オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです   作:F.C.F.

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ジュニア級 12月 次走選択

 

 


 

 

タブレットから楽曲が流れる。

曲名は「ENDLESS DREAM!!」

ジュニア級G1のウイニングライブで使用される、夢を歌う一曲だ。

 

それは朝日杯フューチュリティステークスの記録映像だった。

画面の中ではセンターであるマッキラが軽やかに歌い踊り、ぎこちないブリーズグライダーと……。

 

「サナリさん、キレッキレですねぇ……」

 

「うん。ライブ練習頑張ったから」

 

そして、郷谷の言う通りキレキレのサナリモリブデンが脇を固めている。

サナリモリブデンというウマ娘はこういう部分にも手を抜かない性質だった。

 

当然の事ではある。

彼女が走る理由は生きた証を残すため。

言い換えれば記録、そして人々の記憶に自分を刻み込むという事だ。

ならば多くの人々の目に触れるライブに中途半端なパフォーマンスで臨むなど考えられない。

 

とはいえ。

 

(毎度の事とはいえ、印象と違いすぎて混乱するんですよね……)

 

郷谷がそう感じてしまうのもまた無理はないだろう。

サナリモリブデンといえば、物静かで落ち着いたイメージだ。

少々とぼけた部分もあるがクールと言っても良い。

そんな彼女がほぼ完璧かつノリノリなダンスと明らかに熱のこもった歌唱を披露し、様々なファンサービスを嬉々として行っている光景はとてつもないギャップがあるのだ。

 

特に、と郷谷は回想する。

 

(特に握手会ですねぇ。あの慈愛スマイルで不意打ちされた上に至近距離からのウィスパーボイス……純粋に破壊力です)

 

サナリモリブデンの握手会はすごい。

ファンの間ではそう広まりつつある。

 

ウマ娘は大体顔が良いがサナリモリブデンも例に漏れない。

そんな美少女が繰り出す、何もかもを許して包み込んでくれるような優しい微笑み。

そして、耳にじわりと染み入って背筋を震わせるような妙な魅力のある囁き声。

しかもファンサービスに熱心なサナリモリブデンであるから、1人あたりの時間もほんの少しだが長めに取りがちなのだ。

 

満足感がガチ。

一度体験したら忘れられない。

サナリンのファンサが神すぎてつらい。

などなど、ウマ娘オタクはネットの所々でのたまっている。

 

(魔性、とかも言われているみたいですが。本人はただ応援が嬉しくてやっているだけなんですがね)

 

サナリモリブデン本人としてはただただ真面目にファンを喜ばせようとしているだけ。

応援に対し、感謝と喜びをそのまま投げ返しているだけだ。

それを魔性呼ばわりとは何かと郷谷は小さく憤慨するが、気持ちも分からなくはないので何も言わずにとどめている。

 

サナリモリブデンもそのファンも、双方が楽しんでいるならそれで良いだろう。

その辺りが郷谷の最終的な意見であった。

 

 

 

などと郷谷が考えていた間に動画は終わった。

音楽と映像が止まり、サナリモリブデンが顔を上げる。

 

「ん、終わった。ありがとうトレーナー」

 

「いえいえ、このくらいならいつでもどうぞ。それにしても、見返したいくらい楽しかったんですか?」

 

「うん。沢山の人に見てもらえたから。とても嬉しかった」

 

「ふふ、それは何よりです」

 

満足げなサナリモリブデンがタブレットを返却する。

それを受け取りながら、郷谷は微笑んだ。

普段よりもふわふわとしたサナリモリブデンの声色がなんとも微笑ましかったためである

 

「さて、それではそろそろお話に入りましょうか」

 

「うん」

 

そこまでで一区切り。

郷谷が真面目な話を始める様子を見せると、サナリモリブデンは背筋を伸ばして椅子に座り直した。

緩んでいた表情も引き締められ、真剣な眼差しが郷谷に注がれる。

 

「昨日相談していただいた内容をもう一度確認しますね。劇的な精神の昂ぶり、身体能力の一時的向上。これがレース中に突然生じた、と」

 

教え子の様子に郷谷もまた真摯に応える。

話の内容は朝日杯FSのレース中にサナリモリブデンが至った未知の領域についてだ。

 

「うん。全能感、みたいなものがあった。と、思う。上手く言えないけど」

 

「頭でそう感じたというだけではないんですね?」

 

「ん、実際に脚が軽くなった。力がすごく簡単に通るようになったし、錯覚や勘違いじゃない」

 

その主張に対し、郷谷はタブレットを再度操作した。

また一つの動画が再生される。

今度流れたのはレース終盤、最終直線でマッキラに食い下がるサナリモリブデンの姿だ。

 

「映像でも確認できますし、間違いないでしょうね。届きこそしませんでしたが、この局面でサナリさんはさらに加速しています。……本当に、これはありえない事ですよ。超高速のレース展開に加えて、3コーナーからのロングスパート。ここまででも不可能事ですが、この最後の加速は特に輪をかけて今のサナリさんに出来て良い事ではありません」

 

郷谷の声が一瞬だけ震える。

率直に、当時の郷谷は恐ろしいとさえ感じたのだ。

明らかに限界を飛び越えて走るサナリモリブデンが本当に自分の元へ帰ってこれるのかと。

 

