 

それに郷谷はほんの少し目を丸くした。

が、すぐにニッコリと微笑む。

 

「ふふ、でもわかりますよ。成長の実感があるんでしょう? 数字の上でも相当伸びていますし、これは走っていて楽しいでしょうねぇ」

 

「うん、とても。走っていい?」

 

その問いにはすぐに答えず、郷谷はサナリモリブデンの脚に触れて確かめた。

筋肉の張りや熱のこもり具合、関節の調子を観察してから顔を上げる。

 

「えぇ、問題ないでしょう。疲労は許容範囲です。もう1本やっていきますか。鉄は熱い時に打たないといけませんしね」

 

郷谷の許可に、サナリモリブデンは耳と尻尾を揺らして喜んだ。

いてもたってもいられない。

そんな様子でコースに戻り、もう一度ゆっくりと走り始める。

 

加速へ向けた準備運動。

トップスピードを楽しんだ後ではもどかしいほどの低速の中、サナリモリブデンは合図を待つ。

 

「3、2、1───」

 

待ちに待ったその声をとらえ、深く大きく息を吸う。

酸素を巡らせ、血液を回し、脚に満身の力を溜める。

 

「スタート!」

 

芝が舞い、芦毛のバ体が弾け飛ぶ。

真夏の長い日がじわじわと傾く中、サナリモリブデンのトレーニングはいつもより少し長く続けられた。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:大成功

 

 


 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+60/パワー+40

 

スピ:142 → 202

スタ:135

パワ:149 → 189

根性:156

賢さ:136

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「線香花火」「優勝者」「断捨離」

 

 


 

 

夕方。

寮の前を荷物が歩いていた。

 

「……?」

 

「え、なにあれ……無茶するなぁ」

 

発見したサナリモリブデンが立ち止まり、共に帰路についていたペンギンアルバムが驚きに声を漏らす。

 

それは四段重ねの段ボールだった。

ぐらぐらと左右に揺れながらも奇跡的なバランスで崩れずに移動している。

 

もっとも、もちろん段ボールが自力で動くわけがない。

荷物が多すぎて持ち主が隠れているだけで、無謀な何者かが一息に物を運ぼうとしているだけである。

視界がふさがって前も見えないだろうにとサナリモリブデンは呆れと心配を同時に湧きあがらせた。

 

「……ごめん、アル。私ちょっとアレ手伝ってくる」

 

「お? じゃあ私もやるよー。お付き合いお付き合い」

 

「ん、ありがと」

 

なので手助けを実行に移す。

ふらふらする段ボールに小走りで近付き、サナリモリブデンは一声かけた。

 

「危ないから手伝います。上二つ、持ちますね」

 

「へ? あ、すみません、ありがとうございますー!」

 

驚かせては危険だと慎重に、宣言通りの二つを持ち上げる。

そしてその途端、サナリモリブデンの心境は心配から呆れにガクンと傾いた。

なにしろ。

 

「あれ? サナリじゃない。何よいきなり敬語なんか使って。気持ち悪いわねー」

 

「だったら顔を出して歩いてほしい」

 

段ボールが消えて現れた顔が、やけに見覚えのある褐色肌の栗毛ウマ娘のものだったので。

 

 


 

 

「悪いわねー手伝ってもらっちゃって」

 

その後、歩く段ボールことソーラーレイと手伝いの二人、サナリモリブデンとペンギンアルバムは寮のゴミ捨て場前に移動した。

段ボールを地面に下ろし、ペンギンアルバムがソーラーレイに尋ねる。

 

「それで、目的地ここってことは……これゴミなの? 段ボール四つも?」

 

サナリモリブデンが聞く限り、その声に遠慮の類はないように感じた。

どう見ても初対面の距離感ではなさそうだ。

 

ソーラーレイとペンギンアルバム、考えてみればどちらも同期の中では上位のウマ娘である。

メイクデビュー前からも成績優秀者として知られていたのだから、どこかで顔を合わせて交流を持っていても別段おかしくはない。

そういう事なのだろうとサナリモリブデンは納得した。

 

