※注意※
この話には以下の要素が含まれます。
・ご都合主義
・シリアスあり
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大学から少々歩いた先にある少し小洒落た喫茶店。ここいらでバイトを雇ってくれそうな店はここぐらいしかなく、逆に駅に面した店は多忙になること必須。
程々の客量でなければこちらの身体がダウンする。厳しい生活を送らないといけないというのに、残りの体力をバイトに食い潰されることはあってはならない。
そんな理由で駅から離れたこの喫茶店を選んだのではあるが、実は別の理由もある。
この喫茶店の名が『マキ』なのである。
脳裏に浮かぶ黄色い毛玉の姿。ぎゅんぎゅんと鳴く可愛らしいけだマキを思い出す。
せっかくやるのであれば、関係ないにしても何かしらの杭が必要だ。今回はそれがけだマキを思い出すからという何気ない理由だったわけである。久しぶりに撫でたくなってきた。
店に入れば、喫茶店特有のいい匂いがする。ドリンクや料理の微かな匂いが小腹を刺激し、しかし空調の効いた店内はサッパリとした過ごしやすさを与えてくれる。
思った通り、駅から離れているからか客は少ない。全くいないという訳では無いし、こう思うのは失礼だが、客が少なくてよかった。
そうやって入口に立っている俺に気づいたのか、奥から男性が一人こちらへやってくる。
「いらっしゃいませ。おひとり様でしょうか」
「いえ、外の張り紙を見て来ました。ここでバイトをしたいのですが店長はいらっしゃいますか?」
「ああ、バイト希望か。私が店長の弦巻です。履歴書は持ってますか?」
「少し待ってくださいね……どうぞ」
カバンの中から予め書いてきた履歴書を取り出し渡す。店長はザッと目を通した後、俺を奥の部屋へと案内してくれた。もしやこのまま面接を始めるのだろうか。まだ客はいたはずだが大丈夫なのか?
「では面接を始めようか。といっても、少しだけ質問するぐらいだから固くならなくて大丈夫だよ」
「わかりました」
「では一つ目の質問だけど、なぜこの店を?」
「ええと、接客による……」
「ああ、いいよそういうのは。普通に選んだ理由を教えてくれないかな」
「え、はい……その、近くの大学に在籍しているんですが、やはり大学に近いのと、仕事も落ち着いていそうだったからです」
「なるほど」
頷きながら、店長は用意した茶で一息つく。少しばかり時間を置いて、店長は再び口を開いた。
「次の質問だけど、どれぐらいバイトに入れる?」
「火曜の講義が少ないので、火土日の張り紙通り3時間いけます」
「ん、わかった。じゃあ最後の質問」
店長は少しばかり間を置いた後、声を低くし重々しく言葉を放った。
「ウチの娘のことは知っているかい?」
「え、店長の娘さんですか?ええと、知りません。まず『弦巻』という苗字すら今日初めて見たので……」
「……嘘はついていないようだね。ごめんね、娘目当てに来る人も多いからつい」
「そ、そうなんですか。それはあの……ご愁傷さまです」
「……よし、問題はなさそうだし、採用します。これからよろしくね」
「あ、はい!よろしくお願いします!」
『採用』の言葉を聞いて、肩の荷がフッと下りた。これで断られたりしたらどうしようかと思った……。
「それじゃあまずは仕事の説明をしなきゃね。もう少しで店を閉めるから、それまで待っていてもらえるかい?」
「はい。その間はここに居ればいいんでしょうか」
「そうだね。それじゃあ一時間ほど待っていてくれ」
店長は菓子類を出してくれると、部屋を出ていった。それを見届けた俺は、溢れる思いをガッツポーズへと変えた。
火曜には二限までしか講義を入れていない。火曜以外を指定されたらかなり厳しかったが受け入れてくれてよかった。
それにしても、店長の娘さん目当てに来る人がいるって言ってたな。娘さんもここで働いているんだろうか。なら挨拶しないとだが……。
思えばこの部屋に至るまで人の気配は無かった。出かけているのだろうか?後で店長に聞いてみるか。
出された菓子をポリポリとつまみつつ、店長が戻ってくるのを待つのだった。
約一時間が経ち、店長が戻ってきた。
「やあ、少し遅れてしまった。すまないね」
「いえ、お気になさらず」
「ん、それじゃあ簡単な説明だけ先にしとくよ。まず厨房は私に任せてくれていいから、君にはホールを頼みたい」
「他のバイトの方とかはいるんですか?」
「元々は娘と一緒にやっていてね。今は友人と旅行に行っているから手が足りなくなったんだ。それから張り紙を出したんだけど、バイトを希望しに来たのは君が初めてなんだ」
