Tailor MARINE ~そのスーツ、お仕立てします~   作:seven4

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想像の50倍くらい伸びてて逆に引いてます……。スーツ知識はそこらの一般ピーポーに毛が生えた程度なので、有識者の方は教えて頂けると幸いです。


1着目:バスティーユ中将

マリンフォード 海軍本部内 Tailor MARINE

 

ハーレイ・ロブの仕事に於けるルーティンは一杯の紅茶と録音機能付きの電電虫から流れる落ち着いたジャズの音色から始まる。北の海(ノースブルー)から取り寄せた紅茶は華やかでありながら芯のある旨味を有しており、ビスポークを生業とする者にとってはスイッチを切り替える良いスイッチだ。

 

紅茶を飲み終えた次は、仕立てのために寝かせておいた生地の状態確認作業。ハーレイは裏手に回ると、そこに安置している生地の手触り、ハリ具合、光沢の出方などを点検して問題ない事を確認して満足げに頷いた。

 

そして最後のルーティン。受付カウンターに置かれた本革張りの手帳を開き、今日の予約はあるかの最終確認を行う。ちなみに今日の予約はなし。

 

緊急出動が日常茶飯事である海軍の特性上こういう日は珍しくない。むしろ予約が有る方が稀なのだ。何故なら予定が組み立てづらい勤務体系である他に――

 

「ハーレイさん、おるだらぁ?」

 

「おぉ、バスティーユ中将。お久し振りです。本日はどうされましたか?」

 

このバスティーユ中将のように飛び込みの客が殆どを占めるからだ。

 

「いや、海賊のアホンダラと殺り合ったら勢い余ってスーツの尻と肩が裂けちまってのぉ。悪いが(いち)から仕立てて貰いたいんだらぁ」

 

「いやはや何とも豪毅な。お怪我はありませんでしたか?」

 

「あんな若造海賊にまだ遅れはとらんわ。それよりこんな良いスーツを駄目にしちまってすまんだらぁ」

 

バスティーユ中将は()()()()()()()()バツが悪そうにポリポリと頭を掻いた。バスティーユ中将の容姿を一言で端的に表すなら『たてがみの付いたドクロを被ってる人』という言葉に尽きる。加えて無駄なく引き締まった長身と【鮫切り包丁】と呼ばれる大振りの刀を携えている姿から【鮫切りバスティーユ】の異名で海賊達から恐れられているのだ。……余談だがバスティーユ中将は地元支部に住む少女達からもその容姿を恐れられており、近付いた途端に泣き叫ばれることから【子泣かせバスティーユ】の異名もあったりする。なお、少年達からの評判はなぜか良いらしい。

 

「いいんですよ。形ある物はいつか必ず壊れますから。それでは以前作った専用ゲージをお持ちしますので試着室(フィッティングルーム)で少々お待ちを」

 

しかしハーレイはそんな素振りを一切見せること無く紳士的に立ち振る舞ってバスティーユ中将を試着室(フィッティングルーム)に案内すると、すぐさま裏手に保管してあったバスティーユ中将の専用ゲージを持ってきて彼に試着を促した。

 

「――どうです?」

 

「相変わらず良い着心地だらぁ。このまま同じように作ってくれたらそれでいいと思える」

 

「嬉しい言葉ですが、肩周りと二の腕周りのシワが気になりますね。すいませんが今回のオーダーは(いち)から採寸し直します」

 

「ん? このちょっとした薄いヤツか。こんなんはどうでも……」

 

「その少しのシワが戦場では命取りになるかも知れませんので。よろしいですね?」

 

「お、おう」

 

急なハーレイの真剣な眼差しに気圧される形となったバスティーユ中将は為されるがままに採寸されていった。ハーレイは袋はぎ、太股、腰回り、ウエスト、胸囲と流れるようにバスティーユ中将を採寸していき、問題の肩周りの採寸を始めた瞬間に彼の目の色が変わる。

 

「やはり肩周りが前回よりも2cm大きくなっていますか。二の腕周りは1cmも太く……鍛錬の強度を上げた証拠ですね」

 