「あぁ、違う違う。ゴミはこれから選別すんのよ」

 

「うん?」

 

「いるものといらないものに分けて、いらないのは綺麗さっぱり捨てようと思って。断捨離っていうんだっけ?」

 

二人のやりとりにサナリモリブデンはなるほどと頷く。

そして頷いた後に首を傾げた。

果たしてこれは断捨離で良いのだろうか。

それよりもむしろ。

 

「ゴミ候補が段ボール四つもあったらむしろゴミ屋敷の掃除に近い気がする」

 

「ぶふっ」

 

サナリモリブデンの率直な感想にペンギンアルバムが噴き出す。

一般家庭ならまだしも、ソーラーレイは寮暮らしである。

部屋は贅沢な広さとは到底言い難く、その中にこれだけの物があれば相当邪魔になりそうなものだ。

それこそゴミ屋敷の様相ではなかろうかとサナリモリブデンは考える。

 

「ぐ……い、言い返せないわ。同室の子にも同じこと言われたし……」

 

「くふふ、それ言われたっていうか怒られたんでしょ。もういい加減にしろって」

 

「……ノーコメントよ」

 

眉間に皺を寄せてそっぽを向き、口をつぐむソーラーレイ。

コメントを出せない時点で答えは決まったようなものだ。

どうやらソーラーレイは片づけられないタイプらしい。

それも共同生活を送る同室のウマ娘に怒られてようやく手をつけられるという程の。

 

「んんっ、まーともかくこれから分けるのよ。運ぶの手伝ってくれたとこ悪いんだけど、もう少し助けてくれない? 後でジュースでも奢るからさ」

 

ソーラーレイの頼みに、サナリモリブデンとペンギンアルバムはまぁよしと頷く。

二人とも今日の予定はもう終わっている。

あとは夕飯を食べて風呂に入って寝る程度。

ならばもう少し手を貸す程度は大したことでもない。

 

「ん。構わない。……ソーラーレイだけ残していったら日が暮れても終わらなさそうだし」

 

「よく分かってんじゃない」

 

そういう点で心配だったというのもあってだ。

 

 


 

 

「お疲れー。や、助かったわ」

 

そうして数十分後。

段ボールの中のガラクタを処分し終えて、サナリモリブデンたちはやれやれと立ち上がった。

最後に入れ物、段ボール自体をたたんでしまえば作業は終わりになる。

 

「はいはいお疲れ様。何さ分類って。ほとんどゴミじゃん……」

 

「ほんとそれよね。私もびっくりしたわ。まさかコレしか残んないなんて」

 

ペンギンアルバムの呆れ声に、ソーラーレイは悪びれもせずにそれを掲げて見せる。

あれだけあった荷物の中で唯一ゴミではなかった物をだ。

 

花火セットである。

派手派手しいカラフルな装飾の袋に入ったそれは、確かにゴミではない。

ないが、ギリギリのラインではあろう。

何しろ大半を消費した後の残りだったのだ。

具体的には。

 

「いやそれもほぼゴミじゃん? なんで線香花火だけ半端に残して放り出してたの?」

 

「わっかんないわ……。全然覚えてない。いつ使ったのかしらねコレ」

 

「適当すぎる……」

 

そういう状態だ。

触ってみたペンギンアルバムいわく、しけっている感覚はないのでおそらく使用可能。

だが花火の主役抜き、シメの線香花火のみを楽しもうという気にはそうそうならないだろう。

 

「線香花火……」

 

「なにサナリン、気になる?」

 

「ん、少し。こういう花火したことないから」

 

が、ちょっとした例外がここに居た。

 

「え、アンタ花火やったことないの? マジ?」

 

「……花火といえば見上げるものだと思ってたから」

 

「はーん……そういうヤツもいんのねぇ……」

 

