オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです 作:F.C.F.
【選択内容】
適応訓練:芝
トレーニングでやる事は今日も今日とて変わらなかった。
芝。
芝。
芝。
とにかく芝を走りまくる。
回数をこなす事でしか得られないものを得ようというのだから仕方がない。
サナリモリブデンとてそれは理解しているので文句もなく、ただ走る。
「最近、夢の中でも芝を走るようになった」
「あはは、あるあるですねぇ。ウェズンに居た頃にも何人か居ましたよ、そういう事言ってる子」
その合間の休憩中、ふと漏らしたサナリモリブデンの言葉に郷谷はそう答えた。
いわく、適応訓練の最中は大体どんなウマ娘もそうなってくるのだそうだ。
辟易とし、朦朧とし、四六時中芝、あるいはダートの感触が頭から離れなくなり、夢の中にまで浸食してくる。
そんな日々が嫌というほど続いた後、もう嫌だという弱音を考える事さえなくなってくる頃にようやく適応が完了するのだという。
適性の矯正とはそういう過酷なものなのだ。
「なので普通はもっとうんざりした感じで文句を言われるんですけどねぇ。中にはストレスで荒れる子も居ましたし」
「1人で距離を伸ばそうとしてた頃に比べればまだマシだから」
「その経験持ってるのは強みですよ。なんで1人でやりきれたのか本当理解に苦しみますけど」
さて、そんな雑談の最中にサナリモリブデンは少し気になった。
郷谷トレーナーとは一体どんな人物であるのか。
もちろん、日々接しているのだからその表面は知っている。
服装は少々平均から外れているが内面は割とそうでもない。
突然奇行に走るような事はなく、トレーニングの内容や生活に関する指示も常識的。
過去の自主トレーニングの実態を知って怒り、本気で心配した様子から善人の類であるのもおよそ間違いない。
ただ、それ以外の事はサナリモリブデンはまだよく知らない。
先日ソーラーレイにトレーナーはどんな人物かと聞かれ「多分いい人」としか返せなかったのは記憶に新しい。
(私が何を求めているのか知ろうとしてくれたみたいに、私もトレーナーを知るべきなのかもしれない)
彼女がそんな考えに行き着くのはごく自然な成り行きだった。
「ウェズンって、どんなチームなの?」
というわけでと、サナリモリブデンはまずは浅瀬からと無難な疑問を口にする。
今も少し話題に出た、郷谷トレーナーが去年まで所属しサブトレーナーを務めていたというチームウェズン。
その雰囲気や経歴を知る事は、郷谷を詳しく知る一助になるだろう。
「ん-? そうですねぇ。ふふ、パッとしないチームですよ」
それに対し、郷谷は口元に苦笑を乗せて返した。
「未勝利戦を勝ったり負けたりしている時間が一番長かったですね。たまに上手く勝ち進んだ子がオープン戦に出走できるとなったらみんなでお祝いして応援して。まぁ大体勝てないんですけど」
だが、そこにマイナスの感情はない。
目元は優しげに緩み、声は懐かしむように弾んでいる。
それは好ましい思い出を語る時の表情だ。
郷谷を見つめるサナリモリブデンも気付き、憧れるように目を細める。
「それでも泣いて悔しがった後に、チーフトレーナーを中心に笑って次こそはと立ち上がれる。そんなチームでした」
「いいところだったんだ」
「えぇ、それはもう。ま、本当に成績はボロボロでしたけどね。チーフがもう甘々で厳しいトレーニングを課すのが苦手でして、むしろもっと色々しないとまずいんじゃとかメンバーの方から言い出すくらいに。おかげで業務時間外に何回自主トレに付き合ったんだか分かりませんよ」
カラカラと笑って言う。
私が抜けた今、チーフはメンバーにせっつかれてトレーニングメニューと必死ににらめっこしているのでは。
