ただちょっと精神的に疲れてて、ほのぼのが見たくて、でも無くて。だから描こうって思ったんです。
こんなシリアスを書きたかったわけじゃないんです。
それは突然だった。
大学寮でゴロゴロしながらスマホを弄っていた時に、久しぶりに……本当に久しぶりに親戚から連絡が来た。
なんかあったのかと軽い気持ちで聞いてみたら、やっぱり何かが起きていて。いや、軽い気持ちで聞くべきものじゃなかった。
『和正さんが亡くなった』
繋がって早々に、その一言が俺の鼓膜を揺らして全部持っていった。
中尾和正。俺、中尾道彦の祖父だ。母方のな。
俺がチビの頃は、じーちゃんじーちゃんと呼びながら後ろをついてった記憶がある。そんで、あの人は笑いながら俺を肩車してくれてた。
まだ物心ついてなかった時に両親を亡くした俺は、高校1年前期までじーさんに育てられた。その後は都会に出て一人暮らし。米売って儲けた幾らかを仕送りしてくれてた。
バイトをし始めてからしばらくして仕送りは無しにしてもらって、それからほとんど顔を合わせるどころか連絡も入れていなかった。
大酒飲みだったが、とんと病気にかかったことがない和正じーさん。元気いっぱいのはっちゃけてたあの人が死んだなんて、すぐには信じられなかった。
だってあの和正じーさんだぞ。齢90超えても米袋担いでぶん投げてた化け物だ。酒を浴びるように飲んでも、肝臓が少しも弱らなかったんだ。どんなことも、全部吹き飛ばしてしまいそうな、俺の中での無敵の存在だった。
招待を貰って、棺に入ったじーさんと対面した時だよ。死んだって事をやっと理解できたのは。いや、その時は理解なんてできなかったな。
だってじーさん、何にも変わんない顔してたんだ。ただ寝てるだけなんて言われたら疑問も持たず信じちまうぐらい、綺麗な顔してた。
聞けば、死体が発見されたのはじーさん家の居間らしい。敷布団の中で、気持ちよさそうに笑いながら逝ってたそうだ。
『寿命だったみたいよ』
親戚らの話が辛うじて聞こえてた。馬鹿じゃねえの。こんなの寝てるだけじゃん。
本当に、そう思ってた。
葬式が終わって、焼却炉にじーさんが入れられて。残った遺骨の幾らかを分けてもらった。骨壷の用意はお願いした。ボロボロの骨を箸で摘む。骨の軽さが、その脆さが、もうじーさんはこの世に居ないってことを俺に叩きつけてきた。
涙は出なかった。いや、出さなかった。だってそんなことしたらじーさんに笑われる。男子が泣くんじゃねえと一喝されるかもしれない。そんなことで化けて出て欲しくはないから、その日の夜は布団を頭まで被って静かに泣いた。
その後は頭に穴が空いたような、変な感じがあったせいであまり覚えていない。遺産相続なんて分からなくて、カネの大部分は親戚らが分配してって、俺にも幾らか入った。
そんで、じーさんの住んでた家の話になったんだが……どういう訳かみんな難色を示してた。代わりに住むという人がおらず、そんなら売られるのかとも思っていたが、家の話からまったく進まない。
仕方ないから、俺が貰うことにした。大学からは遠いから学友には悪いが遊びとかもほとんどできないだろうな。じーさん家の方が大事だ。
「……はぁ、ひっさしぶりだなおい」
荷物をまとめて今朝方に寮を出た。長い電車旅を経てやっと屋敷に着いた頃にはもうクッタクタだ。
俺を出迎えたのは大きな門。古臭い木造建築の家も、じーさんの迫力をさらに増強させてたんだろう。今にもじーさんが門を押し開けてきそうだ。
「………………」
「あ?」
ふと道先を見てみると、薄い紫色の髪をした大学生ぐらいの女性がいた。同年代…いや、ちょい下か?女性はジッと生垣を…いや、きっと生垣の向こうを見ている。じーさんと関わりがあった人だろうか?