花火といえば打ち上げ花火。

彼女にとってはそういう認識だったらしく、線香花火どころか手持ち花火自体の経験がないようだ。

サナリモリブデンはしげしげと、パッケージの中に寂しく4本だけ残った線香花火を見つめている。

ペンギンアルバムとソーラーレイは顔を見合わせ、そういう事ならばやらない手はないと無言で合意した。

 

「よっしゃサナリン、そんじゃ晩ごはん終わったらやろうよ! 暗い方がいいから、夜にさ!」

 

「そうね、とりあえず人数分はあるし。寮長の許可は私がとっとくわ」

 

「ん……」

 

サナリモリブデンは顔を上げ、頬をほころばせた。

 

「うん。やりたい。お願いしていいかな」

 

うむ、と青毛と栗毛が揃って頷く。

それで、そういう事になった。

 

 


 

 

【挿絵表示】

 

「…………」

 

「どうよサナリン」

 

「……うん。綺麗。いいね」

 

夜の寮。

玄関脇の小さなスペースで、線香花火がパチパチと火花を散らしている。

その火の玉を眺めながら、サナリモリブデンは目を細めた。

 

「知らなかった。静かな花火もいいものなんだね」

 

「へっへっへ、そうでしょそうでしょ」

 

「なんでアンタが偉そうなのよ」

 

一本の線香花火を三人が囲む。

なんだか妙な時間だとソーラーレイは苦笑する。

でも悪くないおかしさだとペンギンアルバムは楽しみ、サナリモリブデンは初めて感じる火花の儚さにただ夢中になっていた。

 

「あ」

 

だが、それは残念ながら長くは続かない。

線香花火は実に線香花火らしい唐突さでその命を終えた。

火の玉はぽとりと地面に落ち、あっという間に燃え尽きる。

 

「……消えちゃった」

 

「まぁ線香花火だし、こんなもんよ」

 

ぽつりと呟くサナリモリブデンに、ソーラーレイがあっさりと流した。

残ったヒモ部分を回収するとバケツにぽいっと放り込む。

 

「よし、そんじゃ本番ね。……いい? 真剣勝負よ」

 

そして何やら真面目くさった顔で次の一本を手渡した。

 

「最初に消えたヤツの負け。最後まで残ったヤツの勝ち。ルールはそれだけよ」

 

「おっけおっけ、定番だよねぇ。罰ゲームは?」

 

「……私の部屋の片づけなんかどう?」

 

「なめんな」

 

キョトンとするサナリモリブデンをよそに話は進む。

だが話の流れで大体は理解できた。

そういった部分、彼女は特に察しの悪いタイプではない。

 

「ん、シンプルになんでも命令権一回でいいと思う。期限なしで」

 

「んぉ、サナリン結構攻めるねー。でもこの私に勝てるなんて思わないことだよ……!」

 

「上等じゃない、線香花火初心者のくせして。どうこき使われるか楽しみにしてるといいわ」

 

謎のシチュエーション特有の謎のテンション。

全員まとめてそこに迷い込んだまま、勝負は始まろうとしていた。

 

 


 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

三人の手元で火花が散る。

全員無言だった。

喋らず、動かず、夜の暗さの中でパチパチと弾ける火の玉に刺激を与えないよう息すら潜めて集中している。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

その最中、サナリモリブデンはちらりと二人の様子を伺った。

 

彼女の頭の中で思い出されるのはルール説明だ。

最初に消えれば負け。

最後まで残れば勝ち。

ルールはそれだけ。

ソーラーレイは確かにそう言っていた。

 

ならばつまり、敵の妨害はルール違反ではないという事になるのでは?

サナリモリブデンはその考えに至っている。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

無言の中、時間は過ぎていく。

線香花火の寿命は刻一刻と減り続けている。

行動を起こすならば早めでなければならないと、サナリモリブデンは考えた。

 

 

サナリモリブデンの行動

  • 自分の線香花火に集中する
  • ペンギンアルバムを驚かせる
  • ソーラーレイの花火に息を吹きかける
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