そんな風におどける郷谷はなんとも楽しそうな気配をまとっていた。
「こんな感じですかねぇ。あの頃に比べるとサナリさんは手がかからなくて体は楽なんですが、正直少し寂しかったりもします。もっとワガママや意見を言ってくれてもいいんですよ?」
「そう言われても思いつかない。トレーナーの指示には納得してるし、不満もないから」
「そうですかぁ……」
「仕事が増えた方が嬉しいの?」
「えぇ、それはもう!」
遠慮をしなくていいと示すためだろうか。
あからさまに分かりやすく落ち込むポーズを見せた郷谷に、サナリモリブデンが聞く。
すると郷谷は勢いよく顔を上げて答えた。
「トレーナーというのはとんでもない難関です。青春を全部放り捨てて頭のおかしい量の勉強を積み重ねて、頭のおかしい倍率の試験をクリアして、ようやく入口に立てる職業です」
顔の横にピッと指を立て、ニカッと歯を見せて笑う。
「それで何を得るかといえば、ウマ娘の皆さんを支える裏方の立場です。日の当たらない場所で、輝きたいと願う女の子を直接応援する以外に何もできません」
そして、手をゆっくりと下げていく。
指先はサナリモリブデンの胸元に向き、止まった。
「私たちはですねぇ。それでいいどころか、それがいいと思えるくらい貴女たちウマ娘が好きで好きでたまらないんです。貴女たちのためだというならどんな事だって出来るし、したいといつだって願っているものなんですよ。仕事なんて増えれば増えるほどいいってみんな思ってます。いいですかサナリさん。これはトレーナーという人種全員に共通する特徴なので是非覚えておいてくださいね」
「……ん。わかった。覚えておく」
なるほどとサナリモリブデンは納得した。
本当にトレーナー全員がそうかはおいておくとして、少なくとも郷谷に関しては嘘はない。
そう理解できるだけの熱はサナリモリブデンにも見て取れた。
「今は何も思いつかないけど、ワガママが言いたくなったら遠慮はしないようにする」
「はい、その時を楽しみにしていますよ。さて、そろそろ休憩は終わりにしましょうか。トレーニングを再開しますよ」
「うん、了解」
次にもしトレーナーの事を聞かれた時は、多分を外していい人だと紹介しよう。
サナリモリブデンはそんな事を考えながら、徐々に慣れつつあるターフへともう一度脚を向けた。
【トレーニング判定】
結果:成功
【トレーニング結果】
成長:スピード+10/パワー+10
経験:芝経験+3
スピ:87 → 97
スタ:90
パワ:94 → 104
根性:126
賢さ:116
芝:E(8/10)
【ランダムイベント生成】
イベントキーワード:「目盛り」「三時のおやつ」「感嘆詞」
「サナリン! 私を監視してほしいの!」
とある春先の日の事。
同室のウマ娘、ペンギンアルバムの突然の大声が室内に響き渡った。
サナリモリブデンはそれに、キョトンとした目を返す。
「監視? って、何を」
「だから私をっ!」
しかし情報量は増えなかった。
ペンギンアルバムはどうにも取り乱しているらしい。
「……落ち着いて、最初から話してもらえる?」
なのでゆっくりと、背の低いペンギンアルバムに目線を合わせて優しく問う。
サナリモリブデンにとって、同室の彼女は大事な友人だ。
トレーナーとの契約に関する悪い噂に憤慨して本人以上の怒りを見せていた姿などにも感謝と好感を抱いている。
そんな相手が何やら必死な様子というのなら力になりたいと思うのは当然だろう。
「うぅ、それがね……た、体重計が、体重計の、目盛りがね!?」
が、そこまで聞いてサナリモリブデンの肩の力は抜けた。
感想としては、なるほどいつものか、といった所。
「うん、大丈夫。もう分かった。だから言ったのに。最近食べ過ぎだよって」
