仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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いつも読んでくださる皆さま、ありがとうございます。
今回ついにディライトが最強形態へと変身します。少年の“真似事”が“本物”へと至る物語の、1つの到達点です。ご覧ください。


Saga30 勇名編Ⅳ~罪と光輝のオラトリオ~③

◇◇◇◇◇

「クヒャヒャヒャヒャッッッ‼いい眺めじゃぁなぁ……実に気分爽快じゃぁぁっっ‼」

 

 炎に包まれる森を上空から睥睨しながらクリーデンス……ノークスカウントが怪物の面相の奥で哄笑した。

 

 10体のティターンアラーク・グノーシズはリンクス達が潜んでいる場所に目がけて進軍を開始していた。全身から放つ砲火で、巨大な肢から繰り出すパワーで、人間以上の時をかけて成長してきた巨木を次々と薙ぎ倒していく。今まで頑として人間の進出を阻んできた魔の森が焼け崩れていく様を、まるで神にでもなった心地でクリーデンスは見つめていた。

 

 ——否、もう“まるで”ではない。

 ——あの日から長い歳月をかけ、遂にこの高みへと至ったのだ。

 ——全てを蹂躙せしめ、地上の全てを塵芥として見下ろせる神の頂へと!

 

「出てくるがいいわ亜人共……体さえ無事なら、心など壊れてしまっても構わんからなぁっ!笑わせてくれた礼に、たっぷりと恐怖と絶望を突き付けてや———ん?」

 

 ノークスカウントが炎に包まれた森の一角を見据えて固まった。ちょうど木々が生えていない草原の様になったその場所に、複数人の群衆が集まっているのが見えた。そしてその中央で、怖れもなく自分を見つめ返す少年の姿も。

 

「あ奴……‼」

 

 レイト・ドメニカ……ディライトの後継者となった少年。そして周囲を取り囲んでいるのは彼の仲間と数十人のリンクス達である。もうディライトにもなれんくせに生意気に……火に囲まれながらも敢然と立っている彼らの姿を見ると、クリーデンスの中になんとも名状し難い不快感がせり上がってきた。

 

 ——なぜ恐れない?なぜ絶望しない⁉

 ——この戦場を支配しているのは、この儂だと言うのに……!

 

「チィッッ……!これだからバカは始末に置けん……!」

 だが、そんなモノを認めてしまうのはもっと不快極まりない。舌打ちを口中に発しながら、ノークスカウントがレイト達目がけて急降下していった。こうなれば徹底的に叩き潰して、そのプライドを完膚なきまでにへし折ってくれる!

 

 ノークスカウントがレイト達に近づき、空中で浮遊した。決して同じ場所になど立たない、見下すのは自分だけだという固い意志を感じさせる。

 

「おやおやディライト殿……もうとっくの昔に逃げ出したとばかり思っていたよ!それとも昔にアイツと同じくそのゴミ共を見捨てる気にでもなったかねぇっ‼」

「いいや、まさか」

「………………っっ⁉」

 

 恐怖どころか余裕の表情で瞬時に言い返してくるレイトにノークスカウントが顔を引き攣らせる。ディライトの力を失い、過去の奴の悪行さえも突き付けてやったというのに、それでも揺るがずに少年は立て続けに宣言した。

 

「リンクス達をお前のオモチャにはさせないし、俺たちは逃げも降伏もしない。復讐だか八つ当たりだか知らないけど、心まで毒で腐らせた怪物……いいや、ただの人間の企みは絶対に阻止する」

「…貴様ぁぁっっ……どの口が———‼」

「お前にかけられた呪いには同情するよ、イカボッド・クリーデンス。だけど、どんな怒りも悲しみも過ちも、人は乗り越えていける……1人では出来なくとも、誰かと手を取り合えるなら。それすらせずにただ人を踏みつけてきたのはお前自身だ。その代償……たっぷりと味わわせてやる。俺が……いいや、俺たちで!」

 

「ふぅざけるなよガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ‼もう許さん!塵一つ残さず、この世から消し去ってくれるわぁぁっっっ‼」

 

 その場から上空へと跳び退り、ノークスカウントの両腕……そこに装備されたファンタズマにエネルギーがチャージされていく。黒い羽根を広げて飛ぶノークスカウントが、まるで天に開いた穴の様に見える。呪詛と憎しみで全てを染める暗黒の染み……。

 

 ——人を呪わば穴二つ……。

 ——誰かを呪えば、自分もまた同じ呪いへと堕ちていく。

 ——だからこそ、正しくあの呪いを打ち破らなくてはならない。

 

 レイトは逃げる事なく即座に腰にベルトを巻きつけ、更にユリィから手渡されたライドラッグを構えた。指先からレイトのイメージを乗せた錬真力が薬瓶へと注がれていき……その姿がアナログ式タイマーの様なアイテムへと生まれ変わった。

 

〈レジェンドアップ!ディライト!〉

 

〈爆発変化‼〉

 

「行こう、ディライト……あの呪いを断ち切りに!」

 心の中で、今やレイトの一部となった筈のディライトが、しかし応と唱和した気がした。

 

 ディライトドライバーの左スロットにミスリックバーンドラッグを。そして右のスロットにタイマー型のアイテム……『レジェンダリールーンドラッグ』を挿し込んだ。

 

〈フルメイル!〉〈ミスリックバーン!〉

〈レジェンダリーアーマメント‼〉

 

〈グッド!マーベラス‼ファンタスティック!!!〉

 

 ベルトが謳い、荘厳な待機音が辺り一面に鳴り響く。やがてベルトからかつてないくらい激しい光が放出され、レイトの全身を包み込んでいくと……やがて、それらも白銀に輝く硬質なプレートメイルへと姿を変えていく。

 

 転瞬、轟音と共にファンタズマがレイト達に向かって解き放たれるのが見えた。全てを破壊しつくす光の矢をしかしキッと見据えながら、やがてレイトが叫んだ。

 

 この世界に来て以来ともに在った、誓いの言葉を。

 

「変身‼」

 

 光と轟音がレイト達を塗り潰して、呑み込んでいく。その様を満足気に見下していたノークスカウントだったが……炎の中に佇むものを見止めると、ヒッと息を詰まらせた。

 

〈スーパラティブ・ブレイバー!レジェンダリーナイツ‼…There is no other place to go home……〉

 

 勇者ディライトの鎧……否、細部の形状が異なっているが、まさしくあの鎧を纏った仮面ライダーディライトだった。黄金のラインが走った黒いアンダースーツ。その上には淵を金のラインで彩られた白銀の鎧が全身を覆っている。頭部はウイング状の羽飾りがついた兜で覆われている風だが、仮面ライダーを象徴する複眼と触覚もしっかりと取り付けられていた。

 

 炎の中でも原形を失わず傲然と佇む姿。照り返しを受けて荘厳と輝く威容。そしてその周囲には……まるで鎧から発する光に守られているかの様に、全く無傷の仲間達が立っていた。

 

「…その姿は……⁈」

「仮面ライダーディライト……レジェンダリーナイツ!ここから先は……俺たちのサーガだ‼」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

「…また姿が変わった……⁉貴様は……何度儂をおちょくれば気が済むのだっ……⁉」

 

 以前にもこんな事があった。あの時も土壇場でディライトの姿が変わり、絶対勝利と思われた盤面をひっくり返された……。…否!

