オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです   作:F.C.F.

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お待たせしました。
またも毎日王冠クラスに長いので時間のある時にどうぞ。



クラシック級 11月 マイルチャンピオンシップ

 


 

【投票結果】

 

作戦:逃げ

 


 

 

「──以上が今回の作戦です。何か疑問や提案はありますか?」

 

明けて翌日。

滞在していたホテルから京都レース場に向かう途上の車内にて。

郷谷はサナリモリブデンが取るべき作戦を提示し終えた。

 

「ううん。ない」

 

対するサナリモリブデンの返答はスッキリとしていた。

落ち着いた様子で首を横に振り、答える。

 

「すごくわかりやすいし、納得が行く。問題ない。やってみせる」

 

郷谷は苦笑する。

前回、マッキラという怪物に対するには多くの迷いがあった。

どう抗うべきかとの問いには幾つかの答えがあり、自身が選んだものが本当に正しいのか、ゴールに愛バが飛び込むまで疑問は尽きる事がなかった。

 

それに比べ今回は単純である。

明確に、マイルチャンピオンシップでサナリモリブデンが勝利を狙うならこれしかないという道筋があったのだ。

サナリモリブデンの言通り、わかりやすいものでもある。

 

「……サナリさんの従順さは美点ですが、ちょっとくらい不満を言ってくれてもいいんですよ?」

 

ただしそれは、作戦とも呼べない作戦だった。

トレーナーとして本当に最低限度の事しか言えていないと郷谷は断じる。

 

「? 不満なんてない」

 

「えぇ、はい。サナリさんならそう言うとは思ってましたが」

 

とはいえ、郷谷の指示は間違いなく妥当なものであった。

当然サナリモリブデンには不満どころか疑問のひとつもない。

傷一つ存在しない彼女の信頼はまっすぐに郷谷に向けられたままだ。

 

従い、実行しきれば勝利し得ると信じ切っている。

それも、妄信ではなく自分でも熟慮した上での結論だった。

 

「ふふ、すみません。まだウェズンの頃の感覚が残っていたようです。あそこでは出走直前までああだこうだと言い合っていたものですから」

 

「ん……そうなの?」

 

「えぇ、特にトゥトゥヌイさんはかなりのもので苦労しました。今考えると普段通りに騒ぐ事で緊張を防いでいたのだと分かるんですけどね」

 

なので郷谷はもう何も言えない。

ほんの少し漏らしてしまった弱音を冗談めかして覆い隠す。

 

 

 

やがて車は目的地に辿り着く。

多くの人々で賑わう京都レース場。

その駐車場の一角、関係者用のスペースに車を停める。

 

後はいつも通り、控室に向かって準備をするだけだ。

だが、そこでいつも通りではない事が起こる。

 

「トレーナー?」

 

シートベルトを外したサナリモリブデンが訝し気に声をかける。

 

郷谷は運転席に座ったまま動こうとしない。

ふぅ、と。

大きく息を吐いて座席に寄りかかり、それからゆっくりと口を開いた。

 

「サナリさんの夢、レースにかける想いを聞かせてくれた事がありましたね」

 

その言葉にサナリモリブデンは姿勢を正す。

重要な話だというのはすぐに分かった。

何しろここ最近──優先目標であったマッキラを討ち破って以来、ずっと彼女自身も考えていた事であったのだから。

 

「うん。……途方もない事を言った自覚はある」

 

「いやぁ、それはどうでしょう」

 

過大な夢はきっとトレーナーの負担になったはずだ。

そう考え申し訳なさそうに眉を下げたサナリモリブデンに。

しかし郷谷はあっけらかんと返した。

 

「実のところ──サナリさんの夢は意外とあっさり叶うものかも知れませんよ」

 

「……え?」

 

「少なくとも、方策はもう見つけました。必要となるピースも。後はたったひとつ、サナリさんが自覚すればいいだけなんです」

 

サナリモリブデンは困惑する。

そんなわけはない。

永遠とはそんなに易いものではないはずだと。

 

しかし、そう反論する事は難しかった。

助手席から眺める郷谷の横顔は余りにも確信に満ちている。

否定のための言葉はサナリモリブデン自身の信頼によって打ち消された。

 

「サナリさん。今日はまず一人で控室に向かってもらえますか? 私は後から行きますので」

 

「それは、どうして?」

 

「不足している自覚をもたらしてくれる子がサナリさんを待っています。先日、向こうから提案をいただきまして」

 

郷谷はゆっくりとサナリモリブデンに向き直った。

悪戯をしかけるような笑みと、徒労に終わった試みをやれやれと自分で慰めるような苦笑を半々に浮かべている。

 

「本当は私と、もう一人驚きの協力者とで自覚を促す準備は進めていたんですが。どうやらこちらの方が確実で、しかもよほど早いようですから」

 

何が何やら分かりはしない。

突然もたらされるらしい「答え」を得る機会に困惑はつのるばかりだ。

 

「ん……わかった。行ってくる」

 

だが、力強く頷きサナリモリブデンは車を降りて立ち上がった。

それから車内に振り向いて口を開く。

 

「控室で待ってる。トレーナーの言う自覚が何のことかはまだわからないけど、きっと掴み取ってくるから」

 

何しろサナリモリブデンというウマ娘は。

 

「答え合わせは、トレーナーとしたい」

 

郷谷静流というトレーナーの言葉を信じる事にかけて、今や世界一である。

 

 

 


 

 

 

 

 

そうして。

サナリモリブデンは対峙した。

 

「……スローモーション」

 

控室前の廊下に、その姿があった。

目を閉じ、壁に寄りかかる黒鹿毛が一人居る。

苛立たし気に絞られた耳がピクピクと動いていた。

 

「待っていましたよ。サナリモリブデン」

 

スローモーション。

静かな激情家は目を開く事も、壁から離れる事もない。

 

「私に、何か──」

 

話があるのか、と尋ねる声は遮られた。

姿勢は変わらないまま、スローモーションが留めるように手を挙げる。

どういう事かという疑問はすぐに解消された。

 

後方から幾つかの足音がサナリモリブデンの耳に届く。

その力強さからウマ娘のものであるのは明白だ。

 

「話は、まず彼女達からあります」

 

振り向けば、長い廊下を歩む複数の人影が見つけられた。

近付いてくればハッキリと分かる。

どれもが……サナリモリブデンにとって見覚えのある姿だった。

 

 

 

 

 

「や。久しぶり」

 

その中からまず一人。

稲妻型の流星が目を引く青鹿毛が足早に歩み出た。

 

「……ブリッツエクレール」

 

「あれ、意外。覚えられてた」

 

「む。忘れるわけがない」

 

「へぇ。ちょっと嬉しいね、それ」

 

ブリッツエクレール。

過去に出走したレース、未勝利戦にてサナリモリブデンと競り合ったウマ娘だ。

後方から放った威をまともに受けて一度は怯みながらも、持ち直すどころか反撃さえして見せた相手である。

その強靭な精神力と、ジュニア級9月の段階で既に策を弄するだけの実力を備えていた様をサナリモリブデンが忘れているはずもない。

 

「ま、ともかく……ようやくだ」

 

ブリッツエクレールはサナリモリブデンに正対した。

体がぶつかりそうな至近距離。

そこからギラリと光る視線で、挑むように睨み上げる。

 

「ずっと見てたよ。痛快な走りだった。私もあんな風にありたいって、そう心から思うぐらいにね。糧にさせてもらったよ。挑み続ける君の姿は、逆境に逆らう力になってくれた」

 

「──」

 

視線に宿るものは敵意、だけではない。

それと同等、あるいは凌駕するほどの感情をサナリモリブデンは察知する。

 

言うだけ言い、ブリッツエクレールは体を離した。

近付いて来た時と同じく足早で進み、スローモーションに目配せする。

 

「私からは以上だけど。これでいいね?」

 

「……構いません。あなたはそれで十分です」

 

そして、さっさと控室に入った。

返事さえ待たない、せっかちな気性が窺える素早さだった。

 

 

 

 

 

「あ、ぁ、あのっ!」

 

それを最後まで見送る間もなく、次の一人が迫る。

ぱたたた、と取り乱したような足音は急速にやってきた。

 

「サラ──」

 

「ファ、ファンですっ! ずっと応援してましたっ!」

 

「──うん」

 

ほとんど条件反射だった。

長い鹿毛の髪にピンク色のリボンを結んだウマ娘。

彼女の勢いと言葉の内容に、サナリモリブデンはすっと手を差し出す。

 

握手である。

ファンサービスの基本としてサナリモリブデンに染み付いた動作は、全く遅滞なく相手の手を握らせた。

 

「おひゅ……っ! はわ、はわわ、柔らか……!」

 

「ありがとう。応援してくれて嬉しい、サラサーテオペラ」

 

「はぇっ!? に、認知されて──!?」

 

その相手もまたサナリモリブデンには覚えがある。

メイクデビューよりもさらに前。

思い出に深く刻まれた選抜レースにて争った相手だ。

 

いや、争った、というのは正確ではないかもしれない。

方や圧倒的な実力不足に加え、落鉄という不運にも見舞われて最下位に終わったサナリモリブデン。

方や致命傷と断言して良いほどの出遅れと、それに伴う精神的な動揺でまともに走る事も出来なかったサラサーテオペラ。

 

争いと呼べるほどのものは、そこに生じようが無かった。

 

「あ、ああああのっ、おおおこがましいお願いだとは思うのですがっ! サ、サインも貰えませんかっ!?」

 

「ん、うん。構わない」

 

「うわああ優しいっ、す、好きですっ! じゃ、じゃなくて、ここに、ここにお願いしますっ」

 

「………………それは考えなおした方が良いと思う」

 

「そんなぁっ!」

 

だからサナリモリブデンは少し困惑した。

 