「――まさかそこまで見抜かれるとは思わんだらぁ。最近は調子に乗った海賊共がウヨウヨしていてのぅ。モノによっちゃあコッチが喰われかねん」

 

「伊達に大海賊時代と銘打っていませんからね。あとは首回りを失礼して………はい、お待たせしました。これで採寸一式は終わったので次は仕立てのイメージと生地と裏地、あとは細かい趣味の部分ですね。それではこちらのテーブルで楽しく決めて行きましょう」

 

 

☆☆☆

 

 

「それで、仕立てのイメージは如何(いかが)します?」

 

「とりあえずシングルブレストのサイドベンツは絶対だらぁ。それと動き易さと丈夫さを両立した生地も外せんのぅ。あとは……出来れば前と同じ色がいい」

 

「それでしたら――この東の海(イーストブルー)にある【ハリツリ社】のツイードはどうでしょう。10年20年と長く着るための重い生地ですからちょっとやそっとじゃ破れませんし、私の仕立てなら動き易さも保証しますよ」

 

「おお~~………でもちょっとゴワゴワ過ぎだらぁ。出来ればもっと、こう、鮫肌みたいにザラザラして軽い生地がえぇ」

 

「なら―――これなんていかがです? ドラム王国の【ダブルハウス社】から出てる梳毛綾織(そもうあやおり)の生地なんですが、若いラパーンの毛で出来ているんです。耐久性はもちろん、通気性と触り心地にも定評がある一品ですよ」

 

「おっ! これだらぁ! これで仕立ててくれや!」

 

「えぇもちろんです。では次に、ボタンの数はどうしますか? 私としては三つボタンの段返りをオススメしてるんですが」

 

「う~~ん、掛けんボタンを増やすのは趣味じゃのぉての。前と同じ二つボタンにしてくれ」

 

「ではそのように。ボタンの素材は前回同様に水牛ボタンで?」

 

「もちろんだらぁ。アレが一番ええからの」

 

「そう言って頂けて光栄です。次は裏地ですが、これはもう好みですね。お好きに選んで頂いて構いません」

 

「なら―――このボルドーにしてくれや」

 

「分かりました。最後にですが、いつも通り袖口は本切羽でよろしいですね?」

 

「おう。腕を(まく)る時に便利だしのぉ。他のチェンジポケットやらサイドなんちゃらは要らんだらぁ」

 

「正確にはサイドアジャスターですよ………はい、それでは以上になります。仕立て上がり次第ご連絡を差し上げますので」

 

「何から何まですまんのぉ、ハーレイさん」

 

「いえいえ。これが私の仕事ですので」

 

 

☆☆☆

 

 

上機嫌なバスティーユ中将を外まで見送ったハーレイが店に戻ると、一人の青年がバスティーユ中将の選んだ生地を両手で触りながらジト目で彼を見つめていた。

 

「またこんな良い生地使って。バスティーユ中将は武闘派なんだから、どんな丈夫な生地でもすぐ壊すのオチです」

 

「リジー。だとしても私は彼等に良いスーツを着て貰いたいんだ。だからあまり突っかからないでくれ」

 

「ハーレイさんがそれならいいですけど。一応ここの裁縫責任者(マスターテーラー)が俺なの、忘れないでくださいね」

 

「分かってるさ。いつも感謝してるよ」

 

リジーと呼ばれたパーマがかった栗毛が特徴的な青年は、光沢と渋みが両立したキャメルのスリーピースをハーレイに負けず劣らずの着熟しており、利発そうな子であると一目で分かる顔立ちをしている。

 

「ふ~~ん……ならいいです。じゃ休憩も兼ねてお茶にしますか。今日は奮発して、ほら。【美食の街プッチ】のカヌレを取り寄せたんです」

 

「ほぉ~それは美味しそうだ」

 

「美味しそうじゃないんです、美味しいんです! ほら、早く早く。お茶の準備して下さいよ」

 

「年寄りをそう急かすな。お前と違って若くはないんだ」

 

 

 

 

Tailor MARINE

本日はちょっと早めのお昼休憩です




これを機にスーツの良さに気付いて頂ける人が増えればなぁ、と思ったりしてます。
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