 

「同じ手が何度も通用すると思うなよ小僧がぁぁぁぁぁっっっっ‼」

 湧き上がったイヤな過去を振り払い、ノークスカウントが自らの血を巨大な杭に精錬して投擲する。ファンタズマほどではないにせよ、こちらも特区の石壁を打ち貫くほどの威力がある。

 

「はっ!」

 だが、レジェンダリーナイツとディライトがスッと左腕を前方に突き出す。掌底部から沸き起こった光がどんどん膨らんでいき……その光を諸に浴びた杭は霧散して消え去ってしまった。

 

「今のは錬真術……⁈バカな!あれだけの出力を相殺できるだけの錬真力を個人で発揮できる訳が———⁉」

「言っただろ?1人では出来なくとも……ってさ」

 

「ま、まさか……?()()()()()()()()()()()()()()のか……⁈」

 

 個人の錬真力だけでは作り出せる力には上限がある……が、ここにいる全ての者の力を増幅し、束ねる事が出来たのなら……。

 

「これがレジェンダリーナイツの力だ。皆の力を束ねて、1人では出来ない事を成し遂げる……。これからお前が戦うのは俺だけじゃない。リンクス……いいや、この場所で生きる全ての命の思いを味わえ!」

「ああ、今こそ我らの誇りを見せつける時!総員、構えぇっ‼」

 

 ディライトの横合いに控えていた女性が命じると、一斉にリンクス達がトリーガアローをノークスカウントに向けて構える。外套から覗くその顔は……間違いなくヤナリであった。バカな!奴には致命傷を負わせた筈……⁈その驚愕が生んだ一瞬の隙をヤナリは見過ごさなかった。

 

「放てぇぇっっ‼」

「なっっ……⁈ぐあぁぁぁぁぁぁっっっっっ⁉」

 

 数十人のリンクスが一斉に光矢を放つ直前、ディライトのベルトが輝き、更なる力の増幅をかけていた。結果、一斉に放たれた矢は更なる速度と威力を得て飛翔、ノークスカウントの堅牢な装甲を容赦なく突き破り、その体を地べたへと叩き落した。

 

「こ、こんなバカな事が———っっ⁈」

「感謝するぞ、レイト……さぁ、みんな!今こそ反撃の時だ!我らの故郷を取り戻すぞ‼」

 

「こ、このっ……!調子に乗るなよゴミカスどもがぁぁぁぁぁっっっっ‼」

 

 ノークスカウントの口吻部が開き、そこから超音波を辺り一面に放つ。デブリーターに命令する作用のある超音波の影響を受けて、森中に散らばっていたティターンアラーク・グノーシズとデブリーター達が一斉にノークスカウントの下へと集結を開始した様だった。ティターンアラークがディライト達に向けて脚部に仕込まれたキャノンを一斉に放つ……が、それをいち早く察していたマヤが「させないよっ!」と杖を一振りした。

 

 転瞬、地面を突き破って巨大な氷の棘……もはや、小高い丘ほどもある氷塊が一斉に出現し、砲撃を全て防ぎきってみせた。

 

「やったぁっ!使える様になってるぅっ‼」

 

「やるじゃないかマヤ。それなら私も……!」

 

 征蝉、と小さく呟いたゼオラが地面を蹴る。途端、足元に竜巻の様な力が巻き起こり、彼女の体を一陣の風の様にブワリと加速させた。人間とは思えないほどの速度で加速したゼオラが瞬く間に氷山を駆け登り、氷漬けにされたデブリーター達へ戦棍を振り上げた。その先端部には以前から愛用していた双剣の一振り『戸締李』が取り付けられ、身長ほどもある大鎌……『薙誅審』へと姿を変えていた。風のエレメントが刃に纏わりつき、速度と切れ味を何倍にも加速させた大鎌がティターンアラークの胴体部に突き立てられ……そのまま押し切る様に力を込める。

 

「はぁぁっっ!」

 切断、爆砕。爆風よりも速く跳び退ったゼオラの体が蜃気楼の様に消え失せると……次の瞬間、彼女が10人以上に分身し、あっという間にティターンアラーク・グノーシズの全身をバラバラに切り裂いてみせた。

 

「凄いじゃんゼオラ。この前まで錬真術のれの字も知らなかったくせにぃ」

「ああ、何となくコツは掴んだ。寧ろ前よりも体が自由に動く……。我らが勇者様のご加護のお陰かな?」

「そんな事ないって。2人が凄いからだよやっぱり」

 

