オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです   作:F.C.F.

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クラシック級 11月 ランダムイベント

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:【病院送り】【永久保存版】【コーラ】

 


 

【イベント登場人物決定】

 

複数人登場率:50%

 

結果:チームウェズン

 


 

 

 

「なんで網焼きなくなっちゃったの?」

 

「ぐふぅ……ッ!」

 

セレンスパークは死んだ。

いたいけな少女が純粋な瞳で放った質問がクリティカルしたためである。

 

膝から力が抜けて崩れ落ち、横倒しに体が投げ出される。

その直前、地面とセレンスパークの間にどこかから取り出された謎のレジャーシートが素早く差し込まれた。

おかげで彼女がまとったライブ用衣装は砂にまみれずに済む。

 

それを成した功労者、鹿毛の眼鏡っ子トゥトゥヌイが右手を掲げてグッとサムズアップ。

ウェズンリーダー、黒っぽい芦毛のアビルダが労うように同じ仕草を返す。

 

「うっ、うっ……あみ……あみあみ……」

 

「あんねー。火使うのはダメってえらい人らに言われちゃったんだよねー」

 

「そーなの?」

 

「そーそー。衣装焦げっちゃったらもったいないじゃんってさー」

 

「そーかも!」

 

その間に長い栗毛のタルッケがしゃがみこんで質問に答えていた。

小さな女の子は説明に納得し、手を伸ばしてタルッケの衣装に指先を触れさせる。

 

スターティングフューチャー、という名前の衣装だ。

白いショートジャケットとフィッシュテールのオーバースカートに臙脂色のインナーとショートパンツ。

落ち着いた色合いながらコントラストが良く映える。

ウマ娘からもファンからも評価の高い、デザイナーのセンスが光る逸品である。

 

「あなたも、これを着に来たの?」

 

少女もその例に漏れないらしい。

衣装に触れながら目をキラキラと輝かせている。

その様を微笑ましく見ながら、サナリモリブデンもタルッケ同様しゃがみこんで声をかけた。

 

「うんっ! お父さんとお母さんがね、写真いっぱいとってあげるって!」

 

返事は元気いっぱい。

真っ白い芦毛の頭から耳をピンと立てて、尻尾を嬉し気に揺らしながら少女が頷いた。

 

「この子、まだちっちゃいですけど……大丈夫ですよね?」

 

「大丈夫です。サイズは揃っていますから」

 

「えらい人らがちゃーんと用意してくれてるからねー」

 

その後ろから若干心配そうに問う母親。

サナリモリブデンとタルッケの返答に安心した様子だった。

ほっと息を吐いて、隣の父親とともに持参したカメラの準備を始めている。

 

素人目にもしっかりとした高級そうな機材である。

よほど娘が可愛いのだろうと、サナリモリブデンはほっこりとした気持ちになった。

 

「でも網焼きも楽しみだったのになぁ……」

 

「ごひゅっ! おぁ、あ、ぁ……」

 

「たいちょー! セレンちゃんオーバーキル確認です!」

 

「くそっ、しっかりするんだセレン……! 傷は浅いぞ!」

 

ちょっとばかり、視界の隅でレジャーシートごとズルズルと引きずられて病院送りになる黒鹿毛の姿が余計ではあったが。

 

 

 

 

 

11月。

といえば駿大祭だ。

元々はウマ娘の無病息災を祝う神事であるそれは、楽しく愉快なお祭りイベントでもある。

 

規模の大きな学園祭のようなものと思って良い。

この時期、トレセン学園は一般に広く公開され、出店や出し物が多く並ぶのだ。

 

先ほどサナリモリブデンが小さな女の子に応対していたのもそのひとつ。

いわく。

コスプレライブ喫茶、である。

 

通常はレースの勝者にしか許されないライブ衣装を外部からの参加者が纏い、設置された幾つかのミニステージで楽曲を流しながら踊る事ができる出し物だ。

ライブの撮影も当然自由。

また、ステージ前に並んだテーブルで飲み物を楽しみながら眺める事も出来る。

ついでとばかりに、思い思いのコスに身を包んだ店員ウマ娘が給仕に歩き回ったりもしている。

 

発案はチームウェズン。

そこに後からアダーラ、ムリフェイン、ミルザムという3つのチームが加わって合同で運営に当たっていた。

楽曲や衣装を扱う関係上、学園からも強く後押しを受けている駿大祭でもちょっと注目度の高いイベントとなっている。

 

「網焼きあるからねってミーちゃんに言っちゃったのに……こんな事許されないよぉ! おのれ実行委員会! いつか絶対焼き討ちしてやるんだからぁ……!」

 

なお、初めは「コスプレ網焼きライブ喫茶」として企画が立ち上がっていた。

ウェズンらしい各人の希望のごった煮で、網焼き部分はセレンスパークの熱烈な要望であった。

 