サラサーテオペラは、控室に入る前に既に勝負服を着用していた。

リボンと近い薄桃色のドレスめいた装束。

その一番目立つ胸元にサインを要求されても、流石にサナリモリブデンとて応えられない。

 

勝負服とはウマ娘にとって特別なものである。

レース中に泥で汚れるならともかく、それ以外の汚れは到底許容し難い。

そこにサインを、など。

 

ここまで熱烈に好かれる覚えが無い。

一体何故と疑問が加速するばかりだ。

 

「サラサーテオペラ。違うでしょう。それは後にしてもらえますか」

 

そこに、ダン、と強い音。

スローモーションが床に爪先を叩きつけた音だ。

目いっぱいの苛立ちを乗せたそれに、ぴぇっとサラサーテオペラが肩を跳ねさせる。

 

「あ、は、はいっ! そうでしたごめんなさいっ!」

 

「む……スローモーション。私のファンを脅すのはやめて欲しい」

 

「あああ違うんです違うんですごめんなさい! 約束をうっかり忘れてしまった私が悪いのでっ!」

 

怒りを見せるスローモーションと、庇うサナリモリブデン。

慌てだしたサラサーテオペラの反応に、前者は舌打ちし、後者は眉を寄せながらも矛を収めた。

 

 

 

「すぅ、はぁ……え、と。その……すみません。聞いてもらえますか」

 

それから数度の深呼吸を挟み。

サラサーテオペラは口を開いた。

 

「……初めは、」

 

そこに先ほどまでの情熱はない。

むしろ凍えるように。

不安と自責に苛まれるように言葉が漏れ始める。

 

「嫉妬、だったんです」

 

それは懺悔だった。

 

 

 

「選抜レース、覚えてますか?」

 

「うん。もちろん」

 

「ぁ、はは……なら、分かると思うんですけど……私、全然ダメでした」

 

否定の材料をサナリモリブデンは持たない。

秒数にして2秒強の出遅れ。

慰めの余地などどこにもない余りにも大きな失態だった。

 

「出遅れて、取り戻す事もできなくて、8人中7位です。本当に、ダメダメでした」

 

そして、そこからの崩れぶりは更に最悪に近い。

奮起も出来ず、サラサーテオペラは諦めに沈んだ。

フォームは崩れ、溢れる涙を止められない。

褒めるべき点など何一つなく、サラサーテオペラはゴール直後に泣き崩れ、レースを終えた。

 

「スカウトなんて一つも来ませんでした。当たり前です。あんな成績の子なんて、私がトレーナーだったら絶対に声をかけません。……なのに」

 

そこで終わるはずだった。

選抜レースでトレーナーとの契約を得られなかったウマ娘の未来は暗い。

 

この娘は走らない。

そう烙印を押された者が再起を成功させられる割合はわずか数%。

一度諦めに囚われたサラサーテオペラが潜り抜けられる関門ではなかった。

 

「寮に引き籠っていた時に噂を聞いたんです。……私より遅かった子が、トレーナーと契約したって。なんでって、どうしてって思いました。それなら、私も拾い上げてくれたっていいじゃない、って」

 

そこに、劇薬めいた外的要因が無ければ。

つまり。

 

 

 

「それで、調べました。私とその子の何が違ったのか。現実逃避だったと思います。でも、その甲斐はありました。だって、知れたんです」

 

そこに、サナリモリブデンが居なければ。

 

「私より遅かったのに。落鉄して、誰より遅くて、なのに──諦めなんて少しもなかった、あなたを」

 

 

 

「……、ぁ」

 

サラサーテオペラの瞳に熱が戻る。

それは先の、浮き立つような熱狂ではない。

 

「私とは全然違って……とても、とても綺麗でした。だから、思えたんです」

 

澄み渡るような光がそこにあった。

わずかにだがサナリモリブデンが気圧されるほどの。

 

「私も、こうありたいって。まだ何も始まっていないのに、諦めるなんてしたくないって……!」

 

「サラサーテ、オペラ……」

 

「だから、ありがとうございます! 私がここに居れるのは、メイクデビューも、未勝利戦も全然勝てなくても、諦めずにここまで戦ってこれたのは──全部あなたのお陰なんです」

 

 

 

 

 

と、その時。

轟音が通路を揺らした。

 

音はサナリモリブデンの後方。

つまりはスローモーションが立っていた側だ。

咄嗟に振り向けば。

 

「……どこに行く気です?」

 

「い、いや、はは、そのぅ……ちょっと、トイレに?」

 

「トイレは逆側かと思いますが」

 

「あ、あれーそうだっけ!? き、記憶違いかなー!」

 

「タヴァティムサ。私は先日賭けで勝って、あなたは負けました。そして約束を交わしたはずですね。反故にするというのは──」

 

そこには、鹿毛の尻尾を恐怖に逆立てる褐色肌のウマ娘、タヴァティムサと。

その行く手を阻むように壁に脚を突き立てているスローモーションが居た。

 

タヴァティムサはブリッツエクレールやサラサーテオペラと共にやってきたはずだ。

それがそこに居るという事は、話の途中にこっそりとこの場を抜け出そうとしたらしい。

結果は見ての通り、失敗に終わったようだが。

 

「──()()()()()()()、という理解でよろしいですか?」

 

「すみませんでしたぁ!」

 

回れ右。

タヴァティムサの態度は一瞬で塗り替わった。

蒼褪めた顔がぐるんと振り向き、サナリモリブデンへと駆け寄ってくる。

 

さもありなん。

舐められたと判断したスローモーションによる報復など想像すら恐ろしいとサナリモリブデンさえ考えるほどだ。

絶対に、間違いなく、どう考えても無事では済まない。

 

「あー、えー、そのー! 私、逃げましたぁ!」

 

それはタヴァティムサも分かっていたようだ。

自棄になったように言い募り始める。

 

「あんな化け物に勝てるわけないから勝てるかもなとこだけ拾っていこうって逃げました! マッキラから!」

 

「ん……毎日王冠のこと?」

 

「げ、知ってんの?」

 

「タヴァティムサの動向は追ってたから」

 

「なんで!?」

 

何故と言われてもサナリモリブデンにとっては当然の事だった。

 

きんもくせい特別ではムーンポップを。

白百合ステークスではスローモーションを。

それぞれ見事に潰してみせた手腕をサナリモリブデンは覚えている。

 

だからこそ当初毎日王冠へ出走表明をしていたタヴァティムサの名前にも注目していたのだ。

それはしかし、マッキラの参戦が伝えられた翌日には消えてしまっていたが。

 

「うへぇ……そっか、知られてたかぁ……」

 

「……別に、恥じる事とは思わない。それだけ真摯に勝利を目指している証拠」

 

それをサナリモリブデンは見下さない。

レースに求めるものは自由だ。

自分が追う夢が自分だけのものであるように、タヴァティムサにも確実な勝利を目指す理由があるならそれで良いはずだと彼女は考える。

 

「違うよ。恥だよあんなの。最低にダサかった」

 

だが、タヴァティムサは自身で過去の逃避を間違いだったと断じた。

 

「逃げた理由なんて負けるのヤダーってだけだもん。ついでにあんたの事も内心バカにしてた。あんな大口叩いて、負けて恥かくだけなのにってさ。……や、正直言うと頼むから負けてくれって思ってた。賢いのは私で、無謀な挑戦なんてバカのやる事って思いたかったんかなぁ」

 

ケラケラと態度は軽く。

しかし声色に籠る感情は自嘲の一色に染まっていた。

 

「でも逆だったね。バカは私で、凄かったのはあんただった。まさか勝っちゃうんだもん。……ううん、勝ち負けなんて関係なくて、めっちゃ輝いてた。見てるだけでクラクラして、私何やってんだろって思えるくらい」

 

それは徐々に別の感情に置き換わっていく。

恥じ入る姿はそのまま。

言葉の通り、輝きを見上げる者の彩りに。

 

「だからさ、わ、私も、なんだ、ありがと。折角学園に入れたから記念にー……ってぐらいで走ってた私に、初めて夢が出来たんだ」

 

 

 

 

 

「お、終わり! 以上! はい次どーぞ!」

 

「あなた、普段からそのくらい可愛げがあったら敵も少ないでしょうに」

 

「うっさい! そんなん出来たら苦労しないよバーカ!」

 

「はいはい。では、次は私がよろしいでしょうか?」

 

語り手は入れ替わる。

顔を赤くして引っ込んだタヴァティムサに替わり、進み出たのは芦毛のウマ娘だ。

 

「ボヌールソナタ」

 

「あなた……サナリさんはそんな誰でも彼でも名前と顔を覚えていらっしゃるのですか?」

 

「一度でも一緒に走ったなら普通覚えていると思う」

 

「そんなわけないでしょうに。普通は話した事もない相手をそうは覚えていないものですよ」

 

楚々とした仕草で寄ってきたボヌールソナタは数歩の距離で立ち止まった。

姿勢を正し、豊かな胸に手を当てて言う。

 

「ご存じのようですが、ボヌールソナタです。ですが私、実はもうひとつ名前がありまして」

 

庶民とは少々異なる立ち振る舞いと口調。

令嬢めいたそれ。

その理由は本人の口からもたらされる。

 

「リボンソナタ、と申します。もっとも、こちらの名はもう公的にも私的にも使用は許されておりませんが」

 

「リボン……?」

 

サナリモリブデンもこれには少し驚いた。

リボンの名は学園でも、どころか世間一般でも知れ渡った大きな名だ。

 

名家、リボン家。

レースの世界において有力なウマ娘を幾人も排出し続ける巨大な一族である。

リズム家やジュエル家と並び、日本を代表する大家のひとつだ。

 

「えぇ、ご想像通りのリボン家です」

 

サナリモリブデンもそれを把握している。

そう理解したボヌールソナタは言葉を続けた。

 

