オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです   作:F.C.F.

39 / 83
ジュニア級 12月次走選択結果~1月固定イベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

きさらぎ賞(G3) 冬/京都/芝/1800m(マイル)/右外

 

 


 

 

サナリモリブデンが選んだのは、きさらぎ賞だった。

2月の京都で行われる重賞、G3である。

 

「なるほど。勝利を目指しうる初めての重賞としては無難なところでしょう。挑戦にはなりますが勝ち負けにはなるかと思います」

 

その希望を容れた郷谷はうむと頷いた。

彼女の言の通り、今のサナリモリブデンにとって手の届く範囲と言えるだろう。

もちろん重賞である以上難しい戦いではあるだろうが、朝日杯FSのような絶望的状況とは程遠い。

やりようによっては勝利も可能なはずだと郷谷は言った。

 

「では登録しておきます。出走までにトレーニングはしっかり積みましょう。1月は少し厳しくいきますよ」

 

「うん、望むところ」

 

顔を見合わせた2人はニッと笑った。

 

年の暮れ、芦毛のウマ娘サナリモリブデンと、新人トレーナー郷谷静流。

2人の最初の1年はこうして終わろうとしていた。

 

 


 

 

【固定イベント/新年のご挨拶】

 

 


 

 

そして、あっという間に明けた。

 

「あけましておめでとうございます、サナリさん」

 

「ん、あけましておめでとう、トレーナー」

 

ときは1月1日、元旦。

ところはとある街のとあるアパートの一室、その玄関先。

サナリモリブデンの実家であり、訪ねてきたのは郷谷だ。

新年のご挨拶である。

 

「すみませんねぇ、ご家族で水入らずのところに」

 

「トレーナーなら大丈夫。それに仕方ない。お母さん、こういう時しか家に居ないし」

 

新年早々の訪問となったのはそういう理由だった。

サナリモリブデンが苦笑し、玄関ドアを大きく開いてどうぞと迎え入れる。

どうもと応じて、郷谷は部屋の中に入った。

 

玄関先から既によく整理された家であることがわかる。

余計な物は置かれておらず、靴は最小限できっちり並べられており、下駄箱の上の置物はしっかりと今年の干支だ。

入れ替えるのが面倒だからと十二支全てをまとめて並べている自分の実家とは大違いだと、郷谷は心中で感心した。

 

「あぁ、いらしたんですね」

 

と、そこへ声がかかる。

玄関から居間に続く廊下の先から1人の女性が歩み出てきていた。

サナリモリブデンと同じ、殆ど白に近い芦毛のロングヘア。

ピンと立ったウマ耳に、ゆるりと揺れる尻尾。

サナリモリブデンの母親だった。

 

「はい、新年早々お邪魔して申し訳ありません。サナリモリブデンさんのトレーナーを務めさせて頂いております、郷谷静流と申します」

 

「いえそんな、こちらこそ1年もずっと時間を取れずにすみませんでした」

 

彼女と郷谷は互いに頭を下げ合い、それから顔を見合わせる。

そっくりだなぁ、というのが郷谷の正直な感想だった。

顔の作りはもちろん、表情の薄さや目の開き方に立ち姿、そして纏っている静かな雰囲気がほとんど全くサナリモリブデンと同じだ。

サナリモリブデンが年を取ったならこうなるのだろうという想像をそのまま出力すれば彼女になるなと、郷谷はやや緊張しつつも考えた。

 

「初めまして。この子の母、サナリクロムです。娘をいつもありがとうございます」

 

サナリクロムはふわりと笑う。

その柔らかな笑みもまた、サナリモリブデンと同一のものだった。

 

 


 

 

「まさかうちの子が中央で走って、その上G1に出るだなんて思いもしませんでした」

 

家の中、居間に上げられた郷谷はサナリクロムと向かい合って座っていた。

サナリ家は床に座るタイプの家庭であるらしく、床にはカーペットが敷かれている。

その真ん中にはこたつが置いてあり、サナリモリブデンも加えた3人でぬくぬくとしながらの3者面談である。

 

「ん、トレーナーが連れて行ってくれた」

 

「いえいえ、サナリさんの頑張りあっての事です。あぁいえ、サナリモリブデンさんの」

 

「そちらが呼び慣れているのでしたら、サナリと呼んであげて下さい。私は昔からクロムの方で呼ばれていますから、呼び分けはそれで」

 

もちろんミカンも常備されている。

大きな木の器に山盛り積まれたそれを定期的にサナリモリブデンが持っていき、皮を剥いてモリモリ食べている。

普段それほど食の太くない彼女だが、今日はどうやら違うらしい。

 

「トレーナーも食べたい?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。美味しそうに食べるなぁと思っただけですので」

 

そして、なんだか少し子供っぽかった。

クールな印象が薄い、むしろ少々愛らしさを感じる動作でミカンが1房差し出される。

郷谷としては意外な一面を目にして見ていただけだったため、特に要求する事もなく差し戻した。

 

「サナリ。お客さんの前なんだからほどほどにしなさいね。……ん、なんでしたっけ。あぁ、そうそう、うちの子に走る才能があったなんて本当に驚いたという話です。私はもう全然でしたので」

 

「おや、クロムさんもレースを?」

 

「えぇ、地方で200戦ほど」

 

「それはまた走りましたねぇ……」

 

「ちなみに私の母はサナリタングステンというのですが、そちらは250戦ほど」

 

「なるほど鋼の一族なので?」

 

「そして私と母の勝利数は合わせて2つです」

 

