オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです 作:F.C.F.
【投票結果】
ペンギンアルバム
サナリモリブデンは歩いていく。
目指す先は月夜にあっても分かりやすい。
真っ黒な空が一角だけ、暖かな色にぼんやりと染まっている。
夏のひと時を楽しもうと人々が灯した提灯の火は煌々と夜を照らしていた。
からん、ころん、と下駄の音が足元から聞こえる度に、サナリモリブデンの心は浮き立つようだった。
何しろ彼女にとってこれは特別な事である。
夏祭り。
それを本当の意味で心の底から楽しめる幼少期を、彼女は過ごしていない。
父の背に負われて訪れただろう景色は既に薄れて記憶に亡く。
母と二人きりになって以降の彼女は自分自身に余暇というものを許していなかった。
そして母親は彼女を養うための日々に忙殺され、そも祭りというものを覚えていたかも怪しい。
サナリモリブデンにとって祭りとは、遠くから眺め、あったかも知れない記憶を懐かしむだけのものだった。
あるいは何かの巡り合わせが違えば、今も縁遠いものと思い込んでいたかもしれない。
トレーナーや友人の制止さえ振り切って血を吐くようなトレーニングを強行し続ける日々を過ごしている可能性はきっと、低いものではなかった。
(……何回でも、感謝しないと)
だが、そうはならなかった。
サナリモリブデンは郷谷に見出され、適切な指導の下で力を磨き、幾つもの勝利を手にした。
運命を預けるべきトレーナーを今の彼女は信じられている。
郷谷が時折口にする、余暇こそが鍛錬の質を上げるという言葉も同様にだ。
(ありがとう。トレーナー)
浮き立つ心のままにサナリモリブデンの歩みは軽やかさを増していく。
郷谷が用意した浴衣に身を包み、娯楽だけを目的に足を進める。
ほんの数年前までは考えられもしなかった事だが。
それは今や、彼女にとってなくてはならないものだった。
(いってきます)
やがてサナリモリブデンの耳に音楽が届くようになる。
軽やかで、華やかで、けれどどこかノスタルジックな祭囃子だ。
会場はもうほど近い。
自分の意志で初めて楽しむ祭りはすぐ目の前にある。
そこで自分を待っているはずの親友を想い、サナリモリブデンは歩調をさらに速めた。
「あっ、サナリーン! こっちこっちー!」
待ち合わせの相手、ペンギンアルバムはやはり先に到着していた。
こういった時のペンギンアルバムは大概素早い。
てきぱきと準備を済ませて行動し誰よりも早く集合場所に辿り着く。
一分一秒でも多く楽しもうとするその気概は、娯楽に慣れないサナリモリブデンを引っ張る資質として恐らく最高のものだ。
サナリモリブデン自身、学園入学以来の二年間でその性質から多くの事を教えられていた。
「お待たせ、アル。もしかして結構待った?」
「んへへ、ちょっとねー。楽しみで早く来すぎちゃった」
「ん……ごめん」
定番の挨拶にペンギンアルバムは正直に答える。
ベンチに腰掛けて足をぷらぷらさせていた所を発見していたサナリモリブデンは、ちょっと遅かったかと謝った。
対してペンギンアルバムはカラリと笑い、顔の前で軽く手を振る。
「いーのいーの! こっちが早すぎただけだし、それにデートって待ってる時間も楽しいっていうしね。実際本当だとは私も今日知ったけど」
「? 女の子同士でもデートっていうの?」
「あんまり言わないけど、私とサナリンの仲じゃん?」
そして、にひ、なんて擬音が似合いそうな笑みを浮かべる。