「当家では古くから続いている習いがありまして。一族に生まれた娘は幼少の頃から本家に集められ、そこで育てられるのです。勝負の世界を見据え、互いに競わせ蹴落とし合う心構えを培うわけですね」

 

「少し羨ましい」

 

「その感想は初めていただきましたね」

 

「ライバルが多いのは良い事だと思う。一人でやるよりずっと良い」

 

「今振り返れば私もそうと思えるのですが……残念ながら当時の私は違ったのです」

 

ボヌールソナタは言う。

それまでの友人達と引き離され、両親に甘える機会も減り、増えるのは厳しい鍛錬の時間ばかり。

顔を合わせるのは敵視しあうよう仕向けられた同年代の親戚だけ。

 

そんな中で耐えられる娘はそう多いものではない。

毎月のように落ちこぼれは生まれ、誰かが本家を去り親元へ帰っていく。

ボヌールソナタもまた、その一人だった。

 

「そうして私はふるい落とされ、そうした者からはリボンの名は剥奪されるのです。空いた部分には両親から適当な名が与えられ、以降は表向きには一族の娘とは扱われなくなります。本人だけの事で、親や将来の子供には適用されないものですが」

 

「……それは」

 

「あぁ、同情は必要ありません。家から追い出されるわけでもないのですから。単にリボンの名を名乗れなくなるだけです。ボヌール、という響きも気に入っていますし。名を贈って下さったお父様にはむしろ感謝したいぐらいでして」

 

「ん……家族のことは、好き?」

 

「父の日と母の日の贈り物に悩む程度には」

 

「なら、良かった」

 

「まぁ、ともかく私は落ちこぼれたわけです。それでもこうしてレースの世界に踏み入りました」

 

それは彼女が今ここに立っている事からもわかる。

落ちこぼれ。

そう断じられ見放され名を失いながらもボヌールソナタはトレセン学園へとやってきた。

 

「ウマ娘としての本能と……後は本家への反発です。不適格と烙印を押された理由は能力ではなく態度でした。曰く、レースに対する私の姿勢が他に伝染しては困るとの事で」

 

ボヌールソナタは当時の光景を思い描いているのだろう。

整った顔の眉間に皺が寄り、不快そうに歪む。

 

「それはもう怒ったものです。私は必死に努力している、なのにどうして認めてくれないのかと」

 

事実、ボヌールソナタは努力した。

懸命にトレーニングを積み重ね、自身の素質を磨いてきた。

 

「ですが……ここに来て。学園であなたを見て、ようやく気付きました。その程度は最低限でしかなかったのだと」

 

だが、ボヌールソナタは恥じ入るように眉を下げた。

 

そしてその言は確かに正しい。

トレセン学園の門は狭い。

必死の努力をその程度と呼んでしまって差し支えないほどに、要求される水準は高いのだ。

絶対的な素養か、あるいはそれを覆すほどの鍛錬。

どちらも持たない者に寛容を見せてくれるような機関では、到底無い。

 

「模擬レースでは常に最下位。教官からは地方転向を勧められ、同期からは敵とさえ見なされず同情の視線が向けられる。そんな中でさえあなたは、一度も下を向かなかった」

 

「それは、でも当たり前の──」

 

「当たり前の事ではありません! えぇ、本当にあなたには自覚が足りない。普通はとうの昔に折れるものなのです。必死に努力した、なのに結果が出なかった、だから仕方ないじゃないかと……本家に居た頃の私のように」

 

悔いに唇が引き結ばれる。

 

ボヌールソナタには出来なかった事だ。

努力して、努力して、努力して、しかし得る物は無く。

懸命だったはずの努力はいつしか形骸化し、やっているのに出来ないのだからしょうがないという言い訳に堕した。

 

「ですが、今の私はもう違います。不遜ながら、あなたを模範とさせて頂きました。折れる事なく、逆境を避けず、挑み続けたあなたのようにあれるように」

 

そんな、過去の弱い己を振り切って。

ボヌールソナタは切り裂くように言葉を締めた。

 

 

 

 

 

「それで」

 

そうして最後に、スローモーションが口を開く。

 

「何か、言いたい事はありますか」

 

静かな足音を伴ってサナリモリブデンの前に立った黒鹿毛は、滾る怒りを抑えもせずに瞳から迸らせていた。

返る言葉は、無い。

 

「──」

 

ブリッツエクレールの。

サラサーテオペラの。

タヴァティムサの。

ボヌールソナタの。

 

その想いの熱量に、返せるだけの言葉が浮かばない。

ただ、チリチリと。

延焼した炎が立てる音だけをサナリモリブデンは聞いていた。

 

 

 

「えぇ、無いでしょうね。本当に……本当に腹立たしい。忘れられたくない? 自分がここに居た証が欲しい? ──許し難い侮りです」

 

胸倉を掴まれ、引き寄せられる力にサナリモリブデンは抗わない。

ようやくの理解があった。

スローモーションにはそうするだけの権利があり、自身には受け入れるべき無知があったと。

 

 

 

「よくも、サナリモリブデン(私の憧れた背)を舐めたな」

 

吐かれる言葉には憤怒が満ち満ちて。

しかし。

 

「あの背中を二度と忘れられるものですか。覚えておきなさい。あなたは、あなたであるだけで」

 

それを凌駕しかき消すほどの。

憧憬と思慕に覆われていた。

 

「他の何よりも輝かしいのです」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時が進み。

音の無い控室で、サナリモリブデンは一人佇んでいた。

 

見つめるものは手の中にあった。

昨夜送られてきた写真である。

比叡ステークスの勝者セレンスパークに肩車され、はしゃぐクロスミネラルの幼い笑み。

 

今日も来ているだろう。

大舞台を目に焼き付けようと集まった人々の中に、彼女もまた紛れているはずだ。

 

その事実の重みを、サナリモリブデンは本当の意味で噛み締めていた。

 

 

 

「お待たせしました、サナリさん」

 

そこにドアを開けて現れたのは、当然郷谷だ。

サナリモリブデンの入室に遅れる事15分。

 

「では答え合わせといきましょうか。──自覚は、できましたか?」

 

ゆっくりとやってきた郷谷はもう答えを知っていた。

一目で分かる。

今ここに居るサナリモリブデンは、今朝までのサナリモリブデンとは一線を画していた。

 

 

 

「トレーナー」

 

「はい」

 

「私は──走るよ」

 

だからサナリモリブデンの返答は端的に。

わずか一言で示された。

 

「それだけで、良かったんだ」

 

 

 

鋼は打ち鳴らされた。

夢に熱され、憧憬に叩かれて。

ついに定まった形を得るだろう。

 

クラシック級、11月。

マイルチャンピオンシップが、来る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『11月3週、日曜日。京都レース場第11レース、マイルチャンピオンシップ。秋のマイル王の称号を求めて11人のウマ娘が古都に集いました。もう間もなくパドックの時間です』

 

『出来るなら晴れ空の下で見たかったですねぇ』

 

解説の言葉に観衆の多くが頷く。

隣で聞いていた実況も同じくだ。

 

『こればかりは仕方ありません。予報通り明け方に降り止んでくれただけでも良しとすべきでしょう。バ場状態も稍重まで回復しております』

 

『重や不良ですと折角の勝負服も泥まみれですからね。そこは素直に喜ばしい所です』

 

『勝負服の泥もまた激戦を走ったウマ娘の誇りと言いますけどね』

 

間を繋ぐ言葉が幾つか並んだ後に準備が整った。

詰め寄せた観客からわっと声が上がる。

デザインは様々、色とりどり。

煌びやかな勝負服に身を包んだウマ娘達が現れる。

 

『1枠1番、タヴァティムサ。直近の戦績はポートアイランドステークス3着、富士ステークス2着と好走を続けています』

 

『10月後半の富士ステークスは特に良かったですね。夏前まではあったどこかゆるい部分が無くなっているように見えます。今日も気合の乗った良い表情ですよ』

 

『2枠2番、オントロジスト。G3では4度の勝利を重ねてきたウマ娘。G1へはこれが8度目の挑戦です』

 

『私はこの子のSNSも追っているのですが、意気込みはピカイチです。好走が期待できるでしょう。G1ブロンズコレクターの名を今日こそは返上できるでしょうか』

 

『3枠3番、ボヌールソナタ。G2富士ステークスの勝者。お淑やかな仕草の中にも燃える戦意は隠し切れていません』

 

『良い歩様です。踏み込みに力がありますね。前走で見せてくれた、道中でライバルを轢き潰したパワーを今日も期待しましょう』

 

『4枠4番、ブリッツエクレール。長く未勝利でもがいていましたが、春夏と見違えるような活躍を見せ、ついにG1の舞台に辿り着いてみせました』

 

『何故勝てないのかと方々で言われるほど元々実力はある子でしたからね。ライバルの強さや様々な不運でどうにも勝ちに恵まれませんでしたが、流れに乗っている今のこの子はちょっと怖いですよ』

 

『そして5枠5番、本日の1番人気──』

 

その中に、サナリモリブデンが足を踏み入れる。

黒の勝負服を纏い、真っ白い芦毛をなびかせて。

 

瞬間、歓声は大きく密度を増した。

実況と解説の声がかき消されるほどの大音声。

ビリビリと肌を刺す音の波はそのまま、彼女に向けられた期待と、そしてその背に乗せられた夢の重みを表すものだろう。

 

『──サナリモリブデン! 歓声に応えて小さく手を振りました。絶対王者に競り勝ち王冠を手にして、続いて狙うは秋の玉座。G1戴冠は叶うのか』

 

『1番人気も当然の最有力ウマ娘ですね。マッキラとの大接戦で見せた勝負強さはシニア級まで含めて見渡しても間違いなくトップクラス。好調も前回からまだ続いていると見て良いでしょう。一目で分かるぐらいに闘志が剥き出しです』

 