 レジェンダリーナイツには他者の錬真力を増幅させる作用がある。それによる治癒力の強化、そして錬真術の出力調整を補正する事が出来る。パラディンの継承によって錬真術の出力が安定しなくなっていたマヤとゼオラが力を使える様になったのはそのお陰とも言えるかもしれないが……レイトはあまりそうは思っていない。力を恐れずに、守る為に引き受ける……その勇気が彼女たちにあったからだ。

 

 ならば自分も……。ディライトが己の為すべき事を果たす為に、正面の敵をキッと睨み付けた。

 

「みんな、周りは任せた。俺は……俺たちの決着を付けてくる!」

「ええ、任して」

 

 アイリスが応え、そしてその場に集ったリンクス達も一斉に応と唱和の怒号を上げて、一斉に飛び出していく。必ず勝つという彼らの強い意志が空気を震わせ、まるで森が生気を取り戻していくかの様だった。そんな彼らの姿が雄々しく何よりも輝いているのは、きっとレジェンダリーナイツの力の作用だけではない。

 

 アイリス、マヤ、ゼオラ、ラウボー、リンディ、ヒメナ、ジルバ、ブルース、ヤナリ、リゴ、多くのリンクス達……この場に集う全ての者がそれぞれの力を手にして、侵略者達へ立ち向かっていく。数の面での不利は変わらないにも拘わらず、彼らにもはや決死の覚悟などはない。この世界を守り、再びここで生きる為……強い決意を滲ませ、デブリーターへと立ち向かっていく。

 

 今の彼らは何者にも負けはしないだろう。ならば、レイトの自分のやるべき事をするだけである。

 

「…俺たちも行こう、ディライト」

〈トランスラッシャー!〉

 彼らを信じると決めたディライトはもう振り返らない。右手にトランスラッシャーを出現させ、悠然と歩み寄る様にノークスカウントが「キサマァァァァァッッッ‼」と咆哮を上げて躍りかかってきた。

 

〈エイジスランタン!〉

 ベルトが輝くと同時に、ディライトの左腕にシールドモードに変形したエイジスランタンが出現、ノークスカウントの爪の攻撃を受け止めると、そのまま返す刀でトランスラッシャーを胸板目がけて振り抜く。光のエレメントを帯びて輝く刀身に装甲を易々と切り裂かれ、ノークスカウントが再び地面へと倒れ伏した。

 

「まだまだ!」

〈デウスカリバーⅡ!〉

「…………っっ⁈」

 

 トランスラッシャーが消え去り、ディライトの右腕に出現したのは、あの仮面ライダーソーディアの魔剣だった。ディライトがデウスカリバーを腰だめに構え、意識を集中させる。

 

「魔剣開放、“ニトロ”!」

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ⁈」

 

 ディライトが飛び出し、すれ違いざまにノークスカウントを横薙ぎに斬り払う。その動きは間違いなくハイルが最も得意とする居合斬りのそれであった。

 

 これこそがレジェンダリーナイツに秘められたもう1つの力。ディライトの鎧——『ブレイバーユニット』は装甲にセンサーやサーボモーターなどを内蔵しており、ただの鎧としてだけでなく、彼の力をアシストするパワードスーツの様なものだった。これに更にマルチバースの情報にアクセスするメモリージングシステムが、あらゆる次元に存在する戦闘技術をブレイバーユニットに伝達する事でそれを疑似的に再現する事を可能にしているのだった。勇者ディライトの神憑り的な強さの正体はこれによるものなのだった。

 

〈トリーガアロー!〉

〈ネメシスサイザース!〉

 

 ディライトの胸部装甲——『ホロティクスプリンター』が輝き、仮面ライダーネメシスの杖、そして鳥型のツールド・ファミリアを複数形成する。トリーガアローの刃翼がノークスカウントの全身を切り裂き、更にサイザースから放たれた衝撃球が着弾していく。