次いでベンチから跳ねるように立ち上がると、とんとんと数歩歩いて振り返った。
「よっし! それじゃあ今夜はお姫様をエスコートしちゃおっかな! サナリンに夏祭りの楽しみ方を教えてあげよう!」
「うん。よろしく。頼りにしてる」
それにサナリモリブデンも頷き返した。
実際、彼女は本心からペンギンアルバムを頼りにしている。
日常を楽しむ事にかけては絶対的な信頼を置いているのだ。
何しろペンギンアルバムはいつだって愛らしく、キラキラとした笑顔を輝かせている。
「でも、お姫様なのはアルの方だと思う。浴衣も似合ってて可愛いし。頭のお団子も愛嬌があって好き」
「サナリンの誉め言葉はストレートだよねぇ。照れちゃうじゃん」
「こういうのは素直に言った方が嬉しいと思って」
「ん-、私サナリンのそういうとこすっごい好き! えへへ、サナリンも浴衣似合ってるよ!」
「ん、ありがとう」
「特にうなじがセクシー」
「セク……?」
そうして、2人は連れ立って夜宮の中に歩み入っていく。
賑やかな出店の列は提灯の明かりに照らされていかにも楽しげで。
ここで過ごすひと時はきっと無二の思い出になるだろうと、サナリモリブデンに確信させるには十分なほどだった。
「さてサナリン。最初に教えておくね。お祭りを楽しむ極意ってやつを……!」
「む……!」
祭りの中を歩き始めてすぐ、ペンギンアルバムはそう切り出した。
居並ぶ出店の数々に目を回していたサナリモリブデンは、その声に意識を引き戻される。
「それはね、お金に糸目をつけること!」
「つけ、るの? つけないんじゃなく?」
そして告げられた言葉に目をぱちくりさせた。
サナリモリブデンは辺りを見回す。
たこ焼き500円、焼き鳥1本100円、ホットドッグが300円で、射的にくじ引きに金魚すくいが1回いくらと看板が出ている。
祭りを楽しみきろうというならそれこそ紙幣の種類で言えば諭吉が必要になりそうなものだ。
今の彼女にはレースで得た賞金がある。
管理は母親に任せているものの手持ちは一般の学生よりも遥かに多い。
一夜の祭りの全てを味わい切るぐらいは可能だった。
が、それよりも楽しい手があるとペンギンアルバムは言う。
「そ、つけるんだよ。そこがミソなの。なんでかっていうとね、制限すると質が高まるから!」
「ん……もう少し詳しく」
「じゃあサナリン、想像してみて? この沢山の出店を片っ端からぜーんぶ楽しんでいくのを」
ペンギンアルバムの指示に、サナリモリブデンは素直に従った。
想像の中の彼女は端から順に遊びまわっていく。
もちろん隣には一番の親友を伴ってだ。
とても楽しいだろう。
それがサナリモリブデンの率直な感想である。
「はい次。今度は出店の中から3つだけ選んで、そこだけ楽しむとすると?」
「……ん。なるほど。なんとなくわかった」
が、次いでの指示でサナリモリブデンは理解する。
夜宮に並ぶ出店は数十とある。
その中からたった3つとなれば吟味に吟味を重ねた上で、レースに挑むような真剣さで立ち向かうことだろう。
胸に残る思い出の量は減るかも知れない。
けれどそこに宿る熱量は遥か大きくなるとの予想は自然とついた。
「流石アル。天才的なアイディアだと思う。その考えはちょっとなかった。勉強になる」
「えっへへ、でしょー? そういう訳だからお財布に制限ね」
「了解。いくらぐらいがいい?」
「んー、遊び系で3000円。食べ物系で10000円ってとこかな?」
「…………。私が祭りに詳しくないせいかも知れないから、何も言わないでおくね」