歓声を、応援を受けたのはもちろんこれが初めてではない。

今までも多くの声に背を押されてサナリモリブデンは走ってきた。

だが、自覚を得た今受け止めるそれは生じる熱の嵩が違う。

 

ひとつの声が耳に届く度、サナリモリブデンの炎は温度を上げていく。

上限などない。

無限の赤熱が、鍛え抜かれた脚に一歩ごとに力を凝縮させていくようだった。

 

『6枠6番、ムシャムシャ。今年のヴィクトリアマイル覇者は本日2番人気。安田記念で煮え湯を飲まされて以来、打倒マッキラを宣言し牙を磨いてきたもうひとりの挑戦者。有利な展開を組み立てるレース巧者ぶりには定評があります』

 

『今日ここにマッキラが居ない事を一番嘆いたのは恐らくこの子でしょうね。ですが気持ちは切れていないようですよ。勝負を荒らす手腕と、荒れた勝負の中を泳ぐ技術は当代随一との声も聞かれます。注目しましょう』

 

そのサナリモリブデンの背を、刺客が見つめる。

ムシャムシャ。

栃栗毛のポニーテールを揺らす少女は、今日の獲物と定めた者の背後でペロリと唇を舐め、目を細めた。

 

『6枠7番、サラサーテオペラ。前走スワンステークスでは完璧な逃げ切り勝ちを決めました。短距離を主戦場としてきたウマ娘ですが、マイルではどうなるか』

 

『これまでのレース後の様子を見る限りスタミナに不安はないでしょう。1600は全く問題なく走り切ると思いますよ。何より今年のクラシック短距離を生き抜いてきた子、というだけで何をしでかすか分からない恐ろしさがありますね』

 

『7枠8番、ノワールグリモア。海外遠征で味わった3度の大敗から、6ヶ月の休養を経ての復帰戦となります』

 

『残念ながら11番人気と振るいませんが、これは仕方ありませんね。ただ、この子の場合休養とは言っても実質は姉妹達との徹底的な長期強化合宿だったという情報もあります。油断はできません』

 

『7枠9番、スローモーション。今年のマイル戦線を彩った猛者の一人は3番人気。毎日王冠でついに王者に刃を届かせた気迫のコーナリングは記憶にも新しいところでしょう』

 

『やると決めた時の恐ろしさはサナリモリブデンと並ぶところがあります。ライバルの背を睨む視線も、いやぁ、なんだか寒気がするぐらいですね。今日はどんな走りを見せてくれるのか。私イチ押しのウマ娘です』

 

『8枠10番、ショーマンズアクト。おっと、これは見事なパフォーマンス。くるりと回って投げた帽子を尻尾でキャッチ。好調の証でしょうか?』

 

『動きにはキレがありましたが、さてどうでしょう。この子はこういうレース外でのパフォーマンスは上手いですが実戦ではムラが大きいですからね。中々安心して見ていられませんが、まぁG1に出走するだけの力はあるはずです』

 

『8枠11番、スウィートパルフェ。前走は府中ウマ娘ステークス。今年は春からここまで4連勝中。勢いに乗っています』

 

『去年一昨年と低迷が続いていましたが完全に抜け出しましたね。妹のオイシイパルフェがオークスを勝ってからは全く別人と言って良い程です。妹に負けていられないお姉ちゃん、同じG1の冠は是が非でも欲しいところでしょう』

 

これで11人全員。

パドックは滞りなく進んだ。

 

誰もが戦意を溢れさせ、京都は激闘の気配に包まれていく。

放たれる威はレース場に満ち、そして溢れこぼれていかんばかり。

マッキラ不在の今、主役はサナリモリブデンのみ、などと。

そうのたまった者達の不明を踏み潰し、焼き尽くすように。

 

開戦は、もう間もなくだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そうして、サナリモリブデンは鉄の中に収まった。

狭く暗いゲートに佇み、静かに集中を高めていく。

 

ゲート入りは進んでいく。

サナリモリブデンの次にサラサーテオペラが続き、スローモーションもスムーズに入る。

順番が進めば当然に、サナリモリブデンの両隣も埋まった。

 

「や、お隣失礼~♪」

 

左隣、6番のゲートから声が届く。

ムシャムシャだ。

軽く弾むような声色はともすれば軽薄にも聞こえかねない。

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくー。あと一応謝っときたくてさ。ごめんねー? 控室前のアレ、ちょっと聞こえちゃってたんだわ」

 

「それは、仕方ない事だと思います。別に私達だけの場所でもありません」

 

が、もちろんサナリモリブデンがその程度の事で敵を値踏みする事などありえない。

初対面の先輩に対するにふさわしい態度で返答する。

 

「いい子だなー、サナリちゃん。ありがとありがと♪ で、ついでで悪いんだけどさ、私も一言だけ言わせてほしくて」

 

「ん……構いません。どうぞ」

 

「もひとつありがと♪ ……私らの世代がなんて呼ばれてるか、知ってる?」

 

「……」

 

「お、言えないか。ほんといい子だねー。でも知ってはいるでしょ?」

 

その問いにサナリモリブデンは答えない。

正確には、答えとなる単語を口にしたくはなかった。

 

「不作の世代」

 

ムシャムシャは返答を待たずに続ける。

 

「見どころがあるのはスレーインとクラースナヤだけで他は雑魚ばかりってね」

 

やはり言葉は軽い。

無分別な一部の観衆から名付けられた蔑称をどうでもいいとばかりに口にする。

だがその実態はどうか、という答えは。

 

「──覆す機会を、ずっと待ってたんだ」

 

わずかだけ低くなった声音が物語っていた。

 

「サナリちゃんみたいな気合入った子が来てくれて嬉しいよ。……叩き潰して、踏み台にしてあげる。シニアにはムシャムシャが居るって分からせるためにね」

 

 

 

「……やれるものなら」

 

その熱は、さらにサナリモリブデンを熱くした。

握りしめた拳に力が籠る。

ここにも自分を見て、記憶し、期待してくれる人が居たと。

 

だから、サナリモリブデンはムシャムシャに対する声を変えた。

先輩に向けた物から、敵へ向ける物へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ところでさ」

 

が、それは。

 

第11レース、マイルチャンピオンシップ。今──』

 

「そろそろ始まるよ」

 

「──!?」

 

敵へと届く前に、驚愕にかき消された。

 

 


 

【スタート判定】

 

難度:280

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/547+109=656

 

結果:124(失敗)

 


 

 

『スタートしましたっ! おっとこれはサナリモリブデン出遅れた!』

 

「し、まっ……!」

 

横一線に並んだ綺麗なスタート。

そこから一人だけサナリモリブデンは取り残された。

 

出遅れだ。

 

言い訳など利くわけもない。

声をかけられたために集中できていなかったのは確かだ。

だが話を聞くと決め、意識をそちらに向けたのはサナリモリブデン自身である。

 

(はっは! ちょーっといい子ちゃん過ぎるなぁ。 お行儀の悪い相手は初めてかい?)

 

牙を剥くように頬を吊り上げたムシャムシャは洋々とスタート直後の直線を行く。

その最中、オマケとばかりに一瞬だけ彼女は振り向いた。

 

ぱくぱくと、音は伴わずに口が動く。

 

(まぬけ)

 

それは実に読み取りやすく、サナリモリブデンにも容易く言葉が伝わった。

 

 


 

【かかり判定】

 

難度:280

補正:集中力/+10%

補正:冷静/+20%

参照:賢さ/547+164=711

 

結果:359(成功)

 


 

 

(……認める。確かに、こんな間抜けは無い)

 

が、それはサナリモリブデンから平静を奪いはしない。

押し殺すでも耐えるでもなく、自身の失態を彼女は飲み込む。

生まれかけた焦りも共にだ。

 

『ポケットから直線へ向けて各ウマ娘進んでいきます。とんとんと綺麗に加速してサラサーテオペラがまず先頭に出た』

 

『この辺りの鋭さはやはり短距離戦線で磨かれたものがありますね』

 

焦燥に囚われている暇も、悔いている時間もない。

今はやるべきことをやる時だ。

サナリモリブデンは唇を引き結び、緩んでいた己を締め直す。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

加速してハナを取る

 


 

 

(作戦に変更はない。まずは、前に出る!)

 

郷谷の指示した立ち位置は先頭だ。

出遅れで押し込められた後方ではない。

勝ち筋を掴むためにはまずここを脱しなくてはならないとサナリモリブデンは脚に力を叩きこんだ。

 

 


 

【加速成功判定】

 

難度:280

補正:出遅れ(小)/-10%

参照:パワー/481-48=433

 

結果:361(成功)

 


 

 

『7番サラサーテオペラに続くのは3番ボヌールソナタ、2バ身ほど開けての追走。その背を左右から挟むように10番ショーマンズアクトと1番タヴァティムサ。2番オントロジストと4番ブリッツエクレールが並んでその後ろ。ここで出遅れた5番サナリモリブデンが慌てて出てきた。今日は前で走りたいのか、それともかかってしまったか』

 

幸い、京都レース場1600メートルの前半戦は長い直線だ。

内を目指す圧力はさほど強くは無く、道はまだ存在する。

 

芝を抉り飛ばし、加速をかける。

トレーニングによって培われた強靭な踏み込みはたちまちにサナリモリブデンに速度を与えた。

水分を含み、柔らかく沈み込む地面とてその加速を鈍らせる事はない。

ニマニマと笑みを浮かべるムシャムシャの背後へとすぐさま接近する。

 

その時だ。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

サナリモリブデンの道が開く

 


 

 

「はい、行きたいならどうぞ?」

 

ムシャムシャが道を譲った。

一歩外へ体をずらし、前を目指すための最短ルートが開く。

 

(──?)

