◇◇◇◇◇
時刻は夕刻近く、場所はデブリーターによって占領された町ブレナー。奇しくもそこはジュニスがかつて住んでいた場所だったが、そんな事はメディスが知るところではない。裏社会に住む者の間で使われる毒々しい赤色の煙幕が空に広がっていくのを見やりながら、メディスはその瞬間を今か今かと待ち構えていた。
「しっかし、ジェイクの奴は来るのかね?こんな見え見えの罠にさ」
「来るでしょ。アイツはそういう男だもの」
懐疑的なウォルターにパトリシアが答える。ジェイク・アーク・アリウスという人間は……裏社会に生きる人間にしては妙に律儀なところがある男だった。彼には『人の意志を尊重する』というルールがあり、戦いもデブリドラッグを渡すのも、全てその意志がある者とだけ、と決めていた。
『俺たちは確かに悪党だ。そこを否定する気はねぇよ。…だけどな、だからこそ自分で決めたルールくれぇ守らねぇと……俺たちは怪物どもと何も変わらなくなっちまうだろうがよ』
そう語っていたジェイク自身も、それがただの欺瞞だと理解していただろうが……そういった矛盾に自覚的であるのは余計に苦しかっただろうに、彼はそれを変えようともしなかった。そんな生き方が同じ様な人種には眩しかったり、嫌悪の対象になり易かったりもしたのだ。中でも殊更に彼を侮蔑していたメディスが「ケッ!」と気に入らなそうに焼いた肉に齧りついた。
「心底くだらねぇ野郎だぜ!なにを好き好んでそんなメンド臭ぇ事を考えなきゃいけねぇんだか!そんな生き方の何が面白ぇんだかサッパリわからねぇ!なぁっ、お前もそう思うだろう‼」
広場の隅に縛り付けられているジュニスにメディスが肉の骨を投げつける。酒の肴に恐怖に震えるガキの声でも聞こうと思った……のだが、ジュニスは声を上げもしない。どころか、目尻に涙を湛えていても、射殺さんばかりの鋭い目つきでメディス達を睨み付けていた。
「あぁん……?ぁんだよこのガキ、なんか言いてぇ事でもあんのかぁ?」
「面白いって……?そんな理由で俺の父さんも……この村も焼いたのかよ……!この人でなしども……‼」
「…ガキのクセに好き勝手言いやがって……知らねぇなら教えてやるよ小僧!この世は弱肉強食!弱ぇヤツは強いヤツに一方的に食われるのが決まりなんだよ!テメェらはさしずめ、この肉と同じだ!なにか食うのに罪悪感なんか感じるか?楽しむだろ!それと同じだ‼」
「……………ぅっ」
メディスが手に持った肉を乱暴に食い千切ると、それだけで張り詰めていたジュニスの精神は限界に達した様だった。身を縮こまらせてそれでも泣くのを堪えている少年の様子にメディスはとてつもない充足を感じる。
これだ。殺しの瞬間というのはこれだから堪らない。人も動物も同じだ。自らの命が消えると悟った瞬間の恐怖に竦んだ表情。抵抗する事すら出来ずに、ゆっくりと死にゆく己を享受していくその絶望の瞬間に、えも言われぬ程の高揚感を感じずにはいられない。こんな悦楽を味わわずに生きている人間は実に勿体ない、と心の底から思っている。
「戦争ってのはいいモンだぜ。どんだけ殺しても罪にならねぇ……寧ろ、英雄になれるってなもんだからなぁ!こんな楽しい時代は他にねぇぜ!そうだろ、ジェイク‼」
地面を踏みしめながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる音が聞こえる。やがて焚火の火に照らし出され、浮かび上がったのは間違いなくジェイク・アリウスだった。片手にはどういう訳かパンを握っており、それを勢いよく食い千切りながら、メディス達の下へと歩み寄ってきた。
「逃げずに来やがったなジェイク!さぁ、始めようぜ……俺たちの戦争をよ‼」
「アホ、その小僧を助ける為だ。誰がテメェなんざ相手にするかよメディス」
ジェイクが冷たく吐き捨てると、ポケットから何かを取り出した。メディスから手渡されたデブリシリンジャーとデブリドラッグ。恐らくはこれを使って戦えという事なのだろうが……次の瞬間、ジェイクはそれらを地面へと放り捨て、踏みつけて砕き割ってしまった。