小柄な青毛のいつも通りな健啖家ぶりはさておいて。
サナリモリブデンは財布の中から4000円だけを別に取り分けた。
彼女はそう食の太いタイプではない。
出店の食事はひとつかふたつ楽しめば十分だと判断しての金額だった。
これで準備は整った。
制限のかかった財布を手に、2人は今日楽しむべきものは何かと吟味を始める。
「おじちゃん、1回おねがーい!」
「私も1回、お願いします」
「はいよ、1人300円ね」
出店の列を端から端まで。
1回ぐるりと見て回ってまず向かったのは射的だった。
ペンギンアルバムいわく、ド定番は何より優先して押さえるべき、との事。
「多分見てわかると思うけど、景品を銃で撃って落としたら貰えるってやつね。サナリン何か欲しいのある?」
そう聞かれてサナリモリブデンは並ぶ景品の数々を眺める。
人形やぬいぐるみ、コンビニで日常的に見かける菓子類に、逆に全く見覚えも聞き覚えもない謎の玩具。
並ぶものは様々だった。
その中でひとつ、透明なプラスチックの箱に入ったアクセサリーがサナリモリブデンの目を引いた。
ほとんど白に近い灰色の小さな髪飾りだ。
恐らく素材は安物ではあるのだろうが、意匠の細かさから丁寧に作られている事がわかる。
「あれ、かな。あの髪飾りちょっと狙ってみたい」
「お、1回お手本見せてあげようかと思ったけど、サナリン自分でやる?」
「うん。何事も挑戦」
やる気満々に、サナリモリブデンは銃口にコルクを詰めた。
ペンギンアルバムの説明に従って銃床を肩に当てて構え、照門を覗く。
「弾は5発あるし、まず1発は試しに撃ってみるといいよ。たまに曲がって飛んでく銃とかあるから」
「おいおい、うちはそういう意地の悪い事はやってないよ」
「えぇー、ほんとかなぁ? 出店のおっちゃんってみんなそう言うじゃん」
苦笑する店主と悪戯に笑うペンギンアルバムのやり取りを聞きながら、まずは1発。
放たれたコルクの弾はまっすぐに飛んだ。
狙った景品の数センチ横を抜け、後方に設置された壁板に当たって軽い音を立てる。
「大丈夫、まっすぐ飛んでると思う」
「おー、ほんとだ。おじちゃんいいの? こんなんじゃすぐ景品取られちゃうんじゃない?」
「逆に聞くけどよ、アコギな事やろうってやつがこんなとこまで店出しに来ると思うかい?」
「あっ、そりゃそうだ。……よっしゃサナリン狙い目だー! このお店ちょろいから景品全部かっぱらっていこー!」
「ははは、他の子の分は残しといてくれよ?」
そうして本番だ。
サナリモリブデンは先ほどよりも慎重に狙いを定めた。
大きく息を吸った後、全てを吐き出し切って止める。
筋肉の震えを意識で制御し、そして引き金を引いてみせた。
【イベント分岐判定】
難度:120
補正:集中力/+20%
参照:賢さ/261+52=313
結果:240(大成功)
ぽこん、と軽い音。
発射された弾は景品に命中した。
が、どうやら当たり所が悪い。
小さな箱は前後に揺れはしたが、倒れ切っていない。
「あぁ、惜しい!」
「……まだ!」
しかし不安定にはなっている。
それをサナリモリブデンは好機と捉えた。
あとわずか、ほんの一押し。
それこそ息を吹きかける程度の衝撃でアクセサリーの箱は倒れて落ちるだろうとサナリモリブデンは確信した。
判断と行動は一瞬だった。
サナリモリブデンは残りの弾に手を伸ばし───。
【イベント分岐判定】
難度:120
補正:大成功/集中継続/+20%
参照:スピード/387+77=464
結果:344(大成功)
パァン!