 

サナリモリブデンは困惑した。

理由が分からない。

当然の事実としてムシャムシャは敵である。

 

ならば塞ぐのが自然だ。

こうして譲られるなどまるで道理が通らない。

 

まして相手は、ゲートの中で話しかけるという盤外戦術でスタートを乱しにかかってきたムシャムシャである。

 

これは何だ。

自分は今何をされているのか。

混乱が生じ、何をすべきかという意識がほんの一瞬霞む。

 

 


 

【抵抗判定/逃げけん制

 

難度:280

補正:布石(ムシャムシャ)/-15%

参照:賢さ/547-82=465

 

結果:367(成功)

 


 

 

が、それは真実一瞬だった。

 

(知らない。わからない事を長々考える余裕はない)

 

迷いは容易く振り切られた。

サナリモリブデンは前傾に、他の策を弄される前にと駆けていく。

 

『いえ、かかっているようには見えませんよ。冷静に後れを取り戻しにいっているようです。サナリモリブデンの出遅れは意外でしたが、まだまだ大丈夫でしょう』

 

横を抜ける際にもムシャムシャは何もしなかった。

ずらした体を戻す事もなくサナリモリブデンをただ見送る。

ただし。

 

(ふぅーん? どっちかなー。読まれたか。それとも分からない事は考えないと切り捨てたか。……多分後者かな)

 

駆け抜ける横顔を見て、観察は終えられた。

 

(究極的にはどっちでも構わないんだけどね。──捕まえるには位置が悪い。出遅れで焦って潰れれば最良だったけど、ま、そりゃ高望みだわな)

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

サナリモリブデンについていく

 


 

 

同じく、観察を終えた者がもう一人。

 

「……チッ」

 

眉間に皺を寄せて舌打ちしたスローモーションはサナリモリブデンに続いた。

 

何をやっている。

勝負を舐めているのか。

大一番で出遅れた敵手にそう喚き散らしたかった暴力的な感情を抑えてだ。

 

『サナリモリブデンが前に出た。サラサーテオペラに並びかけたところでペースを抑える。その背後にはピタリと張り付くようにスローモーションもついてきたぞ』

 

『完全にマーク体勢ですね』

 

(……ですが、焦燥を消して立て直したのは、流石)

 

スローモーションは後背の死角に潜伏しながら一点は褒め称える。

 

(それでこそ。そういうあなたでなければ、戦う意味がない)

 

否、賞賛と呼ぶには獰猛に過ぎた。

長い前髪の奥で爛々と輝く眼球が焦がれた背を見つめ、急所を探る。

刃を刺し入れる位置と、その好機を定めるために。

 

レースはまだ序盤。

刃が振るわれる時を目掛けて勝負は加速していく。

 

 


 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/加速(2)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消耗:4+2-1=5%

 

結果:512-25=487

 


 

 

『先頭はサラサーテオペラとサナリモリブデン、並んでレースを引っ張っていく。すぐ後ろにスローモーション。3人を見るように続くボヌールソナタを左右からショーマンズアクトとタヴァティムサが体半分遅れて挟み込む形。少し離れてムシャムシャ、オントロジスト、ブリッツエクレールの順。ノワールグリモアとスウィートパルフェが最後尾』

 

『ノワールグリモアがこの位置は珍しいですね。以前は先行寄りの差しを得意としていたはずですが』

 

直線はまだ続く。

京都1600メートルの向こう正面は長い。

先頭を行くサナリモリブデンがようやくその半分に差し掛かったところだ。

 

(サナリ様──)

 

真隣、至近距離を走るサラサーテオペラが横目で窺う。

 

(──違う。サナリ、モリブデン……!)

 

その目に宿る感情は一時だけ憧憬に染まりかかる。

が、瞬きの間に塗り替わった。

 

(あなたは私の憧れで、私の夢で、私のヒーロー。だけど……ここ(ターフ)に居る間は、っ!)

 

打ち倒さねばならない敵なのだ、と。

焦がれ、己もそうあろうと定めた通りに、サナリモリブデンに似た鋭さで睨みつける。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

心を落ち着かせてペースを保つ

 


 

 

(──あぁ。これは)

 

その眼差しの鋭利さにサナリモリブデンは唸った。

 

(少し、まずいかも知れない)

 

熱が生まれ生まれ生まれる。

制御が利くラインを越え、暴走を引き起こしかねない程に。

 

レース直前に初めて得た、自身へ向かう感情の自覚。

それはサナリモリブデンの鋼の理性を溶かすほどだった。

 

 

 

(サナリモリブデン)

 

そこに拍車がかかる。

 

(サナリモリブデン、サナリモリブデン、サナリモリブデン──!)

 

背後。

わずかでも足を緩めれば激突を想像させるような距離にそれがある。

 

灼熱の溶岩か。

あるいは鋼を飲み込む溶鉱炉か。

誰よりもサナリモリブデンを見詰めてきた敵手がそこにいる。

 

その事実に。

これまで無自覚に受け取らずに捨て置いた感情の群れに、サナリモリブデンは焼き焦がされる。

 

 


 

【行動成功判定】

 

難度:280

補正:逃げ焦り(スローモーション)/-15%

参照:スピード/608-91=517

 

結果:467(成功)

 


 

 

『向こう正面をゆったりと進んでいきますマイルチャンピオンシップ。大きな動きなく、前半は全員が消耗を抑える事を選んだか』

 

だが、その熱をサナリモリブデンは抑え込んだ。

感情の激流を乗りこなし、脚を乱れさせずに一定のペースを保つ。

 

(サラサーテオペラ。スローモーション。……私は、応えたい。あなた達の期待に。だから)

 

激情は押し込められる。

激発の時のため。

渦を巻き、引き絞るように。

 

(今は耐える。まだ、ここじゃない!)

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

バ群がサナリモリブデンを捉える

 


 

 

(やっぱりねぇ。冷静だな。気合と根性だけじゃない。頭もキレてる)

 

その頃、後方では方策をまとめ終えた者が居た。

 

(……こりゃ、私らが不作呼ばわりされんのも納得だわ。後輩が優秀すぎて参るねどうも)

 

ニマニマ笑いが本音を受けて歪む。

彼女、ムシャムシャにとってサナリモリブデンは面倒なカテゴリに分類される相手だった。

ムシャムシャが最も得手とするのは、煽り、苛つかせ、心を乱す手管である。

 

精神力に富み、強靭な心を持ち、迅速に果断な決定を下し、かつ己の判断を信じられる者。

これは彼女にとって天敵に近い。

 

(ま……やりようはあるさ)

 

とはいえ、ムシャムシャとて歴戦の猛者だ。

トゥインクルシリーズを勝ち残り、G1に勝利さえしたトップクラスのウマ娘である。

 

天敵だから抗えない、などと。

そんな弱者ではありえない。

そうであったならばとうの昔に淘汰されている。

 

 

 

 

 

「はぁ……っ。くそ、悠々逃げやがって」

 

逃げに続いて走り、好機を窺う者。

先行を選んだウマ娘達に声が届く。

 

「まずいな。こりゃ崩れそうにないわ」

 

それはほんの小さな声だった。

足音に紛れ、ウマ娘の優れた聴力をもってしても大半が聞き取れないような囁きだ。

 

「……最後、届くのかこれ?」

 

しかしだからこそ、かろうじて届いた言葉には真実味があった。

自分達に向けられたものではなく。

敵手の一人が抱いた焦燥が漏れ出たものと錯覚する。

 

 


 

【抵抗判定/モブウマ娘

 

難度:280

補正:ささやき(ムシャムシャ)/-15%

 

タヴァティムサ:賢さ310-46/抵抗不能

ボヌールソナタ:賢さ310-46/抵抗不能

 


 

 

ギシリ、と戦意の密度が増した。

タヴァティムサとボヌールソナタ。

サナリモリブデンを強烈に意識する者達が歯を食い縛る。

 

微かに耳に届いた言葉。

余りに小さく、誰が発したかも不明瞭なそれは彼女達自身の懸念と一致していた。

 

サナリモリブデンは圧倒的な強者だ。

あのマッキラを下すほどに。

ならば行かせてはならない。

ここで捕まえておかなければならない。

そう下しつつあった判断に材料が追加され、そして爆発する。

 

『ここで動いた、坂の手前! タヴァティムサとボヌールソナタが並んで上がっていく。つられるようにショーマンズアクト、ムシャムシャも続いた』

 

 


 

【抵抗判定/ショーマンズアクト

 

難度:280

補正:ささやき(ムシャムシャ)/-15%

補正:読解力(ショーマンズアクト)/+30%

参照:賢さ/310+46=356

 

結果:330(成功)

 


 

 

(ま、あんたは引っかからないか)

 

(当~然! 乗らせてはもらうけどね?)

 

ちら、と投げられたムシャムシャの視線に舌を出して返すショーマンズアクト。

悪戯な笑みを浮かべた彼女には煽られた2人のような強熱は無い。

共に走った経験は数知れず。

既知の戦術に引っかかるほどにショーマンズアクトの目は節穴ではなかった。

 

代わりにあるのは冷徹な打算だ。

 

サナリモリブデンを筆頭に、現クラシック級のウマ娘達は戦意の桁が違うとショーマンズアクトは感じていた。

若さ故か、それとも自分とは才能が違うのか。

 

(前者だ。……と思いたいんだけどなぁ)

 

湧きかけた弱気を激しい踏み込みでもって鎮圧する。

湿った土を陥没させる行き脚は標的を追う者の背を強く押した。

 

(後者でも構わないさ。それならそれで、是非潰し合っておくれよ)

 

 

 

『タヴァティムサ、ボヌールソナタ、鋭い加速! 淀の坂もなんのその! 同期の星をコーナー前で捉えにかかる』

 

(きっ、つぅ……! けどっ!)

 

ここ()でなら、サナリさんも逃げるには易くないでしょう?)

