オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです 作:F.C.F.
「ごちそうさまでしたー!」
「ごちそうさまでした。ありがとう、トレーナー」
平均よりもやや背の高い芦毛と、小柄な青毛。
2人のウマ娘がレストランの店先で並んでそれぞれのトレーナーに礼を言う。
サナリモリブデンとペンギンアルバムだ。
方や白百合ステークスを、方や日本ダービーを。
グレードは違えども同日に行われたレースを勝利した2人は祝勝会を行っていたのだ。
利用した店舗はサナリモリブデンが初勝利を祝ったあの店である。
天にも昇るような味わいの人参ハンバーグはやはりペンギンアルバムにも好評で、健啖家である彼女は二度のおかわりまでしたほどだ。
「どういたしまして。お2人に喜んでもらえたなら連れてきた甲斐がありました」
上機嫌なウマ娘達の礼に、やはり上機嫌でニコニコ顔の郷谷が答える。
その横ではペンギンアルバムのトレーナーである若い男、朝比奈もうんうんと頷いていた。
「良い事があった時にはお祝いがないと嘘だからね。頑張りが報われた時は特にだ」
朝比奈は実にトレーナーらしい装いだった。
きっちり着込んだスーツ姿で、いかにも社会人らしい雰囲気を纏っている。
今日も相変わらずパーカーにジーンズな郷谷と並ぶとなんともちぐはぐだった。
「えー? じゃあ普段のトレーニング頑張った後にも連れてきてよー! 頑張りが報われてタイム速くなった時とか」
「君はその辺ちょっと緩めるとほら、すぐ膨らんじゃうから……」
「デリカシー!」
そんな彼にペンギンアルバムが纏わりつくが、打ち返された直球で撃沈される。
最近は以前のようにぷくぷく太る事はなくなってきたが危うい時はそこそこあるのだ。
調整に苦労しているであろう朝比奈に対し、ペンギンアルバムはこの路線では少々弱い。
出来るのは言い方に文句をつける程度。
しかしそれも慣れたものなのか、朝比奈ははいはいと流すだけで終わらせた。
「むー……じゃあ今日のカロリーも早く消費しちゃお。いつものメニューでいいんだよね?」
「そうだね。まだレースから日が浅いから弱めで行こう」
「おや、そちらはもうトレーニング再開ですか?」
「えぇ、想定よりかなり消耗が少なかったものですから。むしろ休ませすぎる方がマイナスになりそうなんですよ」
若干拗ねたペンギンアルバムがトレーニングを要求し、朝比奈が応じる。
彼の言通りペンギンアルバムはピンピンしていた。
レースから数日しか経っていないとはまるで思えないほどの元気さ。
未だ多少の影響が残っているサナリモリブデンなどは、純粋にアルはすごいなぁなどと述懐していた。
「じゃーまた後でねサナリン! 楽しかったー!」
「うん、また夜に。トレーニング頑張って、アル」
ウマ娘2人が手を振り、店の前で別れる。
「さて、それではこちらもやる事をやってしまいますか」
「うん」
それで一区切り。
ここからはまた次に向けた、真面目なお話の時間であった。
サナリモリブデンと郷谷、2人はレストランから移動してコーヒーショップに入った。
特にどうという事もないチェーン店だ。
一般的な値段、一般的な味、一般的な量。
大きな特徴がない代わりに安定感は抜群で、いつ来ても同じ一杯が楽しめる落ち着いた店舗である。
今日は平日の昼間という事もあり、人気の少ない店内はのんびりと過ごしつつ対話を行うにはぴったりだ。
サナリモリブデン達はソファ席にゆったりと並んで陣取る。
「さて、あらためておめでとうございます、サナリさん。これで6月からも晴れてオープンクラスを走れる事になりますね」
「うん。トレーナーのおかげ」
そこで2人はまず再度勝利を喜び合い、それから話し合いを始めた。
議題はもちろん今後の事だ。
サナリモリブデンは白百合ステークスを勝利した。
これによって彼女の評価点───ウマ娘の所属クラスをわける基準となるそれは2100点に達した。
クラシック級6月以降にオープンクラスに残るためのボーダー、1600点を超えている。
つまりは今後もトップクラスのレースに出走が叶うのだ。
朝日杯FSやきさらぎ賞のような重賞への挑戦権も獲得した、という事でもある。
「夏、そして秋に入ればレースも様々増えてきます。今までは無かった長距離も開催されるようになりますしね」
「ん……菊花賞とか?」
「クラシック長距離といえばやはりそれですね。……ただ、現状のサナリさんだと難しいレースでしょうが」
その中でも特に名のあるレースを例に挙げて、郷谷は言う。
現状のサナリモリブデンに不足している能力についてだ。
「サナリさんは距離に関係なく走る事のできる脚を持っています。ですが、走れる事と勝てる事はまた別です」