「て、テメェッ……!どういうつもりだぁ……?」
「なぁ、メディス。教えてくれよ。人を殺した後で食う飯は美味いか?」
「ァん?当たりメェだろうがよ!解りきった事を聞いてんじゃねぇ!」
「そうかい……。俺は違ったぜ。誰かを殺した後は、何を食ったって血の味しかしねぇ……。戦いから離れて、誰かの為に生きてりゃそのうち、と思ってたが……やっぱりダメだった。まぁ、それだけの事だし、このまま罪の証として抱えていくのもアリだと思ったさ。…けどな……」
多くの人々が集まり食卓を囲む。例え一時でも、なんて事のない日常の光景が、無限に続くとさえ思える戦争の恐怖を薄れさせてくれていた。そして、そこにどうしても加われない自分もありありと実感させられてしまった。
だが……。
『為せば成る。私に出来て、貴様に出来ないなんて事があるものか』
師も……ジークバルドも同じだったのだ。生まれながらにして罪を背負い、多くの業を成した。それでも彼は……家を守り、人々の幸福を守る、そんな生き方を貫いていた。
それは、誰しもが自らの宿命に縛られず生きていく事が出来るのだという、確かな証ではないか。
「俺も俺の作った料理で誰かを笑顔にしてぇからよ……俺は今こそ過去を超えていく。大それたもんじゃねぇ……一切れのパンみてぇに誰かに幸福を届けられる存在に、俺はなる」
〈Superior Driver……〉
ジェイクが取り出した大型のバックル……ネメシスから預けられたスペリオルドライバーを腰へと宛がう。バックルからシュルシュルとベルトが出現してジェイクの腰へと巻き付いた。そして次は……掌ほどの大型サイズのルーンドラッグを取り出した。どこか禍々しさを感じる赤黒い錠剤の周囲をクリアの機械的な装置で覆っている様だった。ジェイクが円形部周辺のカバーを2回回転させると、〈バキン!ゴキン!〉となにかが砕ける様な音が響き渡る。それが起動の合図なのだった。心臓の拍動の様にゆっくりと明滅するルーンドラッグをベルトの中心部へと装填した。
〈Take……Dragon Rune……!〉
〈On Your Mark……Get Set. On Your Mark……Get Set〉
「ぐっ……⁉…なるほど……コイツは確かにキツいな……」
スペリオルドライバーの起動シークエンスが始まった。だが、ベルトから赤黒いスパークが迸るたびに、ジェイクが少し苦悶した様に呻く。無理もない。元はラショナルのエージェント用に開発されたスペリオルドライバーは人体への負荷が大きい上に、彼が今使用しているルーンドラッグも只物ではないのだから。
『コイツは……?』
『『ドラゴンルーンドラッグ』……ジークバルドのレセプトから作られたものだ』
『師匠の……!』
『彼は、最期まで君たちの役に立ちたいと望んでいた。死の際に回収された彼の体成分を基に作った。新しい仮面ライダーの為にね』
『仮面ライダーって……俺がそれをやれってのか⁉』
『当たり前だろ。君以外に誰がいる?』
師匠の最期の思いが込められているからか、はたまた仮面ライダーという名の重みか……手渡されたルーンドラッグは見た目以上にズシリと重かった。
『君用に調整しているとは言え、元はデブリス……しかもジェネラルクラスの力だ。呑まれるなよ……』
「だがなぁっ……!こんなの……師匠との地獄の特訓の日々に比べりゃ……生温いぜ‼」
彼と過ごした日々がジェイクの脳裏を横切っていく。本当に、自分なんかには勿体ないくらいの厚情をかけられた。今、自分がこうして多くの人々の信頼の中で生きていられる実感を持てるのは……間違いなくジークバルドのお陰なのだった。そんな人々の為に精一杯命を燃やして生きる……そんな簡単な事だ。
『そうだな……。強いて言えば……死に場所が欲しかったからかもしれないな』
——分かったぜ、師匠……!
