※注意※
この話には以下の要素が含まれます。
・一つまみのシリアス
・クリーチャー出現
・ほのぼの初心者
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用事があるらしく、結月さんはこの家を去った。まあこの後することを考えたらいなくなってくれた方がこちらとしても都合がいい。
日が沈み始めたために急いで簡単な軽食を作り、縁側に置いた台に並べる。そして酒蔵から吟醸酒を一本取り出して並々と二つの器に注いだ。
準備が終わる頃には月がなかなかに高く昇っており、辺りは真っ暗闇に包まれる。
田舎、それも山ん中の夜はとにかく暗い。街明かりなんざ全く無く、都会のように街灯がそこらに立っているわけでもない。
肝心の家の照明もLEDなんて上等なもんじゃない。電熱費もバカにならないからさっさと変えておきたいところだ。
そんなわけで、頼れるのはもっぱら月明かりのみ。まあ木々で遮られたりしてあまり届かないものではあるんだが、無いよりはマシだ。
「………乾杯」
器をカチンと鳴らし、一息に呷る。ついでに冷蔵庫にあったいなごの佃煮をひとつまみ口に放り込んだ。
「遠慮せず……いや、遠慮なんざしないか。好きに食って好きに飲んでくれ」
暗い縁側に俺の声が響く。答える者はいない。
「昔に約束したもんな、俺が大人になったらお酌して……一緒に酒飲もうって」
台に置いてある器を見る。酒は一ミリも減っていない。
「だからまあ、なんだ。今更だろうけど一緒に飲んでくれ。いや、飲んでくれなくてもいい。一緒に月見を楽しんでくれよ」
都会に比べ、ここは空気が美味い。澄んだ空気は余計な妨害を受けず、満天の星空とおっきなお月様の姿を俺に届けてくれる。
じーさんは酒が好きだったが、特に月見酒を好んでいた。この世で一番の幸福だと、じーさんはよく言っていた。
『月を見ながら、飲み、食い、語る。最高じゃねえか。これ以上の娯楽なんてあるかい?』
デカい月、ここならその模様に至るまでくっきりと見ることができる。風になびく緑と虫の音、それぐらいしか気にならない静けさ。それは視覚と味覚をより集中させ、何やら壮大で静かな感動をもたらしてくる。
「……なんて、しんみりし過ぎか。こんな感じじゃ、ケツ蹴られて喝を入れられそうだ」
じーさんはうじうじとした奴が嫌いだった。前に進むためなら世間の常識も何もかも知ったこっちゃねえと、失敗すら恐れず突き進む人だった。
『失敗はいい。立ち止まってもいい。だが、甘えることは許さん。妥協もするな』
たぶん、俺はじーさんの影響を強く受けた。そりゃ育ちはじーさんしか知らないから、それが友人とすれ違いを起こしたりしたこともあったが。
「俺の大部分はじーさんで構成されてたんじゃなかろうか」
ため息をつきながらもう一杯、もう一杯と酒を流し込んでいく。20歳を過ぎた所で酒を飲めるようにと手を出したのだが、どうやら俺は結構イケる口らしい。じーさんみたいにとはいかないが、酔いつぶれることは滅多になさそうだ。
そうやって物思いに耽っていた、そんな時だ。
「みゅ〜」
「……あ?」
何やら声のようなものが聞こえた。少し周りを見渡してみるが、特に何もない。
「…気のせいか?」
「みゅあ〜」
「……気のせいじゃないみたいだな」
こんなのは聞いた試しがないが、ここは山だ。何かしらの動物がいてもおかしくはない。
「みゅみゅっ、みゅ〜!」
それにしても随分と可愛らしい声だな。猫でもいるんだろうか。
「……探してみるか」
猫ならぜひ一目見てみたい。野良だろうか。毛並みはどうなんだろう。ちょっと期待が溢れてきた。
何分、俺は可愛い動物に目がない。特にふわふわもふもふしたもの。男なのにおかしいかもしれないが、そんな声は全く気にしない。誰がなんと言おうと、可愛いは正義なのである。
「みゅ〜い!」
「……外か。すまんじーさん、少し一人でやっててくれ」
生垣の向こうから声がする。門を開けて生垣に沿って歩いてみる。やがて声がする所に着いてみると、どうやら生垣前の堀の中から聞こえるらしい。
「なんだ、なんかいるの…か……」
「みゅっ?みゅみゅー!」
堀の中、そこにいたのはこれまた変な生き物だった。全身が紫色の毛に覆われたまん丸、そこに可愛らしい耳が付いている。輪っかのアクセサリーが付いているのは前足か?