と、今度は鋭く音が響いた。
素早い装填からの、一瞬での狙撃。
弾が命中した箇所は箱の中央、やや上。
見事なクリーンヒットであった。
安定を欠いていた箱がこれに耐えられる理由はない。
棚から吹き飛ぶように景品が転げ落ちる。
銃声はさらに二度続く。
景品獲得に気を良くしたサナリモリブデンが勢いのままに隣をも狙ったのだ。
こちらもまたクリーンヒット。
300円で計2個。
初挑戦で大成功と呼べる成果をサナリモリブデンは手にしてみせた。
「……ん!」
「おー! すごいすごい! かっこよかったよサナリン!」
ちゃきっと銃を立てて胸を張って見せるのも様になっている。
そんな彼女の元へ、店主が拾い上げた景品がやってきた。
ひとつは髪飾り。
予定外だったもうひとつは。
「あれ、こっちも髪飾りだ」
「うん。咄嗟だったからあんまり考えてなかった」
これまた髪飾りだった。
形は1個目と同じ。
違うのは色で、こちらは艶のある黒になっている。
サナリモリブデンはそれを一旦置き、白い髪飾りを取り出した。
「アル、ちょっとじっとしてて」
身をかがめて、ペンギンアルバムの髪に挿す。
金具をぱちりと止めれば、今日のペンギンアルバムの頭に生えているお団子に白い飾りが乗る形になった。
「ん、やっぱり。アルの髪の黒さはとても綺麗だから、似合うと思った」
「え、お、おう……」
「変な声出てるよアル。これ、あげる。気に入ったら使って」
体勢の都合上耳元で囁かれたペンギンアルバムはたじたじとなったが。
しかしすぐに表情を引き締めると、少しだけ照れ臭そうにして言った。
「うん、ありがと。大事にするね!」
「そうしてくれると嬉しい」
「ねーねーサナリン、これもしかして最初から私のために狙ってたの?」
「うん。つけてるところを想像したら可愛いかったから」
「もー! サナリンってほんとそういうとこー!」
それから、嬉しそうに頬を緩めてサナリモリブデンの腕をぺちぺち叩く。
くすぐったさにサナリモリブデンもまた笑った。
「えへへ、じゃあお返し! サナリンちょっとかがんでー?」
「うん」
そして今度はペンギンアルバムがサナリモリブデンの頭に手を伸ばした。
何が起こるかは当然サナリモリブデンもわかっている。
ワクワクとした心地のまま目を閉じて、小さな手に身を委ねる。
ぱちりという金具の音。
同時に髪にほんの小さな重みが感じられるようになる。
「これでお揃い! いいの取れたよねぇ」
「うん。ついてた。とても」
自分の頭を自分で見る事は出来ない。
けれど白い頭に黒い髪飾りが下がっている事はサナリモリブデンには分かっていた。
黒い頭に白い髪飾りをつけるペンギンアルバムのちょうど逆になる。
鏡を見て似合い具合を確かめるよりも、目の前の少女を見て自身を想像する方が祭りの空気に沿うはずだとサナリモリブデンは思った。
「よーし! 一発目からテンション上がってきたぞー! サナリン、次いこう次!」
「ん、楽しくなりそう。オススメはある?」
「金魚すくいとかいっとく? ふふふ、私結構上手いんだよ。魚追い込むのは得意なんだから」
「……あー、ちょっと割り込むのもアレなんだけどよ。ちっこい嬢ちゃんの方、撃つの忘れてないか?」
「あっ」
多少間の抜けた事もあったが、2人の夏祭りは幸先よくスタートした。
笑顔に満ちた楽しい時間はこうして始まっていく。
そして2人は多くを楽しんだ。
「サナリンサナリン、これ美味しいよ!」
「ん、ほんとだ……アル、ほっぺにソースついてる」
たこ焼きやクレープ、お好み焼きにチョコバナナ。
美味しそうな匂いにつられては買い食いし。
「そうそう、慎重に少しずつね。一気にやろうとすると失敗するから……」
「任せて。こういう地道で細かい作業は、割と得意」
心もとなくなった予算を増やすための抜け道、型抜きに挑戦して。
余りの判定の厳しさを前に揃って涙を呑んでみたり。
「うまぴょい伝説盆踊りバージョン……? え、なにそれ、聞いたことない……」
「……いってみる? 正直、少し興味ある」
聞き覚えのない盆踊りの曲にふらふらと寄ってみたら。
意外な名アレンジで普通にノリノリで踊って楽しめてみたり。
