オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです   作:F.C.F.

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クラシック級 11月次走選択結果〜12月スキル習得

 


 

【投票結果】

 

有マ記念(G1)

 


 

 

記者会見の場において次走発表を行って、翌日。

一泊を経て学園に戻ったサナリモリブデンを出迎えたのは。

 

「サ~ナリ~ン!」

 

そんな、高く弾む声だった。

 

「む」

 

もちろんサナリモリブデンには聞き覚えのある声だ。

というより、学園に入学して以来聞かなかった日の方が少ない。

最早日常の象徴とも呼ぶべきものだ。

 

サナリモリブデンの耳が声の方向へ向けられる。

続いて顔も向ければそこには案の定の光景があった。

夏祭りで贈った白い耳飾がキラリと光る真っ黒な青毛。

小さな体のウマ娘がニコニコ顔で駆けてきていた。

 

全力疾走ではないが、ただ駆け足と呼ぶにはちょっと速い。

そんな速度でやってきた少女は。

 

「おかえりー! 寂しかったよー!」

 

「ただいま、アル」

 

そのままぴょーんとサナリモリブデンに飛びついた。

襲撃された側も慣れたもの。

さっと抱きとめるとぐるんと振り回して勢いを殺し地面に下ろす。

 

どうやら帰りを今か今かと待たれていたらしいとサナリモリブデンも分かる。

何しろ学園の敷地、その入り口だ。

用が無ければたまたま通りがかるような所ではない。

しかも時刻は早朝と来ればなおさらだった。

 

「おや、おはようございます。ペンギンアルバムさんは朝から元気ですねぇ」

 

「んへへ、それが取り柄だかんね。ゴーヤちゃんもおかえりー」

 

「はい、ただいま戻りましたよ」

 

そんな待ち伏せウマ娘、ペンギンアルバムはサナリモリブデンに同行していた郷谷とも挨拶を交わす。

夏合宿や共同トレーニングを通じてこちらもすっかり仲良しだ。

ペンギンアルバム自体人見知りしない性質なのでとうの昔に敬語も消えている。

 

「ゴーヤちゃんゴーヤちゃん、サナリン借りてって大丈夫?」

 

ペンギンアルバムは気安いままでそう言った。

両腕でサナリモリブデンの左腕を捕まえながらである。

よもや断られるとは微塵も思っていない様相だ。

 

「えぇ、私は構いませんよ。そうしますかサナリさん?」

 

「そうするよねサナリン! G1勝利のお祝いにと思って色々お店見つけてあるんだー。一日連れ回して楽しませてしんぜよう!」

 

「ん、そうする。アルに祝ってもらえるのはとても嬉しい」

 

そして当然のようにサナリモリブデンも断らない。

元々マイルチャンピオンシップが終わって、翌日に会見、そしてまた翌日の今日帰ってきたばかり。

授業は免除され休養以外の予定は何もなく、親友と遊びに繰り出すのは最高の過ごし方に数えられるだろう。

ペンギンアルバムもどうにかして休みを合わせて取り付けたらしく何の支障もない。

 

決まりだー、と上機嫌にペンギンアルバム。

サナリモリブデンはいってきますと郷谷に手を振り。

優しく微笑んだ郷谷は、車に気を付けてとこころよく送り出した。

 

 

 

そうして始まった一日は楽しく流れていく。

 

「これは……美味しい……」

 

まず初手。

真っ先に向かったのは表通りに面した喫茶店だった。

早朝から開いている店舗で、2人は向かい合ってモーニングを楽しむ。

 

「でしょー。サラダが最高なんだよここは」

 

「うん。このドレッシングは良い。シンプルなのに味わいが深くて、刺激的なのに野菜の味の邪魔をしない。相当研究されてる」

 

「いくらでも食べれるよね! サナリンならこれ作れたりしない?」

 

「……難しいと思う」

 

「うわ、そんなにかぁ。思ったより凄いお店だったかも」

 

