徒然あんこ   作:li

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オロちゃんの精神を解剖したい。あのひとマッドな癖に人間臭くてわからん。すき。




いち

 

「あんこと言うには甘さが足りず、せうゆと言うには塩気が足らぬ」

 

 お前は味気なさ過ぎるのよね、とその言葉は続く。往来で迷惑なものだなァとしみじみ思うも、腐っても師だ、立たせっぱなしは忍びない。

 仕方なく皿を寄せてスペースを作ると、彼は当然と言う顔でそこに座った。

 

「そりゃ、酸いも苦いも噛み分けて来た先生からすればね。私なんて味気ないでしょ」

 

「ホント可愛げってものがないわよね」

 

「すいません、お抹茶お願いします。あとみたらし追加で。10本」

 

「お前ね……」

 

 先生は深く溜息を吐いて、勝手に皿の団子を齧った。こういう時は大体奢ってもらえるので、遠慮も容赦も一切無用だ。先生は視線一つ寄越さずに、私も、と注文に相乗りしてくる。

 

「善哉。サイズは竹…いえ、松で」

 

 結構食べるな。

 

「うるさいわよ」

 

 思ったことが顔に出ていたのか、細い指先で小突かれた。顎を的確に狙った一撃だ。まったくもうこの人は、やることなすこと須く陰湿なのだから恐れ入る。

 団子を串に変える作業を続けていた先生は、悶絶する生徒の隣で、ズズッと善哉を吸い込んだ。それから勝手に人の抹茶を飲み干し、みたらしにまで手を伸ばす。

 

 軽いジャブはいつものやり取りだ。とはいえ今日の先生はやたらと疲れていて、ウンザリしているようにも見えた。

 

「稽古つけてくれるんですか」

 

「馬鹿も休み休み言いなさい。包帯が取れてからよ」

 

「取ります」

 

「馬鹿は黙ってなさい」

 

「………」

 

「アンタ変なところ素直よね。それ以上包帯剥がそうとしたら吊るすわよ。火影塔に」

 

 流石に晒し上げには遭いたくはないので、大人しく三角巾を付け直す。すると下手くそと詰られて、折角整えた体裁を剥ぎ取られてしまった。

 ヌッと腕が伸びてきて、反射的に体が強張る。男でもなく女でもない爬虫類めいた容貌が、間近で一つ瞬きした。

 

「……。」

 

 こわい。

 

 だいすき。

 

 相反する感情が一片に混ざって、そのまま空に掻き消える。たぶんどちらも、大切にしてはいけない感情だ。

 

 一瞬の逡巡のち、柔く目を瞑って脱力する。先生の纏う薬品の香りには、人を実験動物にでもなったと錯覚させる効果があった。……事実先生にとって、錯覚か否かに違いはないのだろうけど。

 それでも先生は完全に身を預けられるまで、私に触れようとはしない。先生は私を素直と言うが、彼の方がよほど律儀で、まっすぐなタチだと思う。

 

 頸で布が擦れる気配がして、それから腕が離れていく。腕はガッチリ固定されて動かない。血の味の滲む口端を歪めてから、いつものように素気なく言う。

 

「……お上手ですね」

 

「昔、綱手の手伝いでやらされたのよ。案外覚えてるものね。

 

 酷く柔らかい声音だった。

 

 この人の横顔は、彼の金剛の姫を語るときだけ優しくなる。『腐れ縁』のことを愚痴る一等歪んだ顰めっ面と同じくらい、私は先生のその顔が好きだ。

 最近めっきり見れなくなったのが、本当に口惜しい。

 

 

 

「ご馳走様です」

 

「はいはい。さっさと帰るのよ」

 

 お勘定後頭を下げれば、チャリ、と手のひらに何枚かの小銭が乗せられる。先生はしばし沈黙してから、ヌッと溶けるように人混みに消えていった。

 グリグリと中身を握ってから、拳をポケットの中に突っ込んだ。六文銭には僅かに足らぬ。それでも花なら二本は買える。

 

「……」

 

 先生の言う通り、このまま家に帰ることにした。花なら明日買いに行こう。

 

 

 

 

 