人でごった返す祭りを泳ぎながら、ペンギンアルバムはサナリモリブデンの手を引いて歩いて行く。
楽しいものが世にどれだけ溢れているかを示すように。
そうして、やがて。
空の財布を抱えて遊んだ遊んだと笑い合う頃に、本日のクライマックスがやってきた。
黒い夜空に花が咲く。
腹の底にまで響く音を伴って、花火が次々に打ち上げられていく。
赤、青、緑、黄色、紫、橙、白。
色とりどりの光が辺りに降り注ぐ。
人々は皆一様にその光景に見入っていた。
「…………」
サナリモリブデンもまた同じく。
出店の辺りから少し離れ、真っ暗な中、光を見上げていた。
「綺麗だねぇ」
「うん……すごく」
ペンギンアルバムが呟き、サナリモリブデンが返す。
その間もサナリモリブデンの視線は空に向いたままだ。
光と音の織り成す風景に、すっかり心を奪われてしまっているようだった。
だから。
自分が花火なんて少しも見ていない事にはきっと気付かれないだろうなと、ペンギンアルバムは安堵と不満を半々に抱え込んだ。
綺麗だなぁ、と。
ペンギンアルバムはその横顔に思う。
それは今この時だけの感情ではない。
学園入学以来の二年間を、彼女はこの熱と共に過ごしてきた。
ペンギンアルバムという少女は天才だ。
ホープフルステークス、そして日本ダービー。
レースの世界の頂点であるG1を2つも制し、世代のトップとして名乗りを上げる資格を持つ紛れもない怪物である。
彼女の実力は誰もが知る。
天才との評も、怪物と呼ばれる畏怖も、否定する者はおそらく居ない。
だが、彼女が走る理由を知る者はいなかった。
勝利を目指し懸命にトレーニングを積む理由は?
命を燃やしてレースを走るに足る渇望は?
そう問われた時に、答えられる者はいない。
何しろ、ペンギンアルバムには走る理由がなかったからだ。
走ったら楽しい。
だから走る。
勝ったら嬉しい。
だから勝つ。
彼女の世界はそんなシンプルさで出来ていた。
他には何もない。
ペンギンアルバムはただただ楽しさだけで魂を燃やせるウマ娘だった。
笑って鍛え、笑って走り、笑って勝つ。
それが許される才能を持って生まれたと言い換えても良い。
だから初めは理解が出来なかった。
苦しんで鍛え、苦しんで走り、苦しんで、そして負ける。
どれほど考え抜いても楽しくないとしか思えないその繰り返しに挑み続けるその様は異形とさえ映った。
もちろんペンギンアルバムとて苦しむ者は多く見た。
なんならそれらを踏みにじって勝ち上がってきた自覚もある。
だが、サナリモリブデンほどに苦しみと共に歩み、しかもなんの成果も得られずに居た者を彼女は知らない。
そして、だというのに僅かにも心折れず、歪みさえ生まなかった者もだ。
入学から選抜レースまでの間。
一度の勝利もなく敗北と屈辱以外に何も得られず、それでもなお前を向き続けた姿をペンギンアルバムは忘れられない。
正直なところ最初の数週間、ペンギンアルバムは寮生活の破綻を覚悟していた。
能力の高すぎるウマ娘に対し、能力の低すぎるウマ娘がどういう感情を抱くかは理解している。
それが同室ともなれば良好な関係を続けていくのは不可能だろうと予想していたのだ。
嫉妬を身に受けた経験は数多く、きっと今回もそうなるだろうと。
だがサナリモリブデンから向けられた感情は、尊敬と好意だった。
日を追うごとに萎んでいくどころか密度を増していくそれらに。
アルはすごいと称賛し学ぼうとする姿に。
ペンギンアルバムがどれほど目を丸くしたか。
異形の鋼に対する感情は、やがて向けられるものと同質のそれに変わった。
硬い志には憧憬を。
曲がらぬ芯には心酔を。
ペンギンアルバムにとっていつしか、サナリモリブデンという名前はこの世で最も美しいものを指す言葉になっていた。
ペンギンアルバムにはサナリモリブデンと同じ境遇に置かれた時、ひと月と耐えられない自覚がある。
楽しくないからだ。
その上、辛さと苦しさを乗り越えた先に敗北だけが積み重なるとなれば。
ペンギンアルバムはそう考えただけで、荷物をまとめて学園を後にする自分の姿をありありと想像できる。
だからこそ彼女はサナリモリブデンを他の誰より尊いと感じた。