 

 武器の形成に関わっているのは、言わずもがなレイトの記憶だ。模造とは言え、彼らの存在が自分に力を貸してくれているように感じられた。

 

「キサマ、よくもっ……!うおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!」

「懲りないな、まったく……」

 

 まぁ、この程度で音を上げる様なら何十年に恨みを抱き続けたりはしないか……。突進してくるノークスカウントに向けて、ディライトが右手の平をスッと向ける。そこからディライトの身長ほどもあるカード状のエネルギー体が全部で5枚放射され、ノークスカウントの接近を拒んだ。ディライトは即座に拳を腰だめに構えると、カード状のホロスクリーンに向けて、正拳突きを放った。

 

「うぇぇぇぇぇぇぇいっっっっっ‼」

 

 拳から発射されたエネルギーがスクリーンを通過するごとに威力を増していき、ノークスカウントへと直撃する。たった一発……にも拘らず、まるで拳のラッシュを喰らったかのような衝撃。その事がかつての屈辱をクリーデンスに思い起こさせるが、それでもこの目の前の仮面ライダーに勝てるビジョンが全く浮かんでこない……その事こそが、クリーデンスにとって一番の衝撃であり、屈辱だった。

 

 周りに溢れる錬真力の奔流が、振り向かずとも全てを教えてくれる。ディライトの戦いが佳境に入った頃、周囲の戦いも終わりつつあった。パラディン達だけでなく、リンクスや準隊士、ラウボー達が一丸となってティターンアラーク・グノーシズすらも蹴散らしていく。戦いの大元に終止符を打つべく、ディライトの手がベルトのレバーへと伸びた。

 

「みんな、ありがとう……。これで終わらせる!」

「ふざっ……けるなっっ……!貴様なんぞにこの儂をっ……終わらせられるものかぁぁぁぁっっっっ‼」

 

〈GENERAL VAMPIRE……INFUSING……!〉

 

〈エブリッション!ヴァリアンテスト・ストライク‼〉

 

「せぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ‼」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ‼」

 

 ディライトとノークスカウント、それぞれが必殺のエネルギーを纏って跳躍する。決して譲れない意志をかけて、鮮血の光を帯びたレイピアと、ディライトの両脚蹴りがぶつかり合い……一瞬の拮抗の後に終了した。

 

 勝者となったのはディライトである。デブリシリンジャーを破壊され、そのままキックをがノークスカウントの胴体を直撃した。ディライトに蹴り落とされたノークスカウントがそのエネルギーに耐えきれなくなり爆砕する。それと同時に森中でいくつもの火柱が立ち上がった。アイリス達が全てのティターンアラークを撃破したのだった。

 

 オォォォォォォォォォッッッッッッッ……と、森中が歓喜に震える。喜びに満ちていく世界を、仮面ライダーディライトはいつまでも満足そうに見つめていた。

 

「レイト!」

 ディライトが地面に降り立ち、変身を解除すると同時に背後からマヤ達が駆け寄ってきた。アイリスもゼオラも、他の仲間達もみんな大きな傷は負っていない様で、その事にレイトはひとまずほっと息を吐いた。

 

「みんな、お疲れ様。…任せておいて言うのもなんだけど……はぁ~~……やっぱり勇者役って重い……。俺向いてない……」

「だから、そういう事を軽々しく言うなって」

「そうよ。あれだけの活躍したんだから自信持って」

 

 レジェンダリーナイツは他者の錬真力や身体能力を向上させる力を持つ、いわば軍団戦に秀でた形態だった。仲間達やリンクス達の力を借りたとはいえ、それでもシドニア軍の大部隊と敵の最強デブリーターを打ち倒す事が出来たのだ。戦果としては十二分以上と言えるだろう。

 

 そして当の倒された張本人と言えば……。

 

「グッ……!バカな……!この儂が……儂のデブリーターがっ……こんな奴らなんぞに……!」

 