品数は標準的だ。

程良く焼けた厚めのトースト、黄身だけプルプルのゆで卵、ふわふわのスクランブルエッグ、カリカリのベーコンとパリッとしたウインナー。

それにフレッシュなサラダとコンソメ味のカップスープ。

もちろんコーヒーも一杯ついてくる。

値段も高くも無く安くも無く。

 

だが質に関してはペンギンアルバムが太鼓判を押すだけはあった。

奇をてらわない王道を突き詰めた、まさに「こういうのでいいんだ」という味わいと食感が勢ぞろいしている。

 

となれば人気が出ないわけもない。

店内は朝から満席だった。

ちょっと早めに家を出てここで朝食を食べるのが毎日の楽しみといった顔ばかりだ。

 

そんな店の中、2人は窓際の席に座っている。

美味しい食事に静かな音楽。

わきまえた客ばかりなのか会話のざわめきはむしろ心地よい程度で、差し込む陽射しもどこか柔らかい。

 

「その上通勤中のサラリーマンを横目に私達はお休みなんだから優雅な気持ちになるよねぇ」

 

「アルがソーラーレイっぽい事言ってる」

 

「おわ、それは良くない良くない。気を付けなきゃ」

 

「ふふ。本人に聞かれたら怒られそう」

 

「んふふ、絶対面倒くさく絡んでくるやつじゃん」

 

食後のコーヒーもやはり絶品。

朝にふさわしいだけのちょうどいい香ばしさと共に談笑を楽しむ。

 

 

 

その最中、壁に貼られた一枚の紙をサナリモリブデンは発見する。

 

ドレッシング単品販売中。

300mlのビン込みで700円。

 

なるほど、買っていかなければならない。

でも今日は荷物になっても困るからまた次に来た時だ。

 

サナリモリブデンはそう固く決意した。

 

 

 

次いで向かったのは。

 

「じゃーん! サナリン好きだったよね?」

 

「む……!」

 

にゃーん、と出迎える声、声、声。

毛むくじゃらの楽園である。

 

猫カフェだった。

どうやら以前サナリモリブデンと交わした会話を覚えていたらしい。

猫好きの親友をいつか連れてきてやろうとペンギンアルバムは良質な店を探していたのだそうだ。

 

「ここの子達はみーんな懐っこい子ばっかりなんだよねー♪」

 

「しっかりお世話していますから。自慢の子ばかりですよ」

 

誇らしげなペンギンアルバムの紹介に、やはり誇らしげに店員の女性が言う。

 

その言葉通り甘えん坊の勢ぞろいだった。

店員の、ペンギンアルバムの、サナリモリブデンの。

それぞれの足元に体をすり寄せ尻尾までこすりつけていく。

 

これは中々珍しい事だった。

猫より人間は強く、人間よりウマ娘はさらに強い。

野良ならばウマ娘に寄ってくるような個体はそうそう居ない。

余程普段から丁寧に愛をもって接されていなければこうはならないだろうと一目で分かる。

 

どう考えても一流の猫カフェだった。

G1ウマ娘2人を前にしてなお猫を優先して動く店員の様を見ても明らかである。

 

「……撫でたり抱き上げたりしても大丈夫ですか?」

 

「ゆっくり優しくでしたら、もちろん。あんまり無いとは思いますが、嫌がるようでしたら離してあげてくださいね」

 

となれば楽しむに気がかりはない。

座り込んだ膝に乗ってくる猫、かまってとばかりに後ろ足で立ち上がって肩に手をかける猫、おやつはあるかいと周りをウロウロ歩く猫。

そのどれもをサナリモリブデンはうきうきとあやしていく。

 

「ほりゃほりゃー♪」

 

「ウマ娘さんの自前のそれ、時々羨ましくなるんですよねー」

 

「なるほど、その手が……」

 

特に猫達が喜んだのは尻尾だった。

じゃらし代わりに振ってやれば可愛らしい足がてしてしと叩く。

爪の手入れもしっかりされているようで、興奮しても痛みはない。

むしろくすぐったさが面白さを加速させるばかりだ。

 

席代は1時間1000円。

平日午前だけに他の客が居ない店内で、2人はたっぷりと猫に癒された。

 

 

 