——あの言葉は……。
——誰かの為に、精一杯生きたかったって事だよな……!
誰かの為にパンを焼けば、残せる物がある。今は傍らにいなくとも、確実に遺された師の思いを受け継ぎ、ジェイクが叫んだ。
「変身‼」
〈Falling……〉
スペリオルドライバーのレバーを倒すと同時に、ジェイクの足元に赤い魔法陣が浮かび、次の瞬間には粉々に砕け散って彼の体に纏わりついていった。魔法陣の欠片一つ一つがやがて装甲へと形を変えていき……宣言通りジェイクが変身した。
〈I am Drargue.
仮面ライダーネメシスのものと似た、黒地に赤いラインが火花の様に走るアンダースーツ。全身の装甲はワインレッドで機械的な意匠を帯びながらも、どこか生物的な刺々しさを備えている。最も特徴的な頭部の仮面は全体が竜の頭を模したヘルメットに覆われ、顔面はコウモリの羽の様な赤黒いバイザーで覆われている……が、奥から時折除く細長い複眼と口元のクラッシャーによって、どこか怒りを湛えた表情の様に見える。
「…なんだよそりゃぁ……?」
「今言っただろ。さしずめ……『仮面ライダードラーグ』ってところか」
「なにイイ気になってやがる⁈名前や姿が変わった程度で、俺サマに勝てるとでも思ってんのか‼」
メディスもグランツドラーグへと姿を変えると、雷の如き速度で突進する。刺突剣がそのまま仮面ライダードラーグの胸板へと突き刺さる……が、ガキィン‼という撃音と共に刃が弾き返された。それどころか、グランツドラーグの速度と体重も乗せた一撃を受けても、真紅の仮面ライダーは小動もしない。仮面ライダードラーグの仮面の奥で、ジェイクがへッと挑発する様に笑った。
「おい、どうした?くすぐりっこでもしてぇのか?全然笑えねぇぞ」
「く、クソッタレ!調子に乗ってんじゃねぇ‼そんなハリボテなんざ……直ぐにぶっ壊してやらぁっ‼」
電撃を纏わせた剣や拳を次々とドラーグに向けて放つが、依然として全く効果は見られていない。それでも過去の怨讐を晴らす事に固執するメディスは遮二無二攻撃を続ける。やがてドラーグはハァとため息を漏らすと、唐突にグランツドラーグの頭を片手で掴まえた。反応も出来ないほどの素早さ……加えて、どれだけの力を振り絞ろうとも、その拘束から逃れる事が出来なかった。
「がっ……⁉は、放しやが———‼」
「土壇場で逆転するのがヒーロー、らしいが……お前じゃ相手にもなりゃしねぇ」
〈2 knock turn……!Drargue Judgement……!〉
ベルトのギャラクシスハンドラーを2回コッキング。瞬間、ドラーグの右前腕部に装着された竜の頭部型の手甲『ボルケニックバレスター』が燃え上がり、炎の濁流となってグランツドラーグを吹き飛ばした。射線上の木々や地面を一気に燃え上がらせる程の熱量……それはまさしく、現れる場所の全てを焦土として焼いた伝説の悪竜の如し。
それが今や仮面ライダーという正義の戦士となって、立ちはだかった。デブリス達を兵器として統べた気になっていたデブリーター達にとって戦慄すべき状況である。
「ウォルター、パトリシア、お前らもいるんだろ!相手はしてくれねぇのかい?」
「ジェイクの奴、バカにしやがって……!」
「仕方ないわね……やるわよ」
〈〈…To Be Sick……‼〉〉
ウォルターとパトリシアの2人もそれぞれグリンファングとライティアウィドウにチェンジする。メディスは制御の利かない危険な男ではあるが、今のデブリーターには大きな戦力だ。ここでやられるのを見過ごす訳にもいくまい。
「デブリーター3体を相手取る気?舐められたものね……!」
「もう許さねぇ……!テメェだけは絶対になぁっ……!」
「…許さねぇ、だと?それはこっちの台詞なんだよ……」
デブリーターにも目的があり、彼ら一人一人にも戦う理由がある。だが無意味に、それでも毎日を輝かしく生きている人々の生活を知れば知るほど強く思う。