 デブリシリンジャーを破壊され、ただの老人へと戻ったクリーデンスが、しかし相も変わらぬ呪詛を込めてレイトを睨み付けていた。全く懲りていない……まぁ、当然か。今更抱え続けた怨念を手放せるなら、決して短くなかった人生のどこかでやり直す事が出来ただろう。それすらせずに、ただ子どもの頃の怨みを燃やし続け、その優れた頭脳を誰の為にも使えなかった時点でこうなる事は避けられなかった。

 

 何にせよその罪はこの先の人生で贖っていかなければならない。リンクス達がクリーデンスを捕らえるべく、慎重に近づいていく……その直後の事だった。

 

「ぐぅっ……⁉ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ⁈」

 

「……………っ⁈」

 

 突如、胸元を押さえてクリーデンスが苦し気な叫びを発する。見ると男の胸元にズブズブと漆黒の穴が広がり、少しずつ浸食する様に広がっていったではないか。まるで尻尾から自らを飲み込んで消滅するウロボロスの様に、少しずつクリーデンスをこの世から消し去っていく様だった。

 

「あれは……」

「デブリドラッグの副作用だ……」

 

 人体を蝕むデブリス細胞の中でも、とりわけディアバルのそれと近しいジェネラルクラスの力を秘めたデブリドラッグだ。体に影響が出ない方がおかしい。こうなる事がわかっていれば……。色を失った箇所から体が崩れて消滅していくのは相当な苦痛と恐怖を齎すらしく、クリーデンスは皺だらけの顔を極限まで歪ませて、抗する様に叫びを上げる。

 

「儂はっ……儂は負けてなどいないっ……!全ては貴様を倒してっ……その罪を突き付けてやる為にっ……全てを利用してきただけの事っ……!儂は……負けてなどっ……!ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ‼」

 

 …否、わかっていてもどうする事も出来なかったのだろう。子どもの頃から燃やし続けた妄執の前では……。やがて全身が暗闇の咢に呑み込まれていき……その存在全てがこの世からかき消えてしまった。

 

「…負け惜しみだな……。最後の最後までみっともない……」

 ヤナリがポツリと呟く。果たしてそれが真実なのかどうか……その答えはきっと永遠に解らないのだろう。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 夕映えに染まっていく空に、悲痛な叫びが消えていく。常人の耳では聞き取れないだろうが、ユリィの優れた聴覚にはハッキリ感じ取れた。その瞬間、彼女の胸に去来したのは安堵でも快哉でもない、ただ「あぁ、やっと終わったんだ……」という乾いた感慨だけだった。

 

 齢5つの時、両親も同胞も失い、人の世界からも排斥された彼女を唯一受け止めてくれたのがクリーデンスという男だった。それがどんな目的で、体にどんな事をされようとも、ただ彼に従って傍を離れなかったのは、他に行く所なんかなかったからだ。身も心も全てあの鎧に閉じ込められて、ただ彼の命じるままに生き続けてどれだけの時が経ったか……気が付いたら鎧の牢獄から連れ出されて、もう大丈夫だなどと言われても戸惑うより他になかった。それで癒されるほど彼女が負った傷は浅くない。

 

 彼は……今のディライト様は約束した通りにクリーデンスを倒してくれた様だった。これでここの優しい人達が傷付けられる事はないが……では、わたしはどうしたらいいのだろうか?という疑問が消える事はない。これでもう本当に帰る場所はなくなってしまった……否、とっくの昔に失くしていたのだ。残されたのは、失われた時間と傷だらけで血に塗れたこの身だけ……。

 

「…終わりにしよう……。もう……」

 今診療所の中には誰もいない。ノロノロと布団から身を起こしたユリィは棚の中を探し、やがて手術用のメスを探し当てた。その刃を首筋に当てて、ゆっくりと力を込める……。

 

 瞬間、手を掴まれて止められた。

 顔を上げると、神経質そうな目でこちらを睨むシドニアの皇子様……ビリウスが立っていた。痩身からは想像できない程の力で、彼女の行為を押し留めている。

 