ぶい、と顔の横で指を2本立てるサナリクロム。

人差し指と中指を、くっつけたり離したり。

 

「出稼ぎで離れていた1年で並ばれるとは思いませんでした」

 

「ははぁ、それはなんとも……」

 

「なので電撃復帰でもして3勝目を狙って、親世代の威厳を取り戻す計画を先月から練り始めたんですよ」

 

「初対面で言う事ではないですが、クロムさんさては結構おかしな人ですね?」

 

「とても心外です」

 

拗ねたように言うサナリクロム。

だがその口元は楽しそうに綻んでいた。

彼女なりの冗談なのだろうと郷谷は一緒になって笑う。

なお、部屋の片隅にある本棚に並んでいた「30代からでも遅くないトレーニング入門」という書籍とその仲間たちは見なかった事にしたようだ。

冗談に見せかけた本気だった場合の対処までは流石に郷谷も考えたくなかったためである。

 

 

 

「そういうわけですから、郷谷さんには感謝しているんですよ。まさか私が、我が子のレースをテレビで見て応援できる日が来るなんて思いもしていませんでした」

 

話を戻して、サナリクロムは続けた。

途中、ちらりと隣室に目を向けて。

 

「この子の父親も、きっと同じ気持ちだと思います」

 

郷谷はその視線の先を追う。

そちらには扉が一枚。

先に何があるかは直接は見えないが、話の流れがわからない郷谷でもなかった。

 

「……あぁ、いえ」

 

それに対して郷谷が何かを言う前に、サナリクロムがまた冗談めかして言う。

 

「あの人も郷谷さんと同じトレーナーでしたから、自分が育てたかったと騒いでいるかも知れませんね」

 

「ふふ、残念ですがここにおられても譲っては差し上げられませんねぇ。サナリさんは私の大切な愛バですので」

 

「…………ん」

 

「あら、照れてるのサナリ?」

 

「お母さん、うるさい」

 

「今日のサナリさんはなんだかいつもより可愛いですねぇ」

 

「トレーナーも」

 

その冗談に郷谷もありがたく乗り、重くなりかけた空気はさらりと流れる。

一緒になってサナリモリブデンをからかって可愛がり、大人組2人が笑い合う。

味方の居ない子供はじっとりとした目になって、恥ずかしさを隠すようにミカンを丸ごと頬張るのだった。

 

 


 

 

それから。

少々の雑談を経た後、サナリモリブデンと郷谷は家を出た。

初詣である。

サナリモリブデンが毎年参拝しているという神社がご近所にあるらしく、そちらに向かっている。

 

「それにしてもお昼まで用意して頂けるなんて、なんだか悪いですねぇ」

 

「お店、どこも開いてないから。トレーナーにお正月からコンビニで済まされたら、そっちの方が悪い。うちの都合でこんな時期に来てもらったのに」

 

その移動中、話題に上がるのは初詣から帰った後に待っている食事の事だ。

昨年末ギリギリに帰省したサナリ親子が共に作ったおせちに、今まさにサナリクロムが煮込んでいるだろう雑煮。

これが郷谷にも振舞われる事になっている。

始めは遠慮しようとしていた郷谷だったが、静かながらも熱烈に勧める2人に、これは食べた方が喜んでもらえるなと判断した次第だ。

 

「お母さんのお雑煮はとても美味しい。楽しみにしてて」

 

特にサナリモリブデンの方はわかりやすい。

今にも鼻歌が漏れてもおかしくないほど。

 

「サナリさんは、お母さん大好きなんですね」

 

「ん」

 

その微笑ましさに郷谷が呟くと、サナリモリブデンはすぐさま頷いた。

口の端が少しだけ持ち上がり、いかにも嬉しそうな気配を漏らす。

 

「うん。好きだし、感謝してる。とても」

 

 

 

そうして、2人は神社に辿り着いた。

 

ごく小さな神社である。

奥の本殿は「本殿」と呼んでしまうと大袈裟に聞こえてしまうほどで、賽銭箱が置かれている拝殿も相応の大きさだ。

他には手水舎と、授与所と一体になった社務所があるだけ。

 

人影はまばらだ。

というか、社務所でおみくじを買っている数人の老人しか居ない。

少し離れたところには大きな神社があるために、こちらは人が少ないのだという。

精々が遠くまで歩くのが難しい人々が参拝する程度で大体閑散としているとサナリモリブデンは語った。

 

「寂しいけど、こういう時だと楽でいい」

 

「確かに。並ばずに済む初詣は私初めてですよ。正直なところありがたいですね」

 

宮司に聞かれれば怒られそうな言葉を交わしながら手を清め、2人は拝殿前に立つ。

賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝。

作法に正しく従いながら、サナリモリブデンと郷谷は神前で手を合わせる。

 

【挿絵表示】

 

その祈りは実に真摯で、見た者があれば思わず背筋を正してしまうほどのものだった。

 

 


 

 

≪System≫

初詣では願い事がひとつ叶います。

願える事とその効果は以下の通りです。

 

一年間無事に過ごせますように/クラシック級でのレース中、判定大失敗によるマイナスイベントを3回まで打ち消す

 

強いウマ娘になれますように/ランダムな能力値が7回×10上昇する

 

レースが上手いウマ娘になれますように/ランダムな金スキルヒントを1つ獲得、スキルPt+100

 

皆と仲良くなれますように/全員の絆+15

 

 

願い事は?

  • 一年間無事に過ごせますように
  • 強いウマ娘になれますように
  • レースが上手いウマ娘になれますように
  • 皆と仲良くなれますように
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。