「うわぁん! だってぇ!」
だっても何もなく、ただの自業自得である。
ペンギンアルバムは健啖家だ。
毎日ご飯は山盛り食べるし、脂っこいものも大好きで、甘いものにだって目がない。
そして困った事に、それらを綺麗に脂肪に変えてしまえる体質の持ち主であった。
入学からこちら、サナリモリブデンが同じ悩みを聞かされた回数は両手の指ではもう数えきれない。
「今回はどんな感じなの?」
「こ、こんな感じ……」
「うわ」
「無慈悲な感嘆詞やめてぇ!?」
ぼるん、などと聞こえそうなお腹の様子にサナリモリブデンは思わず声を漏らした。
それは見事にクリーンヒットし、ペンギンアルバムがぴえーと泣き出す。
「私、私はただ美味しいものが好きなだけなのにぃ……! なんで太っちゃうのぉ……!」
「美味しいもの山ほど食べるからだよ」
実にシンプルな理論であった。
「というわけで、サナリンには私の監視をお願いしたいの。ダイエットが成功するように!」
「うん、まぁ、いいよ。アルにはお世話になってるから、協力は惜しまない」
ともあれ、そういう事になった。
ひとしきり泣いた後で復活したペンギンアルバムの頼みを、サナリモリブデンは承諾する。
ペンギンアルバムは食の誘惑にひどく弱い。
自分1人で食べてはダメだと自制していても上手くはいかないようだ。
外部の助けがなければ痩せられないタイプのウマ娘であり、それには行動を共にする時間が多いサナリモリブデンが一番の適任だろう。
「うぅ、ありがとうサナリン……やっぱり持つべきものは友達だよぉ」
頼みを受け入れられ、ペンギンアルバムはようやく落ち着いたようだ。
ホッと安堵の息を吐いて、流れるような動きで戸棚を開けた。
そして取り出されたチョコの箱を、同じく流れるような動きでサナリモリブデンが没収し鍵のかかる引き出しに放り込む。
ふむ、とサナリモリブデンが時計を確認するとちょうど午後3時。
呆れるほどに正確かつ習慣付きすぎた行動だった。
「アル」
「ごめん。今のは自分でもどうかと思った」
「うん。反省して」
素直に謝るペンギンアルバムに頷き返しつつ、サナリモリブデンはその頭をよしよしと撫でる。
前途多難な様子ではあったが、過去に相談を受けた回数と同じだけ減量にも成功している。
今回も数日かければなんとかなるだろうと見通しを立てた。
ウマ娘の代謝はそれを可能とするだけのものがある。
ヒトミミでは困難な短期間集中ダイエットでぽっこりお腹解消は、特に無理のない現実的なプランなのである。
「……プランだった、はずなんだけどね」
「どうして……どうして……」
死んだ目でベッドに横たわるペンギンアルバム。
ダイエット開始から一週間。
そのお腹は多少目減りしていたものの、まだ大きいままだ。
「今回の脂肪はしつこいね。密度が高いのかな」
「きっとギュウギュウに詰まってるんだぁ。お肉だけに、牛みたいにね。んへへ……」
「正気を失ってる……」
虚ろに笑うペンギンアルバムはそろそろ精神が致命傷だ。
何しろ、彼女の担当となったトレーナーは男性だそうなのだが。
「トレーナーさんもねぇ……最近視線がね……? お腹にね……? ふへ、そんでさ、食事量もこっちで完全管理しようか? って……」
「むごい」
サナリモリブデンはそっと天井を仰いだ。
いっそストレートに叱られた方がマシだった事だろう。
自身の恥部を生暖かい目で指摘されるというのは年頃の娘にとってはもう、むごいの一言だ。
虚ろな笑みをこぼし続けるペンギンアルバムに、サナリモリブデンは決意を固めた。
監視だけでは足りない。
もっと積極的に減量に協力して、現状をなんとかせねばならないと。
ダイエットプラン
-
元を絶つ、断食しよう
-
脂肪を燃やす、とことん動こう