「…どうして……?」

「ディライト殿から言われていてね。全てが終わったら君が命を絶つかもしれないから、よく見ていてくれと」

 そんな事まで予測されてたのか……。純真そうに見えて、あの少年は意外と人を見ているし、抜け目がない。ユリィは特に抵抗する事もなく、メスを手放してその場にへたり込んだ。

 

「…自由って……さみしいんだね……」

「なに?」

「いつかこんな日が来たらって、ずっと思ってたのに……今は、どこに行っていいのかわからない……。もう誰かが待っててくれるわけでもないのに……それでもわたしっ……生きなきゃいけないの……?」

 

 痩せぎすの体をカタカタと震えさせながら身を縮こまらせて、ユリィが呟く。それがまるで母の胎内に帰ろうとしているかの様で……ビリウスには解った。彼女はまだクリーデンスの支配から逃れられていないのだと……。

 

「…ユリィ、私はな、ずっと兄の影でいられればいいと思っていたんだ」

「え……?」

「王位を継ぐ為に、父から厳しい教育を受けてきた兄を見ている事しか出来ない……病故に何もできない我が身を……私はずっと呪ってきたのかもしれないな。だから償いとして、兄の命に従いさえすればいいと……だが、全ては偽りだった。結果的に多くの民をこんな戦争に巻き込んで殺してしまった……。王の直系として、あるまじき事だ……」

 

 デブリーターの一員として、多くの非道に加担してきたユリィだが、罪深いのは彼女だけではない。考える材料はいくらでもあったのに、己の無力を言い訳にして逃げたのはビリウスも同じだ。その罪はきっと永久に消える事はない。

 

 それでも……。

 

「…それでも、私は生きようと思う。私はもう、無力な自分を恥じたりはしない。1人の王として、この国を立て直してみせる。だからユリィ……君にも生きて欲しい。君が生きていける世界が、きっと私の目指すべき世界だから」

「…できないよ……。わたしはもう……あなたみたいに強くなんかないから……」

「私は強くなんかないよ。馬車に乗るのだって、誰かの助けが必要なんだ。弱くてもいい、私と生きてくれ」

 

 無理に抱きとめるでもなく、ビリウスがスッと手を差し出した。折れそうな程に細くて、よく見ると震えている手を思わず取ってしまった瞬間、触れ合った掌から温もりが伝わる。さして強くも温かくもないその感触に、しかし酷く懐かしい思いを実感した瞬間、ユリィの目からようやく涙が零れだしたのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 それからの展開がなかなかに早かった。マヌールへと侵攻していたシドニア軍は実質クリーデンスが指揮をしていた様なもので、しかもおまけに兵士の大半が何らかの処置を施され、半分睡眠状態の様なものだった——アイリスは恐らくオリジナルの将星級吸血鬼が使っていた催眠能力の一種だろうと推測していた——為、彼が倒されると同時に兵士達はみんなさっさと降伏してしまったのだった。いつの間にか自分の自我を奪われて、使い捨ての駒同然に扱われていたのだから面白くもなかろうというものだが……それに加えて、ビリウス・ドレッド・シドニアが彼らを懸命に説得したからというのもあるだろう。

 

 日頃から病弱の青瓢箪などと陰口をたたかれている彼が、しかしかつてなく堂々と「これ以上の犠牲があってはならない」と宣言する姿には、胸を打たれる感があったものだ。

 

「ああいうところ……王の素質があるなって思わせてくれるわよね」

 ビリウスはレイトやヤナリ達にこれ以上の戦争継続の意思はない事を伝え、全面的に降伏した。だが、これで戦争は終わりではない。この戦争を仕掛けたのがデブリーターであり、彼らが現王家を傀儡として利用していた事実を元に——これに関しては、ドミングスが生存していた為、立証は早そうだ——、ビリウス達は国内の厭戦派を纏め上げる事になる。その道のりは決して楽ではないだろうが……。

 