店を出る際、サナリモリブデンはまた張り紙に気が付いた。

 

猫、譲渡します。

店員にお気軽にご相談下さい。

 

良く読むと、この店の猫達は全て保護された猫であるらしい。

猫カフェのアイドルとして働いてもらいつつ里親を探すという形式のようだ。

実に合理的なシステムである。

 

将来、レースを引退して実家に帰る時。

条件が合えば引き取って連れていくのも良いかも知れない。

 

サナリモリブデンはそんな風に思案した。

 

 

 

遊びはまだ続く。

喫茶店、猫カフェに続いた今度はちょっと騒がしい場所だった。

 

「サナリンはこういうとこ来た事ある?」

 

「……あんまりない」

 

「あ、やっぱり。イメージないなーって思ってたんだ」

 

光も音も大盤振る舞い。

ゲームセンターだ。

色とりどりの煌びやかな筐体が所狭しと立ち並び、電子の遊戯をこれでもかと楽しませようとしてくる。

殆ど経験の無い刺激にサナリモリブデンは思わず耳を伏せた。

 

「こういうとこはちょっとどうかなぁと思ってたんだけど何事も経験でしょ? どう、ちょっとやってかない?」

 

「ん、興味がないわけじゃない。アルのオススメは?」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

だが寝た耳はすぐに起きた。

興味深げに忙しくあちこちに向き、流れる音を聞き分けてどれがどのようなものかを探ろうとする。

もっとも、音の種類が多すぎるためにすぐに断念されたが。

 

幸い、こういった遊びに詳しいらしい同行者が今日は居る。

自分で探る必要はないと気付くや、サナリモリブデンはペンギンアルバムに助言を求めた。

 

そしてペンギンアルバムと言えば郷谷と並ぶサナリモリブデンの第一人者である。

 

「相手のゴールにシューッ! イェーイ! くふふ、これで5点差だねぇ~?」

 

「なるほど。大体理解できた。……速度だけじゃ足りない。予測の難しい角度と、タイミングの妙──」

 

「ん? あれ? なんか嫌な予感してきたかも……」

 

エアホッケー。

 

「リロード!」

 

「任せて、カバーに入る!」

 

「ナイスヘッショー! 上手いじゃんサナリン! これもしかしてノーコンでボスまでいけるかも!」

 

「狙い撃つのは得意かも知れない」

 

ガンシューティング。

 

「へっへっへ。普段のダンスと全然違うっしょ?」

 

「くっ……想像以上に難しい。矢印と足元の変換が上手くいかない」

 

「こればっかりは慣れだよ慣れ。もう一戦やる?」

 

「──やる」

 

ダンスゲーム。

 

どれもハマれば熱くなるタイプのゲームだ。

つまり中々の負けず嫌いなサナリモリブデンにはピッタリの取り合わせである。

実際、時間を忘れるほど夢中になって2人は遊んだ。

 

戦績はエアホッケーがサナリモリブデンの逆転勝利。

ダンスゲームは習熟度の差でペンギンアルバムが圧倒。

ガンシューティングは協力プレイなので勝ちも負けもない。

 

そうして少々疲れた2人は、最後にクレーンゲームのコーナーにやってきた。

目玉となっている景品はもちろん。

 

「ん、ムシャムシャが居る」

 

「うん。ここは品揃え良いんだよねー。アームも強いしさ」

 

G1ウマ娘のぬいぐるみ、ぱかプチである。

つい先日戦ったばかりの栃栗毛のウマ娘、ムシャムシャにサナリモリブデンの目は自然と向いた。

それだけではない。

周囲に並ぶ筐体はぱかプチがずらり揃っていた。

ソーラーレイにマッキラ、シニア級のトップを張るスレーインにクラースナヤ、ティアラ路線で活躍したオイシイパルフェにアクアガイザー、ダートのドカドカやマストチューズミー、皐月賞のジュエルルビー。

他にもまだまだ、現役のG1ウマ娘で居ない者はないのではないかというほど。

 

「サナリンサナリン、本物とどっちが可愛い?」

 