夏合宿で体験したバーベキューがよほど良い思い出として残っていたらしい。

却下された時はそれはもう大変な荒れようだった。

今もまた、来場した女の子……セレンスパークが呼んだところのミーちゃんに網焼きの単語を出されたために軽くぶり返している。

 

「……残念だった。うん」

 

「うぇぇ、サナリちゃぁん……!」

 

却下の理由は先述の、衣装が焦げたり炭で汚れたり臭いがついたりしかねないのがひとつ。

イベントの性質上小さな子供が多く訪れる可能性が高い事から火はちょっと、というのがひとつ。

余りにも妥当すぎて誰も反論は出来なかった。

サナリモリブデンに出来るのはうずくまる背中を撫でてやる程度だ。

 

「ん……そのミーちゃんだけど、セレンスパークを待ってる」

 

とはいえ、ずっと倒れていられても困るところだ。

 

表からは見えないステージ裏に寝かされたセレンスパークだが、彼女にも仕事がある。

参加者の着付け、簡単な振り付け指導、そしてバックダンサー役だ。

今は特に、セレンスパークの地元の知り合いだというウマ娘の女の子、ミーちゃんが彼女との共演をワクワクと楽しみにしている。

 

「ハッ! そ、そうだった、しっかりしなきゃ!」

 

それを伝えれば流石に効果は抜群だった。

流れていた涙がピタリと止まり、セレンスパークが顔を上げる。

勢いよく頬をぐにぐに揉んだ後は多少だがキリリと表情が引き締まっていた。

 

「頼れるお姉さんらしいところ見せなくちゃだよ! ありがとうサナリちゃん! 私、頑張ってくるね!」

 

「…………うん。応援してる」

 

目の前で倒れてズルズル運ばれた時点でもう色々手遅れ。

そう言わずにおくだけの情けはサナリモリブデンも持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

セレンスパークを送り出して、サナリモリブデンも自分の仕事に戻る。

 

彼女の役割はまた別だった。

コスプレライブ喫茶の喫茶部分。

注文された飲み物を作って届ける給仕役である。

 

選んだ理由には彼女の気質が大きい。

折角訪れてくれた客のうち、出来るだけ多くに接したい。

ファンを大事にする彼女にとってはその考えはごく自然な事で、ライブ1回あたりの拘束時間がそこそこ長いバックダンサーよりも給仕を選ぶのは当然だった。

 

また。

 

「お待たせしました。コーラ2つでよろしかったですね?」

 

「き、きたっ、サ、サナリ様……!」

 

「は、は、はい! 間違いないです! ……あ、あの、私達っ」

 

「ん……私のファン?」

 

「はいっ! これ、これ、公式ファンクラブにも入ってて、ナンバー3桁でっ!」

 

「ソーラーレイさんのウマッターで、あっ、アンケートでっ、和装が見れるって、それで絶対見に来ようッて! すごく似合ってます! 綺麗で、その、綺麗ですっ!」

 

そういう約束もある。

毎日王冠の1ヶ月前、ソーラーレイとチューターサポートとともに、サナリモリブデンにはどのような衣装が似合うかという話になった事があった。

その話の流れでウマッター上で2つの候補からアンケートを取ったのだ。

選ばれた方を駿大祭で着る、という文言と共にだ。

ライブ衣装を着ていては不履行になってしまう。

 

なお、結果はしっとりとした正統派の和装だった。

サナリモリブデンはそれに身を包んで給仕に勤しんでいる。

今コーラを届けた2人組、サナリモリブデンと同年代のヒトミミの女の子たちはまさにその衣装目当てで来場したようだ。

 

「ありがとう。とても、嬉しい」

 

これにはサナリモリブデンも嬉しくなる。

元々声援に感じる喜びが人一倍大きいサナリモリブデンだ。

湧きあがる幸福感はそのまま熱心なファンサービスに繋がった。

 

「ヒュッ」

 

「ひぎっ、ま、眩しい……!」

 

まずは自然に漏れた笑顔。

目を細め、花が静かにほころぶようなそれに2人は初撃で幸せなダメージを受けた。

 

「あ、あの、もし迷惑でなければサインとか……」

 

「任せて。あなたの名前も入れておく?」

 

「おおおお願いしますっ詩織ですっ」

 

「ゆ、由佳ですっ」

 

次いでファンクラブ会員カードへのサイン。

詩織さんへ。

由佳さんへ。

駿大祭が素敵な思い出になりますように。

そうメッセージも書き加えて返されたカードは致命傷に近かった。

 

「コーラ、レモンは入れる?」

 

「あ、は、はいっ、レモン好きです! え、あ、まさか……!?」

 

