仮面ライダーミスリックサーガ   作:式神ニマ

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Saga31 猛れドラゴン!~この先の未来の為に~②

◇◇◇◇◇

「…ぐぅっ……!ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっ……!」

 

 コーパーズより西、住民が消え、今やデブリーター達の占領下にある国境付近の街『サウストン』の教会。礼拝堂に設えられた王座の様な長椅子に腰掛け、何かに耐えるような呻きを発している人影がいる。壮齢でありながら全身に筋肉を漲らせた大柄な男……デブリーターの首魁ライアン・ジョーンズである。

 ジョーンズの左手に取り付けられたデブリシリンジャーが赤く明滅し、その度に彼の体にミミズ腫れの様な斑紋が浮かんでは消えていく。この世界に満ちていく恐怖を感じ取ったクラーケンデブリドラッグが彼の体を徐々に強化していく。大きな苦痛を伴いはするが、元よりそのリスクは承知である。

 

 発作の様な苦痛はやがて治まり、ジョーンズは長椅子へと脱力した。見た目に変化は乏しいが、徐々に自分が人を離れて、あの怪物の王へと近しいものに変質していっているのが感じ取れた。

 

「…もう少し……もう少しだ……」

「ジョーンズ、入ってもいいかしら?」

 扉が開き、長身の女と対照的に痩せ型で小柄な少年がジョーンズの下へとやって来る。デブリーター幹部のパトリシアとウォルターである。

 

「…お前たちか……。計画の進捗はどうだ」

「ええ、概ね計画通り。襲った集落の人間達は殆どが首都へと逃げ込んで行ってるわ。閉じ込められた人間達は、いつまた襲われるかもしれない恐怖と迫りくる飢えに怯えに怯える事になる」

「蒔かれた恐怖の種が芽吹き始めた頃を一気に突いてやればやがて滅びの扉を自ら開く事になる、と……。痛快な限りだけどさ、そう上手くいくモンかね?」

 

「そうだぜ!ちょっとやり方がぬるいんじゃねぇのか頭領様よぉっ‼」

 3人の会話に突如、無遠慮な男の声が割り込まれる。パトリシアが振り返ると、そこには歌舞いた格好をした大柄な男が立っていた。

 

「…ゲイブ……。入っていいと言った覚えはないわよ」

「おいおい!そりゃぁねぇだろ!俺サマは一応あのワールドラーグに代わって組織の幹部になった男なんだからよぉっ‼」

 男は左腕に取り付けられたデブリシリンジャーをこれ見よがしに見せつけながら、遠慮なくジョーンズのもとまで近づいていく。

 

 男の名前はゲイブ・メディス。筋骨逞しい見た目にそぐわず、その人生の殆どを争いの世界で生きてきた傭兵であり、デブリーターにも古くからメンバーとして名を連ねてきた男である。今回のアネスタ侵攻に際して、空いたワールドラーグの枠に晴れて加わる事となったのだった。

 

 メディスはニタニタとした笑みを貼り付けたまま、遠慮なくジョーンズを見下ろして言った。

 

「あの街にブタ共を閉じ込めてジリジリと恐怖を煽ってやる必要がどこにある?それよりもっと遠慮なく攻撃して皆殺しにしてやりゃいいじゃねぇか!死に勝る恐怖はねぇからな!そっちの方がアンタの強化も早く済むんじゃねぇのか!」

 

 死に勝る恐怖はない。確かにその通りではあるが……。ジョーンズは一切表情を動かさずに、メディスを睨み付けたまま問う。

 

「メディス……貴様、人を殺める事への罪悪感を感じる事はあるか?」

「あ?そんなモンある訳ねぇだろ!」

「で、あろうな。人を殺めるなどという最大の禁忌にさえ、人の心というものは慣れていくものだ。そして、それは恐怖も同じという事よ」

「どういう事だよ?」

「デイヴィラークが力を増すのに必要な条件は、恐怖の度合いよりもその総量……大きい恐怖を瞬間的に生むよりも、長く持続する恐怖の方が有効という事よ。死は確かに大きな恐怖だけど、残念ながら死者はそれ以上恐怖しないからね」

 

 パトリシアが補足する。死は確かに人の中で最も大きな恐怖に違いない。だが、それは一瞬で消えてしまう。そして厄介な事に人の死が続くと、生きている者たちも段々とそれに慣れてくるものなのだ。

