Tailor MARINE ~そのスーツ、お仕立てします~   作:seven4

3 / 3
実はオーダースーツよりもオーダーシャツの方がビックリ度が高かったりします。身体に合うシャツって凄いよ?いやマジで。


2着目:モモンガ中将

マリンフォード 海軍本部内 Tailor MARINE

 

Tailor MARINE店内の雰囲気はクラシックで気品溢れ、それでいてどんな人物に対しても分け隔て無く門扉を開けているような(ほが)らかさを常に醸し出しており海軍本部内では珍しい、時間がゆったりと流れている場所である。

 

しかし、そんなTailor MARINEの朗らかな雰囲気はミーティングテーブルに腰掛けているモモンガ中将の発する威圧感により消し飛んでいた。

 

「………」

 

「………」

 

「……………」

 

「………………あの」

 

「ん?」

 

「紅茶でもお持ちしましょうか?」

 

「あぁ、よろしく頼みます」

 

恐る恐る尋ねたハーレイの言葉に顔を上げてにこやかに応じたモモンガ中将だったが、再び顔を下げた瞬間には途轍もなく真剣な、まるでバスターコールに赴くかのような鉄の表情で目の前に置かれた2反の生地を睨みつけた。

 

事の発端は二時間前。

 

新しいスーツが欲しくなったとTailor MARINEに来店したモモンガ中将にハーレイは「涼しげで晩餐会に向く上品な生地にして欲しい」との要望に応えて(くだん)の2反を用意したことから始まる。

 

一つは南の海(サウスブルー)に位置する【エメラルド・ジュニア】社のトロピコシリーズ。南国らしく通気性に富みながら、最高品質の非常に細い梳毛だけを使用することで大人の色気を引き出す艶やかな光沢を出すことに成功した逸品。

 

もう一つは偉大なる航路(グランドライン)のアラバスタ王国に本店を構える【メドール】社のコントラデウス。こちらは砂漠に囲まれたアラバスタ王国において〝砂も日も通さず風だけを通す〟の謳い文句で大人気の生地であり、日光に反射する強い光沢は〝砂漠に咲く一輪の薔薇〟とも形容される絶品。

 

どちらも戦闘には向かないが会合やパーティーといった『内側の戦闘』にはめっぽう強いと評判の2反であり、中将クラスの中でも一際存在感のあるモモンガ中将からすれば決して妥協出来ないのだ。だからこそこの2反のどちらにするべきか迷っている訳だが………

 

「もう一時間半は悩んでますけど大丈夫ですか?」ヒソヒソ

 

「リジー、モモンガ中将は真剣に選んでいるのだからそんなことを言ってはいけないよ」ヒソヒソ

 

「じゃあせめて、あのオーラだけはどうにかして下さいよ。スーツを受け取りに来たバスティーユ中将が店の扉を開けた瞬間、スッとそのまま閉めたんですから」ヒソヒソ

 

モモンガ中将は髷のような髪型と口髭がトレードマークの実直な将校として知られている。その実力は海軍本部中将の中でも特に際立っていると言われており、次期大将候補の呼び声もある非常に有能な人物だ。そんな人物だからこそ何事にも真剣に取り組むのだろう。たとえそれがスーツの生地選びだとしても。

 

そして遂に、その時が訪れる。

 

「………うむ。決めた」

 

「おぉ、そうですか! それでどちらに――」

 

「両方とも」

 

「え?」

 

「長時間見比べて分かりました。この生地選びに甲乙をつけるのは邪道です。ならば両方とも仕立てるのが最良の選択でしょう」

 

ハーレイの顔を見上げたモモンガ中将の顔は実に晴れやかで、全てに納得した表情を浮かべている。そしてこの表情こそハーレイが見たかった表情なのだ。彼は柔らかな顔でモモンガ中将に微笑み返す。

 

「良い選択をされましたな。それでは細かいディテールを詰めていきましょう」

 

 

☆☆☆

 

 

「両方ともダブルブレストのノータック、裾はシングルで頼みます」

 

「フォーマルでしたらそれで問題ないですが、普段使いはされない予定で?」

 

「こんな良いスーツを普段使いしてはバチが当たります。それに耐久性の面からしても流石に……」

 

「それもそうですね、失礼しました。ボタンは4つボタンと6つボタンがありますが如何します?」

 

「それなら6つボタンでお願いします」

 

「承知しました。……今回はフォーマルということなのでポケットフラップは無しでよろしいですね?」

 

「えぇ――あっトラウザーズのポケットにはスラントを入れて下さい。その方が何かと使いやすいので」

 

「分かりました。袖ボタンはどうしましょう?フォーマルなので並べボタンをオススメしますが……」

 

「重ねボタンでは駄目なのですか?」

 

「駄目という訳ではありませんが、ややカジュアルな印象になるのでフォーマルの場には合いにくいかも知れません」

 

「でしたら並べボタンでお願いします。それと、ジャケットの内ポケットは丸台場仕立てで」

 

「もちろんです。ジャケットの裏地は総裏でよろしいですか?」

 

「えぇ、それで。ついでにトラウザーズも総裏でお願いします」

 

「履き心地を重視されるなら総裏が一番ですからね。あとはボタンの種類と裏地の色ですが……」

 

「ボタンはいつも通り水牛で。裏地は――フォーマルスーツなので白で頼みます」

 

「はい、分かりました。………オーダーはこれで以上になります。スーツが出来次第、ご連絡を差し上げますので」

 

「えぇ、楽しみにしてます」

 

 

☆☆☆

 

 

Tailor MARINEを後にするモモンガ中将の後ろ姿は実に悠々としたものだった。上に立つ者としてあれほどのオーラを放てるのは才能と言って差し支えないだろう。それこそ、彼を見送るハーレイとリジーも思わず感嘆の息を漏らしてしまうほどに。

 

「やっぱりモモンガ中将ってカッコいいなぁ。髪型はアレだけど、やっぱり生き様って言うかさ」

 

「髪型についてはノーコメントだが確かにモモンガ中将は素晴らしい人だ。彼が次期大将候補に挙がるのも頷けるよ」

 

「でも実際なところ無理そうじゃないです? おつるさんとガープ中将は抜きにしても、実力で言ったらトキカケ中将とギオン中将が居るし、同期のドーベルマン中将やストロベリー中将だって……」

 

「――ふふっ、まだまだ甘いねリジー」

 

「? 何がです?」

 

「人の上に立つ人間には確かに実力も必要だ。だけどね、それ以上に大事なこともあるんだよ」

 

「え、それって何ですか?」

 

「それは教えられないよ。自分で見つけなさいな」

 

「あ~~そうやってまた肝心な所をはぐらかして~!」

 

「怒らない怒らない。さっ休憩にしよう、今日のオヤツは海軍食堂のバターサンドだよ」

 

 

Tailor MARINE

リジーが大人になるのはもう少し先のようです。




ダブルブレストのスーツは憧れますよね。いつ着るんだって言われたら何も言えないですけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。