「悪党どものへ理屈なんざ……パンひと欠片の価値だってありゃしねぇんだ‼」
ジェイクの叫びに呼応するかの様に、ドラーグの左腕に装備されたレイピア型の棘が勢いよく飛び出し、長大な鞭となった。竜の尾が如く振り抜かれた火竜激鞭『ドラーグフィーラー』はその名に違わず、全体に鉄ですら焼き切る程の高熱を帯びる。身の振りだけで空気を引き裂き、炎熱を撒き散らす竜そのままに3体のデブリーターを一掃した。
「おっとっと……やり過ぎちまうと小僧が危ねぇや。もう終わらせねぇとな!」
〈1 knock turn……!Drargue Trial……!〉
ドラーグフィーラーがそのままグランツドラーグ達に巻き付き拘束。そのままドラーグの元へと引き寄せていく。その間に右手のボルケニックバレスターに炎のエネルギーがチャージされ……。
「おらぁぁぁぁっっっ‼」
燃える正拳突きが炸裂。爆発と共にデブリーター達が炎の尾を引いて吹き飛ばされた。
「な、なんだよコイツ……!ヤバ過ぎるだろ……‼」
「これはジェネラルクラスデブリスの力……?…そんな力を人間が制御できるなんて……⁉」
強力なデブリスであればその毒素は強い。将星級のデブリスの力など、如何に協力でも使うだけで肉体も精神も蝕まれてもおかしくはない……が、今のジェイクは完全に力を制御し、人質となっている少年に注意を払う余裕さえある。恐らく使用されているのは竜のジェネラルクラスか何かなのだろうが……そのデブリスとジェイクの適合率が異常なまでに高いとしか思えない。
だがハッキリとした。同じデブリスの力でああるならば、正面からの勝負ではこちらの分が悪すぎる。
「退くわよ2人とも。今の状態じゃ勝てない……」
「ふ、フザけんなっ!俺サマは負けてなんざいねぇっ!負ける筈が———!」
「あ、そう。じゃあ勝手になさい」
「負け戦に付き合うのはゴメンなんだよ。後は一人で頑張んなオジサン!」
「お、おいお前らマジか……‼クソォォッッ!どいつもコイツも……‼」
それぞれの力を発動させると、グリンファングの姿がかき消え、ライティアウィドウも地面の中へと潜って姿を消した。後には往生際悪さ故に1人取り残されたグランツドラーグのみ。みっともなく地団駄を踏むその姿が、結局のところ悪というものの本質を物語っていると思えた。
「見捨てられちまったなぁ。まぁ、インガオーホーって奴だろ。ちったぁ悔いる気になったか?」
「ざ、ザケんな!誰がテメェなんざに———‼」
「俺にじゃねぇ。今までお前が踏み躙ってきた全てに、だ」
〈3 knock turn……!Drargue Execution……‼〉
スペリオルドライバーの最大出力を解放すると、ドラーグの全身から噴き上がった炎がまるで翼の様に形を変える。禍々しい竜の翼の力を得て、そのまま一瞬でグランツドラーグの直上へと飛翔した。
燃え盛るドラーグの姿、その眩しさに目をくらまされたグランツドラーグは対応が出来ない。その隙にドラーグは右脚を振り上げ、必殺の一撃の体勢に入っていた。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ‼」
「ひっ……ひぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ……⁉」
炎のエレメントを纏った踵落しがグランツドラーグの脳天へと直撃、破壊のエネルギーがそのまま全身を駆け巡り、限界を迎えた竜のデブリーターが爆砕した。轟音が悲鳴を掻き消し、炎がメディスの体を一片も残さずに焼き尽くす。魔に魂を売った男の末路としては相応しいもので今更なんの感慨も湧きはしない……が、子どもの教育には悪いモンだったなと反省する。もっとも、当のジュニスは戦いが始まる少し前から緊張と恐怖が限界に達したのか、広場の隅で気絶してしまっていたのだが。
「やり過ぎちゃいけねぇよなぁ……。仮面ライダーってのは楽じゃねぇや……」