世の誰もがペンギンアルバムを天才と呼ぶが、真なる才能の持ち主はサナリモリブデンだと彼女は断じる。
絶対に報われるとわかっている努力など誰にでもでき、絶対に報われるとわかる才能が自分にはあっただけ。
報われないと理解しながら走る事のできるこの少女こそが本当の天才なのだと。
(……サナリンは)
空に咲く花火の下で、誰にも知られずペンギンアルバムは述懐する。
(やっぱり、真ん中だなぁ)
大きく愛らしい瞳で見つめる先にはただ、サナリモリブデンのみ。
胸中に湧くのは悔しさだった。
挑みたい。
なのに、資格がない。
(あーあ……)
ペンギンアルバムはそっと、長く細い息を吐く。
(サナリンも、ステイヤーだったら良かったのに)
そんな都合の良い話はどこかにないものかと。
夢見るように心中で呟いて、ないないと苦笑した。
サナリモリブデンがこれまで走ったのは、短距離とマイルのみ。
対して自分の得意距離はほぼ長距離のみと言って良い。
どちらに合わせても、どちらかが実力を出し切れない結果に終わるだろうとペンギンアルバムは考えていた。
しかしそれでは意味がない。
ペンギンアルバムは挑戦したいのだ。
誰からも天才と呼ばれる自分の全力をもって、対等どころか格上と仰ぎ見る、鋼の怪物の全霊に。
魂の最後のひとかけらまで振り絞るような戦いが出来たなら、きっとそのまま死んでも良いほどに楽しいだろうからと。
「きれいだね。アル」
「……うん。本当に」
だが、出来ないものは仕方がない。
ペンギンアルバムは焼けた心臓に今日も蓋をした。
サナリモリブデンの敵にはなれない。
なれないものはどうしようもない。
だったら親友で十分だ、トレーニングで共に走れるだけで上出来じゃないかと。
心の中の海底に深く深く沈めていく。
それは少しの時間がかかったがいつも通りに上手くいった。
最後の花火が散り、余韻を楽しみ終えた頃には普段の笑顔が顔を出す。
「そういえばさ、サナリン手持ち花火やった事ないって言ってたでしょ? 実はレイと一緒にいっぱい買ってきてあるんだよねぇ。んふふ、帰ったらやんない?」
「……っ!?」
ペンギンアルバムがサプライズを告げれば、サナリモリブデンの顔が輝いた。
「やりたい! すごく、やりたい!」
「よしきた! そんじゃバーッと帰ろ! 今日は花火パーティーだー!」
白黒の少女達は連れ立って、早足で帰路につく。
慣れない下駄で転ばないように、けれど一刻も早く次の楽しい事がしたいとばかりに。
花火の炎のよく似合う、ひどくあつい日の夜の出来事だった。
【イベントリザルト】
友好:ペンギンアルバムの絆+15
成長:ALL+5
獲得:コンディション/絶好調
獲得:スキルヒント/熱いまなざし
ペンギンアルバム/絆60 → 75
スピ:387 → 392
スタ:360 → 365
パワ:349 → 354
根性:396 → 401
賢さ:261 → 266
まなざし/150Pt
(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)
熱いまなざし/250Pt
(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)
【7月夏合宿トレーニング選択】
ランニング スピード↑↑↑ パワー↑↑
遠泳 スタミナ↑↑↑ 根性↑↑
筋トレ パワー↑↑↑ スタミナ↑↑
浜辺タイヤ引き 根性↑↑↑ スピード↑ パワー↑
早押しクイズ 賢さ↑↑↑ スピード↑ 根性↑
7月のトレーニング
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ランニング
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遠泳
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筋トレ
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浜辺タイヤ引き
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早押しクイズ