「アルは表情がころころ変わる方が可愛いと思う」

 

「んー、100点!」

 

当然ペンギンアルバムもだ。

笑顔のぬいぐるみが可愛らしく透明な壁の向こうに座っている。

その筐体の前でサナリモリブデンは立ち止まり、100円を投入した。

 

「お、欲しいの? サナリンになら貰った分いくらでもあげるけど」

 

「慣れてないけど、分かる事もある。こういうのは自分で取ってこそ。違う?」

 

「あはは、大正解! サナリンほんと筋いいなぁ。もっと早く連れて来れば良かった」

 

ペンギンアルバムが応援する中、真剣な面持ちでサナリモリブデンはクレーンを操作する。

設定は良心的そのものだ。

アームから変に力が抜ける事もなく、適切に掴みさえすれば入手は簡単だった。

もっとも、初心者のサナリモリブデンは1000円少々を費やしたのだがそこは仕方ない事だろう。

 

 

 

「ん……!」

 

「おめでとー! はーいサナリンにペンギンアルバムさんからペンギンアルバムちゃんの贈呈でーす!」

 

「ありがとう、大事にする」

 

差し出されたぬいぐるみを、証書でも授与されるかのように丁寧に両手で受け取るサナリモリブデン。

親友らしい冗談交じりの動作に笑みが交わされた。

 

ここにはきっと、もうすぐ真っ白な芦毛のぬいぐるみも並ぶのだろう。

その時はまたアルと一緒に訪れようとサナリモリブデンは誓った。

次はサナリモリブデンからペンギンアルバムに、サナリモリブデンちゃんの贈呈だ、と。

 

 

 

 

 

そうして。

時間は瞬く間に過ぎた。

 

「楽しかったねぇ」

 

「うん。楽しかった。とても」

 

門限ギリギリ。

冬も近付き早くなった日暮れを過ぎてからようやく2人は寮に戻った。

いや、正直に言えば少し門限を越えていた。

普段は真面目に時間を守る2人だからと寮長にお目こぼしをしてもらってのお帰りだ。

 

必然的にその後は慌ただしい。

寮の夕飯を食べ、大浴場に入り、友人と少々談話し、それだけでもう就寝時間となる。

 

「おやすみ、サナリン」

 

パチンと部屋の電気が消えた。

明かりはカーテンを透かして差し込む月明りだけ。

今日という一日の終わりにふさわしい優しい夜がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま。

ただ黙って目をつむるだけで良い。

そうすればまた、優しい朝がいつものようにやってくるのだろう。

 

サナリモリブデンはそう考えて。

 

「アル」

 

しかし、それを良しとはしなかった。

 

「……」

 

返事はない。

構わずサナリモリブデンは続けた。

 

「私に聞きたい事があると思ってたけど。違った?」

 

 

 

ペンギンアルバムは間違いなく今日を楽しんだ。

この共同生活の中で一、二を争うほどに心から楽しんでいた。

ペンギンアルバムという少女を恐らくは誰よりも知る者として、サナリモリブデンは断言できる。

そしてもちろん、そこに不自然が付き纏っていた事も。

 

「……できれば、ききたくないかなぁ」

 

知らないはずはない。

サナリモリブデンの知る限り、ペンギンアルバムがサナリモリブデンの動向を追わない理由が無かった。

だが、ペンギンアルバムは一度も聞かなかった。

 

「…………」

 

そして今も。

 

沈黙が長く流れる。

目覚まし時計の秒針が動く音だけが部屋を支配していた。

 

 

 

 

 

どれだけ静けさが続いただろうか。

闇に目が慣れ、天井の隅の汚れまで見えるようになった頃。

 

「……どうして」

 

ペンギンアルバムのベッドから、ようやく声が届いた。

 

「どうしてはしるの?」

 

有マ記念を。

という問いだろう。

 

その声はひどくか細い。

常の感情に満ち満ちた音色とは正反対だった。

 

「ファンのひとのこえに、こたえたいから?」

 

「……私を見ていてくれる人のために」

 

問われて。

答え。

次いで返ってきたのはベッドの軋む音だった。

 