変身を解除したジェイクが、夜の帳の中でひっそりとため息を吐いた。
それから暫く後、エルネスティナへの帰り道の途中、ジェイクの背後でモゾモゾとジュニスが身じろぎをした。どうやら目を覚ました様だった。
「…あれ……ここ……?」
「よぉ、起きちまったかジャリンコ。もう少しで城まで着くから、もうちょっとジッとしてな」
「…シチューのおっちゃん……?…俺、今まで———っっ⁈」
ジュニスがジェイクの背中で一際大きく震えた。出来れば城に着くまでは大人しく眠ってて欲しかったのだが……。
「アイツらっ……!父さんもっ、ブレナーもこんなにした奴らはっ———‼」
「まずおっちゃんはやめろ。アイツらならもう大丈夫だ。俺がきっちり親父さんの仇も討っといたよ。…あ、言っとくけど礼ならいらねぇぜ。見返りを求めねぇから———って、聞いてんのかオイ?」
人が折角、笑いを取ろうと手前勝手な事を喋り続けているというのに……背後に意識を凝らすと、ジュニスの体はまだ細かく震えていた。恐怖の余韻か……否、押し殺した様な声も聞こえるから、これは悔しさか。男の情けで気付かない振りをしたまま、ジェイクは夜道を歩き続けた。
「チックショウ……俺がみんなの仇をとんなきゃいけないのにっ……なにも……!弱いばっかりに、俺がっ……!」
「それは違ぇぞジュニス。弱いって事は、なぁんにも悪い事じゃねぇんだ」
「……………?」
「昔、師匠によく言われたよ。『今できない事を気に病むな。そのうちモノになる』ってよ。生きてりゃ出来ねぇ事、足りねぇ事にいくらでもブチ当たるけどよ、そんならいつか足りる様になりゃいいってだけだろ?そしたら、少しは将来が楽しみにならねぇか?」
この先の未来……今だけじゃない、自分と地続きに広がっていくこの先の時間。それを忘れてしまうと、きっと人は暴力に走ってしまう。この先にあるものなど考えもせず、今一時の絶望を晴らす為だけに。
「ま、お前にはそんな事させねぇけどな。俺が親父さんに顔向けできなくなっちまう」
「…なんでおっちゃんが俺の将来を決めてんだよ……。父さんに会った事もない癖に……」
「いいや、俺は親父さんの小麦でこれからもパンを焼くからな。ご縁は大事にしねぇと。それに、お前の心にこれ以上傷を付けられねぇ」
「………?なんの話……?」
「惚けんなよ。お前も味覚を失ってるだろ」
心に大きな傷を負った結果、味を感じる事ができなくなる……恐怖が絶えないこの世界では珍しくもない話だ。
「あの腹黒女め……『貴方の作ったものを食べられた理由なんてそれ以外にありません!』だとよ……。道理であんなマズいモン食えた訳だぜ……」
「…そんな事、ないけど……?」
「まぁ、そう気を落とすなって。そのうち治———ってナニィ⁉」
強がってる……風には見えない。本当に何を言われているんだか解らないという顔だった。
「い、いやだってお前、あの失敗作を……」
「…まぁ、確かにマズかったけどさ」
「マズかったのかよ!」
「…でも、食べられない程じゃなかった……かな……。シコーサクゴしてるんだろうなぁ……って感じで……俺は嫌いじゃなかったよ」
耳元で囁く少年の声が。
不意に。
『為せば成る。私もそうだった。私に出来て、貴様に出来ないなんて事があるものか』
満点の空から降り注ぐ、ひどく懐かしい言葉に姿を変えて、ジェイクの脳裏に直接響いた様に感じられた。
——なぁ、師匠……。
——アンタに比べりゃ、俺は未だに足りねぇままだけど……。
——でも、少しは足りる様になって来てんのかね……。
遥か先で瞬く星々は答えはしない。
それでも、そこにいるであろうと信じる師が、確かに頷いてくれたと感じられた。
次回予告
新たな仮面ライダー、ドラーグの登場。そして、仮面ライダーディライトの帰還。遂にデブリーターへの反撃の狼煙があがる。
追い込まれる状況を打開すべく、デブリーター達は最後の一手を押し進めるが……。
Saga32『逆襲~リベンジ~』