 それに人を殺し過ぎれば、あの女狐はその事実を利用して逆に国民の反抗心を煽りかねない。それくらい油断ならない女だ。ならば国民を絶対に見捨てない彼女の方針を逆手に取った手段を講じた方がいいという訳だ。

 

 ——…まぁ、飽くまでもそういう可能性があるという話だ。

 ——どうなるかなど実のところ分かる筈もない。

 

「…チッ、しちメンドクセェ……。俺サマは好きにやらせてもらうぜ!戦争なんて遊びは滅多に味わえるモンじゃねぇしな‼」

「…やりすぎなければ構わん」

 

 豪快に笑いながらメディスが立ち去っていく。元は争いや人殺しを娯楽の様に捉える、危険で短絡的な男だ。デブリーター計画の全貌など理解していないし、大局的な視点など持ち合わせてもおるまい。パトリシアがため息を1つ吐くと、改めてジョーンズに向き直った。

 

「バカは極端に御しやすいか、それとも難いかのどっちかだけど……アレは後者の方ね。一応、見張っといた方がいいかしら?」

「動けるようになるまでは、暫し時間がいる……。すまないな、パトリシア。いつも苦労を掛ける……」

「らしくない事を言わないでちょうだい。見限りたくなっちゃうわ。…行くわよ、ウォルター」

「はっ、僕もかよ?なんであのバカの尻ぬぐいなんかしなきゃならんのか……」

 

 ブツブツと文句を言うウォルターの首根っこをムリヤリ掴んで引っ立てていくパトリシア。組織を作って以来、何度となく見てきた光景。こんな事に手を染めている時点で、自分達もメディスと同じく人でなしの側である事に変わりはないのだが、ずっとああしている2人の姿にどこか微笑ましさを感じるのは、やがて人でないモノへと完全に変わろうとしている我が身に残された、最後の人間らしさなのかもしれない……。

 

 無論、止まるつもりなど微塵もない。あの清廉な少女と敵対する事となろうとも、自分には為さなければならない事があるのだから……。

 

「…もう少し……もう少しだ……」

 ジョーンズが祭壇の裏に回り込み。そこに大事そうに置かれた石棺に触れ、まるで祈る様に呟いた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

『え~……皆さま、本日はお足元の悪ぃなかお集まり頂き、大変ありがとうごぜぇやす。このピザ会を開催致しますにあたっては、それはもう聞くも涙、語るもお笑いな苦節譚があったんでごぜぇやすが———』

「前置きはいいから早よピザを焼けぇっ‼」

「挨拶なんぞで腹が膨れるか--------っっっ‼」

『ぁんだとコラァッ!お前とお前とお前!顔は覚えたからな!腹を下しても責任は取らねぇぞ‼』

「…シャレにならない事を言うんじゃないわよまったく……」

「まぁまぁ、楽しそうだからいいじゃない。さっさと焼いちゃいましょ?」

 

 ピザピザピザ……!と唱和する市民たちとジェイクが喧々諤々と言い争うのを横に、ルチル達が次々と石窯でピザを焼き始める。やがて生地とチーズが焼ける香ばしい香りが周囲に立ちこめ始めると、喧騒も鳴りを潜め……るどころか、ピザピザピザ……!という静かな圧が一段と高まっていく。食事に対するアネスタ人の拘りコワ……と、ひそかに戦慄するネメシスであった。

 

 しかし……。

 

「…まァ、無駄なものに夢中になれるという事が、豊かさの本質なのかもしれないな……」

「おや、少しは人の心が解る様になってきたんじゃありませんか?」

「女王……君もいたのか」

「そりゃもう……あれだけ根回しに苦労したんですから、少しは相伴に預かってもバチは当たらないでしょう?」

 

 はい、と相も変わらずお忍びモードのクリスがピザを1つ差し出してきた。この女王には前に散々脅された経験があるので——自業自得ではあるが——あまり易々と受け取るのは抵抗があるのだが、焼けたチーズと微かなニンニクの香りはネメシスの薄い食欲すらも刺激する魅力が感じられた。

 