 

タヴァティムサは歯を食い縛り。

ボヌールソナタは剥いた目を凶暴に光らせて。

好きには行かせない、と己の脚に鞭を打つ。

 

彼女達は当然知っている。

否、このレースを走る者の中で知らない者はいない。

 

サナリモリブデンはコーナーを大の得手としている。

 

毎日王冠で見せた超高速のコーナリング。

あれだけは許してはならない。

ましてここ、京都のコーナーは坂からの大きな下りだ。

生じる莫大な加速度を丸ごと末脚に乗せられてしまえば、並みいるライバル達は余さず置き去りにされるだろう。

 

(だから、ここで……!)

 

(ここしか、ない……!)

 

鎚のように、坂へと脚を振り下ろす。

肺と心臓にかかる膨大な負荷をただ闘志のみで耐え、2人の戦士は無理を通す。

 

(あんたなら──)

 

(サナリさんなら──)

 

((そうするに決まってる!))

 

憧れ、夢見た、鋼の如く。

 

 


 

【抵抗判定/対タヴァティムサ/サナリモリブデン

 

難度:302

補正:焚き付け(ムシャムシャ)/x1.10(対難度)

参照:パワー/481

 

結果:96(失敗)

 

 

【抵抗判定/対ボヌールソナタ/サナリモリブデン

 

難度:302

補正:焚き付け(ムシャムシャ)/x1.10(対難度)

参照:パワー/481

 

結果:102(失敗)

 


 

 

「ぐ、ぅ……っ!」

 

苦悶の声が漏れる。

サナリモリブデンはギアを一段階上げた。

勝機を失わない範囲で許される限度。

京都名物淀の坂、その登りで許容できる限界いっぱいだ。

 

それは間違いなく実行された。

一切の瑕疵なく、彼女は加速に成功している。

 

だが──引き離せない。

どころか距離は見る間に縮まっていく。

2つの足音は背に迫り、あろう事かその先にさえ躍り出かねないほど。

 

サナリモリブデンの警戒が割かれる。

後方から迫るタヴァティムサとボヌールソナタの動向へと。

 

それはほんのわずか。

焦燥に潰れるなどありえず、走法に乱れが生まれる事もない。

一瞬にも満たない、間隙と呼ぶには小さすぎる意識の乖離。

 

 

 

だが。

 

隙を、見せたな?

 

彼女を付け狙う刺客にはそれで十分だった。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

刺し殺す

 


 

 

芝が抉れ、土が弾け飛んだ。

ターフが悲鳴を上げるような全霊の一撃。

 

ここで殺す。

 

瞬時に下された決断はスローモーションの体に爆発的な加速を与えた。

 

 

 

さらにもう1人。

 

(待ってた……この、一瞬!)

 

サナリモリブデンの左方、外からも轟音が響く。

 

「う、ああああああ!!!」

 

同時に猛る咆哮。

かつて心折れ泣き崩れた弱さの名残などどこにもない。

憧憬に焼かれ、数多の闘争を経て鍛えられたそれは獣の様相だった。

 

刃と呼ぶほどに鋭くはなく。

しかし牙のような獰猛さをもって。

サナリモリブデンの喉笛を噛み裂かんとサラサーテオペラが奔る。

 

 


 

【抵抗判定/対スローモーション/サナリモリブデン

 

難度:350

補正:領域/I SEE YOU/x1.25(対難度)

参照:パワー/481

 

結果:31(失敗)

 

 

【抵抗判定/対サラサーテオペラ/サナリモリブデン

 

難度:280

補正:なし

参照:パワー/481

 

結果:142(失敗)

 


 

 

『先頭も動いたサラサーテオペラ、サナリモリブデンを離して単独で先頭へ! 内からもスローモーションが行った。先頭サラサーテオペラ、ほとんど並んで2番手スローモーション。サナリモリブデンは3番手に押し込められたぞ』

 

否。

押し込められたのは3番手にではない。

絶対的な苦境にだ。

 

「──っ」

 

サナリモリブデンの呼吸が微かに乱れる。

 

最悪のタイミングで、最悪の敵が、最悪の位置に出た。

サナリモリブデンの必殺の武器たるコーナリング。

それと同じ脚を使える者が、コーナーを目前にした今ここで自身の前、最内に立ったのだ。

 

 


 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消耗:4-1=3%

 

結果:487-14=473

 


 

 

サナリモリブデンは全身を巡る血液が氷に置き換わった錯覚さえ覚えた。

 

(道が、ない……!)

 

下りのペースはスローモーションとサラサーテオペラに握られた。

この強力な敵手2人がまさか道を開けてくれるなどと考えるのは楽観が過ぎる。

 

取り得る対抗策は3つ。

ひとつはこのままペースを握らせ、平凡な速度でコーナーを終えて直線に賭ける。

ひとつは強引に2人の間に割り込み、道をこじ開ける。

ひとつは外に持ち出して大きくかわして前に出る。

 

どれも容易ではなく、その上どれを選んだところで不利を被る事は避けられない。

 

特に外からかわし進むのは危険が大きい。

サナリモリブデンが舵をそちらに切った瞬間、スローモーションはブロックを止め猛加速に移るだろう。

そうなれば膨らんだ距離の分だけ置き去りにされるのは目に見えている。

 

(どれを選べば──!?)

 

そこまで思考を巡らせた瞬間。

さらなる凶報を彼女の耳は受け取った。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

後方の動きに備える

 

難度:210

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:目くらまし(ムシャムシャ)-15%

参照:賢さ/547-82=465

 

結果:189(失敗)

 


 

 

(──ざぁんねん。聞こえなかったでしょ?)

 

サナリモリブデンの左後方。

そこで三日月が花開いた。

吊り上がった口が、赤く赤く、肉食の本性を露わにする。

 

(いつ、そこに……!?)

 

前触れなく現れたムシャムシャの気配にサナリモリブデンは驚愕する。

 

行く手を阻まれた今、最悪の中の最悪は後続に追いつかれ包み込まれる事だ。

サナリモリブデンにも当然それは理解出来ている。

だから警戒は怠らなかったはずである。

後方からの足音に耳をそばだて、変化には確かに注意を払っていた。

 

だが、事実としてムシャムシャはもうそこに居る。

次の一手でサナリモリブデンの包囲を完成させられる、そんな位置に。

 

タネとしては単純だ。

呼吸を絞って気配を薄め、そして足音を紛れさせたのである。

サナリモリブデンの背後に迫る、ボヌールソナタの脚運びに自身を完全に同期させてだ。

曲芸めいた隠密行はサナリモリブデンの索敵を見事にすり抜けてみせた。

 

(まずい、すぐに──!)

 

そのカラクリはサナリモリブデンには理解できていない。

だが、現状のまずさだけはわかった。

 

ここに居てはいけない。

そう判断を下すために要した時間はゼロコンマ以下。

サナリモリブデンの体は弾かれるように飛び出し。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

ムシャムシャが仕掛ける

 

 

【抵抗判定/対ムシャムシャ/サナリモリブデン

 

難度:280

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:独占力(ムシャムシャ)/x1.25(対難度)

補正:独占力(ムシャムシャ)/-30%

参照:根性/523-156=367

 

結果:231(失敗)

 


 

 

しかし、全ては遅かった。

 

『3コーナーから4コーナーへ! 後方集団も上がっていく! 外からムシャムシャ、ショーマンズアクトも続く! 後方からボヌールソナタとタヴァティムサ! これは、サナリモリブデン完全に捕まった、バ群にすっぽり!』

 

「っは、ぁ……っ」

 

「ははっ! 苦しそうだねぇ後輩ちゃぁん!」

 

ムシャムシャが嗤う。

行き場を無くしたサナリモリブデンを嘲笑う。

 

策は成った。

今やサナリモリブデンはあらゆる行動を封じられている。

 

前にサラサーテオペラとスローモーション。

外にショーマンズアクトとムシャムシャ。

後にボヌールソナタとタヴァティムサ。

完全に包囲されたそこは最早檻と変わりない。

 

出来る事は精々が。

 

(ぐ……っ、こじ、あけてでも……!)

 

悪あがき程度のものである。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

サナリモリブデンの前を塞ぐ

 

 

【抵抗判定/対スローモーション/サナリモリブデン

 

難度:350

補正:領域/I SEE YOU/x1.25(対難度)

補正:弧線のプロフェッサー/x1.0(同一スキル保持により補正相殺)

参照:パワー/481

 

結果:39(失敗)

 


 

 

(させるとでも?)

 

そして当然、そんなものがこの相手に通じるわけもない。

 

スローモーションとサラサーテオペラの間。

あるいは内ラチとサラサーテオペラの隙間。

そこを潜り抜けようと試みた瞬間にスローモーションの立ち位置が変わる。

 

振り返りもせず。

耳を向けもせず。

スローモーションは瞬き未満の時間でサナリモリブデンの動きを知覚して行く道を完全に塞いでみせた。

 

読まれ切っている。

開かない。

何をどうしようとも、スローモーションは道を譲らない。

ここで殺し切ると、無言の背中は語っていた。

 

そして、そのあがきの時間が致命の傷を呼び込んだ。

 

『さぁ4コーナー半ばを過ぎて直線が目の前だ! サナリモリブデンは動けない、バ群のど真ん中! オントロジストも来た、スウィートパルフェも続く! 加速が鋭いぞムシャムシャ、前に出た! 先頭ムシャムシャに変わって11人ほとんど一塊で直線に入っていく!』

 

緩々としか速度を上げない先頭に後続が追いついてくる。

バ群は密度を増した。

左方、ムシャムシャが前に出たが代わるようにシニア級の3名がより強固な蓋となって襲い来る。

 

 

 

だから、サナリモリブデンはそれを見送る他にない。

 

 

 

曇天の下、栃栗毛のポニーテールが大きく風に靡いていた。

 

この場において最大の脅威とみなされたサナリモリブデン。

それを封じるために多くのウマ娘が手を尽くした。

前方を塞ぎ、側面を塞ぎ、後方を塞ぐ。

間違いなく有効な手段であろう。

だがひとつだけ問題がある。

 

包囲は、緩んでは意味がない。

高速コーナリングを封じるため、檻を維持し続けなければならないという制約が付きまとう。

必然として常と比して脚は鈍らざるを得ないのだ。

 

(だからさぁ、そんなの一抜けするに限るよねぇ!)