「あんた、そんな所で何やってる。ここに何か用か」
「え、あ、はい。その、えっと…」
集中してたのか俺がいることに気づいていなかったらしく、声をかけるとわかりやすいぐらい肩を跳ねさせていた。しどろもどろになりながらも、どうやら言いたいことがあるようだ。
「あの、この家に住んでいたおじいさん……和正さんってどこにいらっしゃるか知りませんか?」
「……じーさんの知り合いか」
思った通りだ。家まで来るってことは相当世話になったんだろう。ここはちゃんと答えるべきか悩むが……隠しても仕方ないか。
「じーさんはこの家には居ないよ」
「そうですか…いつぐらいに帰ってくるかわかります?」
「もう帰ってこない」
「え?それはどういう…」
「死んだ」
女性の言葉を遮って、俺はキッパリと告げた。なんだって俺がこんな酷なことをしなきゃならないんだ。
「…………え?」
「死んだよ。寿命でくたばったんだと」
「…本当…ですか?」
「本当だよ。どんな関係だったかは知らんが、まあ、そういうことだ」
門を開けて、ふと思い立つ。反応を見るに簡単な関係ではなかったらしい。それなら、遺影と遺骨に拝むぐらい、せめてこの人の権利だろう。
「中に入りなよ。これから自宅墓に骨を入れる。挨拶ぐらい、しておきたいだろ?」
「……はい。ありがとう…ございます…」
家の中に入り、居間の隅に設けられた仏壇に骨壷を仕舞う。台に遺影を立てれば、自宅墓の完成だ。
線香を点てて鐘を鳴らす。軽く拝むと、後ろに退いて女性と代わった。
「………………」
女性も線香を点てて鐘を鳴らす。言葉は無い。だが目から流れた物は、きっと本物だ。それだけは確実に、じーさんに届くだろうさ。
女性が拝んでる間、俺はお茶を入れた。流石に何もなしにさよならはないだろうと思ったし、俺がいない間にじーさんがどうだったのかを聞いておきたかった。
台所から居間へと戻ると、丁度女性が立ち上がる所だった。挨拶はもう終わったらしい。
「まあ座ってくれ。どうぞ」
「ありがとうございます」
じーさんが住んでた時のまま、家具は変わってない。座り心地の良くない潰れた座布団に座らせた俺は、女性へお茶を出した。
「まさか、じーさんに知り合いがいたなんてな。ここら辺に住んでるのか?」
「いえ、ちょっとお休みが取れたので……気分転換にこの辺りに旅行に来たのが、和正さんと出会ったきっかけでした」
「そうかい。まあ良かったよ」
「……何が、ですか?」
「じーさん、こんなド田舎で一人だったから。自分のために涙を流してくれるような人がいたなら、最悪寂しさに苦しみはしなかっただろうと思ってな……ありがとう」
頭を下げる。それを見た女性は慌てたように手をパタパタと振った。
「いえいえ!そんな、私なんかが…」
「それでもだ。じーさんはすごい人だったが、嫌われたらとことん嫌われる人だった。だから、ありがとう」
俺は大学やバイトを理由に、全然会ってなかった。その間、じーさんを支えてくれたのは間違いなくこの人だ。自分の馬鹿さ加減を思い知ると同時に、本当に、感謝しかない。
「…顔をあげてください、道彦さん」
「っ!?な、なんで俺の名を…」
「正和さんからよく伺っていました。自分にはこんな孫がいるんだ、都会に出て頑張ってる偉いやつなんだって」
むず痒さがあるが、それ以前にとんでもない衝撃が俺の中を駆け巡った。ほとんど孝行も何もできなかった俺を、蓑をかぶって顔すら合わせられなかった俺をそんな風に思っていただなんて……。
「こうやってお話して、これだけ正和さんのことを思っていることを感じられて……ああ、この人がって、思ったんです」
「……恥ずかしいやら嬉しいやら」
どう返せば分からず頭を搔くと、女性はクスリと笑って手を差し出してきた。
「私の名前は結月ゆかりです。これも何かの縁、これからよろしくお願いしますね」
「…ああ、よろしく」
俺も手を出して、握手。久しぶりに感じた人の温もり。それはポッカリと空いていた穴を、少しだけ癒してくれたような…そんな気がした。
ゆかりさん達側の話いる?
-
その時その時の心情回
-
たまに主人公などに対しての心情回
-
このまま主人公視点のまま