郷谷の口から出るのは厳しい現実だった。
そういった点、彼女はオブラートに包む事も優しい嘘を絡める事もしない。
愛バであるサナリモリブデンが望まない事を知っているためだ。
「現状で長距離に出走したとして、サナリさんはほぼ間違いなく潰れます。スタミナが絶対的に足りていません。レースによってはマイル戦の倍ほどを走るわけですから、潰れて終わりになるでしょう。勝ち負けに関わりのないところをただ走ってゴールするだけのレースになります」
「……ん」
サナリモリブデンはそれをしっかりと飲み下す。
彼女とて自覚のある事だ。
きさらぎ賞の終盤、スタミナが尽きて枯れ果てた自分を彼女は思い出す。
幾ら暴走があったとはいえ1800メートルでああなったのである。
それが2500以上、菊花賞では3000ともなれば絶望的と言うほかない。
「ただまぁ、足りないというなら身につければ良いだけです。秋になる前には夏合宿がありますからね。そこでみっちりと鍛えればいくらか目も出てくるはずです」
「……ちょうど気になってた。夏合宿について、そろそろ聞いておきたい」
「えぇ、もちろん。こちらも説明には良い時期だと思っていましたし」
そこで郷谷は空気を切り替え、別の説明を始めた。
夏に行われる中央トレセン恒例行事、夏合宿についてだ。
「これは6月から9月のうち2ヶ月を利用して行われる、ウマ娘の効果的な能力増強を目的とした強化トレーニングを指します。海辺に作られた専用施設を利用して強度の高いトレーニングを行うわけですね。同時に各種レジャーも楽しむ事ができます」
「? 遊ぶの?」
「休息なしでは壊れてしまいますからね。それに一見ふざけているように見えても科学的に効果が認められています。レジャーでストレスを緩和しモチベーションを高く維持する事で、能力の伸び方に極めて大きな差が生まれるんですよ。気になるなら論文も読みますか? タブレットにダウンロードしてありますが」
「ん、後で見ておきたい」
答えつつ、サナリモリブデンはなるほどと納得する。
辛い苦しいと嘆いて動くよりも、楽しい面白いと楽しんで鍛えた方が身につくというのは理解のしやすい所だ。
彼女自身、ペンギンアルバムやチームウェズンとの友情トレーニングで実感してきている部分でもある。
そして早くもワクワクと浮き立つ心も感じていた。
ソーラーレイやチューターサポート、ペンギンアルバムやチームウェズン。
あるいは以前戦ったブリーズグライダーや、やけにレースで顔を合わせるスローモーションやタヴァティムサ。
はたまた、遥か遠く背を見せて君臨するマッキラ。
そういった面々と競って鍛えつつ夏のレジャーを楽しむのは間違いなく充実したひと時になるだろうと想像してだ。
己を追い込んで義務を課し、ひたすらトレーニングに明け暮れた幼少期には体験できなかった事である。
サナリモリブデンの頬が期待に緩むのも無理はなかった。
「この夏合宿ではサナリさんの能力も飛躍的に伸びる事でしょう。不足をそこで上手く補いきれればこれまでは難しかったG1や、新しく始まる長距離レースに挑む余地も出てくるはずです」
そう言って説明を締める郷谷に返す頷きもやや勢いが強い。
微笑ましさに、郷谷もつられて表情を緩めるほど。
「まぁ、実際長距離に挑むかどうかはサナリさんの考え次第ですが。現状のままマイル路線でも構いませんし、中距離や短距離に目を向ける手もあります」
「ん……」
「こちらも中々面白い選択にはなりそうですよ。短距離はソーラーレイさんを中心に群雄割拠状態でライバルには事欠きません。中距離は飛びぬけていたペンギンアルバムさんが恐らく長距離に専念していく関係から、他の距離よりはG1での勝率が期待できるでしょう」
そして、郷谷はそこで話を切り替えてタブレットをサナリモリブデンに手渡した。
「さ、それを踏まえて次走を決めてしまいましょう。それによって、どの月を合宿に当てるかが決まってきますからね。そろそろ予定を学園に提出しないといけません」
表示されているのはいつも通りサナリモリブデンの適性にあわせたレース群の情報だ。
それをひとつひとつ確かめるように、芦毛の頭を揺らして眺めていく。
【クラシック級 6月】
パラダイスステークス(OP) 春/東京/芝/1400m(短距離)/左
米子ステークス(OP) 春/阪神/芝/1600m(マイル)/右外
函館スプリントステークス(G3)春/函館/芝/1200m(短距離)/右/ブリーズグライダー
エプソムカップ(G3) 春/東京/芝/1800m(マイル)/左
鳴尾記念(G3) 春/阪神/芝/2000m(中距離)/右内
安田記念(G1) 春/東京/芝/1600m(マイル)/左/マッキラ
