式神ニマと申します。
『仮面ライダーミスリックサーガ』をご覧いただいてありがとう御座います。
あらすじにも書きました通り、異世界転生した少年が仮面ライダーを名乗って戦う、とそういうお話です。
…ですが、ライダー登場までかなり話数がかかるため、先ずはシンプルに本作のオリジナルライダーが活躍する話を書きました。世界観や設定を分かり易くまとめた(つもり)ですので、先ずは作品世界を大雑把に理解する為にどーぞ。
◇◇◇◇◇
夜の帳が降り、世界は急速に色を失っていく。それと対比するかの様に『怪物』達のつんざく様な声が急速に広がっていった。
突如村が『怪物』達の襲撃を受け、外れにある家屋に村民全員が拘束されてから、そろそろ3日が経過するのだろうか。鳴り響く嬌声を聞きながら、誰もが終わりの時が来たのだという事を悟った。
「デロ」
低く、呻る様な声が響き、村民達がビクッと顔を上げる。「出ろ」と人の言葉で命令されたのだろうが、入り口に立つその姿は明らかに人のものではない。巨大なサル、とでも形容できる姿だ。体のサイズは人間の2倍近く、肩口から生える腕は膝まで達する程に長く、そして太い。顔以外の前身は長い灰色の剛毛で覆われており、その下には複雑に隆起した筋骨が備わっている事が分かる。
村を突如占拠した『怪物』———『イェーティーデブリス』の姿だった。
「デロ」
イェーティーが再度命じた。言葉は人真似の様でたどたどしいが、有無を感じさせない強さがある。どの道目の前の威容を相手に抵抗しても無駄である事は一目瞭然だ。村民達はどこか弛緩した様な表情で立ち上がった。
引っ立てる様に外に連れ出され、かつての村の広場にまで歩を進めていく。そこには多くのイェーティー達が待ち構えていた。中にはその手に松明や荒い石斧や槍を持つ者すらいる。村人達は広場の中央に据え付けられた柱に拘束されると、怪物達の嬌声が一段と大きくなる。囃す様な、嘲る様な声色だ。奴らの感情は人である村民達には理解できない。だが、これから何が起こるのかだけは誰もが朧気に知っていた。
イェーティーは主に山岳地帯を根城にする怪物———『デブリス』だ。基本的に群れで行動し、且つその内部において階級や独特の風習を持つ等、人間に極めて近い習性を持つ事で知られている。空に朱く輝く衛星ルネアが、何日か置きの周期で元の形を取り戻す時。イェーティー共にとってそれは生贄を捧げる儀式を開く日であると決まっているようだ。
群れの中でもとりわけ大柄な個体——恐らく群れのボスだろう——が意味不明な声をあげ始めると、それに呼応するかの様に他のイェーティー達も一斉に咆哮を上げていく。村民達を取り囲む様にしていた怪物達の輪が縮まり、ジリジリと距離を詰め始めていく。
「い、嫌だ…!助けて…!助けてくれ‼」
「お願い!この子だけでも…!」
「お母さん、助けて!お母さん…!」
遂に堪え切れなくなった村民達から懇願が上がり始めるが、それで止まる様な者達ではない。嘲るかの様な鯨波が更に高まり、人々の声をかき消していく。
村の衛士長であるケイトでさえも、迫りくる恐怖に身を竦ませるしかない。村民達を守り切れなかった己の不甲斐なさに苛まれながら、襲撃直後に村から逃がした2人の我が子の事を思った。怪物達が跋扈する絶望的な世界であったとしても、どうか一瞬でも長く生き抜いて———!