さらにご注文のコーラに添えられたレモンが絞られる。

果汁は滴りながらも種は落ちない絶妙な力加減だ。

もちろん、皮を下にして香りを強めるというポイントも抑えている。

サナリモリブデンの指がストローを掴み、コーラをかき混ぜて氷が音を立てた瞬間に2人のライフポイントはマイナスに大きく突入した。

 

「ゆっくり楽しんでいって欲しい」

 

そうして最後に、2人の手元にコーラのグラスを置きながら、身を寄せて囁く。

 

「駿大祭があなたたちにとって忘れられないくらい楽しい記憶になってくれたら、私にとってもこんなに幸せなことはない」

 

 

 

「……天国? ここは天国なの?」

 

「ファンサが神すぎる……顔がよすぎる……だめ、無理、死んじゃう」

 

「ねぇ、このコーラ本当に飲んでもいいのかな……? こんな事許されていいの?」

 

「無理無理無理、ダメでしょ無理、触れる事さえおこがましいよ。な、なんとかこのまま永久保存する方法ない?」

 

「ないよぉ……! あっ、そ、それに、サナリ様が作ってくれたコーラ残すとか……」

 

「あ絶対許されない地獄直行だそれ余すヤツは私が拷問にかける。飲まなきゃ! ……で、でも飲みたくない、永遠に眺めてたい……ッ」

 

サナリモリブデンが去った後。

2人が完膚なきまでに限界化していたのは当然の成り行きだった。

最推しウマ娘にここまでされてダメにならないファンはいない。

思春期の少女にとってはなおさらだ。

 

サナリモリブデン。

なんとも罪の深いウマ娘であった。

 

 

 

 

 

それからしばらくの後。

サナリモリブデンの役割は終わりとなった。

 

駿大祭のメインを張るのはシニア級のウマ娘たちだ。

クラシック級であるサナリモリブデンはあくまで手伝いという立場である。

そのため仕事は半日ほどで切り上げられ、残りは自由時間となっている。

 

服装も制服に着替え、サナリモリブデンは辺りを見回した。

 

 

 

「セレンおねーちゃん、そろそろかな?」

 

「そうだね、もうすぐだよ! この曲が終わったらミーちゃんの番だからね!」

 

最も手近なステージ脇ではセレンスパークが小さな女の子と手を繋いで待機している。

女の子は既にスターティングフューチャーに身を包み、そわそわとスカートをいじっていた。

彼女の両親はと言えば、最前列のテーブルを確保して撮影に備えながら女の子を勇気付けるように手を振っている。

 

 

 

「くく、ふふふ、あはははは! 勝負よウマ娘ェ! ヒトミミだってやれるってとこ見せてあげるわ!」

 

「ハ、上等……! 受けて立ってやるぜ、全力でなぁ!」

 

「おーっと! これはまさか、この子は……! 最近府中で話題の地下アイドル! 槙村ハルカだぁ!」

 

対して遠い所では何やら愉快な一幕が巻き起こりつつあった。

学園貸し出しの衣装ではなく、自前の煌びやかなアイドル衣装でヒトミミ少女がステージに立つ。

獰猛な笑みを浮かべてアビルダを挑発しダンスバトルを挑むようだ。

どこからか持ち出したマイクを手にトゥトゥヌイが即席の実況席まで整えている。

 

 

 

「こっち目線くださーい!」

 

「きゃぴっ☆」

 

「ぶわははは! に、似合わねー!」

 

来場者の中にはステージに立たない者も居る。

大学生ほどの年齢だろうか。

ちょっとした一団が揃ってライブ衣装だけを借り、互いにポーズを決めて撮影しあっていた。

 

 

 

「いーじゃんいーじゃん、みんな楽しそうじゃんね」

 

「うん。とてもいいこと」

 

それらをサナリモリブデンと同じく眺めていたタルッケがのんびりと言う。

彼女は休憩に入るようだ。

手に暖かな湯気を立てるドリンクを持ってのほほんとしている。

 

 

 

コスプレライブ喫茶は極めて順調に盛況だ。

この分ならばなにをどうしようが楽しめるだろう。

 

さてどうするかと、サナリモリブデンは思案した。

 





【お知らせ】

3/29 16時現在、アンケートが大接戦状態です。
作者の好みの側に傾いた所で区切ったという疑惑を回避するため、今回は例外的に3/29 22時締切とあらかじめ設定しておきます。


【22時追記】

まさかの同着だったのでどちらになるかはダイスに委ねられます。

どう過ごす?

  • セレン&ミーちゃんと一緒にステージへ
  • ヒトミミvsウマ娘ダンスバトル観戦
  • タルッケと喫茶を楽しみながらのんびりする
  • ひとりでテーブルの間をうろついてみる

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