 

 

「そんなことのために」

 

軋み。

わずか数歩の足音。

そしてまた、軋み。

 

「わたしに、まけにくるの?」

 

天井を見つめるサナリモリブデンの視界に、ペンギンアルバムが現れた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「ねぇ、サナリン──かてるとおもってるの?」

 

声は、確かに細い。

 

「2500。わたしのホームグラウンドで、サナリンが、わたしに」

 

しかしそれに見合うだけの鋭さがある。

 

「なにか、できることがあるって……そうおもってる?」

 

光に乏しい瞳はサナリモリブデンを責めていた。

 

 

 

 

 

それに、当然のようにサナリモリブデンは返した。

 

「思ってない。アルは強い。アルの距離では誰よりも。私はそう信じてる」

 

「なら、なんで」

 

「理由は」

 

 

 

 

 


 

【ペンギンアルバム絆判定】

 

成功率:ペンギンアルバムの絆/85(%)

 

結果:成功

 


 

 

 

 

 

「もう言った」

 

サナリモリブデンの手が持ち上がり、伸ばされる。

まるで似合いもしない、冷たい怒りに満ちた表情を浮かべる親友の顔へと。

 

「アル。私は走るよ。──()()()()()()()()()()のために」

 

「──」

 

「ごめん」

 

顔にかかる髪を払い、優しく頬を撫で上げる。

 

「きっと、とても待たせたと思う。私が思ってるよりも、ずっと」

 

 

 

とっくの昔にサナリモリブデンは知っていた。

 

一番の親友が自身に対して抱いている感情を。

夜の空に咲く花火よりも。

自分の横顔を眺めて綺麗だとこぼすほどに、想っていてくれた事を。

 

そして、戦いたい、挑みたいと。

■■■しまいたいと思っている事を。

 

……中途半端にどちらかが不利を負って争うよりはとその心をしまい込んで、親友でいられればそれで良いと我慢をしていた事も。

 

 

 

当たり前の話だ。

いかにサナリモリブデンが自覚に乏しかろうとも気付かないわけがない。

 

ペンギンアルバムはサナリモリブデンの最大の親友だ。

学園の、ではない。

人生の、である。

未だかつてサナリモリブデンにとって、友人という枠組みでペンギンアルバムほどに大切に思えた者は誰も居ない。

 

 

 

場違いに微笑んでしまいそうなほどに柔らかい頬に触れながらサナリモリブデンは思い返す。

 

ただ辛く苦しいだけだった選抜レースまでの日々。

それを、サナリモリブデンは平然と乗り越えたわけではない。

事実として本当に、心の底から辛く苦しかったのだ。

何度非才を嘆き、漏れそうな弱音を食い縛って噛み殺したかは数えきれない。

 

サナリモリブデンを指して、誰かが鋼と称した。

……そんなものは比喩に過ぎない。

彼女とて痛みを感じ、傷を負う。

ただそれに際限なく耐えてしまえるというだけの、ただの少女だ。

 

 

 

きっと、サナリモリブデンはひとりでも耐えただろう。

歩いて歩いて歩き続けて運命の日に辿り着いたはずだ。

その代償に、誰にも見えない血を流して、誰にも聞こえない悲鳴を上げながら。

 

だがそうはならなかった。

いつだって隣に鋼の歩みを見上げる親友がいてくれたから。

 

それは、失い続けてきたサナリモリブデンが初めて得た救いだったのだろう。

 

 

 

そんな者の望みを、願いを、どうして知らずにいられるだろう。

 

ふたつめの救いたる両輪の片割れを得て歩みは走りへと変わり。

もう一振りの鋼の背に不足を知り。

挑んだ果てに結実を経て。

魂をくべるに足る理由を自覚して。

 

そうして次はと見渡した時、サナリモリブデンはもう止まれなかった。

これ以上を待たせるなど許されない。

 

今ペンギンアルバムに挑むのは避けてほしい。

そう言い募る郷谷を退けてまで自分の意見を押し通した。

 

 

 

「それに、勝算が全くないわけでもない」

 