 

故に、ムシャムシャは狙い撃った。

檻の外殻、その先頭一番手。

そここそがこのレースにおける最大の好位置だった。

 

蓋と成り得る者が自身に追いついた瞬間、ムシャムシャはひとり加速した。

檻の役目を強制的に交代し、面倒を全て他者に押し付けて。

 

「くふ、あは、ははは!」

 

笑う。

嗤う。

哂う。

罠にかかり勝機を逸した者達をムシャムシャは嘲笑う。

 

何が憧れか。

何が夢か。

 

(はは、ははは……ふざけるなよ──誰を見ている)

 

嘲笑はやがて剥がれ落ちた。

 

策は成り、罠は標的の脚に食いついた。

しかしそれは同時に、いかにムシャムシャが軽く見られていたかを意味する。

 

ムシャムシャとサナリモリブデン。

自由にさせるならばどちらかと問われて、誰もが前者を選んだという事だ。

古豪たるムシャムシャよりも新鋭たるサナリモリブデンが恐ろしいと、誰もが断じたという事だ。

 

(怖いなら勝手に怯えていればいい。お前たちが縮こまっている間に、私が奪う)

 

憤怒が力に変わる。

 

(主役は、私だ)

 

プライドが脚に籠る。

 

(勝つのは──私だ!)

 

不出来の汚名を雪ぐ唯一の方法を求めて。

ただ勝利だけを目指し。

見渡す限り誰の背もない無人の野を、ムシャムシャが征く。

 

 

 

 

 

(ああ)

 

その背を。

サナリモリブデンは見た。

 

(高い、壁だ)

 

そして理解する。

シニア級と戦う、という事の意味を。

歴戦を経た古強者の実力を。

 

言葉の上では知っていた。

彼女達は強く、ひとつの油断も許されない恐るべき敵であると。

そして警戒もしていたはずだ。

だが足りなかった。

 

(トレーナーの──)

 

かつて見た最大の脅威、マッキラと比してさえ劣る事のない強者であると。

サナリモリブデンはここに来てようやく真に理解する。

 

(──言った通りに!)

 

 


 

 

「いいですかサナリさん。まず覚悟して下さい。()()()()()()()()()()()()()

 

京都レース場に向かう車内にて。

郷谷はそう愛バに告げた。

 

「サナリさんはこれまでマッキラさんを追い落とすための矛だけを磨いてきました。策を見抜き、回避するための盾を持ってはいません」

 

それは苦渋の末の言葉だったろう。

絶対を冠する王者を討つために必要な偏りだったとはいえ、明確に不足を指摘するものだ。

つまり、自身の指導の欠落を直視するものでもある。

 

「そんな状態で対応しきれるほどムシャムシャさんは安い相手ではありません。恐らくどうあがいてもサナリさんは捕まります。ですので、取るべき手段はひとつ」

 

だが、郷谷とは、サナリモリブデンの相棒とは、苦い現実から目を逸らすような者ではない。

無いものをねだらず、けれど敗北を許容せず。

最も近く大きな勝ち筋を、郷谷は確かに提示した。

 

「過度の抵抗はいりません。もがいて無駄な消耗を重ねる事こそが最悪です。ならばいっそ──」

 

 


 

 

(なんだ、こいつ……!?)

 

ムシャムシャに代わりバ群の外殻を務めるウマ娘、オントロジストは背筋に走る震えを止められなかった。

 

(冗談きついなぁ、全く!)

 

その一歩前を走るショーマンズアクトは引きつる頬を制御できない。

 

(……はは、あの子()が言ってたの、誇張でもなんでもなかったんだ)

 

やや後方から圧をかけるスウィートパルフェは冷え切った汗が額を伝うのを自覚した。

 

 

 

包囲は完全に出来上がった。

割り入る隙はどこにも無く、サナリモリブデンの勝機は潰えたはずだ。

 

当然、絶望に囚われるべきだ。

少なくとも焦燥に陥っていなければならない。

それが道理だ。

彼女達が知るレースの必然である。

 

だというのに。

 

 


 

 

【状態異常判定】

 

難度:280

補正:冷静/+20%

参照:根性/523+104=627

 

結果:572(大成功)

 


 

 

(避けられないならいっそ、受け入れる)

 

何故折れないのか。

 

(耐えて、耐えて、耐えて)

 

道の見えないバ群の中、全身を逆境に浸らせて。

 

(最後の最後で、まとめて覆す!)

 

どうして未だに前を向き続けられるのか。

 

理解の及ばない異質な鋼を前に、戦慄を禁じ得ない。

 

 


 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6→4)/行動失敗(2)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

補正:弧線のプロフェッサー/消費を据え置いたまま速度を一段階上昇

消耗:4+2-1=5%

 

結果:473-23=450

 


 

 

(ぬるい。苛つくほどに)

 

対し、それを当然と受け入れる者達が居た。

スローモーションが静かに吠え猛る。

 

(先輩方は今まで何を見ていたんですか!)

 

サラサーテオペラが愛らしい面貌に似合わぬ憤怒を滾らせる。

 

(当然です。折れる姿など誰が想像できるものですか)

 

絶望?

逆境?

そんな生温い障害でこの鋼を砕けるものかとボヌールソナタが誇らしげに笑む。

 

(私はともかく、サナリモリブデンを舐めんなっての)

 

衝突寸前の至近距離で圧をかけ続けるタヴァティムサが疲労を浮かべながら舌を出す。

 

(その程度でどうにか出来る相手なら、そもそもここまで追ってくるわけないじゃない)

 

虎視眈々とその時を狙い澄ますブリッツエクレールが瞳を細める。

 

 

 

彼女達は知っていた。

同じ学年で学び、己の耳目で直に見聞きして理解していた。

 

まだだ。

まだ到底終わらない。

押し包んで勢いを奪った程度では、武器のひとつを奪い取ったに過ぎない。

 

サナリモリブデンというウマ娘の恐ろしさは、未だ何一つ減じていない。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ】

 

難度:280

補正:逃げA/±0%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2/+30%

参照:スタミナ/450+135=585

 

結果:350(成功)

 


 

 

大きく、深く吸い込まれる息の音に。

サナリモリブデンを知る者は、やはりと笑い。

知らぬ者は、まさかと慄いた。

 

 

 

 

 

『直線を向いてまず立ち上がったのはムシャムシャだ! バ群からポンとひとり離れて駆けていく!』

 

完全な手応えがあった。

食い千切り、飲み込んだという確信があった。

 

(いける。勝てる。私の勝ちだ! もう誰も、誰も来ない!)

 

全身全霊を振り絞り、ムシャムシャは必勝を信じて走る。

 

サナリモリブデンは封じた。

他の全ては檻を形作るために一手遅れた。

もう来ない。

来るわけがない。

 

それは、きっと正しかっただろう。

 

『──()()()!』

 

相手が、ウマ娘の規格を外れた精神の持ち主でさえなければ。

 

 

 

(──は?)

 

ムシャムシャの全身が総毛立つ。

脳髄が不吉な予感を覚えて叫んでいた。

 

(なんで、こんな歓声が)

 

おかしい、とムシャムシャは瞬時に断じた。

ペテンにかけ、罠にはめ、感覚を狂わせ、勝負を荒らす。

それが日常と化した自身の、勝利数に比して少なすぎるファンの割合は当然把握している。

 

ならばおかしい。

ヒールとして知られたムシャムシャだけが勝利に突き進んでいるならば、響き渡るのは歓声ではなく悲鳴のはずだ。

 

(……嘘だ。これじゃ、まるで)

 

そうして至った推測は、即座に現実として彼女の眼前に現れた。

 

 


 

【スパート判定/加速力】

 

難度:280

補正:逃げA/±0%

補正:ブロック(中)/-30%

補正:折れぬ心/+15%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2/+30%

参照:パワー/481+72=553

 

結果:379(成功)

 


 

 

『しかし! サナリモリブデンだ! サナリモリブデンが来ている! 強引にバ群をぶち抜いてサナリモリブデンがやってきた! 爆発的な加速でムシャムシャの背を捉えにかかる!』

 

迫り来る足音をムシャムシャは確かに捉えた。

深く、深く、ターフに足跡を刻み込んで瞬く間に差を詰める姿を明確に思い描かせる。

 

それどころか。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ/スローモーション

 

難度:280

補正:逃げC/-10%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:スタミナ/310+62=372

 

結果:309(成功)

 


 

【スパート判定/加速力/スローモーション

 

難度:280

補正:逃げC/-10%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

補正:直線加速/+15%

参照:パワー/310+108=418

 

結果:316(成功)

 


 

 

『スローモーションも続いている! サナリモリブデンの背中にピタリ!』

 

『もう特等席の指定席じゃないですか! 流石スローモーション!』

 

足音がもうひとつある。

強烈、強靭なサナリモリブデンのそれに隠れるように。

しかし秘めた激情を解放し、怖気だつほどの執着を一歩ごとに響かせて。

 

 

 

(スローモーション……!)