 一切れを受け取って齧ると、最初に感じるのはトマトソースの旨味と口中にフワリと広がるチーズのコク。具材はベーコンとトマトのみだが、それぞれの味がしっかりしていて物足りないという感じはまるでない。何よりも具を受け止める生地の風味がいいのだろう。食べ物などただの栄養摂取程度にしか考えないネメシスだが、これには確かに強く求めるだけの価値がある……と、納得させられた。隣でニマニマとしている女王が癪に障りはするが……。

 

「本当はもっと具材にも拘りたいんですけどねぇ……この状況下ではなかなか。はやく戦争なんて終わりにしたいものです。…誰かと楽しく食事が出来ないのは、辛い事ですから」

 少し物悲しそうに言ったクリスが焼き上がったピザを一切れ取って歩き出す。その先に悲しそうな顔で俯いている少年の姿が……例の食事を摂らなくなっていたという少年か。

 

「初めまして。ジュニス君……でしたね?私はクリス。女王陛下専属のメイドをやっています♪貴方の様子を聞いて、女王陛下も心配されていたんですよ?」

「…ウソつけ」

「むぅ、ホントなのに。…亡くなられたお父様が育てていらした小麦、あれここでも評判が良かったんですよ。お父様がいつも丹精込めて育てておられたお陰で、今日だってほら」

 クリスがジュニスの目の前にピザを差し出す。香り豊かな小麦の匂いが立ち昇ると、少年の表情が初めて微かに動いた。

 

「…この匂い……お父さんの小麦……?」

「ええ、お城の倉庫にたくさん備蓄されていたんです。お父様の事は残念でしたけど……お父様の思いは今でもきっと生きておられますよ。こうして多くの人々の心を潤して……貴方の中にも糧として残り続けられるなら、きっと幸せなのではないですか?」

 

 そう簡単には納得がいかないだろうが……ジュニスはそれでもクリスの手からピザを受け取って、少し齧りついた。まだ拒絶反応があるのかゆっくりずつだが、それはまるで思い出を噛み締めているかの様で……「焦らなくてもいいんですよ?」とクリスに言われても、ジュニスはやがて一切れのピザを食べきってみせた。

 

「…おれにも……こんなのが作れる様になるのかな……?お父さんみたいに……」

「出来ますよ。その為に支えてくれる人だっていっぱいいるんですから。お母様ももうじき退院されるそうですから、今は———」

 

「その意気やよし‼」

 空気の読めない声が一喝、ジュニスは勿論クリスも珍しく飛び上がりそうに驚く。こんな空気の読めない事をするのは1人しかいない……背後を振り向くと、そこには案の定、鍋を抱えて笑っているジェイクの姿。

 

「その調子だぜジャリンコ!よし、そうなったら目一杯栄養つけて大きくならねぇとな!そんなら次は俺の特性シチューを———!」

「やめなさい力いっぱい‼」

 素早く立ち上がったクリスがジェイクの腹目がけて華麗なローリング・ソバットをお見舞い、更に背後に回り込んでコブラツイストの要領でギリギリと首を締め上げる。

 

「せっかくキレイに纏まりかけていたのに……子どもにそんな毒物を食わせてどうしようってんですか貴方は‼」

「痛デデデデデッッッ⁉毒物はねぇでしょう毒物は!クリス様だってしょっちゅう他人に訳の分からねぇモン飲ませようとする癖に———っっ⁈」

 ジェイクが慌てて言い訳をする横で、しかしジュニスは却って興味を引かれたのか、はたまた今まで食べていなかった分の反動か、皿に取り分けられたシチューを少しずつ口に運び始めていた。「おぉっ!」とジェイクが感動した様に目を潤ませ、クリスが「ひぃっ!」と慌てて顔を青褪めさせる。

 

「おぉ……!遂に……遂に俺の料理を分かる奴が現れたか!よし小僧、お替りならいくらでも———!」

「やめなさいと言っているでしょう!ジュニス、貴方もしかして味が———!」

「…なに言ってんのさっきから……?」

 やいのやいのと騒ぎ立てる2人をジュニスは不思議なものでも見る様な目で見つめる。無味乾燥なその反応がイマイチ面白くないジェイクだが……そんな平穏な喧騒の中に、微かな異音が混ざるのを感知した。

 

「…なんだ……?なにか来やがる……」

「ジェイク?今度はなに良からぬ事を思いついたんですか?」

「そうじゃねぇって……。なんか妙な音が……どこかで聞いた気が……?」

 

 そう言っている彼の表情には、ふざけた様子など微塵もない。日頃のボケた態度から忘れがちだが、そう言えばこの男はかつて裏社会で生きてきた傭兵だったのだ。クリスが思わずジュニスを庇う様に周囲を警戒すると……確かに風切り音が聞こえた。しかも……明らかに近づいている!