転瞬。
村人達に殺到していたイェーティー達の一角が巨大な破裂音と共に吹き飛ばされた。
突然の事態にイェーティー達も困惑した様な声を上げ始める。だが更に直後、馬の嘶きのような咆哮音、そして草木を強引に踏み付ける様な破壊音と共に『何か』がイェーティー達の背後を突き破る様に飛び込んできた。
鋼で出来た馬の様な奇妙な乗り物だった。トロッコについている様な車輪が前方に2つ、後方に1つ備えているが、形状は荷車程シンプルな物ではない。いくつもの複雑なパーツが貼りあわされる様に構成されたその乗り物はとても人の手で創造されたものである様には思えなかった。
だが、それに跨る者がいる。それは確かに人の姿だった。
鉄の馬から降り立ったその姿はゴツイ見た目の乗り物に反して、細身で小柄な姿をしていた。顔立ちもまだ若干の幼さが残っている。まだ子どもと大人の間にある様な青年の姿。だが、イェーティー達を射竦める様に見つめるその瞳には歴戦の勇者の様な強さがあった。
「この人達を放してもらうぞ、デブリス」
思いの他高めの少年の声で、だが有無を言わさぬ様に青年は言い放った。
◇◇◇◇◇
イェーティー達に何か筒状の道具—衛士達が使用するクロスボウに似ている―を突き付けながら、青年は静かに後ろを振り向く。その瞳がケイトの着る衛士長の皮鎧を認めると、
「もしかしてあなたがケイトさん?」
と問うてきた。柔和な声色にケイトは警戒を忘れ、思わず頷いた。
「あなたの子どもから依頼を受けて助けに来ました。アレッサとダニカ、2人とも無事ですよ」
アレッサとダニカ。それはケイトの子ども達の名前だった。村から逃がしていた2人の子どもから助けを求められ、救援に駆け付けたという事なのか。体を急速に駆け抜けた安堵感が突き抜けていき、堪えていたものが押し出されてきた。
「あ…、ありがとう…!」
つっかえながらも、ケイトは目の前の青年にそれだけを伝えた。
「キサマ…ナニモノダ…」
突如イェーティーの中から問う声が聞こえた。群れのボス格と思しき個体が前に進み出てきた。身長は更に大きく、体の厚みも他とは桁違いだ。
だが、青年は怯む事なく口を開いた。
「聞こえなかったのか?こんな無意味な事からこの人達を返してもらう」
「ムイミ…ダト…⁉」
イェーティーのボスが低く、だが確かな怒りを込めて呻いた。
「コレハオレタチノ神聖ナ儀式…!ニンゲンドモ殺ス…食ウ…コノ地二キョウフ満チル…。我ラガ王…『ディアバル』…ヨミガエラセル…‼」
途切れ途切れにイェーティーが喋る。群れの中からも追従する様に声が響き渡る。手に握るエモノを大きく振り回しながら、今にも躍りかからんとする気迫がジリジリと伝わってくる。
「そんな事はさせない…」
だが、青年もまた怯まない。決意を込めて呟くと、腰の革袋から何か道具を取り出した。先程の乗り物同様に複雑な形状をした道具だった。何に使うのかは全く想像もつかない。だが青年がそれを腹部にあてがうと、シュルシュルとベルトが出現し、青年の腰に結び付いた。
〈ディライトドライバー!〉
そのベルトから何かを宣言するかの様な声が流れる。
青年は更に懐から2つの薬瓶の様なアイテムを取り出す。それはケイトにも直ぐ分かった。対デブリス用の武器として広く出回る霊薬———『ライドラッグ』だ。
2本のライドラッグをそれぞれベルトの左右に開いたスロットに装填する。
〈ライト!〉
〈シルバー!〉
〈ファンタスティック!栄光のレシピ!〉
ベルト―『ディライトドライバー』がそこまで宣言すると、突如ベルト中央の円形状パーツから2つの光が飛び出した。黄色と銀色の光は青年の頭上を周回し、光の渦を形成していく。やがて、その渦の中から2つの姿が飛び出してきた。
1つは全身銀色のヒト型。
もう1つは黄色の光で構成されたグローブやブーツの様なパーツだった。
それらは青年の前後にそれぞれ位置取り、青年の動きに呼応する様に動いていく。
「変身!」
やがて青年は、ここにいない何者かに宣言するかの様に叫び、ベルト横のスイッチを押し込んだ。
〈オールセット、ディライト!〉
直後、銀のヒト型と黄色の装備群が青年と一体化する様に混ざり合う。眩い光が青年の体を包み込み、その体を変化させていった。
体全体が眩い光沢を放つ銀色の装甲に覆われ、更に手足や体にも黄色のグローブやブーツ、ボディアーマーが装着されていく。変化は青年の顔貌すら例外ではなく、頭全体が銀色の装甲に覆われ、更に光り輝く仮面が顔の表に張り付く。その姿は先程までの優し気な青年のものではなくなっていた。
〈ライトアップブレイバー!ミスリックナイツ‼〉
ディライトドライバーが讃えるかのように宣言する。直後、右肩後ろから光り輝く黄色のエネルギーがマフラーの様に飛び出し、周囲の空気をビリビリとざわつかせた。
「ディライトダト…⁉ソウカ…キサマガ…!」
変化した青年の姿にイェーティーも村民達も皆言葉を失っていた。だが、そんな緊張を破るかの様にイェーティーのボスが口を開く。