 

(報復の時間ですよ、サナリモリブデン)

 

ぐつぐつと煮え滾る憧憬を胸にスローモーションはサナリモリブデンを追う。

黒鹿毛の髪の隙間、わずかに覗く瞳が訴えていた。

 

許さない。

決して。

サナリモリブデン自身を低く見積もったその不明を、断じて許すものかと。

 

論理の破綻した怒りだ。

サナリモリブデンは既に自覚を終えた。

無知はもうスローモーションによって除かれそこにはない。

どころか今やサナリモリブデンは自身に向く憧憬を肯定し、夢を背負うと誓っている。

 

ましてや、スローモーションの感情は、スローモーションが勝手に抱いたものである。

向けられたサナリモリブデンが知覚しないからと怒りに転化して良い道理はない。

 

が。

 

(道理なんぞで、この心が収まるものか!)

 

スローモーションの精神は既に彼女自身の制御を離れた。

いつかの宣言通り。

渾身の八つ当たりでもってサナリモリブデンを追い落とさんと怒り狂う。

 

 

 

 

 

(ふざ、けるな)

 

しかし。

怒りと言うならばもうひとり。

 

(なんだそりゃ……この期に及んで、まだサナリモリブデンを見るのか……!)

 

ムシャムシャが猛る。

先頭に居るのはサナリモリブデンではない。

自分である。

なのに何故、追跡者がサナリモリブデンだけを睨んでいるのかと。

 

(舐めるなよクソガキが……! 主役はお前らじゃない! サナリモリブデンじゃあ、ない! 勝つのは──)

 

 


 

【スパート判定/最高速度】

 

難度:280

補正:逃げA/±0%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍Lv2/+25%

参照:スピード/608+152=760

 

結果:255(失敗)

 


 

【スパート判定/最高速度/スローモーション

 

難度:280

補正:逃げC/-10%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:スピード/310+62=372

 

結果:251(失敗)

 


 

 

「私だぁぁ!!」

 

総身に満ちた剛力がターフを揺らす。

迸るムシャムシャの執念は追っ手を振り払った。

爆発めいたサナリモリブデンの瞬発力は、しかしムシャムシャを捉え切るには至らない。

 

『迫るサナリモリブデン! スローモーション! しかしムシャムシャ強い! ムシャムシャ強い! 粘っている! まだ伸びて引き離す! その差1バ身半から2バ身!』

 

さらに。

 

『先頭はムシャムシャ! ムシャムシャ粘る! 懸命に追うサナリモリブデン、スローモーション! 後ろからはノワールグリモア、カッ飛んできた! ブリッツエクレールも凄い脚! バ群の隙間を縫ってブリッツエクレール! 外からノワールグリモア!』

 

 

 

(──わかるよ。ムシャムシャ。譲れない。譲れるわけがないよね!)

 

ノワールグリモア。

黒を纏う少女は独白する。

 

(後輩の引き立て役にされて、添え物みたいに扱われて……。黙っていられるほど、私達は弱くないんだから!)

 

不作の世代。

マッキラから逃げた腰抜けばかり。

シニアに比べて、クラシックはなんと素晴らしい。

 

そんな心無い声をノワールグリモアは幾つも聞いた。

海外遠征、遠い異国の地で繰り返した惨敗の果てに失意と共に戻った彼女に向けられた声の中には、より冷たく鋭いものもあった。

 

そして、だからこそ彼女は終われない。

 

こんなところで──不出来の烙印を押されたままでターフを去るなど許されない。

此処に至るまでに重ねた勝利の価値を。

踏みつけ、蹴り落としてきた同期の仲間達は決して名も無き敗者などではなかったと証明するために、ノワールグリモアは魂を賭けて己を振り絞る。

 

 

 

(知った事じゃない)

 

バ群を切り裂く。

サナリモリブデンが割り砕いた間隙を縫い、稲妻が奔る。

 

道なき道だった。

一塊だったそれは多少砕けたところで塊は塊だ。

並の根性ならば割り入るに躊躇し、速度を減じざるを得ない隘路である。

 

そこを、ブリッツエクレールは全速で駆け抜けた。

減速どころか加速を繰り返し、一歩毎に進路を修正して。

 

(誰の事情も、執念も、関係ない)

 

爆ぜる内心は、脚に似た苛烈を纏っていた。

ターフに渦巻く多様な感情。

それを知覚する端から切り捨て、無価値と断じて放り出す。

 

(欲しいのはひとつだけだ。そこを、寄越せ。──勝利を。勝利を。勝利を!)

 

見開かれた眼がムシャムシャを睨む。

かつて見た、夢見るほどの輝きを。

強者を下し勝ち取る美酒の味だけをただ求めて。

 

 

 

『ムシャムシャまだ先頭、リードは2バ身! サナリモリブデン追いすがる! スローモーションもまだ頑張っている! しかし後ろの伸びが良い! じわじわ迫るノワールグリモア! ブリッツエクレール!』

 

京都レース場。

マイルチャンピオンシップの最終直線は混戦に陥っていた。

残り200を切って未だ誰が勝つか分からない激戦に、歓声は沸いた。

 

『ノワールグリモア! ノワールグリモア! ノワールグリモアが来た! サナリモリブデンに並、ばない、2番手に躍り出た! ムシャムシャに届くかノワールグリモア!』

 

 

 

その歓声の中に。

きっと、それはあった。

 

大音声は津波のようだ。

叫ばれる声の数々は溶けて絡み合い、意味ある言葉を抜き出す事はできない。

だが、きっとあるはずだとサナリモリブデンは信じた。

 

 

 

ガチリ、と。

鋼の音色を確かに聴いた。

 

サナリモリブデンという名の少女の魂と、寄り添うように確かにそこにある同じ名を持つ何かの魂。

二者の間にあったわずかな齟齬は、今この時を以て埋められた。

 

((──やろう))

 

心が重なる。

人の言葉と、獣の嘶き。

音は違えども、発する情動は寸分違わず。

 

((誰かが、挑む私に夢を見てくれたというのなら))

 

共鳴し、どこまでも高まり合う衝動があらゆる殻を破壊する。

知覚が肉の体を突き破り、世界を侵し塗り替えていく。

 

((心に、私を刻んでくれたというのなら))

 

否、それはサナリモリブデンだけが目にする錯覚だ。

極点に至った過集中、暴走寸前の脳髄が描く彩に過ぎない。

しかし、今ここに確かに。

 

((例え、どれほど壁が高くても──!))

 

決意は刃に至った。

 

 

 


 

【ウマソウル判定】

 

成功率100%、判定不要

 


 

【領域収斂】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3

 

効果確定。

立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ。

 


 

【スパート判定/根性】

 


 

 

『ムシャムシャか! ノワールグリモアか! ムシャムシャか、ノワールグリモアか! っ、いや、これは──』

 

ムシャムシャは確信した。

自身とノワールグリモアの、その中央。

貫き通すように現れた者の横顔に宿る炎を直視して。

 

こいつだ、と。

 

 


 

難度:280

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍Lv3/+30%

参照:根性/547+164=711

 


 

 

『サナリモリブデン再加速! 前2人の間に割って出た! サナリモリブデンはまだだ、まだ諦めていない! 三つ巴の激戦だ! ムシャムシャ! ノワールグリモア! サナリモリブデン!』

 

(マッキラじゃなかった。ソーラーレイでもない。ましてペンギンアルバムでも、ジュエルルビーでもアクアガイザーでもない……こいつだ!)

 

今期クラシック級を支配した異常な熱。

歴戦のシニアウマ娘をして気圧される程の、いっそ破滅的なまでの闘志の坩堝。

 

その原因は、今まさにここに居た。

 

あらゆる逆境を踏み越え、それでもと顔を上げ続ける異常存在。

莫大な引力で耳目を惹き付け、ウマ娘の魂に夢を植え付ける極大の種火。

 

 


 

結果:669(大成功)

 


 

 

()()()()()()がそこに居る。

 

『抜けた! 抜けた! ゴール前50メートルで突き抜けた! 決まったか!? これは決まったか!』

 

永久を謳う新たなる始まりの一歩。

振り下ろされる鋼が生む轍からは、最早何者も目を逸らせない。

 

 

 

決まったぁ! サナリモリブデン! 諦め知らずの鋼のウマ娘がラスト50メートルで突き抜けました半バ身ッ!! 2着はムシャムシャとノワールグリモアがほぼ横並び、わずかにノワールグリモアが体勢有利か。以下スローモーション、ブリッツエクレールの順で入着となっています』

 

歓声が炸裂する。

応えるように、サナリモリブデンは拳を突き上げ。

 

「──────!!」

 

そして咆哮した。

意味ある言葉の姿を取らない、魂の根底から絞り出されたそれは。

 

どこか、産声にも似ていた。

 

 

 

 

 


 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/逃げ経験+5

獲得:スキルPt+50

 

経験:芝経験&マイル経験&逃げ経験+3(G1ボーナス/1着)

獲得:スキルPt+30(G1ボーナス/1着)

 

成長:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3

 

 

スピ:507 → 517

スタ:410 → 420

パワ:419 → 429

根性:476 → 486

賢さ:421 → 431

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:B(16/30) → B(24/30)

マ:A (9/50)  → A(17/50)

逃:A(11/50) → A(19/50)

 

スキルPt:560 → 640

 


 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:507 → 517

スタ:410 → 420

パワ:419 → 429

根性:476 → 486

賢さ:421 → 431

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:B(24/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:A(17/50)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(19/50)

先行:B(0/30)

差し:A(29/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3(立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備/150Pt (最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い/150Pt   (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ/100Pt (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)/150Pt (レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

シンパシー/150Pt  (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

逃げためらい/100Pt (レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

まなざし/150Pt   (レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

熱いまなざし/250Pt (レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

鋼の意志/250Pt   (敗北が迫った時、スタミナを回復する)

 

スキルPt:640

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆85

ソーラーレイ    絆45

チューターサポート 絆60

チームウェズン   絆60

 

 

【戦績】

 

通算成績:9戦6勝 [6-1-1-1]

ファン数:16431 → 34431人

評価点数:7500 → 16500(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:マイルチャンピオンシップ(G1)、毎日王冠(G2)

 

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