「……え?」

 

「ここだけの話──私は長距離もやれる」

 

ペンギンアルバムの目が見開かれる。

大きくて綺麗な目だとサナリモリブデンは思った。

 

"やっぱり、アルはそういう表情の方が似合う"

 

とも。

 

「うそ」

 

「とても心外。こんな大事な事で嘘をつくと思われてるのは結構傷付く」

 

「そういう、意味じゃなくて……」

 

「ん、分かってる。今の冗談は少し意地悪だった。ごめん」

 

段々とサナリモリブデンが良く知るペンギンアルバムが帰ってくる。

刺すような視線は迷うような、困ったようなものへと変わる。

 

「……それ、黙ってた方が良かったと思うよ? 私、絶対油断してたし」

 

「実を言うとトレーナーにも口止めされてる」

 

「でしょ?」

 

「うん。でも、アルとだけは正面からやりたかったから」

 

「サナリンは、ほんと……サナリンだなぁ」

 

 

 

眉を下げて、呆れたようにため息をひとつ。

それでペンギンアルバムはいつも通りになった。

 

てーい、と。

寮長の見回りでもあればお小言でも貰いそうな掛け声と共に布団の中に潜り込んでくる。

シングルのベッドの中、小さな体からは想像もできないパワーでサナリモリブデンは壁に寄せられた。

 

「ん、それは少し困る」

 

「えーいいじゃーん♪ 今日はサナリンと一緒がいいなー」

 

「……アルの寝相が良ければ異存はなかった」

 

「ぅぐ、そこ突かれると弱い……」

 

すっかり親友らしい空気に戻ってじゃれ合いながらスペースを奪い合う。

しばしの攻防の後、結局はサナリモリブデンが折れる形となった。

後ろから抱きしめるような体勢で寝れば多少は抑えられるだろうという楽観によってだ。

恐らく楽観は楽観に過ぎないと両者とも分かってはいたが。

 

 

 

「……サナリン」

 

「うん」

 

「本当に、いいの?」

 

「うん」

 

「やめるなら今のうちだよ。始まったら手加減なんか出来ないし、したくもないから。全力でサナリンを潰すよ。……もう二度と立ち上がれないくらいに」

 

「構わない」

 

まどろみに落ちる最中。

届いた声にサナリモリブデンは返す。

 

「心配はいらない。そんな事にはならない。……アルの方こそ気を付けた方が良い」

 

「そう?」

 

「うん。ファンの人いわく、私は鋼らしいから。下手にかじると歯が欠けるし、お腹壊すよ」

 

「くっ、ふふ、そ、そうかも」

 

それで一日は終わる。

遊び歩いた疲れがとうとう回り、白と黒の対照的な親友達はまとめて眠りに落ちた。

 

その親愛は不変のものに違いない。

例え勝負がどのような結末に至ろうとも。

割り裂く事など誰に出来るものか。

 

 

 

目を覚ませばいつだって、彼女達の間には笑顔が交わされると決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

【12月固定イベント/スキル習得】

 


 

押し切り準備/150Pt

(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

 

展開窺い/150Pt

(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

 

ペースキープ/100Pt

(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

 

トリック(前)/150Pt

(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

シンパシー/150Pt

(絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

 

逃げためらい/100Pt

(レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

 

まなざし/150Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

 

熱いまなざし/250Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

 

鋼の意志/250Pt

(敗北が迫った時、スタミナを回復する)

 

 

スキルPt:640

 

 


 

【TIPS】

スキルはスキルPtが許す限り、票数の多い順に複数習得できます。

スキルPtが無くなるか、習得しない選択肢が選ばれた時、スキル習得は終了します。

 

【TIPS 2】

下位のスキルを習得している場合、上位スキルが下位スキル習得に必要なPtの分だけ値引きされます。




【ダイスログ】

【挿絵表示】

スキル習得内容

  • 押し切り準備
  • 展開窺い
  • ベースキープ
  • トリック(前)
  • シンパシー
  • 逃げためらい
  • まなざし
  • 熱いまなざし
  • 鋼の意志
  • 習得しない
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