その後、満身創痍ながらもケロッとした顔で戻ってきたためにただの杞憂ではあったのだが。

それでも心臓の中の血液が丸ごと氷に変わったかのような感覚は今も郷谷の記憶から消えてはいない。

 

だがそれを表に出してサナリモリブデンを心配させる事も望みではない。

郷谷はすぐに取り繕い、動揺を覆い隠した。

 

「……ただし、これを可能にするものがひとつだけあります。領域と呼ばれる技術……? いえ、技術なんでしょうかね。うーん……」

 

「? ハッキリしていないもの?」

 

「そうなんですよねぇ。すみません、私もウェズンのチーフトレーナーに聞いただけですし、チーフにしても噂を耳にしたというぐらいらしいもので」

 

ただ、その先に続いた言葉は締まらなかった。

聞きかじりでしかないために曖昧でふわふわとしている。

 

ゾーン、フロー、ピークエクスペリエンス……そう呼ばれる超集中状態で発揮される、限界を遥かに超えた走り。時代を作るウマ娘だけが踏み入る事のできる悟りのような境地。と、言われているみたいです」

 

らしい、ようだ、みたい。

そのような事しか言えない自分を恥じ、郷谷はウルフカットの毛先を指先でいじる。

視線も若干泳ぎ気味だ。

 

「残念ながら前例が殆ど無いようでして……。いえ、あるのかも知れませんが秘匿されたというのが正しいのでしょうか。自分の担当だけが使える技術をわざわざよそに教えたいトレーナーもそう居ないでしょうし」

 

「じゃあ、よくわからない?」

 

「そういう事になります。すみません。情報はこれからも探してみますが、当面はサナリさんの感覚頼りという事になります」

 

結局、そういうところに行き着く。

情報が無い以上手探りでやるしかないのだ。

郷谷はサナリモリブデンに向き直り、問う。

 

「確認しますが、その領域に危険な感触はありましたか? 開いてはいけない扉を開くといいますか、何かを代償にしている感覚のようなものは」

 

「なかった」

 

それにサナリモリブデンは即答した。

声色はいつも通りのまっすぐなもので、そこに嘘はないと郷谷も理解できる。

 

「……むしろ、心地よかったと思う。私はこうあるべきだっていうのが、あの時は分かってた。今は頭で、言葉でそう覚えてるだけだけど」

 

「ふむん……。でしたら今のところ使って問題はないと思って良いんでしょうかね。脚の方もあれだけの事をした割に随分状態が良かったですし」

 

「うん。領域に害はない

 

「断言しますねぇ」

 

「ん……なんとなくわかる。なんとなくだけど」

 

郷谷はなんとも言えない。

自身が体感したわけでもなく、裏付ける情報もない。

サナリモリブデンの証言のみで考えて良いものかとも思いはするが、上手く使えば強力な武器になる事は確かだ。

 

「……わかりました、信じましょう。ですが未知の技術である事は忘れないで下さいね。使用はくれぐれも慎重に。そして使った際は必ず教えて下さい。念入りに検査しますので」

 

「ん、了解」

 

話はそこでまた一区切りを迎えた。

確定した情報が何もない以上、現状ではそれ以上の結論は出せない。

様子見というのが妥当なところだった。

 

領域に関しては今すぐにどうこうなる事ではない

しばらくは普段通りにトレーニングとレースに集中しようと、2人は相談を終わらせた。

 

 


 

 

さて、となれば次は予定の構築である。

郷谷はタブレットをサナリモリブデンの前に提示した。

表示されているのはレースの開催日程である。

 

 


 

 

【クラシック級 1月】

 

クロッカスステークス  冬/東京/芝/1400m(短距離)/左

ジュニアカップ     冬/中山/芝/1600m(マイル)/右外

若駒ステークス     冬/京都/芝/2000m(中距離)/右内

 

シンザン記念(G3)   冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外/チューターサポート

京成杯(G3)      冬/中山/芝/2000m(中距離)/右内

 

 

【クラシック級 2月】

 

マーガレットステークス 冬/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

すみれステークス    冬/阪神/芝/2200m(中距離)/右内

 

きさらぎ賞(G3)    冬/京都/芝/1800m(マイル)/右外

共同通信杯(G3)    冬/東京/芝/1800m(マイル)/左/マッキラ

 

 

【クラシック級 3月】

 

若葉ステークス     春/阪神/芝/2000m(中距離)/右内

 

ファルコンS(G3)    春/中京/芝/1400m(短距離)/左

スプリングS(G2)    春/中山/芝/1800m(マイル)/右内/マッキラ

毎日杯(G3)      春/阪神/芝/1800m(マイル)/右外

弥生賞(G2)      春/中山/芝/2000m(中距離)/右内/ペンギンアルバム

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:287

スタ:190

パワ:264

根性:211

賢さ:211

 

馬魂:100(MAX)

 

【適性】

 

芝:C(17/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(20/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

次走選択

  • クロッカスステークス
  • ジュニアカップ
  • 若駒ステークス
  • シンザン記念(G3)
  • 京成杯(G3)
  • マーガレットステークス
  • すみれステークス
  • きさらぎ賞(G3)
  • 共同通信杯(G3)
  • 若葉ステークス
  • ファルコンS(G3)
  • スプリングS(G2)
  • 毎日杯(G3)
  • 弥生賞(G2)
  • この期間は出走しない
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