「なるほど」
娘さんが旅行でいないと、厨房と接客を一人ですることになる。それで手が回らないからバイトを雇うのは当然か。
「それじゃあ仕事を説明していくよ」
「はい、よろしくお願いします」
メモを取りだし、聞く姿勢をとる。レジ打ちや注文の入れ方、細かい部分まで丁寧に教えられる。俺は必死に覚えながらも、仕事を持てた実感を遅めに感じることができていた。
一通りの説明をしてもらった後、親交のために談笑をしていた。楽しい時間だったが外も暗くなってきた。そろそろ帰らないと復習も何もできないな。
「では、そろそろおいとまさせていただきます」
「おや、もうこんな時間か。そうだ中尾くん、夕食を食べていかないか?聞けば君の家はここからかなり遠いそうじゃないか。そちらに着く頃にはもう夜中だろう」
「……そうですけど、ご迷惑だったりしませんか?」
「大丈夫だよ。それに……実は娘がいなくて寂しくてね。久しぶりに話が合う人と会えたし、ちょっと付き合って欲しいんだ」
悲しげな顔をする店長。そんなのを見せられたら、こちらとしても断ることはできない。何より……じーさんにあまり会えないまま送ってしまった。それがより負い目を感じさせるんだ。
「……わかりました。ご相伴にあずかります」
「そんなに固くなくていいよ。さて、夕食を作ってくるから少し待っててね」
「俺も手伝います」
「へえ、料理もできるのかい?」
「カレーとか簡単なものならいけます」
「そうかそうか。なら頼もうかな」
厨房に並んで、軽く会話をしながらも協力して料理をする。フランクな店長はよく話を振ってくれる。その大部分は娘さんの話題ばかりだが、どれだけ娘さんを思っているのかは理解できた。
俺は女っ気も無く、結婚するかどうかもわからない。でももし、子供ができたら俺はどうなるんだろうか。
「こら中尾くん。手が止まっているよ」
「あ、すみません!」
「いいのいいの。でも次は気をつけるようにね」
「はい!」
料理の途中で考え事は怪我の元だ。遅れた分を店長は手馴れたようにさりげなくフォローしてくれた。
「ウチの娘も、何かしら考えながら料理をすることがあってね。こういうのは慣れているんだ」
「そうなんですか…」
「うん。だからちょっと……なんだろうね。『嬉しい』に近い変な感情が湧いてしまったよ」
そう言う店長の姿は、離れた娘との日常を思い返す寂しさを抱えた父親のものだった。そして、俺が終ぞ見ることが叶わなかった、羨ましいとも言えるものだった。
「父親……か」
「ん、そういえばご両親に連絡はしたかい?家からこの辺りまで来ているってことはまだ同居しているんだろう?」
「…………俺の両親は、まだ物心ついてない内に他界しました」
店長の手が止まった。顔は見ていないが、きっと驚きに染っているか、『やってしまった』と思っているかだろう。
こうなるのはわかっていた。だから言うつもりなんて無かったけれど……なんだか親として幸せそうな顔を見ていると、やるせなくて辛くなって……つい口から言葉が滑り落ちていた。
少しばかり無音の時間が続いたが、やがて店長は振り向くと、その固い胸板に……俺を抱きしめた。
「て、店長!?」
「……実はね。私も妻を亡くしているんだ」
「……え?」
「だから君の、大切な人を失う気持ちはよくわかる。それも両親となったら辛かっただろう」
「あ……ご、ごめんなさ…」
「謝らなくていいんだよ。君だって、ずっと辛かったんだろうから……良ければ、ここを君の家だと思ってくれていい。バイトでも、お客でもなんでもいいから。辛くなったらここに来なさい」
「は……い…すみません……」
「ははは、そこはありがとうと言って欲しかったなぁ」
しばらく涙は止まらなかった。店長は落ち着くまで胸を貸してくれて、俺はその間ずっと動けないままだった。
ごめんじーさん。やっぱり辛いわ。父さん母さんも居なくて、じーさんまで居なくなって。耐えられるわけ、なかったんだ。
結局、涙が収まったころには料理は冷え、また作り直すことになった。それでも幾分か気が楽になった俺は、店長との談笑に花を咲かせることができるようにはなっていた。
ゆかりさん達側の話いる?
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その時その時の心情回
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たまに主人公などに対しての心情回
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このまま主人公視点のまま