そしてそれに応える様に青年も口を開いた。
「仮面ライダーディライト…ミスリックナイツ」
静かな名乗りと共に、道を開けろと言わんばかりに、青年だった者——『仮面ライダーディライト』が指を突き出し、宣言した。
「ここから先は、俺のサーガだ!」
◇◇◇◇◇
雄叫びを上げ、イェーティーの一団がディライトへと突進していく。屈強な肉体を持つイェーティーの集団が10体近く。明らかに多勢に無勢だ。
だが、ディライトは怯む事はない。金属質の鎧に覆われている様に見えてもディライトの動きは素早かった。ライト―正しく光の如き速度でイェーティーの一団へと突っ込んでいき、先頭のボス格の鼻面に拳を叩き込む。
「グオォォォッッッ!」
顔面を打ち据えられたボスの巨躯はそのまま後方に大きく吹き飛び、追従していた一群を巻き込んで倒れ伏してしまった。イェーティーは力の強さで群れの中での序列を決める原始的な思考を持つ。そして今群れで一番強い個体がただの一撃で打ち負かされたのだ。群れの中に動揺が走るのをディライトは見逃さない。
ディライトは手に持つ銃器——銃であると認識できる者はこの中にいないが——に自身のモーフィングパワーを流し込み、剣へと変形させた。ディライトの専用武器〈トランスラッシャー ソードモード〉である。素早い剣の一振りがイェーティー達を次々と切り裂いていき、命脈を断たれた者からその肉体が塵の様に霧散する。
ボス格が起き上がり、何かを叫ぶ。するとイェーティー達は先程の倍近い数で一斉にディライトへと襲い掛かってくる。周囲を取り囲まれ、逃げ場を断たれたディライトは、だがすかさず右側のスロットからライドラッグを抜くと、別の赤い霊薬へと切り替える。
〈ファイア!〉
「エレメントチェンジ!」
ディライトが叫び、再度ベルトのスイッチを押し込む。
〈オールセット、ディライト!ファイアシルバー‼〉
赤い炎のエレメントに包まれる共にディライトは別の姿へと変わっていた。手足の装甲や仮面———総称して『アーマムエレメント』と呼ぶ———が赤い色に置き換わっている。体に纏うエレメントを炎に切り替えた形態、『仮面ライダーディライト ファイアシルバー』である。ディライトが自身の周囲を旋回する様に切り上げると、刀身にエンチャントされた炎のエレメントが吹き上がり、周囲のイェーティーを一気に焼き切った。炎に包まれ、十数体のデブリスが一気に消滅する。戦闘開始から僅かな時間で半数近い仲間が消滅した事に、イェーティー達は竦み上がった様にその場から動けないでいた。
だが、
「ナニヲシテイル‼ニンゲンドモを捕ラエテ、盾二シロ!」
ボスの声に我に返ったイェーティー達が広場中央に捕らえられている人間達に突進していく。確かにその手を取られるとディライトは手を出し辛くなるだろう。
だが。
「させるか…!」
ディライトは静かに、だが決然と叫び、両方のライドラッグを切り替えた。
〈ランド!〉
〈アダマント!〉
〈ファンタスティック!豪傑のレシピ!〉
「再錬成!」
再びスイッチを押し込むと、ディライトが再び新しい姿へと切り替わった。
〈オールセット、ディライト!シェイキングチャンピオン!ランドマンナイツ‼〉
体は宝石の様な多面的な構成を持つ薄水色に、そして各部のアーマムエレメントは土塊の様にゴツゴツした茶色のものに変わっていた。
土属性のエレメントと世界最硬の希少金属『アダマンタイト』の力を宿す形態、『仮面ライダーディライト ランドマンナイツ』である。
ディライトにはある特定のライドラッグの組み合わせによって特殊な力を発揮できる形態が存在する。その名も『ファンタスティックヒット』という。最初のミスリックナイツ、そして現在のランドマンナイツもまたその一つだ。
そしてランドマンナイツの特殊能力は―———土のエレメントによる地形操作と『ランドマンセンス』と呼ばれる超感覚の獲得にある。ランドマンナイツは周囲にいるイェーティー、そして人間達の位置を正確に把握すると、勢いよく地面を殴りつけた。
ランドマンナイツのパワーに反応した地面が激しく隆起し、人間達の周囲には堅牢な壁を生み、そしてイェーティー達には石巌の拳が殺到していく。超質量の石塊に叩き潰され、残っていたイェーティー達は一気に雲散霧消していく。残ったのはボス一体だけとなってしまった。
「もういいだろう?これ以上この人達に手を出さないと誓うなら——」
「フザケンナ!」
デブリスがディライトの言葉を遮り、絶叫した。
「ココマデ虚仮ニサレテ、引キ下ガレルカァァァッッッ‼」
イェーティーのボスが落ちていた石斧を拾い上げながら突進してくる。最早引き下がることはあり得ないだろう。
イェーティーは人間の様な社会性やある程度の知能を持ち、人間と意思の疎通が出来る。デブリスの中でもそういった種類がおり、そのタイプを倒してしまうのはいつでも僅かに抵抗がある。
だが、やるしかない。依頼主に全力で応える為に。そして何より———『仮面ライダー』の名に恥じない為に!