ソレは俺がいることに気づくと、前足のようなものをパタパタと振ってみゅーみゅー鳴き始めた。威嚇……というにはあまりに可愛らしく、表情には険しさよりも必死さがある。可愛い。
「…落っこちたのか?」
「みゅみゅい!」
言葉がわかるのか、コクコクと頷く毛玉。手を堀の中に入れてやると、ソレは前足を俺の手にしがみつくように巻き付けくっ付いた。
「可愛い…」
「みゅ?」
「ああすまん。なんでもない」
堀から引き上げ、両手の上に移してやる。随分と表情豊かなソレは笑顔でみゅいみゅいと鳴いている。
それにしても毛並みがいいな。乗せてるだけでもふわふわしてるのがわかる。そこまで乱れがないのを見ると飼われているんだろうか。
いや、それ以前にコイツはなんなんだろうか。こんな生物は見たことがない。''ゆっくり''の一種と言われても違和感はないな。
「みゅ〜?」
「…なんだっていいか」
おのれ、その一言だけで全て流してくる。
「お前は、飼われてるのか?」
「みゅ〜」
こちらをじっと見つめる毛玉。いや、どっちなんだよ。言葉わかるんじゃないのか。
「……近くに飼い主はいるのか?」
「みゅ〜?」
この反応、言葉はわからないのか。さっきのはただの勘違いってやつなのかな。
「とりあえず入るか?あんな所にいたんだし、泥を落として…そうだな、何か食い物でもやるか」
「みゅっ!みゅみゅ〜!」
「やっぱお前言葉わかんだろ」
『食い物』に反応した毛玉に苦笑いしつつ、家の中に戻る。桶にお湯を入れて持ってきてやると、毛玉は泥が気持ち悪かったのか桶の中にダイブしやがった。
「は、おいちょっと!?」
「みゅみゅ〜!」
飛び込んだせいでお湯が縁側を濡らす。そんな事は知らんとでも言わんばかりに毛玉はパチャパチャと桶の中を転がり泥を落とそうとする。
「こら、暴れるな。いま洗ってやるから」
「みゅっ!」
毛玉を捕まえて言葉を投げかけると、パタリと暴れるのをやめた。聞き分けのいいやつ。
お湯を手で掬い、毛玉にかけながら毛をほぐすように洗っていく。くすぐったいのか、時折鳴き声をあげながら身体を震わせる。可愛い。
「みゅあ〜」
「ははは、オヤジかお前」
「みゅっ!?みゅあ〜!」
気持ちいいのか、風呂に入ったおっさんのようなだらけた声を出す毛玉。軽くツッコミを入れると、『オヤジ』が不服だったのかペチペチと腕を叩いてくる。
「やめれやめれ、お湯が飛び散る」
「みゅっみゅっ!」
「ははは、すまんすまん。後で美味いもの食わせてやるから許してくれよ」
「……みゅっ!」
大人しくなった毛玉を洗い終わり、タオルで包み込んでやる。モコモコのタオルにくるまった毛玉……いい。
一通り拭いてやったが、毛に含まれる水分をタオルで拭ききることは難しい。未だ湿った毛を乾かすためか、毛玉は台上に乗っかって風に当たり始めた。
「何を食うんだろうか。ダメなものとか…」
「みゅみゅっ!」
「ん?どうした」
毛玉がこちらに背を向け、器用に身体を丸めた。そう、それはまるでよく熟した芋のような……。
「…芋?」
「みゅっ!」
「芋が食いたいのか。あるとしたらじゃがいも、長芋、紫芋……」
「みゅっみゅっ!」
『紫芋』が俺の口から出た所に毛玉が反応した。紫芋が食いたいのか、ホントに不思議な生き物だ。
「……というかさっきから言葉わかってるよな?」
「……みゅ〜」
「よし、すぐ持ってくる。待ってろ」
「みゅっ…」
モフッモフッと身体を俺に押し付けてくる毛玉。それだけで俺は立ち上がる気力が湧き上がった。毛玉の『チョロッ』とでも言いたげな鳴き声は聞こえない。
台所へと足を進める。その後を毛玉が跳ねながらついてくる。静かに月見をするはずが、どうしてこうなったのか。
だがまあ、騒がしくとも楽しいに越したことはないだろう。それぐらい、じーさんも許してくれるだろうさ。
ゆかりさん達側の話いる?
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その時その時の心情回
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たまに主人公などに対しての心情回
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このまま主人公視点のまま