「安心してくれ、きっと約束する。争い合うことなく、共に手を取り合う……。そんな国を私は必ず実現させる」

 そう宣言するビリウスの姿は、心配無用と感じさせるほど堂々としたものだった。その目はどんな未来を見つめているのか……今は聞かない事にした。

 

 そしてもう1つ。

 

「リンクスはアネスタとの同盟締結に合意する。ただし目的は魔王ディアバルを討伐する為だ。こちらの細かい要望はこれから纏めるが……取り敢えず、それだけクリスティン女王に伝えておくれ」

 

 リンクスだけで独立を勝ち取るという当初の考えを捨てた形になる訳だが、相も変わらず好戦的な笑みを浮かべたヤナリから書簡を託され、レイト達はアネスタへの帰路についていたところだった。下手すればクリーデンスを倒す事よりも困難そうだったミッションを無事に達成できたのだ。こちらの道も決して平坦でないだろうが……まぁ、クリスとヤナリの事だからあっさりとやり遂げてしまうのだろう。恐ろし過ぎて、出来る事なら巻き込まれたくないと思うが。

 

「日暮れて途遠し……大変なのはこれからだろうけど……でも、取り敢えず一歩だ」

「そうだね。この世界にとっても……あとあたしたちの約束にもだよ、レイト?」

 

 帰りの馬車の中で、マヤにそっと囁かれた。あたしたち?と聞き返しかけたが、思い当たる事が1つある。彼女との間で約束というと1つしかない。

 かつて故郷で蘇った記憶の中で、彼女と誓った未来の話。

 

『僕きっと約束する。マヤも他の皆も、幸せに暮らせる世界を作って見せるって!』

 

「皆が幸せに……かぁ。大きく出たものだなぁ、昔の俺……」

「あはは、確かにね。正直、気が大き過ぎじゃないこの人って思ったし」

「そんな風に思ってたの⁉」

「まぁ、仕方ないじゃん。人とリンクスが一緒に生きていける世界なんて夢のまた夢みたいなもんだった訳だし。…でも、きっとレイトならそんな世界も実現できるって、今は思ってるよ」

 

 屈託なく笑う彼女に言われてつい照れ臭さから「そんな事はない」と否定しかけるが……少し考えて、それも引っ込めた。ラウボーに言われた通り、人は言葉に引っ張られるものだし、自分は特にその毛がある。

 

 大丈夫、と己にゆっくりと言い聞かせる。どれだけの困難が眼前に待ち構えていようとも、この世界に初めて来た時とは比べ物にもならないくらいに多くの繋がりがある。1人では為せない事も、彼らと共になら……。

 

 背中を支えられている感覚に身を預け、レイトも他の皆と同じく暫しの微睡みに身を任せた。

 

 




次回予告

人には誰しも過去がある。栄光か悪行か。愛か血か。
確かな事はただ1つ。誰しも、それからは逃れられないという事。
逃れられない過去に追いつかれた時、誰しも選択を迫られる。
過去に呑まれるか、それとも向き合い力と変えられるのか……。
1つの決断が、新たな戦士を誕生させる。

Saga31『猛れドラゴン!~この先の未来の為に~』


〈あとがき〉
遂にここまで来ました。万感の思いです。
ディライトの最強フォーム、その名も『レジェンダリーナイツ』です。見た目は仮面ライダーブレイド キングフォームやマックスリュウソウレッドみたいなゴツイ鎧姿です。ああいうド派手な感じが好きなんですよね~。
能力は今回で全部描けた訳じゃありませんが、あらゆる武器を召喚し、自分はあらゆる戦闘技能を再現可能で、しかも一緒に戦う仲間達を強化できます。作中でも言っている通り、軍団戦に強い形態という事になります。
物語的にもレイトが遂に本物のディライトになったという感じで、1つの区切りとなりました。物語はまだ続きますが、このままラストまで駆け抜けたいと思います。どうぞ応援の方、よろしくお願いします!
それではっ!
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