 

「いけない……!ジェイク、ネメシス、人々の避難を———‼」

 

 クリスが叫んだ直後、会場内でいくつもの小さい爆発が上がり、人々が悲鳴を上げた。先程までの平穏が一瞬で崩れ去り、恐慌に陥る人々を嘲笑う様に、広場に1体のデブリーターが降り立った。鱗で覆われた様なアンダースーツに、緑色の甲殻装甲、更に背後からV字形に伸びた翼、その姿はまるで……。

 

「ナハハハッッッ!随分とくだらねぇ事をやってやがんなアネスタ人ども!だがそれも終いだ……俺サマが、もっっっっと面白ェ血祭りに変えてやるぜぇっ‼」

「…ワールドラーグ……だと……⁉」

 

 全体の色こそ濃い目の緑色に変わっているが、その姿はかつてジェイクが変身していたワールドラーグに酷似していた。

 

 ワールドラーグで培ったデータを基に、ドラゴンクラスタデブリスの一種『バジリスク』のデブリドラッグを用いて開発された新型デブリーター、名を『グランツドラーグ』という。驚愕するジェイクの方を向いてグランツドラーグが彼の姿を見止めると、愉快なものでも見つけた様にもう一度哄笑を上げた。

 

「テメェ……誰かと思えば、負け犬のジェイク・アリウスじゃねぇか!組織から逃げ出してどっかで野垂れ死んだとばっかり思ってたのによぉ……こんなところでな~~~~~にやってヤガんだぁっ⁉」

「その声……メディスか……?だが、テメェは……?」

「おうよ!デブリーター同士のコンペティションで、テメェに体の半分を消し炭にされたゲイブ・メディス様よぉ!クリーデンスのお陰でなんとかこうして蘇りはしたがなぁ……ちょうどいい!あん時の怨みを、今ここで晴らしてやんよ‼」

 

〈DRAGON THUNDER INFUSING……‼〉

 

 グランツドラーグのデブリシリンジャーから金色に輝くニードルガンがたて続けに掃射された。バジリスクは睨み付けた者を石化させると言われる竜だが、その実態は強力な電撃を放射して獲物を痺れさせる雷電竜だ。その特性を受け、電磁力で超高速射出されたニードルがジェイクに向けて殺到する。慌てて身を翻して躱す事には成功したが、ニードルはそのままテントや石窯に突き刺さり、爆炎を伴って会場を吹き飛ばしていった。

 

「テメェッ……!なんて事してくれやがんだ!」

「ハァッ?なに怒ってんだテメェは?まさか、こんなチャチなおままごとに入れあげてんじゃねぇよな?」

 

 グランツドラーグがまたしても周囲に無意味にニードルガンをばら撒く。先程まで多くの人々が笑顔を浮かべていた場所が、クリスを始め多くの人々が奔走して築き上げた会場が、あっという間に瓦礫の底に沈んで行くのを目の当たりにして、ジェイクは自分でも驚くほどの怒りが込み上がって来るのを感じた。

 

「…今日の為に、一体どれだけ多くの人間が苦労してきたか、わかってんのか……?せめてたった一時でも喜びを……平和を味わわせてやりてぇって思いがここには詰まってんだ……。テメェみてぇなクズ野郎に……笑いながら踏み潰されていいもんじゃねぇんだよ……‼」

「笑わせんな!裏稼業から足洗って、真っ当なニンゲンになったつもりかジェイク?んな訳ねぇだろ!俺サマとお前は同じ穴のムジナだ!他人の血を啜って生きる人非人の罪が、こんな事で消える訳ねぇだろうが!」

 可笑しくて堪らないとばかりに哄笑するグランツドラーグの言葉が、ジェイクの胸に深々と突き刺さる。

 

 過去、デブリーターの性能評価試験の場で、ジェイク——かつてのワールドラーグは目の前のメディスの他に多くのデブリーター達を屠った。それ以前からも、盗賊崩れの傭兵として多くの命を奪い、殺してきた。きっとそんな状況を嗤い、楽しんですらいただろうと思う。

 

 ——だとしたら、これは報いなのだろうか?