 大戦が終わった。火影が変わった。長きを治めた三代目火影・猿飛ヒルゼンは、失望と惜別とを同じ割合で受けてその座を降りた。

 さもありなん、と言った具合の世論だ。戦争は長かった。木ノ葉隠れは多くを賭け、多くを失い、そして何も得ることはなかった。その責任への追求は、当然里のトップへ向けられる。

 

 しかしそこから政争へ発展することや、新たな争いの火種が生まれることは、少なくとも表立ってはなかった。みな等しく疲れ切っていたからだ。

 

 新たに四代目として建つのは、綺羅星の如く現れた新時代の英雄。【黄色い閃光】波風ミナト。血継限界どころか名門とされる血も引かぬ、立身出世の現れのような男だった。

 

 この上ない旗頭だ。世代交代の象徴として、彼ほど相応しいものもいない。若すぎることだけがネックだが、彼の武勲は年功序列さえ黙らせられる。

 或いは『うずまき』の娘との婚姻を約束されていた時点で、その未来は約束されたものだったのか……いや、それは無いな。

 

 三代目は、猿飛ヒルゼンは、清廉潔白な男だった。いっそ真っ白すぎるほどに。

 

 

 ようやく右腕のギプスが剥がれたので、意味もなく指を遊ばせる。足を庇う松葉杖捌きも、中々慣れた様になっただろう。

 とはいえ先生の『ツテ』で早期の治療が望めそうなので、相棒との別れは案外早いかもしれない。

 

 使役する蛇たちにチチと舌を打ってから、温めて味付けした鶏肉を放り投げる。一斉に飛びつく幼蛇たち。

 とぐろを解き、悠々と近づいてきた大蛇には手ずから残りを差し出して、手の甲から爪先の骨張った部分でその腹を撫でた。

 

「このオレさまを唯の片づけなんざに使うとは、大蛇丸でもしなかったぜ」

 

「嘘。先生、よく片付けに呼んでるじゃない。人間とか」

 

「殺しもセットだ、馬鹿め」

 

「大体今日はアンタは呼んでないし」

 

「お前の持ってくる肉は美味い。人間の次にな」

 

 シュル、と足の間を縫って大蛇が顔を覗かせる。胴にまで巻き付いたそれに腕を回し、抗議の念を込めて軽く押した。

 更に縮まるとぐろの半径。忘れること勿れ、コレは強大な生きものだ。ニンゲンなんぞアッという間に締め殺せる

 

「オレさまを恐れたか?」

 

「別に」

 

「生意気なやつだ」

 

 息が詰まるほどに締められた体が、次の瞬間フッと楽になる。此度は小蛇だけを呼び出すつもりだったから、元よりチャクラはそう込めていなかったのだ。

 

 床に落ちた巻物を拾う。見れば鱗で太腿に切り傷が入っていたので、止血だけを軽くした。

 そこから立ちあがろうとするも、ハッと気づいて松葉杖を探す。

 病院からの貸与品は、無残なまでにバラバラになっていた。

 

「怒られるかなぁ……」

 

 仕方があるまい。何かあれば先生のせいにすれば良いのだ。よろめきながら立ち上がって、支えにできるものを探す。

 都合よく身の丈ほどの大太刀があったので、足に腰にと括り付けた。歩けばガシャンと音がする。こういう妖怪いそうだな。

 

 いつもは整然とした研究室は、見る影もないほどに荒れきっていた。とはいえ入室した時とは雲泥の差だ。何せ足の踏み場がある。

 もはや使用不可能な実験器具の類は、蛇たちに一掃してもらった。残りは直せば使えそうなものだけだ。ただでさえ物資が少ないのだから、ここら辺は倹約していかねばならない。

 

 散らばった書類を拾う。実験記録だ。その『モルモット』の名前に符号を感じ、げんなりしながらファイルに閉じる。

 あの人、変なところ雑なんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 月光ハヤテは同期の忍びだ。いつも死にそうな顔をしていて、というか殴れば多分死ぬ。曲がった背筋が腹立たしかったので、出会い頭に肩を殴った。奴は死にそうな顔をする。

 