宝塚記念(G1) 春/阪神/芝/2200m(中距離)/右内
【クラシック級 7月】
福島テレビオープン(OP) 夏/福島/芝/1200m(短距離)/右
巴賞(OP) 夏/函館/芝/1800m(マイル)/右
アイビスサマーダッシュ(G3) 夏/新潟/芝/1000m(短距離)/直線/ソーラーレイ
CBC賞(G3) 夏/中京/芝/1200m(短距離)/左
ラジオNIKKEI賞(G3) 夏/福島/芝/1800m(マイル)/右
中京記念(G3) 夏/中京/芝/1600m(マイル)/左
七夕賞(G3) 夏/福島/芝/2000m(中距離)/右
函館記念(G3) 夏/函館/芝/2000m(中距離)/右
【クラシック級 8月】
UHB賞(OP) 夏/札幌/芝/1200m(短距離)/右
朱鷺ステークス(OP) 夏/新潟/芝/1400m(短距離)/左内
関越ステークス(OP) 夏/新潟/芝/1800m(マイル)/左外
小倉日経オープン(OP) 夏/小倉/芝/1800m(マイル)/右
札幌日経オープン(OP) 夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右
北九州記念(G3) 夏/小倉/芝/1200m(短距離)/右
キーンランドカップ(G3) 夏/札幌/芝/1200m(短距離)/右
関屋記念(G3) 夏/新潟/芝/1600m(マイル)/左外/チューターサポート
小倉記念(G3) 夏/小倉/芝/2000m(中距離)/右
札幌記念(G2) 夏/札幌/芝/2000m(中距離)/右
【クラシック級 9月】
ポートアイランドS(OP) 秋/阪神/芝/1600m(マイル)/右外
丹頂ステークス(OP) 夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右
京成杯オータムハンデ(G3) 夏/中山/芝/1600m(マイル)/右外
新潟記念(G3) 夏/新潟/芝/2000m(中距離)/左外
セントウルステークス(G2) 夏/阪神/芝/1200m(短距離)/右内
神戸新聞杯(G2) 秋/阪神/芝/2400m(中距離)/右外/ペンギンアルバム
オールカマー(G2) 秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外
セントライト記念(G2) 秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外/ジュエルルビー、アクアガイザー
スプリンターズステークス(G1)秋/中山/芝/1200m(短距離)/右外/ソーラーレイ、他2名
一覧を眺めるサナリモリブデン。
ただ、そこに一言が加えられる。
「あぁ、忘れていましたが……残念ながらサナリさんには宝塚記念への出走権はありません。グランプリに出走できるかはファン投票の結果次第ですからねぇ。こればかりはどうしようもないことです」
言いつつ、タブレットを郷谷の指先がタップする。
その操作で宝塚記念には赤い横線が引かれ、選択肢から消えた。
「これは年末の有マ記念も同様です。出走のボーダーラインは毎年概ねファン20000人といったところでしょうか」
サナリモリブデンはその数字を覚えておく事とした。
現在のサナリモリブデンのファンは、公式情報によると5631人。
1戦で増えるファン人数としては、それぞれ1着を取ったとしてオープン戦ならば2500人ほど、G3で4000人強、G2で5000~7000人の間というところだ。
今年の末までに達成しようとするならば難しい話になるだろう。
サナリモリブデンと郷谷は次走を選ぶ。
夏合宿は6~9月のうち2ヶ月を利用して行われる。
つまり、この間に2回までならレースに出走しても合宿に影響はない。
また、6月以降のレースはシニア級との混合戦になるが、レース経験などの差を埋めるためにクラシック級のウマ娘には多少の有利が与えられる。
このため、格上のシニア級ウマ娘との戦いでも急激に難しいレースになるといったことはない。*1
以上の情報を踏まえてまず2人はこの期間の前半、6~7月をどう過ごすかを決定した。*2
次走選択
-
パラダイスステークス(OP)
-
米子ステークス(OP)
-
函館スプリントステークス(G3)
-
エプソムカップ(G3)
-
鳴尾記念(G3)
-
安田記念(G1)
-
福島テレビオープン(OP)
-
巴賞(OP)
-
アイビスサマーダッシュ(G3)
-
CBC賞(G3)
-
ラジオNIKKEI賞(G3)
-
中京記念(G3)
-
七夕賞(G3)
-
函館記念(G3)
-
この期間は出走しない