 ——過去の罪過にいつまでも付き纏われ、結局どこにも死と破壊を齎す。

 ——そんな世界こそが、自分の“死に場所”なのだとしたら……?

 

「消えねぇ罪なら、とことんまでやり抜いて楽しみ尽くす……。それが俺サマの生き方だ!堕ちゆく世界の為だとか打倒スペリオルだとかどうでもいい!最後に俺だけが笑っていられるならそれでいいんだよ!」

 

「下衆の極みだな。吐き気がする」

 メディスの言葉を一喝したのはネメシスだった。解り辛くはあるが、心持ちいつもより冷たい声色に鋭い双眸、、それだけで彼もこの暴状を引き起こした相手に怒りを燃やしている事が感じられた。

 

「1つ訂正してやる。罪は確かに消えない。だが、許される事はあるんだ。その為の努力すら出来ない怠け者の戯言など……耳を傾ける価値もない」

 

〈Take……Gravity Rune……!On Your Mark……Get Set〉

「変身」

〈Falling……. I am Nemesis.Anything that can be BREAK will be BREAK……!〉

 

 グラビティプラネッツとなった仮面ライダーネメシスがグランツドラーグへと斬りかかった。ネメシスの全形態の中で最もパワーに優れるグラビティプラネッツだが、対するグランツドラーグも決して力負けしていない。数多くの実戦データを基にしてデブリーター達も強化と改良を繰り返している。姿形が似ていても、ワールドラーグとは性能にかなりの差があるのだ。

 

「俺サマの取り得はパワーだけじゃねぇ……本領は、コッチだぁっ‼」

「なっ⁈」

 

 グランツドラーグの姿が一瞬でかき消え、次の瞬間ネメシスの背後へと出現、背中から思いきり蹴りを撃ち込んだ。数多い竜種デブリスの中でも最速と謳われるバジリスクの機動力に加えて、放射する電気を利用して、僅かだが相手の動きを予測する事をこのグランツドラーグのシステムは可能としているのだ。インファイトの領域において、これほどのアドバンテージはそうそうない。

 だが、重力を司るグラビティプラネッツにはまだ奥の手がある。ネメシスが意思を込めると、体の重さが一気にはね上がりグランツドラーグの攻撃を受け止めた。驚愕によって生まれた一瞬の隙を逃さず、ネメシスは拳をグランツドラーグの胸板へと叩き込んだ。

 

「ぐおぉぉぉぉぉっっっっっ⁉」

「これで……止めだ」

〈3 Knock Turn……. Nemesis Execution……!〉

「ハッ!舐めんなよ!」

 

 ネメシスの胸部装甲が開き、エネルギー砲『ホワイトアウトパニッシャー』をグランツドラーグへと照準する。だが、その狙いを一瞬で悟ったメディスは空中で受け身を取ると、そのまま上空へと飛翔した。胸部に仕込まれたパニッシャーは砲身がなく、つまり細かく狙いを定めるのは不得手な筈だと、メディスは豊富な戦闘経験から悟ったのだった。

 

「力自体は優れてるが!戦士としての腕はイマイチだったな仮面ライダーさんよぉっ‼」

〈DRAGON THUNDER INFUSING……‼〉

「くっ……‼」

 

 電磁加速されたニードルは強固な装甲で覆われたネメシスの中で唯一脆弱になるポイント……即ち胸の砲口部へと正確に射出された。ネメシスも慌てて体の向きを翻して、応射の拡散ビームを放つ。だが、パニッシャーの威力が周囲に齎す影響を考え、咄嗟に威力を絞ってしまった事が裏目に出た。殺到するニードル弾のうち撃墜を免れた数発がそのままネメシスの胸部へと突き刺さり、そのまま爆砕の火花が上がった。

 

「ぐぁぁぁぁぁっっっ……⁉」

「ネムッ‼」

「フン、他愛もねぇなぁ。テメェもパトリシアどもも、こんなのに良いようにやられてたのかよ。思ってたよりも、全然面白くもねぇ……」

 