「なんだよいきなり……」

 

「そこにいたから」

 

「そこにいたからか……」

 

 何故だか納得された。馬鹿じゃないの。

 

「こんにちは、アンコさん」

 

「こんにちは夕顔。今日も美少女ね」

 

 隣の美少女に薄く微笑まれたので、ニッと笑って返事をする。毎度のこと初々しくポポっと頰を染めるのが可愛いので、この挨拶も正直やめ時を失っている。どうかそのままの君でいてほしい。

 

 どうやら今日はデェトらしい。見慣れぬ他所行き姿の夕顔を見た後、いつものくたびれたハヤテにイラッと来たのでもう一度殴る。流石に抗議された。うるせえ。

 

「今日西地区の橋は通行止めよ。遠出するなら東から回ることね」

 

 二言三言会話をしてから、ヒラと手を振って背を向ける。

 独り身出勤中の身の上からすれば腹立たしい気もするが、うら若きカップルからしか得られない栄養素もある。じじむさい火影塔に赴く前に、実に良い潤いを得られた。

 

 ……恋人。恋人ね。多分、作ろうと思えば作れないこともないだろう。幸いこの容姿は男受けが良い方だし、自立も兼ねて作ってみても良いかもしれない。

 とはいえ下手な男と付き合うと、先生に怒られそうな気もする。そも一番近くにいる異(?)性が先生なので、男女交際というものには碌に想像さえ付かないのだし。

 

 あの人は言動こそ変態的だったりするが、日常ではびっくりする程性の気配がないのだ。

 お色好きと名高いお師匠様や、言わずもがなのご親友(と言うと怒られるが)と並べると、いっそ病気を疑うレベルである。

 

 美しいものを好む嗜好と、性愛はまた違かろうし。先生とはそこそこ長い付き合いになるはずだが、思考回路はともかくパーソナリティに関しては、知れば知るほど謎が増える。

 そもそもあの人、恋愛対象はどこなんだ……?

 

「今度綱手様にでも聞いてみるかな……」

 

 そういえば、あそこの関係もよく分からない。少なくとも先生からの感情であれば、慈愛というのが一番近い気がする。関係性としては姉妹のような……

 ……いや、姉妹ってなに???頭がおかしくなりそうだ。

 

 

 

「やあ、いらっしゃい」

 

 一礼して顔を上げる。

 そういえば代替わりしたのだった。じじむさかった火影執務室には、輝く貌の美丈夫が腰掛けている。私に察知できないだけかもしれないが、周囲に暗部の気配はない。

 

 護衛につけられているのは、たった一人の青年だ。噂に聞きしはたけカカシ。天才少年と持て囃された数個年上の先輩が、死人のような顔で佇んでいる。

 ハヤテより死にそうな顔の人間とか存在したのか。そういえばこの人も、班員が軒並み死んでいるのだっけ。取り止めのないことがフツフツと浮かび、そして沈む。

 この人とはそう関わりもなかった。数ある同僚の一人だ。

 

「まだ傷病手当中なのに、わざわざ悪いね」

 

「いいえ、火影様のご用命とあらばいつにでも」

 

「そう畏まらなくて良いよ。ああでも、少し長くなるかもしれないな……カカシ、椅子を」

 

「はい」

 

「さて、早速本題なんだけど」

 

 驚くべきことに、このイケメンは気遣いも完璧らしい。三代目であればホケホケ言い包められて座らされている所を、「オレがイヤだから頼むよ」的な表情で爽やかに片付けている。

 

 遠慮する間も無く座らされ、間髪入れずに本題提起。流れに隙がなさすぎる。流石に少し警戒するも、あまりに裏のなさそうな顔にたじろいだ。

 天性の女殺しか、或いは全て打算なのか。前者であれば、世の男性に救いがなさすぎやしないだろうか。

 

 こちらが覚悟を決めたことを感じ取ったらしい。四代目火影・波風ミナトは両掌を組み直すと、これまた魅力的に微笑んだ。

 

「キミに暗部入りを打診したい」

 

「……なるほど」

 

 カリスマで殴り付けてくるタイプね。これは先生が嫌いそうだ。

 

 

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