僅かな逡巡を打ち消し、ディライトは再度ベルトのスイッチを押し込んだ。
〈エブリッション!ヴァリアントクエイク‼〉
ディライトのエレメントエネルギーが再チャージされ、右の拳へと集中していく。そして突進してくるイェーティーの巨躯に向けて正拳突きを放った。ライドラッグの力を最大限込めた拳はイェーティーの巨体を大きく吹き飛ばし、爆砕させた。イェーティーの無念そうな叫びは、しかし轟音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
◇◇◇◇◇
ディライトは変身を解除し、元の青年の姿に戻った。興奮した様に、または涙ながらに礼を伝えてくる村人達にモミクチャにされながら、青年は彼らの様子を確認していく。怪我をした者は多数いたが、皆大して傷は負っていない。幸いにも死者は出なかった様だった。
すると、
「お母さん!みんな!」
幼子特有の舌足らずな声が響く。人々が顔を上げると、村の通用門から2人の子ども達と、そして1人の少女が駆けて来るのが見えた。
「アレッサ、ダニカ!」
子ども達の母親であるケイトをはじめ、村民達が口々に名を呼びながら子ども達を抱き寄せていく。
「辺境騎士にここの事を伝えました。もうすぐで救助が来ますので、ご安心ください。」
子ども達を連れてきた少女が伝えた。良く響く聖鐘の様な声。歳の頃は10代後半から20代前半の様にも見えるが、毅然としていて柔らかい声色は、どこか無条件に人を安心させる。細身の身体を守る青銀の装甲鎧の神々しさもあってどこか聖女然とした雰囲気を纏わせていた。
「レイト。そろそろ行かないと」
どうやら青年の同行者であるらしく、少女が彼に話しかける。
「そっか…。じゃあすみません。俺たちはこの辺で」
レイトと呼ばれた青年は慌てて立ち上がる。そのまま2人は村民達にペコリと頭を下げ、立ち去ろうとした。
「え…?あの…、お待ちください!お礼をお支払い致しますので…!」
ケイト達が慌てた様に訴える。だが2人はそれに答えず、鉄の馬へと跨ると、快音を響かせ、夜の闇へと消えていった。
◇◇◇◇◇
夜の世界を支配するのはただ圧倒的な闇。導きとなるのは、空に妖しく光る衛星ルネアのみ。今でこそ慣れた感はあるが、『この世界』に初めて来た時はただその景色に圧倒された記憶がある。
夜の闇を疾駆しながらレイトはふと視線を感じ、後ろに一瞥をくれる。
「なんか言いたげだね、アイリィ?」
問われてアイリィと呼ばれた少女がふふっと笑みを漏らした。
「なんか…頼もしくなっちゃって…って思って」
含むことのないアイリィの声が後ろから聞こえてくる。その真っ直ぐさにレイトは照れ臭い様なくすぐったい様な気分に襲われる。照れ隠しの様にレイトは少女へせめてもの抗議の声をあげる。
「もう…。いつの事、思い出してるの?」
「初めて会った時の事かな?あの時のレイト、震えながらアーククロスを構えて…」
「やっぱりいい!あの時の話はしないで!」
精一杯の抵抗も空しく少女に揶揄われて終わってしまった。やはりどれだけの時が経っても彼女には勝てる気がしない。
ふと過ぎた時間を意識した時、そういえばあの時もあの朱い衛星が空に瞬いていたのを思い出す。昏く先の見えない世界で、ぼんやりと輝く衛星の様であったとしても、自らの進む道を決めた夜の事を―。
『日比野玲人』というただの少年が今のレイトに変わったあの夜の事を———。
てなわけで特別編でした。なんとなくざっくりした世界観だけは掴んで頂けたのでは…と思いますが…如何だったでしょうか?
取り敢えず、
①依頼を受けて動く仮面ライダーである事
②仮面ライダーの変身システム(まんまビルドですね…)
③デブリスという敵、及びその首魁たる『魔王ディアバル』なるもの
④主人公は転生者である事
などを掴んで頂ければ結構です。
さて、次回は『エピソード0』、つまりこの主人公レイトが異世界に転生する件が描かれます。重ね重ね言いますが、仮面ライダーが登場するまでは結構かかります(本当に申し訳ございません!)。どうか末永くお付き合いください。
ご意見・ご感想など頂けたら大変励みになります。なにぶん初投稿なもので、読みにくいところ多々あると思いますが、ご指摘なども頂けると嬉しいです。
それでは。