 変身解除され倒れるネメシスに、火に包まれる会場を眺め回しながら、メディスが嘲る様に嗤う。デブリーターとしての目的などメディスにとってはどうでも良く、彼の目的はただ戦いという娯楽を味わいつくす事のみ。このまま衛兵達が到着するのを待っても大して楽しめはすまい。ならば……仮面の奥でニヤリと笑ったメディスが即座に逃げ遅れて震える人々の中から1人の少年を……ジュニスを掴み上げた。

 

「わぁぁっっ⁉」

「小僧っ!メディス、貴様ぁっ‼」

「喚くな!ゲームと行こうぜジェイク!このガキを返して欲しかったら、俺サマと決着をつけろ!逃げんじゃねぇぞ。これはお前が蒔いた種だ。また逃げやがったらこのガキの命はないと思え‼」

 

 グランツドラーグがジェイクの足元にデブリシリンジャーを放ると、そのままジュニスを連れて飛び立っていった。ジュニスの悲鳴が山の稜線へと消えていくのをただ眺めるしか出来ない……その怒りと悔しさをぶつける様にジェイクが「クソッ……‼」と吠えた。

 

「…許しちゃくれねぇって……そういう事か……?俺がバカな夢見てたから、こんな事に……っ」

「…下らない事を言ってるんじゃないっ……」

「ネム……!お前……!」

 突如、ネメシスがジェイクの胸倉を掴んで立ち上がらせた。全身に傷を負って正しく満身創痍という体であるにも拘わらず、その眼光は驚くほどに強い。

 

「お前……またそんなナリで———」

「…君は言ったな……。家を守って、パンを焼けば、残せるものがあると……。君が残したいものっていうのは……こんな事で崩れるほどヤワなものなのか……?」

「だ、だけどよっ……!…俺にはっ……初めから分不相応な夢だったんだよ……。何をやったって……俺はあの悪竜みてぇに、なんでも焼いちまうだけで……っ!」

「出来るか出来ないかなんて、話をする気はない……!大切なのはっ……君にその気があるかどうかって事だろう……?罪は消えはしないけど……償う心を、誰かの為に使い続けられるか……」

「お、おいネムッ……!」

 

 ネメシスの体が力なく崩れ落ち、ジェイクが慌てて支える。顔色は明らかに悪く、息も絶え絶えという状態。このままではマズいのは間違いない。周囲に助けを呼びかけようとするジェイクだったが、ネメシスが彼の胸にそっと何かを押し当てた。

 

 黒紫色の機械的なバックル……ネメシスのスペリオルドライバーだった。まるで何かを託すかの様で……ゾッとするジェイクとは対照的に、ネメシスが力なく、だがハッキリと笑った。

 

「…すまない……もう、無理そうだ……。悪いけど……僕の償いを……引き受けて、くれないか……?」

「お前っ……なに言ってやがる⁉こんな時になにバカな事を———‼」

「こんな時……だからだろ……。それに……バカな事とも、思ってない……。罪に向き合って、それでも望む世界を夢見る事ができる……君にだから頼むんだ……。引き受けて欲しい……仮面ライダーの名を……」

「…畜生っ……!わかった……!わかったよネム‼」

 ネメシスがゆっくりと目を閉じていき、力の抜けた腕からスペリオルドライバーが零れ落ちそうになる。せめてその思いまで取りこぼしてなるものかと、ジェイクがその手を支えて叫んだ。

 

「やるよ……やってやる!だから———‼」

 

()()、言ったな」

「……………は?」

「こういう時は何て言うのだったか……?そうそう、“()()()()()()”という奴だなコレが」

 

 先程の弱々しさが嘘の様な涼しい顔で、ネメシスが1人納得する様に頷いている。その瞬間、ジェイクは自分が嵌められた事を悟ったのだった。

 

 




新しいデブリーター『グランツドラーグ』の登場です!まぁ、見ての通りワールドラーグのスーツ改造ですが、飛行能力を標準搭載していて、パワー・スピードともにワールドラーグより上です。次回でこのエピソードも決着ですが、最後までお楽しみください。
デブリーター側の目的も少しずつ明らかになっています。正直、かなり急いでプロットを組んだので少し自信のない所もあるのですが……弱音を吐いても仕方ないので、このまま続行したいと思います。
それではっ。
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